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2023年6月

2023年6月27日 (火)

Yahooコメントの分析――木村忠正「ハイブリッド・エスノグラフィー NC研究の質的方法と実践」

木村忠正「ハイブリッド・エスノグラフィー NC研究の質的方法と実践」を読む。約300ページの本だが二段組みで文字がぎっしりと詰まっている。読んでいて思ったのだが、欧米発祥だから仕方ないが、21世紀になっても輸入学問に終始しているように見えてしまった。

エスノグラフィー(民族誌)だが、扱う題材はネットワーク・コミュニケーションと現代的なテーマである。SNSの裏システムを覗いてみたい、そんな願望を叶えてくれる本である。

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2023年6月24日 (土)

著者自身が担い手――橋本幸作「豊前国神楽考」

橋本幸作「豊前国神楽考」を読む。豊前国(北九州市の一部~宇佐市)にまたがる神楽を取り扱ったもの。地割(五行神楽)、先駈(ミサキ)、天岩戸、大蛇神楽などは演劇化されているが、それ以外の演目は儀式舞と言っていいだろう。中国地方に比べて演劇化の度合いが少なめになっている。湯立神楽も重要視されている。

明治時代以降の農民神楽について古老に取材しており、人間関係などが克明に記されている。江戸時代の神職神楽については言及が少ない。既に廃絶した神楽講も少なからずあるようだが、丹念に取材されている。演目解説も祝詞が掲載されており、詳しく分かる。みさき神楽は他所の荒神神楽とほぼ同じといっていいだろう。湯立神楽の詳細も分かる。

著者自身が神楽の担い手であり、そういう意味では網羅的な内容となっている。専門の学者ではないため、理論的な考察はほとんど成されていない。

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2023年6月23日 (金)

吉本隆明とは相性が悪いか――安藤礼二「シリーズ・戦後思想のエッセンス 吉本隆明 思想家にとって戦争とは何か」

安藤礼二「シリーズ・戦後思想のエッセンス 吉本隆明 思想家にとって戦争とは何か」を読む。吉本隆明は「共同幻想論」を読んだことがあるが内容は記憶していない。本書を読んでも吉本の思想が今ひとつピンと来なかった。相性が悪いのかもしれない。

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交換様式の四象限――柄谷行人、見田宗介、大澤真幸「シリーズ・戦後思想のエッセンス 戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る」

柄谷行人、見田宗介、大澤真幸「シリーズ・戦後思想のエッセンス 戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る」を読む。柄谷氏は東大経済学部卒だが、マル経を修めたらしい。柄谷氏はバーグルエン哲学・文化賞を受賞しているから、思想家として大成したと言える。見田氏は社会学者というよりもっとスケールの大きな思想家という印象。

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2023年6月19日 (月)

論争発生――斎藤英喜, 井上隆弘/編『神楽と祭文の中世 変容する信仰のかたち』

斎藤英喜, 井上隆弘/編『神楽と祭文の中世 変容する信仰のかたち』を読む。祭文を手がかりに中世の神楽を考察した論考集。神楽の史料は江戸時代に唯一神道流に改訂されたものがほとんどで、それ以前の両部神道的な史料は限られている。その史料が残る奥三河の花祭や備後荒神神楽、土佐のいざなぎ流、南九州の神楽、対馬の神楽などが取り上げられる。

ここで注意しなければならないのは、『神楽の中世―宗教芸能の地平へ』という本に収録された鈴木正崇「神楽研究の再構築へ向けて」という論文である。鈴木氏は本書の編者である斎藤、井上氏を激しく批判している。一つの論争の発生である。

これは本書の論文が間違っているという訳ではないのだが、両部神道の史料にしても実際に残されたのは近世初期の史料というパターンが多く、そのまま中世に遡るのは問題ではないかという問題提起である。

鈴木氏と斎藤、井上氏の論争は今後に要注目。

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2023年6月17日 (土)

団塊の世代が消えたらどうなるか――橘玲「上級国民/下級国民」

橘玲「上級国民/下級国民」を読む。上級国民/下級国民とはプリウス暴走事故の頃に言われる様になったと記憶している。大卒/非大卒でその後の人生が大きく変わってしまうのである。

団塊の世代が最大の票田/購買層だから彼らの既得権益にメスを入れられなかったとある。その団塊の世代も2040年代頃には消滅するが、その後の最大層である氷河期世代は果たして現与党を支持するだろうか。氷河期世代は現与党に見捨てられたと感じているのではないか。

現代は自己実現/自己責任という近代(モダン)の完成形であるとし、ポストモダン論を否定している。

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2023年6月16日 (金)

自分らしく生きる――橘玲「無理ゲー社会」

橘玲「無理ゲー社会」を読む。現代は才能の有無によって人生を切り開けるか否かが決まる社会である。才能のある人にとってはよい社会だが、才能のない人にとっては攻略するのが非常に難しい社会となる。興味深かったのは自分らしく生きるというスタイルがここ半世紀ほどのことであること、チャールズ・ライクのエピソードは面白かった。

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2023年6月13日 (火)

昔話から物語一般へ――クロード・ブレモン「物語のメッセージ」

クロード・ブレモン「物語のメッセージ」(阪上脩/訳, 審美社)を読む。100ページ程の本で「物語のメッセージ」「物語り可能なものの論理」の二篇が収録されている。

ロシアのプロップの物語の形態論を受けた論考で、プロップがロシアの魔法昔話を対象にしていたのに対し、ブレモンは物語一般に拡張しようと試みている。物語の機能の繋がり(シークエンス)を複線化させて分析を試みている。シークエンスを複線化させると、メインストーリーとサブストーリーを分解して論じることが可能になる。

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2023年6月 6日 (火)

対立を乗り越える構想――梅木達郎「サルトル 失われた直接性をもとめて」

梅木達郎「サルトル 失われた直接性をもとめて」を読む。100ページ程の内容なので気楽に読めた。僕が学生の頃には既にサルトルの流行は過ぎていた。ただ、実存主義の実存のニュアンスが分からなくて知りたいとは思っていた。

参考になったのはサルトルが観念論と実在論の対立を乗り越えようとしたとあること。現象学によるらしい。これは非常に困難な問題だと思うが、構築主義が流行っている今現在にとって有益であろう。

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2023年6月 4日 (日)

テキストを読み込む――高橋哲哉「デリダ 脱構築と正義」

高橋哲哉「デリダ 脱構築と正義」を読む。脱構築とは、二項対立的な思考の枠組みに疑義を差し挟む読み方というところだろうか。本書では脱構築はアナーキズムやニヒリズムではないことが強調される。原典に当たったことがないのでアレだが、こういったテキストの読み込みは自分にはできない。

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2023年6月 2日 (金)

一年ではマスターできない――坂本尚志『バカロレアの哲学 「思考の型」で自ら考え、書く』

坂本尚志『バカロレアの哲学 「思考の型」で自ら考え、書く』を読む。バカロレアはフランスの高校卒業資格認定試験とすればよいか。そのバカロレアでの哲学試験に焦点を当てた本。実際に問題を見ると、これはとても手が出ないと感じる。平均点は20点満点中7点ほどなので、フランス人であっても難しい試験となっている。模範解答が示されているが、少なくとも自分にとっては、たったの一年でマスターすることは非常に困難に思われる。思うに、高得点をマークできるのはIQの高い層だろう。よくないと感じたのは、出典からの引用。哲学者の名前だけでなくどの書物の第何章かまで暗記しなければならない。参考書に載っているそうだが、引用というものは書籍を手元に置きつつ引くものであって、それは違うんじゃないかと感じる。

高校時代、小論文を書かされることはあったが、その構成法について教えられることはなかった。なぜ教えなかったのだろうか。

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