盛りだくさん――高田明典「物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として」
高田明典「物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として」を読む。この本では様々な分析手法が紹介される盛りだくさんの内容となっている。それだけに真面目にこの本に取り組むと難解な理論書を色々と読む必要が生じてくるし、七割の生徒が七割くらいの理解度というのも分かる。多くの理論書が思考の過程を記述していない(故に難解となる)という問題はこの本である程度解消されるだろう。
個人的にはグレマスの行為項分析はS1、S2、S3等と記号のみで表記するのでなく、その指示対象も記述して欲しかった。記号だけだと読んでいるだけでは頭に入らないのである。なお、グレマスの分析が簡略化され∪が+に、∩が―に表記されている。グレマスの記号の使用の仕方には論理学と異なるロジックが採用されているものと思われるので、高田説の方が理解し易いだろう。
また、名人芸的と言われるレヴィ=ストロースの神話分析も解説して欲しかった。
<追記>
行為項分析については本書で詳細に手順が紹介されているので実際にやってみると理解が深まる。昔話などの短い話で分析すれば、ある程度感覚が掴めてくる。応用編での核となってくる分析手法でもある。
記号論六面体は描画ツールの操作に慣れた人でないと描画が難しいだろう。まあ、作業段階では手書きでやればいいのだろうが。また、各対立軸を上手く配置するのも難しいのではないか。
デビルマンの分析については原作漫画を読んでいないため上手く咀嚼できなかった。永井作品は非常に後味の悪い終わり方をするため読めないのである。
神話学の類話を蒐集して相同性を見出す手法については、民話研究のフィンランド学派(歴史地理的手法)、およびその後のモチーフ分析、モチーフインデックス作成への言及が欠けているように見える。これらはレヴィ=ストロースの分析ほど精緻ではないが、時系列的には先んじている。
トドロフといった参考文献一覧に載っていない学者の本があって、訳書も多いので、とりあえずどれを読めばよいのか分からなかった。
<追記>
著者の高田氏は本来は理系の研究者のようである。1961年生まれとあるのでマイコンやパーソナルコンピュータが市場に出回り始めた頃に少年時代を過ごした世代ではないかと思われる。ゲームの開発を通じて物語論に興味を持ったのかもしれない。現代思想関連の著書もあるので幅広い関心領域を持っていることになる。
グレマスの行為項分析サンプル
事例:アンパンマン
S1:食品キャラ
S2:ドキンちゃん
S3:バイキンマン
S4:ジャムおじさん
S5:アンパンマン
O1:村
O2:顔の汚れ
O3:力を出さないこと
O4:新しい顔
Sn:登場人物
On:対象
+:付く
-:離れる
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
・食品を模したキャラクターが登場
(来訪)X1:S1食品キャラ+O1村
・ドキンちゃんがおねだりする
(欲求)S2ドキンちゃん:S2ドキンちゃん+S1食品キャラ
・バイキンマンがその食品を不正な方法を用いて入手する
(入手)S2ドキンちゃん:S3バイキンマン+S1食品キャラ
・アンパンマンが救援しようとするが失敗する
(制止)S5アンパンマン:S5アンパンマン-S3バイキンマン
・「顔が汚れて力が出ない」という状態になる
(汚濁)S3バイキンマン:S5アンパンマン+O2顔の汚れ
・さらにドキンちゃんがおねだりをする
(欲求)S2ドキンちゃん:S2ドキンちゃん+S1食品キャラ
・バイキンマンがさらに不正を働こうとする
(入手)S2ドキンちゃん:S3バイキンマン+S1食品キャラ
・アンパンマンは救援しようとし、先ほどと同様に「顔が汚れて力が出ない」という状況になる
(制止)S5アンパンマン:S5アンパンマン‐S3バイキンマン
(汚濁)S3バイキンマン:S5アンパンマン+O2顔の汚れ
・ジャムおじさんが「新しい顔」を焼いてくれる
(復活)S4ジャムおじさん:S5アンパンマン+O4新しい顔
・「アンパンチ」による撃退
(制止)S5アンパンマン:S5アンパンマン‐S3バイキンマン
・「バイバイキーン」と叫びながら、バイキンマンとドキンちゃんは逃げていく
(排除)S5アンパンマン:S3バイキンマン‐O1村
(排除)S5アンパンマン:S2ドキンちゃん‐O1村
・食品キャラが村に到達する
(復旧)S4ジャムおじさん:S1食品キャラ+O1村
・食品キャラが食品をみんなに振る舞う
(獲得)S1食品キャラ:S6+S1食品キャラ
※S6は村人か
O2:顔の汚れはオブジェクトというよりm:修飾語のようにも思えます。
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