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2023年2月

2023年2月28日 (火)

盛りだくさん――高田明典「物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として」

高田明典「物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として」を読む。この本では様々な分析手法が紹介される盛りだくさんの内容となっている。それだけに真面目にこの本に取り組むと難解な理論書を色々と読む必要が生じてくるし、七割の生徒が七割くらいの理解度というのも分かる。多くの理論書が思考の過程を記述していない(故に難解となる)という問題はこの本である程度解消されるだろう。

個人的にはグレマスの行為項分析はS1、S2、S3等と記号のみで表記するのでなく、その指示対象も記述して欲しかった。記号だけだと読んでいるだけでは頭に入らないのである。なお、グレマスの分析が簡略化され∪が+に、∩が―に表記されている。グレマスの記号の使用の仕方には論理学と異なるロジックが採用されているものと思われるので、高田説の方が理解し易いだろう。

また、名人芸的と言われるレヴィ=ストロースの神話分析も解説して欲しかった。

<追記>
行為項分析については本書で詳細に手順が紹介されているので実際にやってみると理解が深まる。昔話などの短い話で分析すれば、ある程度感覚が掴めてくる。応用編での核となってくる分析手法でもある。

記号論六面体は描画ツールの操作に慣れた人でないと描画が難しいだろう。まあ、作業段階では手書きでやればいいのだろうが。また、各対立軸を上手く配置するのも難しいのではないか。

デビルマンの分析については原作漫画を読んでいないため上手く咀嚼できなかった。永井作品は非常に後味の悪い終わり方をするため読めないのである。

神話学の類話を蒐集して相同性を見出す手法については、民話研究のフィンランド学派(歴史地理的手法)、およびその後のモチーフ分析、モチーフインデックス作成への言及が欠けているように見える。これらはレヴィ=ストロースの分析ほど精緻ではないが、時系列的には先んじている。

トドロフといった参考文献一覧に載っていない学者の本があって、訳書も多いので、とりあえずどれを読めばよいのか分からなかった。

<追記>
著者の高田氏は本来は理系の研究者のようである。1961年生まれとあるのでマイコンやパーソナルコンピュータが市場に出回り始めた頃に少年時代を過ごした世代ではないかと思われる。ゲームの開発を通じて物語論に興味を持ったのかもしれない。現代思想関連の著書もあるので幅広い関心領域を持っていることになる。

 

グレマスの行為項分析サンプル
事例:アンパンマン

S1:食品キャラ
S2:ドキンちゃん
S3:バイキンマン
S4:ジャムおじさん
S5:アンパンマン

O1:村
O2:顔の汚れ
O3:力を出さないこと
O4:新しい顔

Sn:登場人物
On:対象

+:付く
-:離れる

S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

・食品を模したキャラクターが登場
(来訪)X1:S1食品キャラ+O1村
・ドキンちゃんがおねだりする
(欲求)S2ドキンちゃん:S2ドキンちゃん+S1食品キャラ
・バイキンマンがその食品を不正な方法を用いて入手する
(入手)S2ドキンちゃん:S3バイキンマン+S1食品キャラ
・アンパンマンが救援しようとするが失敗する
(制止)S5アンパンマン:S5アンパンマン-S3バイキンマン
・「顔が汚れて力が出ない」という状態になる
(汚濁)S3バイキンマン:S5アンパンマン+O2顔の汚れ
・さらにドキンちゃんがおねだりをする
(欲求)S2ドキンちゃん:S2ドキンちゃん+S1食品キャラ
・バイキンマンがさらに不正を働こうとする
(入手)S2ドキンちゃん:S3バイキンマン+S1食品キャラ
・アンパンマンは救援しようとし、先ほどと同様に「顔が汚れて力が出ない」という状況になる
(制止)S5アンパンマン:S5アンパンマン‐S3バイキンマン
(汚濁)S3バイキンマン:S5アンパンマン+O2顔の汚れ
・ジャムおじさんが「新しい顔」を焼いてくれる
(復活)S4ジャムおじさん:S5アンパンマン+O4新しい顔
・「アンパンチ」による撃退
(制止)S5アンパンマン:S5アンパンマン‐S3バイキンマン
・「バイバイキーン」と叫びながら、バイキンマンとドキンちゃんは逃げていく
(排除)S5アンパンマン:S3バイキンマン‐O1村
(排除)S5アンパンマン:S2ドキンちゃん‐O1村
・食品キャラが村に到達する
(復旧)S4ジャムおじさん:S1食品キャラ+O1村
・食品キャラが食品をみんなに振る舞う
(獲得)S1食品キャラ:S6+S1食品キャラ

※S6は村人か

O2:顔の汚れはオブジェクトというよりm:修飾語のようにも思えます。

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2023年2月26日 (日)

専門家でも難しい問題だと思うが

ChatGPTで異類婚姻譚について質問してみる。そつのない答えが返ってきたので驚く。もちろん、もう少し突っ込んで欲しいという感はあるが、ネットに散らばっている知識を学習したであろうAIとしては驚くべき水準である。

ChatGPT 異類婚姻譚について

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2023年2月25日 (土)

YouTubeで鑑賞できた

YouTubeで大宮住吉神楽のヤマタノオロチ退治の座を見る。蛇胴導入以前のオロチの舞が見られた。大宮住吉神楽は神代神楽が洗練された神楽なのに対し、鄙びた神楽という印象。長距離を歩けなくなったので神社に行けなかったのだけど、こうして観賞することができた。

(106) 大宮住吉神楽 ヤマタノオロチ退治の座 - YouTube

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2023年2月24日 (金)

意外とそつのない答え――ChatGPT

ChatGPTを利用してみる。乙子狭姫に関してはデタラメだったが、感性の衰えと審美眼についてはそつのない答えを返してきたという印象。自然な文章で検索する時代がいつかくるだろうかと思っていたが、案外早くやってきた。内容の精度に問題があるのでGoogleやBingとは併存という形だろうか。

ChatGPT 乙子狭姫について
ChatGPT 乙子狭姫について
ChatGPT 乙子狭姫について
ChatGPT 感性の衰えと審美眼

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2023年2月21日 (火)

これも難解――グレマス「構造意味論」

目次
・科学的意味論の諸条件
・表意作用の基本構造
・ランガージュと言説
・表出された表意作用
・記号論レベル
・言説の同位態
・意味世界の組織
・表意作用の記述
・記述手続き
・行為項モデルに関する考察
・変形モデルを求めて
・記述の見本

グレマス『構造意味論』を読む。基本的には言語学、記号論の立場から意味について考察した本。難解である。『意味について』は『構造意味論』を読んでからの方がよいと思われる。

行為項についてプロップの昔話の形態論を引用していたので興味をもって読んだが、難解でよく分からなかった。まあ、これはフランス本国でも難解と評されているので分からないのも無理もないだろう。

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2023年2月18日 (土)

困った

一昨年に健康診断で頻脈と診断された。脈拍が110~120くらいある状態。それで循環器科を受診して(大学病院の検査では異常なし)薬を処方してもらったのだけど、脈拍は抑えられたが、副作用が強く出てふらつきが酷くなった。一度は転んだまま自力で起き上がれなくなって救急車に搬送される始末。数値に異常はないので入院せず自宅まで送ってもらった。それ以降、長距離を歩くのは避けるようになった。そんなこんなで薬を別のものに変えてもらったが、これも若干ふらつく。やはり長距離は歩かない方がいいだろう。

長距離を歩けなくなるということは観光ができなくなるということでもある。例えば石見銀山は一通り見て回るには10kmほど歩かなければならないが、それができなくなったということでもある。神社ならさほどでもないのだが。登山は無理。

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2023年2月14日 (火)

積むと天井まで届くか――『日本昔話通観 第28巻 昔話タイプ・インデックス』

『日本昔話通観 第28巻 昔話タイプ・インデックス』を読む。通読ではなく解説のある186ページまで。この本1000ページくらいある。日本昔話通観の全巻を積むと天井に届くのではないだろうかという膨大な内容がある。ゆえに通読する本ではなく辞書的に参照する本だと言えるだろうか。

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2023年2月13日 (月)

難解――グレマス「意味について」

アルジルダス・ジュリアン・グレマス「意味について」を読む。

目次
・意味について
・言語活動に関する考察
・意味構造
・自然界の記号論の諸条件
・共通感覚の社会学のために
・構造と歴史
・比較神話学
・記号論的拘束の働き
・語りの文法要理
・神話的物語の解釈理論のために
・恐怖の探索
・物語の行為者の構造
・構造言語学と詩学
・クロスワード・パズルのエクリチュール
・諺と格言

非常に難解な本だった。言語学・記号論・論理学などの予備知識がないと読解できないだろう。構造主義記号論がこれだけ難解だとは想像していなかった。神話学の解釈は、理解していないが参考にはなった。

本書では「行為項」が「行為者」と訳されているとのこと。「構造意味論」に次いで翻訳・刊行されたものだそうだ。

<追記>
「構造意味論」も読んだが、「構造意味論」を先に読んだ方がよいと思われる。

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2023年2月 1日 (水)

2040年には若年女性が半減――増田寛也「地方消滅――東京一極集中が招く人口急減」

増田寛也「地方消滅――東京一極集中が招く人口急減」を読む。この本(電子書籍版)が刊行されたのは2015年である。文中の記述から書籍版は2014年頃出版ではないかと思われるが、2023年の今、既に8年以上が経過している訳である。2040年までは17年しかなく、具体的に想像のつく年代として視野に入ってくる。

地方消滅とあるのは、2040年に20~39歳の女性が50%以上減少する市区町村を意味する。巻末に全国各市区町村のデータが掲載されているが、惨憺たる数字である。人口再生産の基板たる若年女性が半減してしまうのである。

例えば僕の出身地である島根県浜田市だと、2010年の若年女性人口が5766人、2040年では2758人と-52.2%の減少となる。ちなみに今住んでいる横浜市都筑区は13.4%の増加となる。

出生率は沖縄の1.94から東京の1.13まで幅がある。東京が第二子をもうけ難い地域であるとは知らなかった。希望出生率は2.0を越えているが、それを阻害している要因が都市部にはあるということだ。

地方から東京への人口流入が止まらない。コロナ禍で出超となったが、2022年には入超となっている。本書では地域中核都市が人口のダムとなって、東京への人口流入を防ぐべきであるとしている。そのためには均衡な国土の発展ではなく、選択と集中が必要であるとしている。

この報告は増田レポートと呼ばれているが、他の新書を読むと選択と集中に懐疑的な論調も見られた。人口減対策として人々の活動動線集約を図るコンパクトシティ化が挙げられるが、限界集落で一軒家に住むお婆さんの人口集積地帯への移住ではなく、そこで最期を看取ってあげましょう的な論調である。

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