呼び子――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、木挽きが二人で山へ仕事に入っていた。深い山の中で小屋に泊まり込んで仕事をしていたが、ある日夕方になって一人が帰ってこなかった。どうしたのだろうと思って待ってみたが、暗くなっても帰ってこないので、おーい、××やーいと大きな声で呼んだ。すると向こうの山から、おういと化物が呼び返してきた。男はしまったと思った。これは呼び子という化物で、これに呼び返しをされると、負けない様にこっちからも呼び返ししないと、呼び負けると死ぬということを聞いているからである。それで男はおういと呼び返した。すると、向こうからもやっぱり、おういと呼び返してくる。男は一生懸命に呼び返しをした。その内に次第次第に喉が痛くなり、声がかすれてきた。それでも負けられない。おうい、おうい、そうして呼び返しをしている内にようやく東が白んで夜が明けてきた。そこでようやく呼び子は呼ぶのを止めた。男はぐったりしてへたばった。そこへ連れの男が帰ってきた。お前はゆうべはどこへ行ってたのか。なんぼ待っても戻らないから大声で叫んだ(ひゃこった)が、お前が声をかけてくれないから、とうとう呼び子が声をかけてきた。呼び負けたら死ぬという話を聞いているから夜が明けるまで呼んでおった。それでとうとう息がきれてしまうところだったと男は言った。こういうことがあるから、山では一人では人を呼ぶものではないということである。
◆モチーフ分析
・木挽きが二人で山へ仕事に入っていた
・深い山の中で小屋に泊まり込んで仕事をしていたが、ある日夕方になって一人が帰ってこなかった
・どうしたのだろうと思って待ってみたが、暗くなっても帰ってこないので、大声で呼んだ
・すると向こうの山から、おういと化物が呼び返してきた
・男はしまったと思った
・呼び子という化物で、これに呼び返されて呼び負けすると死ぬという
・男は、おういと呼び返した
・向こうからもやはり、おういと呼び返してくる
・男は一生懸命に呼び返しをした
・その内に次第に喉が痛くなり、声がかすれてきた
・それでも負けられない
・おうい、おういと呼び返している内にようやく東が白んで夜が明けてきた
・それで呼び子は呼ぶのを止めた
・男はぐったりしてへたばった
・連れの男が帰ってきた
・呼び子の正体は連れの男だった
・こういうことがあるから、山では一人では人を呼ぶものではない
形態素解析すると、
名詞:木 二 山 仕事 山 中 小屋 仕事 日 夕方 一 の 大声 向こう 山 おう いと 物 男 呼び子 物 男 おうい 向こう おうい 男 喉 声 おうい おうい 内 東 夜 呼び子 の 男 男 呼び子 正体 男 こと 山 一 人 もの
動詞:挽く 入る 泊まり込む する ある なる 帰る 思う 待つ 帰る 呼ぶ 呼ぶ 返す しまう 思う いう 呼ぶ 返す 呼ぶ 負ける する 死ぬ いう 呼ぶ 返す 呼ぶ 返す 呼ぶ 返す する かすれる 負ける 呼ぶ 返す 白む 明ける 呼ぶ 止める する へたばる 連れる 帰る 連れる ある 呼ぶ
形容詞:深い 暗い 一生懸命だ 痛い
副詞:やはり その内 次第に ようやく ぐったり
男/呼び子の構図です。抽象化すると、人間/妖怪です。男―呼び子―もう一人の男という図式です。
深い山中に二人で小屋がけして泊まり込んでいた[宿泊]木挽きだが、ある日一人が帰ってこなかった[未帰還]。おーいと呼んだところ、呼び子が呼び返してきた[応答]。呼び負けると死ぬので夜明けまで呼び合いを続けた[応答合戦]。もう一人が帰ってきて呼び子だと思ったのは、もう一人の呼び声だと分かった[判明]。
呼び子だと思って呼び合っていたところ、もう一人の呼び声だった……という内容です。
発想の飛躍は、呼び子という化物の存在でしょうか。呼び負けると死んでしまうという意味では怖い存在です。男―呼び子―もう一人の男という図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.452-453.
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