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2022年11月17日 (木)

弓の名人――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、ある田舎に百姓の息子がいた。毎日毎日仕事をしていたが、百姓が嫌になったので、一つこれから侍になってやろう。侍になったら威張ることができると思った。そこで刀を二本求めて腰に差し、旅に出た。その内に日が暮れたので宿へ泊まった。部屋に通されたところ、床の間に長刀(なぎなた)が飾ってあった。この長刀は自分がいつも使う鎌とは大分違うと息子はつくづく長刀を見て感心した様につぶやいた。刀かけを見ると刀がかけてある。息子は手にとって抜いて見た。刀はぴかぴか光っている。これが本当の名剣というものだと息子はつぶやいた。ほとりに弓があった。息子は弓を取り上げると、矢をつがえてみた。一生懸命引き絞ってパッと放した。すると矢は障子をぶすっと射ぬいて外へ飛んでいってしまった。しまった。これは大事になった。誰かやかましく言ってくるに違いない。早く出ていこう。息子は慌てて庭へ下りて草鞋(わらじ)を履いていると、隣の家の人がごめんくださいと宿屋へ入ってきた。何を言うかと思って聴いていると、この宿にお侍さんが泊まっているかとその人は宿の者に尋ねた。これはしまった。あの弓を射たのでやられるに違いないと思っていると、それでは今弓を射てくれたのはその人に違いない。実はうちの蔵へ盗人が入って物を盗って出ようとするところへ矢が当たって盗人が倒れたので、おかげで物を盗られずに済んだと言った。息子はそれを聞くと、早速草履を脱いで座敷へ上がってかしこまっていた。するとそこへ、弓を射てくださったお侍というのはあなたかと言ってさっきの隣の人が入ってきた。その人はお礼に沢山の金をくれた。それからこの話が段々伝わって隣の村へ聞こえた。隣の村では猪が出て田畑を荒らす。何とかして退治せねばと言っているところだったので、隣の村に弓の名人がいるということだ。それに頼んで退治してもらおうということになって頼みに来た。息子は引き受けた。馬の用意をせよと言った。馬を連れてきたが、息子は馬に乗ったこともなければ、馬に乗ったのを見たこともないので、大きなことを言ったが困ったと思った。それから馬の上へ這い上がって後ろ向きに乗った。そして尻尾を固く握りしめた。この侍は不思議な侍だと言いながら隣村の百姓たちは馬の後ろへついて行った。その内に川へ来た。馬が川へ下りていくと、尻尾の方が高くなって、とてもいい具合だった。百姓たちは感心した。ところが川を渡ると、今度は向こうの岸へ上がることになった。馬は立った様に前が高くなったので、息子は弓を持ったまま、どぶんと川へ落ちてしまった。百姓たちがたまげると、その方ども、何を騒ぐかと言って息子は鮎を二尾ほど矢へ突き刺して、これを獲りに入ったのだと言って上がってきた。なるほど、名人というものは違ったものだ、百姓たちはまた感心した。それからまた馬に乗って、いよいよ隣村へ着いた。猪はどこに出るかと聞くと、あの向こうの山へ出るとなって、明くる日になると、息子は大きな高い崖のほとりへ行って待っていた。ところがいくら待っても猪が出てこない。退屈になったので、着物を脱いで蚤(のみ)を取りはじめた。そこへ大きな音がしたかと思うと、大きな猪が飛んできた。あまり急に来たので、弓を射る間もありはしない。慌てて蚤をとっていた着物を振ると、猪が真っ直ぐに飛んでいって崖の上から下へ落ちてしまった。息子は急いで下りてみると、猪は足を折って死んでいる。百姓たちが来ては具合が悪い。矢を尻の穴に力いっぱい差し込んでおいた。それから上へあがって着物を着て休んでいると百姓たちがやって来た。あそこの崖の下にいるはずだから行ってみよと言い、一緒に下りてみると、大きな猪が死んでいる。百姓たちは感心して見ていたが、どこにも矢が立っていない。よくよく見ると尻の穴から羽根が覗いている。これは上手なこと。肉を少しも痛めずに射たものだ。これがまことの名人だと百姓たちはますます感心した。この話がどんどん広がって殿さまの耳に入った。殿さまには姫がいたが、いい聟がいなくて困っていた。そういう弓の名人がいるなら、この頃山賊が出て困っているからこれを退治させて、退治したら姫の聟にすることにしようと殿さまは言った。百姓の息子は殿さまの前へ召し出された。姫が見ると出来の悪い百姓の様な男なので、どうもこの男は自分の聟には欲しくないと思って、どうかして殺してやりたいと思った。そこで握飯を沢山こしらえて、その中へ毒を入れて持たせて山賊の出るところへ連れていった。息子はそれがしは弓の名人である。山賊どもが毎晩出て荒らすということを聞いて征伐に参った。すぐに出てこいと大きな声で怒鳴った。すると何をぬかすか、小せがれめと言って五六人の山賊が岩屋から出てきた。息子は弓を射ることも何もできない。これは敵わないと思って、どんどん逃げ出した。山賊たちはどこまでも追っかけてくるので、息子は敵わないので木へ登った。木登りはとても上手なので猿の様に上っていくと、腰に結んでいた握飯の紐が解けてボトボトみな落ちた。山賊たちはこれを見ると、腹が減っていたと見えてわれ勝ちに拾って食べたので皆死んでしまった。息子はこの様を見ると、木の上から下りてきて皆首を切って、殿さまのところへ持って帰った。いいつけ通り、山賊をことごとく退治したから、約束通り姫の聟にしてくれと殿さまに申し上げた。そして殿さまも姫も息子を聟にした。

◆モチーフ分析

・ある田舎に百姓の息子がいた
・百姓が嫌になったので、これから侍になってやろう、侍になったら威張ることできると思った
・そこで刀を二本求めて腰に差し、旅に出た
・日が暮れたので宿へ泊まった。
・床の間に長刀や刀が飾ってあったので、これが本物だと感心した
・弓があったので矢をつがえて、一生懸命引き絞ってパッと放した
・矢は障子を射ぬいて外へ飛んでいってしまった
・これは大事になった。早く出ていこうと草鞋を履いていると、隣の家の人が宿屋へ入ってきた
・隣の家の人はうちの蔵に盗人が入って物を盗って出ようとするところへ矢が当たって盗人が倒れたので、おかげで物を盗られずに済んだと言った
・息子は草鞋を脱いで座敷へ上がってかしこまった
・宿の人はお礼に沢山の金をくれた
・この話が段々伝わって隣の村へ聞こえた
・隣の村では猪が出て田畑を荒らすので何とかして退治せねばと言っているところだったので、隣の村の弓の名人に頼んで退治してもらおうと頼みに来た
・息子は馬の用意をさせた
・馬に乗ったことがなく、馬に乗ったのを見たこともなかった
・息子は馬に後ろ向きに乗って尻尾を固く握りしめた
・馬が川を渡ると、馬は立ったように前が高くなったので、息子は弓を持ったまま川へ落ちてしまった
・息子は鮎を二尾ほど矢を突き刺して、これを獲りに入ったのだと言い張った
・隣村に着いた明くる日、息子は高い崖のほとりへ行って村人たちが猪を追い込むのを待っていた
・いくら待っても猪が出てこない
・退屈なので、着物を脱いで蚤を取りはじめた。
・そこへ大きな猪が飛んできた
・急に来たので弓を射る間もなかった、着物を振ると、猪は真っ直ぐに飛んでいって崖から下へ落ちてしまった
・息子が急いで下りてみると猪は足を折って死んでいた
・百姓たちが来ては具合が悪いので、猪の尻の穴に差し込んでおいた
・百姓たちがやって来て崖の下に下りてみると、大きな猪が死んでいる
・よく見ると尻の穴から羽根が覗いているので、肉を少しも痛めずに射た、これがまことの名人だと百姓たちは感心した
・この話がどんどん広がって殿さまの耳に入った
・殿さまには姫がいたが、いい聟がいなくて困っていた
・弓の名人がいるなら、このころ山賊が出て困っているから、これを退治させて、退治したら姫の聟にしようと殿さまは言った
・百姓の息子は殿さまの前へ召し出された
・姫が見ると、出来の悪い百姓の様な男なので、この男は聟に欲しくないと思って、どうにかして殺してやりたいと思った
・そこで握飯を沢山こしらえて、その中へ毒を入れて持たせて、山賊の出るところへ連れていった
・息子は自分は弓の名人である。征伐に参った。すぐに出てこいと大声で怒鳴った
・すると、五六人の山賊が岩屋から出てきた
・息子は弓を射ることも何もできない
・これは敵わないと思って、どんどん逃げ出した
・山賊たちはどこまでも追ってくるので、息子は木の上へ登った
・木登りは上手なので猿の様に上って行くと、腰に結んでいた握飯の紐が解けて皆落ちてしまった
・山賊たちは腹が減っていたと見えてわれ勝ちに拾って食べたので皆死んでしまった
・息子はこの様を見ると、木の上から下りてきて皆首を切って殿さまのところへ持って帰った
・言いつけ通り、山賊をことごとく退治したから、約束通り姫の聟にしてくれと殿さまに申し上げた
・殿さまも姫も息子を聟にした

 形態素解析すると、
名詞:息子 猪 これ 弓 殿さま 百姓 山賊 馬 こと 姫 聟 退治 隣 名人 矢 ところ 人 崖 村 皆 二 上 下 侍 刀 前 家 宿 尻 感心 握飯 木 沢山 物 男 盗人 着物 穴 腰 草鞋 話 五六 うち おかげ お礼 ころ そこ ほとり まこと まま われ 上手 中 何 具合 出来 外 大事 大声 宿屋 少し 尻尾 岩屋 川 床の間 座敷 征伐 後ろ向き 旅 日 明くる日 木登り 本物 村人 毒 猿 用意 田畑 田舎 約束 紐 羽根 耳 肉 腹 自分 蔵 蚤 足 金 長刀 障子 隣村 首 鮎
動詞:出る する いる 入る 思う 見る 言う 下りる 乗る 射る 持つ 来る 死ぬ 落ちる 飛ぶ できる なる 困る 待つ 盗る 脱ぐ 行く 頼む ある かしこまる かす くれる こしらえる つがえる やって来る 上がる 上る 伝わる 倒れる 入れる 切る 参る 取りはじめる 召し出す 威張る 射ぬく 履く 差し込む 差す 帰る 広がる 引き絞る 当たる 怒鳴る 急ぐ 折る 拾う 振る 握りしめる 放す 敵う 暮れる 殺す 泊まる 済む 減る 渡る 獲る 申し上げる 痛める 登る 着く 突き刺す 立つ 結ぶ 聞こえる 荒らす 見える 覗く 解ける 言いつける 追い込む 追う 逃げ出す 連れる 食べる 飾る
形容詞:ない 悪い 高い いい 固い 早い 欲しい 間もない
形容動詞:この様 嫌 退屈
副詞:どんどん いくら ことごとく すぐ どう どこまでも よく パッと 一生懸命 何とか 急に 段々 求めて 真っ直ぐ
連体詞:この 大きな ある その

 息子/盗人/隣の人、息子/馬/隣村の人、息子/猪/隣村の人、息子/山賊/姫/殿さまの構図です。抽象化すると、主人公/敵対者/隣人です。息子―弓―盗人―隣の人、息子―馬―隣村の人、息子―猪―隣村の人、息子―毒/握飯―山賊、息子―姫―殿さまの図式です。

 百姓が嫌になった息子は侍に扮して旅に出る[出立]。宿屋で矢を射たところ、隣の家に泥棒に入った盗人に当たった[的中]。隣村で猪退治を請けたところ、飛んできた猪が崖から落ちて死んでしまった[転落死]。殿さまから山賊退治を言いつけられるが逃走[逃走]、その際に落ちた毒入り握飯を食べた山賊たちが皆死んでしまう[毒殺]。息子は殿さまの姫の聟になった[聟入り]。

 弓の名人を自称したところ様々な難題が課せられるが、幸運で切り抜ける……という内容です。

 発想の飛躍は、幸運で難題を解決して行くところでしょうか。息子―矢―盗人、息子―鮎―馬、息子―着物/矢―猪、息子―毒/握飯―山賊といった図式です。

 外国の昔話では若者が姫の聟になってメデタシメデタシで終わる話が多いのですが、日本ではあまり見られないようです。「弓の名人」はそうした数少ない事例です。

 毒入りのおむすびを食べさせて山賊を退治する筋は「怪我の功名」と共通しています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.437-444.

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