五人小屋――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、奥山に仕事に入ってはいけないという山があった。ところが五人の木挽(こび)きが、何故人が入ってはいけないというのか、そんな馬鹿なことはないと言うので、五人連れでその山へ入って行った。木挽きたちはどんどん入って、そこで仕事をすることになり、小屋をかけて泊まった。夕飯を炊いて食べ、そま(斧)を枕元において寝た。その内に四人の木挽きはいびきをぐうぐうかいて寝入ってしまった。ところが一人の男はどうした訳かなかなか寝つかれない。すると、どこからともなく蝶々が一羽飛んできた。蝶は一人の男の鼻の周りをくるくる廻りはじめた。これはどうしたことだろうと思って見ている内に、その男の鼻からぷうっと血が出てきた。すると蝶は次の男のところへ行って、また鼻のほとりをくるくる廻りはじめた。見ていると、また鼻からぷうっと血が噴き出した。そして、とうとう四人とも鼻から血を出してしまった。男はこれはいけないと思って、他の男を起こしてみると、皆死んでいた。男は恐ろしくなって逃げ出さねばいけないと思ったが、そまを持って蝶を切ってやろうと思って、そまを振り回して蝶々に切ってかかった。しかし蝶々はひらひら身をかわして、なかなかそまが当たらない。その内にくたびれて息が弾んできた。そこで外へ逃げだそうとすると、戸口から御幣をかついだお爺さんが入ってきた。やれしもうた、自分は所の氏神だが、もう少し早く来ようと思ったが、他のところへ出かけていて一足遅れたばかりに四人を死なせてしまった。済まないことをしたが、お前は自分について来い。自分について来れば助かると言ってお爺さんが先に立って歩き出した。男はお爺さんについて山を出たので助かった。それで、所の氏神さまというのは大事にしなければいけない。
◆モチーフ分析
・奥山に仕事に入ってはいけない山があった
・五人の木挽きが何故人が入ってはいけないのか、そんな馬鹿なことはないと言って五人連れでその山へ入った
・そこで仕事をすることになり、小屋をかけて泊まった
・夕飯を炊いて食べ、そまを枕元に置いて寝た
・四人の木挽きはぐうぐういびきをかいて寝入ってしまった
・一人の男はどうした訳かなかなか寝付かれない
・どこからともなく蝶々が一羽飛んできた
・蝶は一人の男の鼻の周りをくるくる廻りはじめた
・その男の鼻からぷうっと血が出てきた
・蝶は次の男のところへ行って、また鼻のほとりをくるくる廻りはじめた
・またぷうっと鼻血が噴き出した
・とうとう四人とも鼻から血を出してしまった
・これはいけないと思った男は他の四人を起こしてみると、皆死んでいた
・男は逃げ出さねばいけないと思ったが、そまを振り回して蝶々に切ってかかった
・蝶はひらひら身をかわして、なかなかそまが当たらない
・くたびれて息が弾んできた
・外へ逃げだそうとすると、戸口から御幣をかついだお爺さんが入ってきた
・自分は所の氏神だが、他所へ出かけていて一足遅れたばかりに四人を死なせてしまった。お前は自分について来いとお爺さんは言った
・お爺さんが先に立って歩きだした
・男はお爺さんについて山を出たので助かった
・ところの氏神さまは大事にしなければいけない
形態素解析すると、
名詞:男 四 お爺さん 鼻 そま 山 蝶 五 こと ところ 一人 仕事 木挽き 氏神 自分 蝶々 血 一 いびき お前 これ どこ ほとり 一足 人 他 他所 周り 夕飯 外 大事 奥山 小屋 息 戸口 所 枕元 次 皆 訳 御幣 身 馬鹿 鼻血
動詞:いける する 入る つく 出る 廻る 思う 死ぬ 言う ある かかる かく かける かつぐ かわす くたびれる なる 出かける 出す 切る 助かる 噴き出す 寝る 寝付く 寝入る 弾む 当たる 振り回す 来る 歩きだす 泊まる 炊く 立つ 置く 行く 起こす 逃げだす 逃げ出す 遅れる 飛ぶ 食べる
形容詞:ない
形容動詞:そんな
副詞:くるくる なかなか ぷうっと また ぐうぐう とうとう どう ひらひら 何故 先に
連体詞:その
男/蝶、木挽き/蝶の構図です。木挽き―鼻血―蝶、男―蝶―氏神という図式です。
禁じられた山[禁止]に入った五人の木挽きだったが[侵犯]、小屋で寝ているうちに蝶[魔性のもの]がやってきて四人の男を殺した[殺害]。残りの一人は起きていたので無事で[難を逃れる]、氏神に伴って山を出たので助かった[脱出]。
人を殺す蝶に遭遇した五人の男たちは四人までが殺されてしまった……という内容です。
発想の飛躍は蝶が鼻のまわりをくるくる回ると鼻血が出て死んでしまうことでしょうか。蝶―鼻血―男の図式です。
石見の民話では珍しく怖い話です。蝶の正体は明らかにされません。その山に入ることが禁じられていたという理由づけになっています。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.389-390.
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