炭焼き長者――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、京の都にお金持ちの家があって、その家に器量のよい娘がいた。ところが、どうしたことか縁談がない。聟に来てくれる者がないので、とうとう困って、易者のところへ行って見てもらった。すると易者がなんぼここの方で聟を貰おうと思っても、それはないと言うので、どうしたら良いかと訊くと、こっちからずっと西へ向けて五十里ほど行って今度は東北へ向けてずっとまた二十里ほど上がっていったところにお前の聟がいると言って聞かせた。娘はこれは大変なことだと思ったが、聟が欲しくてたまらないので、金もあることだし、財宝をみな売って路銀にして、西へ西へと下っていった。そして易者が言ったところまで行くと大きな川があった。そこから川についてまた何十里という道をよっこらよっこら歩いて上った。しかしなんぼ行っても、まったく聟になりそうな男はいない。ああ、これは何でも嘘だったのだろう。自分があまりに聟を欲しがるから、あんなことを言って聞かせたのだろう。まあ仕方ない、やりかけた事だから、もう少し行ってみようと思って行ったら、山の中へ入った。ところがその内に日が暮れてしまった。真っ暗な中を探りながら歩いていると、向こうの方に灯りが見えてきた。あそこに灯りが見えるから、灯りのあるところには人がいるに決まっているから、行って一つ宿を貸してもらおうと思って訪ねていった。中には炭焼きが一人いた。これこれで難儀をしている者だが、一夜宿を貸して下さいと言うと、炭焼きは、そんなことはできない。大体泊めるといったところで布団が一枚ある訳でもない、自分も寝間着をくるめてこもを着て寝るようなことだから、とてもいけない。こらえてくれ。それから食べさせるものもないと言って断った。何と言っても見たこともないきれいな娘だったから、炭焼きもたまげて、とても人間ではないと思った。それでも娘は今からどこへも行けないから、どうでも泊めて下さいという。炭焼きはいよいよ米が無くなったので、明日は買いに行こうと思うのだが、今食べる米もない。それでどうしようもないのだと言った。それでは米を買いにいってくださいと娘が言うと、買いに行こうと言っても夜だし、それに米のあるところまでは三里もある。とても行かれはいないと炭焼きは答えた。それでは夜が明けてから行きなさい。どうでもいいから今夜は泊めて下さいと言って、とうとうそこで泊めてもらった。夜が明けると娘はこれを持っていって米を買ってきなさいと言って小判を出した。すると、炭焼きはあんなものでは米はくれはしないと言った。それなら何で米を買うのかと娘が訊くと、それは炭を持っていかねば米でも醤油でもくれはしない。味噌でも塩でも皆炭で買うのだ。こんなものなら、ある所にはなんぼでもある。この前窯(かま)を作ろうと思って掘っていたら、この類いが出て邪魔になるから泥をかけておいたと言った。娘は驚いて行って掘ってみると、黄金がざくざく出てきた。それから二人は夫婦になって安楽に暮らした。後には加計(かけ)の炭屋と言う分限者になった。
◆モチーフ分析
・京の都に金持ちの家があって、器量のよい娘がいたが、どうしたことか縁談がない
・聟に来てくれる者がいないので、困って易者のところへ行って見てもらった
・易者がここの方で聟を貰おうと思ってもそれは無いと言った
・どうしたら良いか訊くと、ここから西へ向けて五十里ほど行って、今度は東北へ向けて二十里ほど上がっていったところに聟がいると言って聞かせた
・娘は聟が欲しくてたまらないので、財宝をみな売って路銀にして西へ西へと下っていった
・易者が言ったところまで行くと大きな川があった
・そこから川について何十里という道をよっこらと歩いて上った
・しかし、なんぼ行っても聟になりそうな男はいない
・これは嘘だったのだろう。自分が聟を欲しがるから、あんなことを言って聞かせたのだろうと思った
・やりかけた事だから、もう少し行ってみようと思って行ったら、山の中へ入った
・その内に日が暮れてしまった
・真っ暗な中を探りながら歩いていると、向こうの方に灯りが見えてきた
・灯りのあるところには人がいるに決まっているから、行って宿を貸してもらおうと思って訪ねていった
・中には炭焼きが一人いた
・一夜宿を貸して下さいと言うと、炭焼きは布団はないし食べさせるものもないからと言って断った
・炭焼きは見たこともないきれいな娘だったから、とても人間ではないと思った
・娘は今からどこへも行けないから、どうしても泊めてくださいと言った
・炭焼きは米が無くなったので、明日買いに行こうと思うのだが、今食べる米がないと言った
・娘はそれでは米を買いにいってくださいと言った
・炭焼きは米のあるところまでは三里もある、夜だし、とても行くことができないと答えた
・娘はそれでは夜が明けてから行きなさい、どうでもいいから今夜は泊めて下さいと言って、とうとうそこで泊めてもらった
・夜が明けると娘はこれを持っていって米を買ってきなさいと言って小判を出した
・炭焼きはそんなものでは米をくれはしないと言った
・それなら何で米を買うのか娘が訊くと、炭を持って行かねば、米でも醤油でも味噌でも塩でも買えないのだと炭焼きは言った
・炭焼きは小判の様なものなら、ある所にはなんぼでもある。この前窯を作ろうと思って掘っていたら、この類いが出て邪魔になるから泥をかけておいたと言った
・娘が驚いて行って掘ってみると、黄金がざくざく出てきた
・それから二人は夫婦になって安楽に暮らした
・後に加計の炭屋という分限者になった
形態素解析すると、
名詞:娘 炭焼き 米 聟 ところ こと それ もの 中 夜 易者 西 ここ これ そこ 今 宿 小判 川 方 買い きれい どこ みな よっこ 一人 一夜 三里 事 二人 二十里 五十里 京 人 人間 今夜 今度 何 内 分限者 加計 十里 向こう 味噌 嘘 器量 塩 夫婦 安楽 家 山 布団 後 所 日 明日 東北 泥 炭 炭屋 男 真っ暗 窯 縁談 者 自分 財宝 路銀 道 都 醤油 金持ち 黄金
動詞:言う 行く 思う ある いる する なる 泊める 買う いう いく 出る 向ける 掘る 明ける 歩く 灯る 聞く 見る 訊く 貸す 食べる かける くれる つく できる やる 上がる 上る 下る 作る 入る 出す 困る 売る 持っていく 持って行く 探る 断る 暮らす 暮れる 来る 決まる 無くなる 答える 行う 見える 訪ねる 貰う 類う 驚く
形容詞:ない 欲しい いい たまらない よい 無い 良い
形容動詞:あんな そんな 邪魔
副詞:どう とても なんぼ ざくざく とうとう もう少し 何で
連体詞:この ある その 大きな
娘/炭焼きの構図です。抽象化すると、女/男です。娘―小判/黄金―炭焼きといった図式です。
聟が来ないので易者に占ってもらった[予言]通りに旅に出た京の娘は山の中で日が暮れてしまい、炭焼きの家に一夜の宿を求める[要求]。炭焼きは何もないから泊められないと断るが[謝絶]、娘はどうにでもと言って泊まる[宿泊]。娘が小判を出してこれで米を買えといったところ、炭焼きはそんなものはごろごろしていると言った[無知]。娘と炭焼きは結婚して分限者になった[栄達]。
娘が小判を出したところ、炭焼きはそんなものは幾らでもあると言って価値を認めなかったが、その発言で黄金が発見される……という内容です。
発想の飛躍は黄金が幾らでもあると小判の価値を認めないことでしょうか。娘―小判―炭―炭焼きの図式です。
実際には黄金がそのまま出てくるはずはないのですが、鉱石を見分ける術を娘は知っていたのでしょうか。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.433-436.
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