くも女房――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、後家じいさんがいた。そこへひょっこり、ばあさんが来て、自分は茶でも沸かすから、これに置いてくださいと言って上がり込んだ。そしてそのまま居てもらうことになった。ところがばあさんはご飯をあまり食べないので、じいさんは不思議に思った。ある日、隣の家からぼたもちを持ってきた。じいさんは留守でばあさんが一人いた。それでばあさんがどうするかと思って、隣の人は外へ出て戸の隙間から様子を見ていた。するとばあさんは髪を解いてぼたもちをみな頭の中へすり込んでしまった。隣の人はびっくりして、じいさんが帰るとそっとそのことを知らせた。じいさんはびっくりして、家へ帰るとばあさんに、お前は今日からうちにはいらないから出ていってくれと言った。するとばあさんは出ろというなら出るから、自分が欲しいというものをくれと言った。何がいるかと訊くと、桶をくれと言った。そこでじいさんが桶をやると、ばあさんはその桶に入れと言った。じいさんが桶へ入るとばあさんはそれを軽々と背負って、ひょんひょん山へ入っていった。じいさんはどこへ行くやらと思って、恐ろしくなったので、どうにかして逃げだそうと思った。ちょうどいい具合に頭の上に大きな木の枝が覗いていたので、その下を通るときこれにつかまって桶から出た。ばあさんはそんなことは知らないでひょんひょん行くので、じいさんは送り狼に知られない様に跡をつけていった。そのうちにばあさんの家へついた。ばあさんは、いい肴を持ってきたから皆出ろと言った。すると上から蜘蛛が沢山下りてきた。ばあさんは桶を下ろして中を見たが、じいさんがいない。これはまた、どこで抜け出したものだろうと言ってびっくりしていたが、今夜の晩に行ってお茶の中に入って、あのじいさんがお茶を飲むときに喉へ入って喰い殺してやると言った。じいさんはそれを聞くと一散に家へ帰って近所の若い人を皆雇ってきた。そして囲炉裏に炭の火をかんかんに起こして、今夜蜘蛛が来るから、蜘蛛が来たら誰でもいいからすぐ火の中へくべてくれと言った。みんな火箸を持って火を起こして待っていると、夜遅くなってから大きな蜘蛛が自在鍵を伝って下りて来た。そら来たと言うので皆でその蜘蛛を火の中へ放り込んで焼いてしまった。それから朝蜘蛛は吉相だから殺してはいけない。夜蜘蛛は人を獲るから殺さねばいけないということになった。
◆モチーフ分析
・後家じいさんがいた
・ばあさんがひょっこり来て、自分は茶でも沸かすから、ここに置いてくれと上がり込み、そのまま居てもらうことになった
・ばあさんはご飯をあまり食べないので、じいさんは不思議に思った
・ある日、隣の家からぼたもちを持ってきた
・じいさんは留守でばあさんが一人いた
・ばあさんはどうするか、隣の人は外へ出て戸の隙間から様子を見た
・ばあさんは髪を解いて、ぼたもちを頭の中にすり込んでしまった
・びっくりした隣の人はじいさんが帰るとそっとそのことを知らせた
・びっくりしたじいさんはばあさんに出ていってくれと言った
・ばあさんは出るから、自分が欲しいものをくれと言った
・何が要るか訊くと、桶をくれと言った
・じいさんが桶をやると、ばあさんはその桶に入れと言った
・じいさんが桶へ入ると、ばあさんはそれを軽々と背負って、ひょんひょん山へ入っていった
・じいさんは恐ろしくなったので、逃げだそうと思った
・ちょうどいい具合に頭の上に大きな木の枝が覗いていたので、じいさんは枝につかまって桶から出た
・ばあさんはそんな事は知らずにひょんひょん行くので、じいさんは送り狼に知られない様に跡をつけた
・ばあさんの家に着くと、ばあさんはいい肴を持ってきたから皆出ろと言った
・すると、上から蜘蛛が沢山下りてきた
・ばあさんは桶を下ろして中を見たが、じいさんがいないので、今夜の晩に行ってお茶の中に入ってじいさんが飲むときに喉へ入って喰い殺してやると言った
・じいさんはそれを訊くと一散に家へ帰って、近所の若い人を雇ってきた
・囲炉裏に炭の火をかんかんに起こして、今夜蜘蛛が来るから、来たらすぐ火の中へくべてくれと言った
・みな火箸を持って火を起こして待っていると、夜遅くなってから大きな蜘蛛が自在鍵を伝って下りて来た
・そら来たと皆で蜘蛛を火の中へ放り込んで焼いた
・それから朝蜘蛛は吉相だから殺してはいけない、夜蜘蛛は人を獲るから殺さねばいけないことになった
形態素解析すると、
名詞:じいさん ばあさん 桶 中 ひょん 人 火 こと 家 蜘蛛 隣 それ びっくり ぼたもち 上 今夜 皆 自分 頭 お茶 ここ ご飯 とき みな もの 一人 不思議 事 何 具合 吉相 喉 囲炉裏 外 夜 山 後家 戸 晩 朝 木の枝 枝 様子 沢山 火箸 炭 留守 肴 自在 茶 跡 近所 送り狼 鍵 隙間 髪
動詞:言う 出る 来る 入る いる 持つ いける くれる する なる 下りる 帰る 思う 殺す 知る 行く 見る 訊く 起こす いく くべる つかまる つける やる 上がり込む 下ろす 伝う 入れる 喰い殺す 居る 待つ 放り込む 沸かす 焼く 獲る 着く 知らせる 置く 背負ってる 要る 覗く 解く 逃げだす 雇う 食べる 飲む
形容詞:いい 夜遅い 恐ろしい 欲しい 若い
形容動詞:かんかん そんな
副詞:あまり ある日 すぐ そっと そのまま ちょうど どう ひょっこり 一散に 軽々
連体詞:その 大きな
じいさん/ばあさん/蜘蛛という構図です。抽象化すると、主人公/妖怪の構図でもあります。じいさん―桶―ばあさん、じいさん―火―蜘蛛という図式です。
じいさんと同居することになったばあさんだが[同居]、正体は化物だった[露見]。ばあさんはじいさんを桶に入れて山の中へ入った[誘拐]。枝につかまって桶から出た[脱出]。じいさんはばあさんの跡を追った[追跡]。ばあさんの正体は蜘蛛だった[判明]。家へ帰ったじいさんは蜘蛛を待ち構え[待ち伏せ]、火で蜘蛛を焼き殺した[焼殺]。
ばあさんの正体が蜘蛛だと分かったじいさんは家で待ち構えて蜘蛛を焼き殺した……という内容です。
発想の飛躍はばあさんが蜘蛛だったことでしょうか。じいさん―桶―ばあさん/蜘蛛の図式です。
食わず女房の類話です。ここでは家に戻ったじいさんが蜘蛛を焼き殺す筋となっています。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.428-430.
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