椛谷の次郎――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、吉賀の椛谷(かばたに)に椛谷の次郎という百姓がいた。次郎は大した力持ちで、人の大勢集まるところへ行ったときには、人が取り違えないように履き物を脱いで柱を抱え上げてその下へ入れておいた。次郎は毎年、津和野の殿さまのところへ山芋を納めることになっていた。あるとき山芋を納めに行くと山芋が折れていたので、役人はこんな折れた山芋は受け取られないと言ってどうしても受け取ってくれない。次郎は仕方ないので遠い道を帰って、掘って折らさない様に気をつけて持っていった。役人は今度は何とも言わないで受け取った。ところが次郎は納めが済んでも役所へ座り込んで、いつまでも帰ろうとしない。役人が変に思って、納めが済んだのにどうして帰らないのかと言った。すると次郎は、この前お役人さまは折れた山芋は受け取られないと言って受け取らせませんでした。殿さまは山芋をあのまま丸呑みにしなさるのだろうから、今日持ってきたのを丸呑みにしなさるのを見ねば帰らないと言った。役人は腹をたてて、大きな縄で次郎をそこの柱へ縛りつけてしまった。次郎は平気な顔をして、せられるままにしていた。役人たちはどうするかと思って見ていると、次郎はもぞもぞと動き出した。そして身体を一ゆすり、一ゆすり、ゆすりあげる度に柱がついて上がって家がぐらぐら動く。次郎はその度に、その周りに脱いであった役人たちの草履や雪駄を柱の下へかき込んだ。役人たちはそれを見ると、慌てて大騒ぎしはじめた。殿さまは次郎の力の強いのに感心して、もうよい。早く縄を解いてやれと言った。
次郎はあるとき女竹のいっぱい茂った藪を畠にしようと思って女竹を片っ端から根ごと引き抜いていった。女竹は根が互いに繋がっていて、鍬で掘ってもなかなか掘り上げるのが大変なものだが、次郎は力が強いのでどんどん手で引き抜いた。そうして立派な畠が出来上がった。次郎は畠へ種子を播いたが、作物はさっぱり出来なかった。底の苦土(にがつち)が畠いっぱいに散らばったからであった。
◆モチーフ分析
・吉賀の椛谷に椛谷の次郎という百姓がいた
・次郎は大した力持ちで、人の大勢集まるところへ行ったときには履き物を脱いで柱を抱え上げてその下へ入れておいた
・次郎は毎年、津和野の殿さまのところへ山芋を納めることになっていた
・あるとき山芋を納めに行くと、山芋が折れていたので、役人は受け取らなかった
・仕方ないので、次郎は遠い道を帰って、掘って折れないように気をつけて持っていった
・役人は今度は何も言わずに受け取った
・次郎は納めが済んでも役所へ座り込んでいつまでも帰ろうとしない
・変に思った役人が納めが済んだのにどうして帰らないのかと尋ねた
・次郎は、この前お役人さまは折れた山芋は受け取らなかった。殿さまは山芋を丸呑みになさるだろうから、それを見なければ帰らないと言った
・腹をたてた役人は次郎を柱へ縄で縛りつけてしまった
・次郎は平気な顔をして、されるままにしていた
・どうするかと思っていた役人たちが見ていると、次郎はもぞもぞと動きだした
・身体をゆすりあげる度に柱がついて上がって家がぐらぐら動いた
・次郎はその度に、周りに脱いであった役人たちの草履や雪駄を柱の下へかき込んだ
・役人たちはそれを見て、慌てて大騒ぎしはじめた
・殿さまは次郎の力の強いのに感心して、もうよい、早く縄を解いてやれと言った
・次郎は女竹の茂った藪を畠にしようと思って、女竹を片っ端から根を引き抜いていった
・女竹は根が互いに繋がっていて掘り上げるのが大変だが、次郎は力が強いので、どんどん引き抜いた
・立派な畠ができあがった
・次郎は種を播いたが、作物はさっぱり出来なかった
・底の苦土が畠いっぱいに散らばったからだった
形態素解析すると、
名詞:次郎 役人 山芋 柱 女竹 殿さま 畠 それ とき ところ 下 力 度 根 椛谷 縄 いっぱい いつ こと まま もぞもぞ ゆすり 丸呑み 人 今度 何 作物 力持ち 吉賀 周り 変 大勢 大変 大騒ぎ 家 履き物 平気 底 役所 感心 毎年 気 津和野 百姓 種 立派 腹 苦土 草履 藪 身体 道 雪駄 顔
動詞:する 帰る 納める 受け取る 思う 折れる 見る 言う 引き抜く 掘る 済む 脱ぐ 行く あげる いう いる かき込む たてる つく つける できあがる なさる なる 上がる 入れる 出来る 動きだす 動く 尋ねる 座り込む 慌てる 抱える 持っていく 播く 散らばる 縛りつける 繋がる 茂る 解く 集まる
形容詞:強い よい 仕方ない 早い 遠い
副詞:どう ぐらぐら さっぱり どんどん もう 互いに 片っ端から
連体詞:その ある この 大した
次郎/役人の構図です。次郎―柱―役人の図式です。
椛谷の次郎は家の柱を持ち上げるほど力持ちだった[怪力]。ある年、次郎が折れた山芋を納めようとしたところ[納付]、役人は受け取らなかった[拒否]。次郎は折れていない山芋を納め直したが[再納付]、殿さまがそれを呑み込むのを見るまでは帰らないと言った[口ごたえ]。役人は次郎を柱に縛り付けたが[緊縛]、次郎は柱を持ち上げ、家がぐらぐらしたので[怪力発揮]、許された[赦免]。
椛谷の次郎は口答えして役人に縛られたが、怪力で家をぐらぐらと揺すり、許された……という内容です。
発想の飛躍は次郎が怪力で家を揺するところでしょうか。次郎―柱―役人の図式です。縛られているのに草履や雪駄を拾ってしまうというところはわずかに引っかかります。
他の民話集では、山芋は長いので持って歩くのに障りになる。次郎はどうせ細かく切って食べるのだからと言って山芋を折ってしまうという筋になっています。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.399-401.
・『夕陽を招く長者 山陰民話語り部シリーズ1』(民話の会「石見」/編, ハーベスト出版, 2013)pp.32-34.
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