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2022年11月 9日 (水)

猿の嫁さん――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、あるところにお爺さんがいた。ある日山へ行って畑をうっていたが、何分年をとっているので骨が折れて仕方ない。少しうっては休み、少しうっては休みしていた。その内にとうとうくたびれ込んでしまって、ああ、何ともしんどくていけない。誰か来てうってくれないかと独り言を言った。すると、ほとりの山から猿が一匹出てきた。お爺さん、あんたの娘をわしの嫁にくれ。畑をうってあげるからと言った。お爺さんはもうすっかりくたびれてしんどくていけないので喜んで、それはありがたい。娘はやるからうってくれと言った。猿は大喜びで、お爺さんの鍬をとると一寸(ちょっと)の間にその畑をうってしまった。夕方になってお爺さんは猿を連れて家へ帰ってきた。二人の娘たちは湯を沸かして待っていた。お爺さんは足を洗ってあがると、今日のことを詳しく話して、姉娘にこういう訳だから、お前猿の嫁に行ってくれと言った。姉娘はすっかり腹をたてて、馬鹿を言うな、自分は一生涯嫁にいかなくても猿の嫁になど行きはしないと言った。お爺さんは仕方がないので、今度は妹娘に頼むと、それでは自分が行くから、鏡と大きな水瓶(はんどう)を一つ買ってくださいと言った。お爺さんが鏡と大きな水瓶を買ってやると、娘は鏡を懐に入れて、猿の婿に水瓶を負わせた。そして婿と花嫁は連れだって猿の家へ行った。途中に川があって橋がかかっていた。橋の中ほどまで行くと、嫁の鏡が川の中へ落ちた。早く行って取ってきてください。早く行かないと流れると言って大騒ぎをした。猿はびっくりして大きな水瓶を背負ったまま川へ入ったので、水瓶の中へ水が入って上がることができない。とうとう溺れ死んでしまった。そこで娘は家へ帰ってきた。姉娘はとうとう一生涯嫁入りをしなかった。

◆モチーフ分析

・あるところにお爺さんがいた
・ある日山へ行って畑をうっていたが、年をとっているので骨が折れる
・少しうっては休み、少しうっては休みしていたが、その内にくたびれてしまった
・しんどくていけない、誰か来てうってくれないかと独り言を言った
・すると、ほとりの山から猿が一匹出てきた
・猿は畑をうってあげるから、爺さんの娘を自分の嫁にくれと言った
・爺さんはすっかりくたびれているので、それはありがたい、娘はやると言った
・猿は大喜びで畑をうった
・夕方になってお爺さんは猿を連れて家へ帰ってきた
・今日のことを詳しく話して、姉娘に猿の嫁に行ってくれないかと言った
・姉娘は腹をたてて、自分は一生涯嫁に行かなくとも猿の嫁になど行きはしないと言った
・仕方ないので、お爺さんは妹娘に頼んだ
・妹娘はそれでは自分が行くから鏡と大きな水瓶を買ってくれと言った
・爺さんが買ってやると、妹娘は鏡を懐に入れ、猿の婿に水瓶を負わせた
・婿と花嫁は連れだって猿の家へ行った
・途中に川があって橋がかかっていた
・橋の中ほどまで行くと、嫁は鏡が川の中へ落ちた、早く行って取ってきてくれと大騒ぎした
・猿はびっくりして大きな水瓶を背負ったまま川へ入った
・水瓶の中に水が入ってきて上がることができず、猿は溺れ死んでしまった
・娘は家へ帰ってきた
・姉娘は一生涯嫁入りをしなかった

 形態素解析すると、
名詞:猿 娘 嫁 水瓶 お爺さん 妹 姉 家 爺さん 畑 自分 鏡 こと それ 一生涯 中 休み 婿 少し 川 橋 一 ところ びっくり ほとり まま 中ほど 今日 内 夕方 大喜び 大騒ぎ 嫁入り 山 年 懐 日山 水 独り言 腹 花嫁 誰 途中 連れ 骨
動詞:行く うつ 言う する くたびれる やる 入る 帰る 買う あげる ある いる かかる くれる たてる できる とる なる 上がる 入れる 出る 取る 折れる 来る 死ぬ 溺れる 背負う 落ちる 話す 負う 連れる 頼む
形容詞:ありがたい しんどい 仕方ない 早い 詳しい
副詞:すっかり
連体詞:ある 大きな その

 お爺さん/猿/娘の構図です。抽象化すると、父/動物/娘です。お爺さん―畑/(うつ)―猿、猿―嫁入り―娘、猿―水瓶―妹娘の図式です。

 畑をうってもらう見返りに娘を嫁にやる[取引]と言ったお爺さんだったが[約束]、姉娘は拒否する[拒否]。妹娘がそれなら自分がいく[応諾]といって鏡と水瓶を用意する[準備]。水瓶を背負った猿は川に鏡を取りに入り、溺れ死んでしまう[計略死]。妹は家に帰った[帰還]。姉は生涯嫁に行かなかった[未婚]。

 猿に水瓶を背負わせて、川の中に入らせることで溺れ死にさせた……という内容です。

 発想の飛躍は猿に水瓶を背負わせることでしょうか。猿―水瓶―妹娘の図式です。

 知恵で動物の嫁になることを回避します。姉は生涯嫁に行かないといったためか、未婚で終わります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.409-411.

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