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2022年11月 3日 (木)

隅の庄九郎――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、隅の庄九郎という男が上方へ行った帰りに三隅の辺りで日が暮れた。どこか宿を借りる様な所はないかと思って探したが、家が一軒もない。これは困ったものだと思って仕方なしに歩いていると、川のほとりに一軒の家があった。これはいいことだと思って、日が暮れて泊まるところがないので困っているが、ひとつ泊めてくれないかと言うと、泊めてあげようと言うので泊めてもらった。上へあがって食事を済ませて休んでいると、しばらく経ってから、前の川の中から、今夜も漁に行こうと言うものがある。今夜はどこへ行くかと宿の主人が言うと、今夜は寺の土井の又三郎を取りに行こうと川の中から言った。庄九郎はこれを聞くとびっくりした。どうもこの様子を見ると、この家の主人は人間ではなくえんこうらしいのである。庄九郎は恐ろしくなってぶるぶる震えだした。主人はそれを見ると、お前はそんなに恐れなくてもいい。何、お前は隅の庄九郎といって人のよい男だから取ったりしない。安心して寝るがよい。寺の土井の又三郎という男は川のほとりをびっしり歩き回って川を荒らすから、それで取ってくるというのだと言った。寺の土井の又三郎は津和野の殿さまの言いつけで、いつも堤防を直したり、井堰を作って水を上げたりしていたので、えんこうのいる所が壊されて住みにくくなるので、えんこうたちが取りにいこうとしたのであった。男はそう言って出ていった。しかし、取ることはできなかった模様で、又三郎が川で死んだという話はなく、長生きして沢山の仕事をした。

◆モチーフ分析

・隅の庄九郎という男が上方へ行った帰りに三隅の辺りで日が暮れた
・どこか宿を借りる所はないかと探したが、家が一軒もない
・仕方なしに歩いていると、川のほとりに一軒の家があった
・これはいいと思って、日が暮れて泊まるところがないので困っている、ひとつ泊めてくれないかと頼むと泊めてあげようと言うので泊めてもらった
・上へあがった食事を済ませて休んでいると、前の川の中から今夜も漁に行こうというものがある
・宿の主人が今夜はどこへ行くかと言うと、今夜は寺の土井の又三郎を取りに行こうと川の中から言った
・庄九郎はこれを聞いてびっくりした
・どうもこの家の主人は人間ではなくえんこうらしい
・恐ろしくなった庄九郎はぶるぶる震えだした
・宿の主人はお前は良い男だから取ったりしない、そんなに恐れなくてもいいと答えた
・宿の主人は寺の土井の又三郎は川のほとりを歩き回って川を荒らすから、それで取ってくるのだと言った
・又三郎は津和野の殿さまの言いつけで堤防を直したり井堰を作って水を上げたりしていたので、えんこうのいる所が壊されて住みにくくなって、えんこうたちが取りにいこうとしたのだと言って男は出ていった
・しかし、取ることはできなかった模様で、又三郎が川で死んだという話はなく、長生きして沢山の仕事をした

 形態素解析すると、
名詞:川 主人 又三郎 宿 えんこう 今夜 家 庄九郎 男 これ ほとり 一軒 中 土井 寺 所 日 お前 こと それ ところ どこ ひとつ びっくり もの 三隅 上 上方 井堰 人間 仕事 前 堤防 模様 殿さま 水 沢山 津和野 漁 話 辺り 長生き 隅 食事
動詞:取る 言う する 行く いう 泊める ある 暮れる あがる あげる いく いる できる 上げる 休む 住む 作る 借りる 出る 困る 壊す 帰る 思う 恐れる 探す 歩き回る 歩く 死ぬ 泊まる 済ませる 直す 答える 聞く 荒らす 言いつける 震えだす 頼む
形容詞:ない いい 恐ろしい 良い
副詞:そんなに どう どこか ぶるぶる 仕方なしに
連体詞:この

 庄九郎/主人/えんこう/又三郎の構図です。抽象化すると、人間/妖怪/人間です。庄九郎―主人―えんこう―又三郎の図式です。又三郎―堤防―えんこうの図式でもあります。

 庄九郎はえんこうが又三郎を取りに行こうという声を聞いて[側聞]、えんこうの宿に泊まってしまったと気づく[発覚]。が、宿の主人は庄九郎がいい男だから取らないと言った[保証]。その後、又三郎が川で死んだという話はなく長生きした[失敗]。

 又三郎は川の改修工事でえんこうに恨まれていたが、長生きした……という内容です。

 発想の飛躍は又三郎を取りに行こうというところでしょうか。又三郎―堤防―えんこうの図式です。

 人間にとっては有益な又三郎の仕事も、えんこうにとっては川を荒らす行為だったのです。ここでは又三郎が陰の主役でしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.394-395.

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