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2022年11月 7日 (月)

作蔵庄屋――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、柿木に作蔵という庄屋がいた。この庄屋は知恵者であった。あるとき、津和野の殿さまが屋形舟で高津参りをするのへお供をして先触れをして行った。高津へ着いて人丸さまへ参って、徳城の峠を越して柳まで戻ると、お宮があった。殿さまが先触れ、この社(やしろ)は何という社かと訊いたので、はい、弥四郎は三年前の飢饉で逃げましたと作蔵は答えた。それから商人(あきんど)まで戻ると、またお宮があった。殿さまが先触れ、このお宮は何というお宮かと訊くと、はい、お宮は弥四郎の女房で、弥四郎と連れて逃げましたと作蔵は言った。津和野の四本松へ戻ると、大きな松があった。先触れ、この松は何年経っているかと殿さまが訊いた。はい、千三年経っておりますと作蔵が答えたので、殿さまがどうしてそれがわかると訊くと、はい、松は千年経つと逆枝を打ちます、この松は三年前に逆枝を打ちましたと作蔵は答えた。

 津和野で庄屋の集まりがあって、作蔵がこれからひとつ松茸を採って飲もうと言った。他の庄屋たちが松茸をどこで採ると訊いた。それはお城山へ行って採ると作蔵は答えた。お城山には山番がいるから採られはしないと他の庄屋が言うと、それは自分が採ってくると言って、作蔵は顔に鍋炭を塗って、浅葱(あさぎ)の手ぬぐいで頬かむりをして、鎌竿と袋を持って出かけた。作蔵はお城山へ上がって松茸をとっては柴の下へ隠し、鎌竿を持って松の上の方の枝をがさがさやり、また松茸をとって柴の下へ隠しては、鎌竿で松の上の方の枝をがさがさ揺すぶった。こうして段々登って行くと、山番が見つけた。何をしていると山番が叱ると、松茸を採りに来たと作蔵が言った。この馬鹿たれ、松茸が木の上にあるものか、帰れ帰れと山番は言った。それで作蔵は帰った。そうして隠しておいた松茸をみな袋へ入れて帰って、皆と食べた。

 津和野の城下には度々火事があって、その度に殿さまから木を出せということがあった。ある時また火事があって、木を出せと言ってきたので、作蔵は茂右衛門という百姓に木を出させた。津和野へ持って行くと、殿さまはこの木はどこで伐ったか訊いた。これは火の浦の燃えあがりの茂右衛門の山で伐ったと作蔵が答えた。殿さまはそんな縁起の悪い木はいらないと言って、それから木を出させなかった。

◆モチーフ分析

・柿木に作蔵という知恵者の庄屋がいた
・あるとき津和野の殿さまが高津参りするのに先触れを務めた
・高津の人丸さまに参って、徳城の峠を越して柳まで戻るとお宮があった
。殿さまがこの社は何という社か訊いたので、作蔵は弥四郎は三年前の飢饉で逃げたと答えた
・商人まで戻ると、またお宮があった。殿さまが何というお宮か訊くと、作蔵はお宮は弥四郎の女房で弥四郎と連れて逃げたと答えた
・四本松へ戻ると大きな松があった。殿さまがこの松は何年経っているかと訊いたので、作蔵は松は千年経つと逆枝を打つ。この松は三年前に逆枝を打ったので千三年経っていると答えた
・庄屋の集まりがあって、作蔵がこれから松茸を採って飲もうと言った
・他の庄屋たちが松茸をどこで採るのか訊いた
・作蔵はお城山へ行って採ると答えた
・他の庄屋がお城山には山番がいるから採られないと言うと、作蔵は自分で採ってくると言って、顔に炭を塗って浅葱の手ぬぐいで頬かむりをして鎌竿と袋を持って出かけた
・作蔵はお城山へ上がって松茸を採っては柴の下に隠し、鎌竿を持って松の上の方の枝をがさがさ揺すぶった
・それを繰り返して段々登って行くと、山番が見つけた
・山番が叱ると、松茸を採りに来たと作蔵は答えた
・松茸が木の上にあるものか、帰れと山番が言ったので作蔵は帰った
・隠しておいた松茸をみな袋へ入れて帰って皆と食べた
・津和野の城下には度々火事があって、その度に殿さまから木を出せと言われた
・また火事があって木を出せと言ってきたので、作蔵は茂右衛門という百姓に木を出させた
・津和野へ持っていくと、この木はどこで伐ったか殿さまが訊いた
・これは火の浦の燃えあがりの茂右衛門の山で伐ったと答えたところ、殿さまはそんな縁起の悪い木はいらないと言って、それから木を出させなかった

 形態素解析すると、
名詞:作蔵 木 殿さま 松茸 松 お宮 山番 庄屋 城山 弥四郎 枝 津和野 三 これ どこ 上 他 火事 社 茂右衛門 逆 鎌 高津 千 千三 それ とき ところ みな もの 下 人丸 何年 先触れ 商人 四本松 城下 女房 山 峠 度 徳城 手ぬぐい 方 柳 柴 柿木 浅葱 浦 火 炭 百姓 皆 知恵者 縁起 自分 袋 頬かむり 顔 飢饉
動詞:ある 採る 言う 答える 訊く 出す 帰る 戻る 経つ いう いる 伐る 参る 打つ 持つ 行く 逃げる 隠す する はいる 上がる 入れる 出かける 出る 務める 叱る 塗る 持っていく 揺すぶる 来る 燃えあがる 登る 繰り返す 見つける 越す 連れる 集まる 食べる 飲む
形容詞:悪い
形容動詞:そんな
副詞:また がさがさ 度々 段々
連体詞:この 何という ある その 大きな

 作蔵/殿さま、作蔵/山番の構図です。抽象化すると、庄屋/領主です。作蔵―(答える)/(訊く)―殿さま、作蔵―松茸―山番、作蔵―木―殿さまの図式です。

 津和野に作蔵という知恵者の庄屋がいた[知恵者]。作蔵は殿さまの先触れをした際、百姓の窮状をそれとなく訴えた[示唆]。また、作蔵は城山の山番の目を誤魔化して松茸を採った[窃盗]。作蔵は火事の後の木の徴発に火の名のある土地の木を出させて、そこから木を出さない様にした[免租]。

 作蔵という知恵者の庄屋が津和野の殿さまと駆け引きをして巧みに要求を通した……という内容です。

 発想の飛躍は作蔵の知恵でしょうか。作蔵―(答える)/(訊く)―殿さまという図式でさりげなく窮状を訴えるのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.402-405.

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