法事の使い――モチーフ分析
◆あらすじ
あるところに馬鹿な息子と父親がいた。あるとき父親が、今年は死んだ母親の三年になるから、法事をしなければならない。お前、ご苦労だが、お寺へ行って和尚さんに頼んでこいと息子に言った。息子は、うん、それは行こうと言った。それでも、自分は和尚さんというものを知らないが、一体どんな着物を着ていなさるかと言うので、いつも黒い衣を着ているから、黒い着物を着ている人に頼めば間違いないと父親は言った。息子はどんどん行くと、木の上に真っ黒いものがいた。そこで、その下へ行って、和尚さん、うちの母の三年の法事をするから、ご苦労だが来てくれないかと言ったら、カー、カーと言って飛んでいった。息子は帰って父親に今頼んできたからと言った。和尚さんはどう言いなさったと父親が訊くと、自分がよく頼んだら、カーカー言って逃げなさったと息子が答えた。お前、それは和尚さんではない、烏だと父親は言った。もういっぺん行ってこい。和尚さんは下へもっていって白い着物を着て、上へもっていって黒い衣を着ているから、今度はそれを目当てに行ってこいと父親は言った。息子はまたどんどん行くと、今度は田んぼの中に下に白いものを着て上に黒いものを着たものがいた。それで側へ行って、和尚さん、今度うちの母の三年の法事をするから、ご苦労だが来てくれないかと言ったらシイガラ、トウガラといって飛んでいった。息子は帰って、よく頼んでおいたからと言った。和尚さんはどう言ったと父親が訊くと、シイガラ、トウガラと言って逃げてしまったと息子が答えた。まあ、この子は。それは四十雀(しじゅうから)という鳥だから、何でもない。それではお前はうちで留守番をしておれ、自分が頼みに行ってくるからと言って、今度は父親がお寺へ行った。父親は帰って、これで和尚さんは来てやると言いなさったから、お経を読んでもらったら、何かご馳走しなければならない。うちではこうして女手もなくて何もないから、二階に柿がこしらえてあるから、あれを下ろしてご馳走しよう。お前、てご(手伝い)をせよと息子に言った。そこで父親は二階へ上がって、息子は真下へ行って待っていた。今、はんどう(水瓶)を下ろすから、お前、けつをよく持っておれよと言って父親ははんどうへ付けた柿を上から除いた。息子は自分のけつを一生懸命押さえていた。お前、けつを持ったかと父親が言った。かとう(固く)持ってるから世話はない、下ろしなさいと息子は言った。そこで父親は安心して手を離したので、はんどうは落ちて壊れてしまった。まあ、お前、何をしているかと言うと、けつを持っておれと言うんだから、自分は固くけつを持っていたと言った。
◆モチーフ分析
・あるところに馬鹿な息子と父親がいた
・父親が今年は死んだ母親の三年になるから法事をしなければらないと言い、息子に和尚さんに頼んでこいと言った
・息子は行こうと言い、自分は和尚というものを知らないが、どんな着物を着ているのかと訊いた
・父親は和尚はいつも黒い衣を着ているから、黒い着物を着ている人に頼めば間違いないと言った
・息子がどんどん行くと木の上に真っ黒いものがいた
・木の下へ行って、和尚さん、うちの母の三年の法事をするから、ご苦労だが来てくれないかと言った
・黒いものはカー、カーといって飛んでいった
・息子は帰って、父親に今頼んできたからと言った
・父親が和尚はどう言ったか訊くと、息子は自分が頼んだら、カーカーいって飛んでいったと答えた
・父親はそれは和尚ではない、烏だと言った
・父親はもういっぺん行ってこい、和尚は下に白い着物を着て、上に黒い衣を着ているから、それを目当てに行ってこいと言った
・息子がまたどんどん行くと、今度は田んぼの中に白いものを来て上に黒いものを着たものがいた
・息子は側へ行って、和尚、今度うちの母の三年の法事をするから、ご苦労だが着てくれと言った
・それはシイガラ、トウガラといって飛んでいった
・息子は帰ってよく頼んでおいたからと言った
・父親が和尚はどう言ったと訊いたところ、シイガラ、トウガラと言って逃げてしまったと息子が言った
・父親はそれは四十雀だ。お前は留守番をしておれ、自分が頼みに行ってくると言ってお寺へ行った
・父親は帰ってきて、和尚が来るからお経を読んでもらったら、ご馳走しなければならない。二階に柿があるから、それを下ろしてご馳走しようと言った
・父親は息子に手伝いをせよと言った
・父親は水瓶を下ろすから、けつをよく持っておれと言った
・息子は自分のけつを一生懸命持っている
・お前、けつを持ったかと父親が言った
・持っていると息子が言ったので、手を離すと、水瓶は落ちて壊れてしまった
・お前、何をしているかと父親が言うと、息子はけつを持っておれと言うんだから、自分はけつを固く持ったと言った
形態素解析すると、
名詞:息子 父親 和尚 もの けつ それ 自分 ガラ 三 お前 上 法事 着物 うち ご苦労 ご馳走 ところ カー シイ トウ 今度 母 水瓶 衣 二 お寺 お経 カーカー 下 中 人 今 今年 何 側 四十雀 手 木 木の下 柿 母親 烏 田んぼ 留守番 目当て 馬鹿
動詞:言う 行く 着る する 持つ 頼む いく いる 帰る 来る 訊く 飛ぶ 下ろす ある いう なる ばる 壊れる 手伝う 死ぬ 知る 答える 落ちる 読む 逃げる 離す
形容詞:黒い よい 白い ない 固い 真っ黒い 間違いない
形容動詞:どんな
副詞:どう どんどん いっぺん いつも また もう 一生懸命
連体詞:ある
父親/息子の構図です。家族同士の構図です。父親―法事―息子、父親―水瓶―息子の図式です。
母親の三年目の法事なので、父親が息子に和尚に伝えてこいと命じたが[お使い]、息子は父親の言ったことを理解しておらず鳥に呼びかけてしまう[錯誤]。父親がお寺に行って話をしてきた[代理]。和尚にご馳走するので水瓶を二階から下ろすことにしたが[運搬]、息子は水瓶の尻を持たず、自分の尻を持った[錯誤]ので水瓶が壊れてしまった[損壊]。
息子の錯誤で父親は自分の言ったことが伝わっていないと知る……という内容です。
発想の飛躍は息子が父親の言ったことを字義通りに受け取ってしまうことでしょうか。息子―衣―鳥、息子―けつ―父親という図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.424-427.
| 固定リンク
「昔話」カテゴリの記事
- Amazon Kindleストアで電子書籍の販売を開始しました。(2023.03.01)
- 専門家でも難しい問題だと思うが(2023.02.26)
- 積むと天井まで届くか――『日本昔話通観 第28巻 昔話タイプ・インデックス』(2023.02.14)
- ロールバック完了(2022.12.15)
- 昔話の時空――近藤良樹「子供の昔話を哲学する(論文集)」(2022.12.08)