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2022年10月 7日 (金)

話は彦八――モチーフ分析

◆あらすじ

 「話は彦八」と言われるくらいに話上手な彦八という男がいた。その話はみな作り話で、それがまたまじめくさって話すので本気で聞いていると、しまいになって、ああ、かつがれたと気がつくのであった。彦八はある時さる物持ちの楽隠居のところへ行った。入るとすぐ隠居が彦八、何か話せと注文した。いや、話すまい。旦那は聞いた後で、いつでも彦八それは嘘ではないかと言うから、自分にとっては張り合いがないと彦八は断った。いや今日は決してそのような事は言わない。証として、違約したらこの大判を彦八にやると隠居は机の上にあったピカピカする大判を一枚、彦八の前へ出した。しからば話そう。これはつくり話などではなく、また聞いた話でもなく、自分の実見談だから、そのつもりで聞くように。先日自分が浅利の長良屋へ用事があって参る途中、江川の川端で渡し舟を待っていた。ところが自分より先に侍が一人、供を連れて両掛に腰をかけて同じく渡し舟を待っていた。すると松の枝にとまっていた烏(からす)が糞をして侍の羽織を汚した。汚らわしいと侍はその羽織を脱ぐが早いか江川に投げ捨てて、両掛から羽織を出させてきちんと着て待っている。ところがまた烏が糞を手の甲にぺたんとやった。汚らわしいと侍は腰の刀を抜くが早いか、自分の手首をすぱっと切って江川に投げ込み、両掛から手を出してぺったり継いで泰然と腰を掛けて待っている。ところがまた烏が糞を、ところもあろうに侍の頭に落とした。侍はむっと腹をたてて、またぞろ一刀抜くが早いか、えいっと首を打ち落として、これまた汚らわしいと江川に投げ入れ、両掛から替えの首を出し、ぐっと継いで泰然自若、待っていた。その有様はいかにも昔物語の英雄豪傑の態度、ものに驚かぬ自分も感嘆、待った渡し舟が来たのも気づかず眺めていたと言った。彦八、それは嘘ではないかと隠居が思わず言ったので、はい、この大判、まことにありがたく頂戴いたしますと言って、彦八は大判を懐にしまった。

◆モチーフ分析

・話は彦八と言われるほど話し上手な彦八という男がいた
・その話はみな作り話で、まじめくさって話すので本気で聞いていると、終いになって、ああ、かつがれたと気がつくのだった
・彦八はあるとき物持ちの楽隠居のところへ行った
・隠居が彦八に何か話せと注文した
・旦那はそれは嘘ではないかと言うから張り合いがないと彦八が断った
・今日はその様なことは決して言わない。証として違約したら大判をやると差し出した
・ならばと彦八が話しはじめる
・これは作り話ではなく、聞いた話でもなく、自分の実見談だから、そのつもりで聞くようにと彦八が言う
・先日、浅利の長良屋へ用事があって参る途中、江川の川端で渡し舟を待っていた
・彦八より先に侍が両掛に腰を掛けて舟を待っていた
・烏が糞をして侍の羽織を汚した
・侍は汚らわしいと羽織を江川に投げ捨てて、両掛から羽織を出して着た
・また烏が侍の手の甲に糞をした
・侍は汚らわしいと自分の手首を刀で切って江川に投げ込み、両掛から手を出してぺったり継いで待っていた
・また烏が侍の頭に糞を落とした
・侍は汚らわしいと首を打ち落として江川に投げ入れ、両掛から替えの首を出して、ぐっと継いで待っていた
・その有様は昔物語の英雄豪傑のごとくで、彦八は舟が来たのも気づかず眺めていた
・隠居が思わず彦八、それは嘘ではないかと言った
・彦八は大判をありがたく頂戴した

 形態素解析すると、
名詞:彦八 侍 両掛 江川 烏 糞 羽織 話 それ 作り話 嘘 大判 自分 舟 隠居 こと これ つもり とき ところ みな 今日 先日 刀 実見 川端 手 手の甲 手首 旦那 昔 有様 本気 楽隠居 気 注文 浅利 渡し舟 物持ち 物語 用事 男 腰 英雄 証 話し上手 談 豪傑 途中 違約 長良 頂戴 頭 首
動詞:言う 待つ する 出す 聞く ある 継ぐ いう いる かつぐ つく なる まじめくさる やる 切る 参る 差し出す 張り合う 思う 打ち落とす 投げ入れる 投げ捨てる 投げ込む 断る 替える 来る 気づく 汚す 眺める 着る 終う 落とす 行く 話しはじめる 話す 話せる
形容詞:ない 汚らわしい ありがたい
形容動詞:その様
副詞:また ああ ぐっと ぺったり 何か 先に 掛けて 決して
連体詞:その

 彦八/隠居、彦八/侍の構図です。彦八―大判―隠居、彦八―渡し船―侍といった図式です。

 話は彦八と呼ばれるほど話し上手な彦八に隠居が話を求めた[要求]。彦八は嘘だというから張り合いがないと答えると[断り]、隠居は大判を賭けた[賭け]。彦八が話を語って聞かせると[語り]、隠居は思わず嘘ではないかと言った[発話]。彦八は大判をせしめた[獲得]。

 彦八が嘘話をしたところ、隠居がそれは嘘ではないかと言ったので、彦八はまんまと大判をせしめた……という内容です。

 発想の飛躍は侍の有様でしょうか。侍―糞―烏といった図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.322-323.

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