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2022年10月29日 (土)

下瀬加賀守――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、下瀬山の上に城があって、下瀬加賀守という強い大将がいた。とても力が強かったので、この噂を聞いて、力自慢の侍が加賀守のところへ力比べにやってきた。加賀守はそのことを知って、家来の様な風をして土間で草履を作っていた。何も知らぬ侍は加賀守を見ると、自分は加賀守が大層力持ちという事を聞いて、はるばる力比べをしてみようと思って来た。加賀守はいるかと尋ねた。加賀守は主人は折悪しく今朝がた出たきりまだ帰ってこないとすまして答えた。侍はこのまま帰るのも残念だからしばらく待とうと言ったが、ふと戸口に立てかけてある大きな鉄の棒を見つけて、これは何にするのかと尋ねた。それは加賀守が平素持ち歩く杖だと答えた。侍は鉄の棒を取り上げた。そして棒の真ん中へ膝を当てると精一杯の力を込めて、くの字に曲げてしまった。侍がどうだという顔をして加賀守を見ると、加賀守は平気で、主人が戻ったらさぞ叱られることであろう。早く直しておかねばと独り言を言いながら、鉄の棒を取り上げると、さっと一遍すこいだ。すると鉄の棒は元の様に真っ直ぐになった。これを見て侍は驚いた。家来でさえこれだけの力がある。大将の加賀守はどれだけ力があるか知れたものではない。早く帰った方がよさそうだと思って、こそこそと帰っていった、加賀守はまた弓の名人だった。ある日下瀬山のてっぺんから四方の景色を眺めていた。するとはるか川下の川端に舟を据えて百姓の女が蕨粉(せん)を踏んでいた。ところが女は小便がしたくなったと見え、いきなり裾をまくると、舟の中から川へ小便をしはじめた。加賀守はこれを見て、ひとつ懲らしめてやろうと思って、弓に矢をつがえると切ってはなした。矢はあやまたず蕨粉踏み舟に突き刺さってぽっきりと折れた。それでこの辺りを矢折れと呼ぶ様になり、弓を射たところを一の矢と呼ぶようになった。

◆モチーフ分析

・下瀬山に城があって、下瀬加賀守という強い大将がいた
・力が強かったので、噂を聞いて力自慢の侍が力比べにやって来た
・加賀守は家来のふりをして土間で草履を作っていた
・侍は加賀守と力比べをしようと思って来た。加賀守はいるかと尋ねた
・加賀守は主人は今朝がた出たきりでまだ帰ってこないとすまして答えた
・侍は待つことにしたが、鉄の棒を見つけて、これは何かと尋ねた
・加賀守が平素持ち歩く杖だと答えた
・侍は精一杯の力を込めて鉄の棒をくの字に曲げてしまった
・加賀守は主人が戻ったらさぞ叱られることだろうと言いながら鉄の棒をすこぐと真っ直ぐになった
・侍は家来でさえこれだけの力がある。大将はどれだけ力があるか知れたものではないと思って、こそこそ帰っていった
・加賀守はまた弓の名人だった
・下瀬山のてっぺんから四方の景色を眺めていると、川下の川端で舟に乗った百姓の女が裾をまくると小便をしはじめた
・懲らしめてやろうと思った加賀守は弓をつがえると矢を放った
・矢はあやまたず舟に突き刺さってぽっきり折れた
・それでこの辺りを矢折れと呼ぶ様になり、弓を射たところを一の矢と呼ぶ様になった

 形態素解析すると、
名詞:加賀 守 侍 矢 下瀬 力 弓 棒 鉄 こと 主人 力比べ 大将 家来 舟 一 あや きり くの字 これ これだけ てっぺん ところ どれだけ ふり もの 今朝がた 何 力自慢 名人 噂 四方 土間 城 女 小便 川下 川端 平素 景色 杖 百姓 精一杯 草履 裾 辺り
動詞:する ある 思う いる 呼ぶ 尋ねる 帰る 折れる 答える いう こぐ すます つがえる まくる まつ やって来る 乗る 作る 出る 叱る 射る 待つ 懲らしめる 戻る 持ち歩く 放つ 曲げる 来る 眺める 知れる 突き刺さる 聞く 見つける 言う 込める
形容詞:強い ない
副詞:こそこそ さぞ ぽっきり また まだ 真っ直ぐ
連体詞:この

 加賀守/侍、加賀守/女の構図です。加賀守―鉄の棒―侍、加賀守―矢―女の図式です。

 力比べにやって来た侍を加賀守は家来のふりをして迎える[偽装]。侍が力自慢で鉄の棒を曲げると[力自慢]、加賀守は棒をすこいで真っ直ぐにしてしまった[怪力]。とても叶わないと思った侍はこそこそと帰った[逃走]。舟で小便をした百姓の女を懲らしめようと加賀守は下瀬山のてっぺんから矢を射た[威嚇]。矢はあやまたず舟に刺さった[命中]。

 力比べをしに来た侍に加賀守は家来のふりをして応じて怪力を見せつける……という内容です。

 発想の飛躍は加賀守が鉄の棒をすこいだだけで真っ直ぐになったことでしょうか。加賀守―棒―侍の図式です。

 力自慢に来たものを家来のふりをして迎えるという筋は「怪力尾車」にも見られます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.378-379.

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