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2022年10月10日 (月)

種姫――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、朝鮮のソシモリに大宜都比売命(おおげつひめのみこと)という五穀を司(つかさど)る神さまがいた。目や鼻、お尻などから色々な穀物を出して農作物を豊かにしていた。ある日この神さまのところへ訪れた旅の神が大宜都比売が身体のあちこちから色々な穀物を出すのをみて不思議に思い、身体の中には素晴らしい宝物が隠してあるのに違いないと思って斬り殺してしまった。大宜都比売が一番可愛がっていた末の子に乙子狭姫(おとごさひめ)という可愛い姫がいた。身体が小さいのでちび姫と呼ばれていたが、息も絶え絶えになった大宜都比売は自分はとんだ災難にあって今死のうとしている。可愛いお前と別れてあの世で行くのは悲しいが、自分の身体から出た作物の種を持って、海の向こうの東の国へ行って安らかに暮らせ。その国は平和な所だと聞いているからと言って目を閉じた。母神にとりすがって泣いていた狭姫は気がつくと、母神の頭から土地を耕す馬、目からは蚕、鼻からは大豆、腹からは稲、お尻から小豆、女陰(ほと)からは麦が生まれていた。姫がぼんやりと見ていると、大切に飼っていた赤い雁(かり)が飛んできた。雁は母神さまの言われた東の国へ今すぐ参りましょうと言って羽を広げた。狭姫は母神の身体から生まれた物を持って雁の背に乗った。こうして狭姫を乗せた雁は青い海の上を日本へ向かって飛び続けた。やがて遙かに石見の海岸が見えてきた。赤雁は波にもまれる島を見つけて舞い降りた。すると地の下から自分の背中に降りたのは誰だと咎(とが)めた。びっくりした赤雁は自分はソシモリから狭姫のお供をして五穀の種を日本の土に植えようと思ってやって来た者だと言った。するとその声は、ここは国つ神、大山祇(おおやまつみ)足長土(あしながつち)に仕える鷹の住む島だ。自分は肉は食べるが五穀に用はない。早く立ち去れと言った。赤雁は空に舞い上がって、どこか休む所はないかと海原を見渡すと、また一つの島が見つかった。そこへ降りると、また自分の背におりた奴は誰だと叱られた。訳を言うと、ここは国つ神大山祇の大人のみ使いの鷲の住処(すみか)だ。自分は肉食だから五穀には用なない。早く立ち去れと言った。赤雁は仕方がないのでまた大空に舞い上がり、益田市大浜の亀島に辿りついてしばらく休み、ここから本土の形のよい丘を選んで舞い降りた。この丘が天道山で、丘から降りたところを後に赤雁(あかがり)と言うようになった。狭姫はそれから更に住みよい土地を探し、そこに住居を定めた。ここを狭姫の名をとって狭姫山と名づけた。比礼振山(ひれふりやま)と呼ばれているのがこれで、益田市北仙道にあり、佐比売山神社が祀られている。狭姫は山を下りて母神から貰った稲や麦、豆などの種を播いた。種はやがて豊かに実って一族は栄えた。赤雁が始めに降りた島は益田市の高島で、次に降りたのは那賀郡須津の大島だという。

◆モチーフ分析

・朝鮮のソシモリにオオゲツヒメという五穀を司る女神がいた
・女神は身体のあちこちから色々な穀物を出して農作物を豊かにしていた
・あるとき旅の神がオオゲツヒメの働きを見て不思議に思い、身体の中に宝物が隠してあるに違いないと思って斬り殺してしまった
・オオゲツヒメの末子に乙子狭姫がいた
・狭姫は身体が小さいのでちび姫と呼ばれていた
・息も絶え絶えのオオゲツヒメは狭姫に自分の身体から出た作物の種を持って海の向こうの東の国に行くように言った
・狭姫が母神にとりすがって泣いていると、オオゲツヒメの身体から五穀の種が芽生えていた
・飼っていた赤雁が飛んできて母神の言われたとおり東の国へ行こうと言った
・狭姫は五穀の種を持って雁の背に乗った
・狭姫を乗せた雁は青い海の上を日本に向かって飛び続けた
・やがて遙かに石見の海岸が見えてきた
・赤雁は島を見つけて舞い降りた
・すると咎める声が聞こえた
・赤雁は自分は狭姫のお供をして五穀の種を日本に植えようとやって来たと言った
・声は大山祇足長土に仕える鷹で肉を食うから五穀に用はないと言って追い払った
・赤雁は空に舞い上がって、どこか休む所はないかと見渡すと、また一つの島が見つかった
・そこへ降りるとまた叱られた
・声は大山祇大人の使いの鷲で肉食だから五穀に用はないと追い払った
・再び舞い上がった赤雁は大浜の亀島に辿り着いて休憩した
・それから本土の形のよい丘(天道山)を選んで舞い降りた。そこを赤雁と呼ぶようになった
・狭姫はそれから更に住みよい土地を探し、そこに住居を定めた
・狭姫の名をとって狭姫山と名づけた。比礼振山のことである
・狭姫は山を下りて五穀の種を播いた
・種は豊かに実って一族は栄えた
・狭姫が始めに降りた島は高島と須津の大島である

 形態素解析すると、
名詞:五穀 種 赤雁 オオゲツヒメ 身体 そこ 声 山 島 神 国 大山 女神 日本 東 母 海 用 祇 自分 雁 あちこち お供 こと それ とおり とき ソシ モリ 一つ 一族 上 不思議 丘 中 乙子 亀島 休憩 住居 作物 名 向こう 土 土地 大人 大島 大浜 天道 姫 姫山 宝物 形 息 所 旅 朝鮮 末子 本土 比礼 海岸 石見 穀物 空 肉 肉食 背 色々 足長 農作物 須津 高島 鷲 鷹
動詞:言う いる する 呼ぶ 思う 持つ 舞い上がる 舞い降りる 行く 追い払う 降りる いう ちびる とりすがる とる やって来る 下りる 乗せる 乗る 仕える 休む 使う 働く 出す 出る 叱る 司る 名づける 向かう 咎める 始める 定める 実る 探す 播く 斬り殺す 栄える 植える 泣く 聞こえる 芽生える 見える 見つかる 見つける 見る 見渡す 辿り着く 選ぶ 隠す 飛び続ける 飛ぶ 食う 飼う
形容詞:狭い ない よい 住みよい 小さい 違いない 青い
形容動詞:豊か 絶え絶え 遙か
副詞:また どこか やがて 再び 更に
連体詞:ある

 オオゲツヒメ/狭姫/雁/鷹/鷲の構図です。抽象化すると、母/娘/家来/対立者です。狭姫―五穀の種―オオゲツヒメ、赤雁―(休む)―鷹/鷲という図式です。

 食物を司るオオゲツヒメが旅の神に斬り殺された[殺害]。末子の狭姫はオオゲツヒメの遺体から生えた五穀の種[死体化生]を持って赤雁と共に日本へ向けて旅立つ[出発]。途中、高島や大島で休憩しようとしたが[休憩]大山祇の使いである鷹や鷲に断られた[拒絶]。ようやく本土に達した[到達]狭姫は比礼振山に入り[入山]、そこから五穀の種を日本に伝えた[伝播]。

 オオゲツヒメの身体から芽生えた五穀の種を狭姫は赤雁に乗って日本に届けた……という内容です。

 発想の飛躍は古事記に登場する女神であるオオゲツヒメに娘がいたということでしょうか。狭姫―五穀の種―オオゲツヒメの図式です。

 いわゆる狭姫伝説です。死体化生型説話となります。狭姫伝説については拙書『石見の姫神伝説』で詳述しています。本文では馬や蚕も生まれたとしています。蚕は運べなくもないと思いますが、馬はどうやって運んだのでしょう。また、四穀しか登場していません。なお、後段に登場する巨人の足長土の名もさりげなく挙げられています。鎌手の亀島には亀がいたのかもしれません。狭姫の一族は栄えたとありますが、身体の小さい狭姫はどうやって結婚したのでしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.335-337.

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