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2022年10月 3日 (月)

大かん狐――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、大かんの大岩の辺りに大かん狐というよく人を化かす狐がいた。日が暮れてここを通るとよく化かされた。それを問屋の主人が大層自慢にして、来る船頭毎に大かん狐はよく人を化かす。誰でも彼でも皆化かすと言った。一人の船頭がそれを聞いて自分なら化かされないと言った。それなら賭けをしようということになって、船頭は日が暮れるのを待って大かんへ出かけた。そして大岩に腰をかけていると、向こうから殿さまの行列がやって来た。下に、下にという声に船頭はやれしまった、殿さまのお通りとは知らなかったと小さくなっている内に先払いが来て、やい無礼者、殿さまのお通りというのにそこにおるとは不届き者、手打ちにしてやると言った。船頭がどうなることかと震えていると、これでこらえてやると言って頭をくりくり坊主に剃ってしまった。やれ助かったと思ってみると、侍も殿さまもいない。これはしまった。狐に化かされたと思って問屋へ戻ったところ、これは自分の勝ちだ。それでは約束通り船をもらうと言って、乗ってきた船を取られてしまった。船頭は仕方ないので何里もある道を歩いて帰って布団を被って寝ていた。三日経っても起きないので女房が心配して訳を尋ねた。それを聞くと女房は、それなら自分が仇をとってやろうと言って千石船を準備してそれに乗って出かけた。そして問屋の主人に自分なら化かされないと言った。そこで千石船と問屋の家財全部とで賭けをすることになった。女船頭は日が暮れるのを待って大かんの大岩へ出かけた。間もなく下に、下にという声が聞こえてきた。女船頭は侍に化けている狐に向かって、まだまだ化け方が下手だ。目で直せと怒鳴りつけた。狐どもは化けの皮が剥がれたと思って、どのようにすれば化けられるかと尋ねた。女船頭が唐鐘へ行って木綿と針と糸をとってくれば言うて聞かすと言うと、狐どもはすぐ唐鐘へ行って盗んできた。女船頭はそれで大きな袋をこしらえて、この袋の中へ入れ、そうしたら言うて聞かすと言った。狐どもは皆袋の中へ入ったので女船頭は袋の口をしっかり結んで問屋へ引きずって帰った。問屋の主人はびっくりしてしまった。女船頭は多くの若い衆を使って狐を猫島の沖へ沈めてしまったので、それから大かんで狐に化かされる者はいなくなった。女船頭は勝ったので、問屋の家財を全部もらって大金持ちになった。

◆モチーフ分析

・大かんの大岩の辺りに大かん狐という人をよく化かす狐がいた
・それを問屋の主人が自慢にしていた
・一人の船頭が自分なら化かされないと言った
・それで賭けをすることになった
・日が暮れるのを待って船頭は大かんへ出かけた
・大岩に腰掛けていると、向こうから殿さまの行列がやって来た
・先払いが不届き者、手打ちにしてくれると言った
・船頭は坊主頭にされて、これでこらえてやるとなった
・助かったと思ってみると侍も殿さまもいない
・狐に化かされたと思って問屋へ戻ったところ、乗ってきた船を取られてしまった
・船頭は仕方なく何里もある道を歩いて帰った
・布団を被って三日ほど寝ていた
・女房が心配して訳を尋ねたので話した
・女房はそれなら自分が仇をとると言って千石船を準備して出かけた
・問屋に自分なら化かされないと千石船と問屋の家財全部とで賭けをした
・女船頭は日が暮れるのを待って大かんの大岩へ出かけた
・間もなく下に、下にという声が聞こえてきた
・女船頭は侍に化けている狐に向かって、まだまだ化け方が下手だ、目で直せと怒鳴りつけた
・狐たちは化けの皮が剥がれたと思って、どのようにすれば化けられるかと尋ねた
・女船頭が唐鐘へ行って木綿と針と糸をとってくれば言うて聞かすと答えた
・狐どもはすぐ唐鐘へ行って盗んできた
・女船頭はそれで大きな袋をこしらえて、この袋へ入れ、そうしたら言うて聞かすと言った
・狐どもが皆袋の中へ入ったので女船頭は袋の口をしっかり結んで問屋へ引きずっていった
・女船頭は若い衆を使って狐を猫島の沖へ沈めた
・それから大かんで狐に化かされる者はいなくなった
・女船頭は賭けに勝ったので問屋の家財を全部もらって大金持ちになった

 形態素解析すると、
名詞:船頭 狐 女 問屋 かん それ 大岩 自分 袋 賭け かす 下 侍 千石船 唐 女房 家財 日 殿さま 聞 鐘 三 こと これ ところ 一人 不届き 中 主人 人 仇 何 先払い 全部 化けの皮 口 向こう 坊主頭 声 大金持ち 布団 心配 手打ち 木綿 沖 準備 猫島 皆 目 糸 者 自慢 船 若い衆 行列 訳 辺り 道 針
動詞:する 言う 化かす いる 出かける 化ける 思う いう とる なる 尋ねる 待つ 暮れる 行く ある かむ こしらえる こらえる もらう やって来る やる 乗る 使う 入る 入れる 剥がれる 助かる 勝つ 取る 向かう 寝る 帰る 引きずる 怒鳴りつける 戻る 歩く 沈める 盗む 直す 答える 結ぶ 聞こえる 腰掛ける 被る 話す形容詞:よい 仕方ない
形容動詞:どのよう 下手
副詞:しっかり すぐ そう まだまだ 全部 間もなく
連体詞:大きな

 船頭/女房/狐/問屋の構図です。船頭(女房)―賭け―問屋、船頭(女房)―殿さまの行列―狐の図式です。

 狐に化かされるか問屋と賭けをした船頭だったが[賭け]、大名行列に騙されて[幻惑]頭を丸坊主にされていまう[敗北]。賭けに負けて船頭は船を失った[喪失]。女房が仇をとると言って問屋と賭けをする[賭け]。女房は狐を騙して袋に入れて猫島の沖に沈める[謀略]。狐に化かされる者はいなくなり[安定]、女房は問屋の家財を手に入れた[獲得]。

 船頭の仇をとるため女房が狐を騙し、袋に詰めて海に沈めた……という内容です。

 狐を袋に入れて退治する点で「博労と狐」と同じモチーフを持っています。

 発想の飛躍は、女船頭が狐を騙すところでしょうか。女船頭―袋―狐の図式です。この話も人間が狐に勝ちます。

 唐鐘の地名が出ますので浜田の話だと思われますが、大かんという地名は知りません。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.313-316.

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