池の峠の狐――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、小角(こづの)の池の峠に人を化かす狐がいた。村に何でも自慢する男がいて、自分なら狐に化かされたりしやせんといつも言っていた。その男がある晩そこを通りかかると、道のほとりに美しい女が立っていた。男はこいつが例の狐に違いないと思って、いきなり腕をひっ捕まえると、おのれ、狐め。俺を化かそうと思ってもそうはいかない。連れて帰って火あぶりにしてやるからそう思えと言ってずるずる引っ張って帰った。女は驚いて自分は狐ではない。助けてください、手を放してくださいと言ったが、男は何、放すものかといってどうしても放してくれない。女は泣く泣くもう右の腕はちぎれるから左の腕と取りかえてくださいと頼むので、それなら取りかえてやろうと言って左の手を引っ張って帰った。男は家の前まで帰ると、おい、かかあ、お客さんを連れて帰ったから火をどんどん焚け、これから火あぶりにしてやると大きな声で怒鳴った。すると、いきなり手が軽くなって男はすとんと尻もちをついた。しかし握った手は放さないで、しまった、狐は逃がしてしまった。それでも手だけは引き抜いてやったからこれを見よと言って女房にそれを見せた。女房はそれを見るとくすくす笑い出したので、火の灯りでよく見ると胡瓜(きゅうり)を一本しっかり握っていた。
◆モチーフ分析
・小角の池の峠に人を化かす狐がいた
・ある男は自分は化かされないと自慢していた
・ある晩、池の峠を通りかかると、道のほとりに美しい女が立っていた
・男はこいつが例の狐に違いないと思って、女の腕を捕まえた
・女は驚いて自分は狐ではないと許しを請う
・男が手を放さないので女はせめて左の腕と取りかえてくださいと言う
・応じた男は女を家まで連れてくる
・男は女房に火を焚けと言い、火あぶりにしてやると怒鳴った
・すると、手が軽くなって男は尻もちをついた
・握った手は放さないで、手だけは引き抜いてやったと女房に見せた
・女房はくすくす笑い出す
・よく見るとそれは胡瓜だった
形態素解析すると、
名詞:男 女 手 女房 狐 峠 池 腕 自分 こいつ それ ほとり 人 例 家 小角 尻もち 左 晩 火 火あぶり 胡瓜 自慢 道
動詞:化かす 放す 言う いる する つく やる 取りかえる 引き抜く 応じる 怒鳴る 思う 捕まえる 握る 焚く 立つ 笑い出す 見せる 見る 許す 請う 通りかかる 連れる 驚く
形容詞:ない 美しい 軽い 違いない
副詞:くすくす せめて よく
連体詞:例の
男/狐の構図です。抽象化すると、人間/動物です。男―胡瓜/腕―女=狐といった図式です。
狐が出るという池の峠で男は美しい女と遭った[遭遇]。女を狐と見た男は女の腕を強引に掴む[捕獲]。女はせめて左腕にしてくれと言い、男は腕を持ち直す[手を緩める]。女を強引に家まで連れてきた男だったが、火あぶりにしてやると言ったところ、すとんと尻もちをつく[空振り]。女房に腕を見せたところ、それは胡瓜だった[判明]。
狐が出るという池の峠で遭遇した女の腕を強引に掴んで家まで連れていった男だったが、気づくと胡瓜を握っていた……という内容です。
発想の飛躍は男が胡瓜をつかまされていたことでしょうか。男―胡瓜/腕―女=狐の図式です。
左腕にもちかえたところで握らされた様です。すんでのところで狐を取り逃がしてしまったというところです。
那賀郡に小角や池の峠といった地名があるのか知りません。伝説的要素を持ちますが、内容的には昔話でしょうか。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.309-310.
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