猿と蟹――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、猿と蟹(かに)がいた。餅が食べたいと言うので二人で相談して、猿は臼と杵(きね)を借りに行き、蟹は餅米を貰ってくることにした。蟹は約束どおりに餅米を貰ってきた、猿は臼をかついで帰ってきたが、杵は無かったから、ひとつ今度は蟹がいって借りてきてくれと言った。蟹が杵を借りに行くと、猿はその間に杵をとり出して、自分だけで餅をついて、それを持って逃げてしまった。蟹はあちこち歩いて、ようやく杵を借りて帰った。みると臼と杵があるばかりで餅米は無くなり、猿の姿は見えない。どこに行ったのだろうと思って探してみると、猿は高い木の上に登って、一人で美味そうに餅を食べていた。餅をおくれ。一人でとって逃げてはずるいと蟹が言った。やるからここへ登って来いと猿は言った。蟹は木に登ろうと思って一生懸命やってみたが、どうしても登ることができない。猿は笑いながらむしゃむしゃ食べて見せた。蟹は悔しくてたまらない。しかし幾らやっても滑って登ることができないので困っていると、ちょうどそこへ酷い風がどっと吹いてきた。そして猿が持っていた餅をみな吹き飛ばしてしまった。蟹は大急ぎで餅を拾って穴の中へ入った。猿は下りて来て穴の前から餅をおくれ、自分一人で食べてしまってはずるいと言った。蟹はこの中へ入って来いと言った。そして美味そうに餅を食べて見せた。猿は穴の中へ入ろうとしたが、穴が小さいので入ることができない。顔から入ろうとすると蟹が挟んだので、猿はびっくりして顔を引っ込めた。それで猿の顔は真っ赤になった。猿は今度は尻の方から入ろうと思って尻をのぞけた。蟹はまた尻を挟んだ。あいたた、猿はびっくりして尻を引っ込めた。それで尻も真っ赤になった。
◆モチーフ分析
・猿と蟹がいた
・餅が食べたいので猿は臼と杵を借り、蟹は餅米を貰ってくることにした
・蟹は約束どおり餅米を貰ってきた
・猿が臼をかついで帰ってきたが杵が無かったから、蟹が借りてきてくれと言った
・猿は蟹が杵を借りに行くと、その間に杵を取り出して一人で餅をついて、餅を持って逃げてしまった
・蟹はあちこち歩いてようやく杵を借りて帰った
・みると臼と杵があるばかりで猿の姿は見えない
・探してみると、猿は木の上に登って一人で餅を食べていた
・一人で取って逃げてはずるい、餅をおくれと蟹は言った
・やるからここへ登ってこいと猿は言った
・蟹は木に登ろうとしたが、どうしても登ることができない
・そこへ風がどっと吹いて、猿が持っていた餅をみな吹き飛ばしてしまった
・蟹は大急ぎで餅を拾って穴の中へ入った
・猿は木から下りて穴の前から餅をおくれと言った
・蟹は穴の中へ入ってこいと言って、餅を美味しそうに食べてみせた
・猿は穴の中へ入ろうとしたが、穴が小さいので入ることができない
・顔から入ろうとするとかにが挟んだので、猿はびっくりして顔を引っ込めた
・それで猿の顔は真っ赤になった
・今度は尻の方から入ろうとしたが、蟹が尻を挟んだ
・猿はびっくりして尻を引っ込めた
・それで尻も真っ赤になった
形態素解析すると、
名詞:猿 蟹 餅 杵 穴 尻 一人 中 木 臼 顔 こと びっくり 真っ赤 餅米 あちこち かに ここ そこ みな ノ 上 今度 大急ぎ 姿 方 約束 間 風
動詞:する 入る 言う 借りる 登る 食べる おくれる できる 帰る 引っ込める 持つ 挟む 貰う 逃げる ある いる かつぐ つく みせる みる やる 下りる 取り出す 取る 吹き飛ばす 吹く 拾う 探す 歩く 行く 見える
形容詞:ずるい 小さい 無い 美味しい
副詞:ことに どう どっと ようやく
連体詞:その
猿/蟹の構図です。抽象化すると動物同士となります。猿―餅―蟹の図式です。
猿と蟹が分担して餅をつこうとなった[分担]。猿の代わりに杵を借りにいった蟹だったが、その間に猿が隠していた杵を取り出して餅をつき独り占めにしていた[独占]。猿は木の上なので蟹は登ることができない[届かない]。そのとき風が吹いて餅がみな落ちた[占有外]。餅を拾った蟹は穴に隠れた[独占]。猿は穴の中に入ろうとしたが、はさみで挟まれて顔と尻が赤くなった[意趣返し]。
餅を独占しようとした猿だったが、風が吹いて蟹に拾われてしまい、穴の中なので餅をみな失ってしまった……という内容です。
発想の飛躍は風が吹いて餅がみな落ちてしまうことでしょうか。猿―餅―蟹の図式です。
猿と蟹なので猿蟹合戦を連想しましたが、猿と蟹だけのお話でした。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.383-385.
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