汗かき地蔵――モチーフ分析
◆あらすじ
木ノ口に小さなお堂があって、お地蔵さまが祀ってある。壇の向こうに胸から上が見えているが、蓮台の上に地から立っておられるのだから、高さが二メートルもある大きなお地蔵さまである。顔や胸の方は真っ黒くすすけているが、下は真っ白い花崗岩で、衣の襞(ひだ)なども実に立派に掘ってある。このお地蔵さまは昔この上にあった宝泉寺の門のところにあったもので、紀伊国から来られたものだった。宝泉寺が脇本へ移るとき、お地蔵さまも一緒に持っていこうとしたが、お地蔵さまは何人かかっても動かすことができない。それで伺ってみると、どうしても脇本へは行かぬと言われるので、少し上へあげて祀ろうということにした。すると、お地蔵さまは軽々と動かされて、誰か一人で今のところへ背負っていったということである。このお地蔵さまはたいそう霊験あらたかで、昔から村に何か変わったことがある時は、汗をかいて知らされた。汗というのは首から上だけであるが、数珠の玉よりももっと大きな汗が目も口も分からないほどどんどん流れるのであった。あるとき村の人が皆でお堂へお参りに行っていると、急にお地蔵さまの顔の様子が変わって、みるみるうちに汗が流れ出た。お地蔵さまが汗をかいていらっしゃると言って村の人たちが一生懸命拝むと、その内に汗が止んだ。その後で村の人がもの知りにみてもらうと、この先村に悪い風邪が流行る。それには一命を落とす人があるかもしれないから気をつけるがよいと言うことであった。ところが一人変わった男がいて、村の人が皆お地蔵さまのところへ集まっているところへ酔っ払ってきて、そんな馬鹿なことがあるもんか。あるものならわしにその風邪をつけてみるがよいと言っていばった。ところがその男はあくる日山から頭痛がするといって帰ったが、酷い熱が出て、生きたり死んだり十四五日も患った。男は人に知られないように、こっそりお地蔵さまに謝りにいって、こらえてもらったということであった。木ノ口の大庭新次郎さんは昭和十年頃六十を少し過ぎていたが、お地蔵さまが汗をかかれたのを三回見たといった。近ごろ汗をかかれたのは昭和九年の一月二十日で、大寒の入りであった。ちょうど宝泉寺の方丈も来ており、村の人も大勢集まっていたが、いきなり汗をかきはじめられたので、方丈が一心にお経を読むとしばらくして止んだ。その後で堂守の尼さんが、あんなに酷い汗をかかれたのだからお袈裟がびたびたに濡れているだろうと思って触ってみると、ちっとも濡れてはいなかったそうである。
◆モチーフ分析
・木ノ口に小さなお堂があって、高さ二メートルある大きなお地蔵さまが祀ってある
・このお地蔵さま昔この上にあった宝泉寺の門のところにあったもので、紀伊国から来たものだった
・宝泉寺が脇本へ移るとき、お地蔵さまも一緒に持っていこうとしたが、何人かかっても動かすことができなかった
・伺ってみると、どうしても脇本へは行かぬと言われるので、少し上へあげて祀ろうとなった
・するとお地蔵さまは軽々と動かされて、誰か一人で今のところへ背負って行ったという
・お地蔵さまはたいそう霊験あらたかで、昔から村に何か変わったことがある時は、汗をかいて知らされた
・首から上だけだが、数珠の玉より大きな汗がどんどん流れるのだった
・あるとき村人が皆でお堂へお参りに行くと、急におさまの顔の様子が変わってみるみる内に汗が流れ出た
・お地蔵さまが汗をかいていると言って村の人たちが一生懸命拝むと、その内に汗が止んだ
・もの知りにみてもらうと、この先村に悪い風邪が流行るから気をつけるとよいと言うことであった
・一人変わった男がいて村人がお地蔵さまのところへ集まっているところに酔っ払ってきて、そんな馬鹿なことがあるか、あるものなら自分につけてみるがよいと言っていばった
・ところが、その男は明くる日頭痛がすると言って山から帰ったが、酷い熱が出て十四五日も患った
・男は人に知られない様にこっそりお地蔵さまに謝りにいってこらえてもらった
・木ノ口の大庭新次郎さんは昭和十年頃六十を少し過ぎていたが、お地蔵さまが汗をかくのを三回見たと言った
・近ごろ汗をかかれたのは昭和九年の大寒の入りだった
・宝泉寺の方丈も来ており、村人も大勢集まっていたが、いきなり汗をかきはじめたので、方丈が一心にお経を読むとしばらくして止んだ
・堂守の尼さんがあんなに酷い汗をかいたのだから袈裟が濡れているだろうと思って触ってみると、ちっとも濡れていなかったそうである
形態素解析すると、
名詞:地蔵 汗 こと ところ もの 上 宝泉寺 村 村人 男 お堂 とき ノ 一人 人 少し 方丈 昔 昭和 木 脇本 十 十四 二 三 六十 九 お参り お経 みる 今 何人か 先 内 堂守 大勢 大庭 寒の入り 尼 山 数珠 新次郎 明くる日 様子 気 熱 玉 皆 紀伊国 自分 袈裟 誰か 近ごろ 門 霊験 頭痛 顔 風邪 首 馬鹿
動詞:言う ある かく する 変わる 知る 行く つける 動かす 来る 止む 濡れる 祀る 集まる あげる いう いく いばる いる かきはじめる こらえる できる みる 伺う 出る 帰る 思う 患う 拝む 持っていく 流れる 流れ出る 流行る 移る 背負ってる 見る 触る 読む 謝る 酔っ払う
形容詞:よい 酷い 悪い 高い
形容動詞:あらたか あんな かって そんな
副詞:ある時 いきなり こっそり しばらく たいそう ちっと どう どんどん 一心に 一生懸命 一緒に 何か 急に 軽々
連体詞:この ある その 大きな 小さな
村人/地蔵/男の構図です。村人―汗―地蔵、地蔵―風邪―男という図式です。
木ノ口のお地蔵さまは汗をかいて異変を知らせた[予知]。あるとき地蔵が汗をかいて悪い風邪が流行ると占ったとき[託宣]、一人の男がそれなら自分にうつしてみよと威張ったところ[否定]、翌日から酷い病に冒された[感染]。男はこっそり地蔵に謝りにいった[謝罪]。
異変を予知するお地蔵さまを信じなかった男がいざ病気になってお地蔵さまに謝りに行った……という内容です。
発想の飛躍はお地蔵さまが汗をかいて村人に異変を知らせるでしょうか。地蔵―汗―村人の図式です。
お地蔵さまが汗をかくということは、石に水滴がつくということですが、自然現象でそういうことが起こりうるのでしょうか。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.372-374.
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