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2022年10月19日 (水)

大膳と治部――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、左鐙に大膳と治部という兄弟がいた。大膳は左鐙に、治部は川向こうに住んでいた。大膳はよく治部のところへ遊びに行った。すると治部のところでは、どんな雪の日でも雨風の日でも必ず生魚を出してご馳走した。大膳は不審に思って、いったいどうして手に入れるのかと尋ねた。治部の家の近くにえんこうわいと言って渕の底の岩に一間四角くらいな穴がある。ある晩治部が寝ていると誰か起こすものがある。目を開けて見ると美しい女が枕元へ来ていた。女は自分はえんこうわいにおるえんこうだが、この間の大水で金馬鍬が穴の口へ流れかかって通ることができない。それで子供を養うことが出来ずに困っている。どうか鍬を除けて下さらないか。ご恩は決して忘れないからと言った。治部は、それは除けてやらないことはないが、これからは左鐙の内で子供が一人でもえんこうに取られたという様なことがあったら承知しない。そういうことがあったら馬鍬を除けるどころか三尺の釜をもって塞いでやると言った。女はそういうことは決してしない。どうか除けてくださいと頼むので、それなら除けてやろうと言うと、女はたいそう喜んで、このことは誰にも言ってくださるなと言って帰った。明くる日、治部がえんこうわいへ行ってみると、女が言った通り馬鍬がかかっているので取りのけてやった。えんこうは金物に触ると身体が腐るので金物を恐れるのだった。ところがそれからと言うものは、夏は鮎、冬はいだという様に、朝起きてみると毎日の様に必ず魚が軒下へ吊ってあった。そういう訳でいつも生魚があるのだったが、えんこうに誰にも言わないという約束がしてあるので、言う訳にはいかない。それで大膳が尋ねても、それには訳があって言われないと治部は言った。大膳は兄弟の間で言われないということはない、言えと言う。治部はどういう事があっても言われぬと言う。そうして争っている内に大喧嘩になって、大膳はぷんぷんして帰っていった。大膳が家へ帰って昼寝をしていると治部が抜身を下げてやって来て、いきなり切りかかった。大膳は初めの内は扇子であしらっていたが、危なくなったので、女房に槍をとってくれと言った。女房は慌てて長押の槍をとって差し出す調子に、間違えて治部へ渡した。治部はその槍で大膳を突き殺してしまった。治部は家へ帰ると腹を切って死んだ。大膳は「大膳さま」と言って今も小さな祠に祀ってあるが、大膳さまは女というものはこのようにあさはかなもので、そのために自分は殺されたと言って、女をひどく嫌うので、女は参ってはいけないと言うことである。治部の墓は川向こうの田の中にあるが、そこに田を植えるときにはどんないい天気でも、雨の三粒でも降らないことはないと言う。

◆モチーフ分析

・昔、左鐙に大膳と治部という兄弟がいた
・大膳はよく治部のところへ遊びにいった
・治部のところではどんな夢や雨の日でも必ず生魚を出してご馳走した
・大膳は不審に思って、いったいどうして手に入れるのか尋ねた
・治部の家の近くにえんこうわいという渕の底の岩に一間四角くらいの穴がある
・ある晩治部が寝ていると美しい女が枕元へ来ていた
・女は自分はえんこうわいに棲むえんこうだが、大水で鍬が穴の口へ流れかかて困っている。どうか鍬を除けてくださいと頼んだ
・治部はそれなら左鐙で子供が一人のえんこうに取られないようにしろと言った
・女はそういうことは決してない。ご恩は忘れないと言った
・治部が応じると女は喜んで、このことは誰にも言うなと言って帰った
・明くる日、治部がえんこうわいへ行ってみると、女が言った通り鍬がかかっていたので取りのけてやった
・えんこうは金物が身体に触れると身体が腐るので金物を恐れる
・それからは毎日の様に魚が軒下へ吊ってあった
・えんこうに誰にも言わない約束をしているので言う訳にいかない
・それで大膳が尋ねても言う訳にはいかないと治部は言った
・大膳は兄弟の間で言えぬことないと言い、治部はどうあっても言われぬと返し、大喧嘩になって大膳は帰った
・大膳が家へ帰って昼寝をしていると、治部が抜身を下げて切りかかった
・大膳は扇子であしらっていたが、女房に槍をとってくれと言った
・女房は間違えて槍を治部へ渡してしまう、治部はその槍で大膳を突き殺した
・治部は家へ帰ると腹を切って死んだ
・大膳は小さな祠に祀ってあるが、女を嫌うので、女は参ってはいけないと言われている
・治部の墓は川向こうの田の中にあるが、田を植えるときは少しでも雨が降るという

 形態素解析すると、
名詞:治部 大膳 えんこう 女 こと 家 槍 鍬 それ ところ わい 兄弟 女房 穴 訳 誰 身体 金物 雨 かて ご恩 ご馳走 とき 一人 一間 不審 口 四角 墓 夢 大喧嘩 大水 子供 少し 岩 川向こう 左 左鐙 底 扇子 手 抜身 日 明くる日 昔 昼寝 晩 枕元 毎日 渕 生魚 田 田の中 祠 約束 腹 自分 軒下 近く 通り 鐙 間 魚
動詞:言う いう する 帰る ある いく 尋ねる あしらう いける いる かかる とる なる やる 下げる 入れる 出す 切りかかる 切る 参る 取りのける 取る 吊る 困る 嫌う 寝る 忘れる 応じる 思う 恐れる 来る 棲む 植える 死ぬ 流れる 渡す 祀る 突き殺す 腐る 行く 触れる 返す 遊ぶ 間違える 降る 除ける 頼む
形容詞:ない 美しい
形容動詞:どんな
副詞:どう いったい そう よく 喜んで 必ず 決して
連体詞:ある この その 小さな

 治部/えんこう、治部/大膳の図式です。えんこう―魚―治部―大膳という図式です。

 渕の底の鍬を取り除いてやった[救難]治部の家にはそれからえんこうの獲った魚が届けられた[お礼]。どんな天候の日でも手に入ることを不審に思った大膳が訳をたずねる[質問]。治部は言わないとい約束があるから言えない[拒否]。喧嘩になって治部は大膳を殺し[殺害]、自分は腹を切って死んだ[自刃]。

 言え言わないの喧嘩から殺し合いとなってしまった兄弟だった……という内容です。

 発想の飛躍はえんこうが金物が苦手で鍬を取り除けられないということでしょうか。えんこう―鍬―治部の図式です。大膳の女房が槍を間違えて渡すのもそうでしょうか。女房―槍―大膳/治部の図式です。

 えんこうがお礼に魚を持ってくるという筋ですが、持ってくるところをこっそり見たら、それから来なくなったというものがあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.356-358.

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