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2022年10月18日 (火)

牛首――モチーフ分析

◆あらすじ

 牛首は下横道から三キロほど登った山の上で、昔はここに田が七反ほどあって家が一軒あった。少し行くと峠があって、向こうは匹見の内谷である。昔、年の暮れの大雪の日にこの家では正月餅をついていた。すると、雪の中を赤い毛布(けっと)を着た男が下から上がってきた。男は寒くはあるし、雪道を歩いてくたびれたので、家へ立ち寄って少し休ませてくださいと言った。それは寒かったろう。中へ入って火に当たりなさいと家の人たちは上へ上げて当たらせ、搗き立ての餅をご馳走した。男は馬喰だった。ゆっくり暖まり、餅をご馳走になったのでたいそう喜んだ。しばらくすると首にくくりつけていた風呂敷包みをあけて金を勘定した。中には家の人が見たこともないような、沢山の金が入っていた。この家には若い者が二人いたが、それを見ると、火縄筒を持って上の山へ上がっていった。馬喰はやがて礼を言って外へ出た。そして峠を上がると左へ曲がって、尾道を下左鐙(しもさぶみ)の方へ歩いていった。すると途中に若い者が待ち伏せをしていて、鉄砲で撃ち殺し、金をとって死体は下の谷へ蹴落としてしまった。こうして思いがけない大金を手に入れたが、それからこの家には良くないことが続き、生まれる子供は皆障害者で、とうとう絶えてしまった。その後、田は内谷から来て作ったが、家で昼寝をしていると必ず若い者が二人で餅をついて見せるので、気味が悪くなって家を解いてしまった。

◆モチーフ分析

・峠に近い牛首にある家では年の暮れの大雪の日に餅をついていた
・雪の中を赤い毛布を着た男が下から上がってきた
・男は寒く、くたびれたので家へ立ち寄って休ませて欲しいと言った
・家の人たちは男を上へ上げて火に当たらせ、餅をご馳走した
・男は馬喰で、風呂敷包みには家の者が見たこともないような大金が入っていた
・家の若い者が二人、それを見て火縄筒を持って上の山へ上がっていった
・馬喰は礼を言って外へ出た
・そして峠を上がると下左鐙の方へ歩いていった
・途中で若者が待ち伏せしていて鉄砲で馬喰を撃ち殺し金をとった
・大金を手に入れたが、この家には良くないことが続き絶えてしまった
・その後、匹見から人が田を作っていたが、昼寝をすると若い者が二人で餅をついて見せるので気味が悪くなって家を解いてしまった

 形態素解析すると、
名詞:家 男 者 餅 馬喰 こと 二人 人 大金 峠 ご馳走 それ 上 上の山 下 下佐 中 匹見 外 大雪 年の暮れ 後 手 方 日 昼寝 毛布 気味 火 火縄 牛首 田 礼 若者 途中 金 鉄砲 鐙 雪 風呂敷
動詞:上がる つく 見る 言う ある くたびれる する とる 上げる 休む 作る 入る 入れる 出る 当たる 待ち伏せる 持つ 撃ち殺す 歩く 着る 立ち寄る 絶える 続く 見せる 解く
形容詞:若い ない 寒い 悪い 欲しい 良い 赤い 近い
連体詞:この その

 家の者/馬喰の構図です。家の者―若者―大金―馬喰の図式です。

 雪の日に休憩を求めた[要請]馬喰を牛首の家の者は歓待する[歓迎]。馬喰が金を勘定する[露見]とそれを見ていた若者が火縄銃を手に取る[準備]。馬喰が出て、下左鐙方面へ歩いていくと若者が待ち伏せし撃ち殺してしまった[殺害]。大金を手に入れた家の者だが、それから良くないことが続き家が絶えてしまった[衰運]。

 思わぬことで大金を得た牛首の家の者だが、それから良くないことが続いて家が絶えてしまった……という内容です。

 発想の飛躍は馬喰が金を勘定することでしょうか。馬喰―大金―若い者の図式です。

 うっかり大金を人の目に晒してしまうことで不幸を招き寄せてしまうのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.354-355.

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