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2022年10月23日 (日)

十郎ガ原――モチーフ分析

◆あらすじ

 十郎ガ原は昔は川端のぼうぼうとした草原だった。この辺りに十郎という独り者の真面目な男がいた。十郎ガ原は畳の蔵方の土地であったが、蔵方は十郎が働き者であることを見込んで十郎ガ原を開いてみないか。田ができたらお前の一代はただで作らせてやると言った。十郎は喜んで一生懸命開墾して立派な田を作り上げた。そして田にはよい稲ができるようになった。ところがこうなってみると、蔵方はその田を十郎に一代ただで作らせるのが惜しくなった。ある晩蔵方は十郎を連れて近くの天狗岩(てんぐだき)の渕へ鮎を獲りに行った。そして舟で網を入れていたが、蔵方は手を止めて、下の岩へ網がかかった。お前は川に強いから一つ入って外してくれないかと言った。何も知らぬ十郎は着物を脱ぐと暗い渕の底へ潜った。蔵方はその上へ一条また一条と投網を打ちかけた。十郎は渕の底で網に絡まれて上がることができない。とうとう溺れ死んでしまった。蔵方はこうして巧く田地を取り上げたが、それだけでは済まなかった。田を植えようと思って人を連れて舟で渡っていくと、どんないい天気でも空が雲って酷い雨になり田を植えることができない。辺りが真っ暗になって、舟がどこにあるのか分からない様になった。また川端の大きな田のあるところへは、十郎の幽霊がよく出た。そればかりではなく、蔵方のところへは色々な祟りがあるので、蔵方は家のほとりへお宮を建てて十郎を祀った。このお宮を村人は若宮さまと呼んだ。今でもこの辺りでは今日も十郎ガ原に田を植えるから雨が降ると言う。

◆モチーフ分析

・後に十郎ガ原と呼ばれるは草原は川端の草原だったが、この辺りに十郎という独り者の真面目な男がいた
・草原は畳の蔵方の土地だったが、蔵方が十郎が働き者であることを見込んで草原を開いてみないか、田ができたらお前の一代はただで作らせてやると言った
・十郎は喜んで一生懸命に開墾して立派な田を作り上げた
・田にはよい稲が実るようになった
・そうなると、蔵方は十郎に一代ただで作らせるのが惜しくなった
・ある晩蔵方は十郎を連れて近くの渕へ鮎を獲りに行った
・舟で網を入れていたが、下の岩へ網がかかったから外してくれないかと十郎へ言った
・何も知らない十郎は渕の底に潜った
・蔵方はその上へ投げ網を一条また一条と打ちかけた
・十郎は渕の底で網に絡められて溺れ死んでしまった
・蔵方はこうして巧く田地を取り上げたが、それだけで済まなかった
・田を植えようとすると天気の日でも酷い雨が降って田植えできない
・また川端の大きな田のあるところへは十郎の幽霊がよく出た
・蔵方のところでは色々な祟りがあった
・蔵方は家のほとりにお宮を建てて十郎を祀った
・今でも十郎ガ原に植えると雨が降ると言う

 形態素解析すると、
名詞:十郎 蔵方 田 草原 渕 網 ただ ところ ガ 一代 一条 川端 底 雨 お前 お宮 こと それだけ ほとり 一生懸命 上 下 今 何 働き者 土地 天気 家 岩 幽霊 後 投げ網 日 晩 独り者 田地 田植え 男 畳 真面目 祟り 稲 立派 舟 色々 辺り 近く 開墾 鮎
動詞:言う ある する 作る 植える 降る いう いる かかる できる なる 作り上げる 入れる 出る 取り上げる 呼ぶ 外す 実る 建てる 打ちかつ 死ぬ 済む 溺れる 潜る 獲る 知る 祀る 絡める 行く 見込む 連れる 開く
形容詞:よい 巧い 惜しい 酷い
副詞:また こう そう よく 喜んで
連体詞:ある この その 大きな

 十郎/蔵方の構図です。十郎―田―蔵方の図式です。また、十郎―網―蔵方でもあります。

 開墾した田地[開墾]をただで貸す[無償貸与]のが惜しくなった蔵方は[後悔]、十郎を鮎獲りに誘って[計略]溺れ死にさせる[死]。田地を取り上げた蔵方だったが[召し上げ]、十郎の祟りが続き[祟り]、お宮を建てて十郎を祀った[祭祀]。

 計略で十郎を溺れ死にさせた蔵方だったが、祟りが続き、お宮を建てて祀った……という内容です。

 発想の飛躍は渕に潜った十郎に網を打ちかけて溺れ死にさせることでしょうか。十郎―(溺れる)―網―蔵方の図式です。

 若宮とはここでは不慮の死を遂げた者を祀る意味です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.364-365.

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