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2022年10月26日 (水)

野の池――モチーフ分析

◆あらすじ

 須川谷(すごう)は匹見川のほとりにある、たった七軒ほどの村であった。後ろは切り立った険しい山で、この上に野の池という大きな池があった。川向こうの舟つけの喜左衛門という男が猟に行って、この池のほとりへ来ると、お婆さんが洗い物をしていた。喜左衛門はこんな人里はなれた山の中にお婆さんがいるのはおかしいので、きっと化物に違いない、撃ってやろうと思った。ところが持っている玉は普通の猟に使う玉なので、家へ帰って鉄の二重玉を込めてきた。喜左衛門が池のほとりへ来てみると、お婆さんはいなくなって、向こうから大きな蛇が箕の様な口を開けて池の上を波立たせながらやってきた。喜左衛門はその口めがけて鉄砲を一発撃ち込むと、家へ帰ってはんどうに一杯水を飲んだが、すぐ死んでしまった。蛇はもがき苦しんで池の中をのたうちまわり、とうとう池の縁を破って下の谷底へずり落ちて死んだが、誰も知らなかった。それから何年か経った後のことである。須川谷の川向こうの家へ毎年のように広島の方から来て宿を借りる反物屋がいた。あるとき反物屋がその家の子供が白い石の様なものを持って遊んでいるのでよく見ると、大きな蛇の骨だった。反物屋はびっくりして、これはどこで拾ったかと尋ねると、向こうの谷へ行けば幾らでもあると子供は言う。そこで向こうの谷へ行ってみると沢山ごろごろと転がっていた。反物屋は大喜びでそれを皆拾い、反物はその家へ預けて帰った。蛇の骨は薬になり、とてもいい値で売れるので反物屋は大儲けをした。そこの家では何時まで経っても反物屋が来ないので、預けていった反物を一反出し二反出しとうとう皆使ってしまった。ところがそこへひょっこり反物屋がやってきた。反物屋は思いがけない大儲けをしたので、この家へ礼を言ったり、蛇の骨の残りでもあれば拾って帰ろうと思ったのである。しかしその家ではびっくりした。あんまり来ないので、置いていった反物をきれいに使ってしまったところに来たのだから、これはきっと反物を取りに来たのに違いない、大変なことになったと思った。そして反物屋を前の池へ突っ込んで殺してしまった。それからこの池はいつも血の様に赤く濁っていて、その家では良くないことが絶えないということである。蛇がずり落ちて死んだ谷は蛇落谷と呼ばれている。野の池は今でも雨の降った後などには水がたまって、葦(あし)が茂っている。

◆モチーフ分析

・須川谷は匹見川のほとりにある七軒ほどの村だった
・後ろは切り立った険しい山で、この上に野の池という大きな池があった
・喜左衛門という男が猟に行って、池のほとりへ来るとお婆さんが洗い物をしていた
・喜左衛門は人里はなれた山の中にお婆さんがいるのはおかしい。化物に違いない、撃ってやろうと思った
・持っているのは普通の玉なので、家へ帰って鉄の二重玉を込めてきた
・喜左衛門が池のほとりに来てみると、お婆さんはいなくなって、向こうから蛇が口を開けて池の上をやってきた
・喜左衛門はその口めがけて鉄砲を一発撃ち込むと家へ帰って一杯水を飲んだが、すぐ死んでしまった
・蛇はもがき苦しんで池の中をのたうちまわり、池の縁を破って下の谷底へずり落ちて死んだ
・それから何年か経った後、須川谷の川向こうの家へ毎年のように宿を借りる反物屋がいた
・あるとき反物屋がその家の子供が白い石の様なもので遊んでいるのでよく見ると大きな蛇の骨だった
・びっくりした反物屋はどこで拾ったか尋ねると、谷へ行けば幾らでもあると子供は言った
・向こうの谷へ行ってみると沢山転がっていた
・反物屋は大喜びでそれを拾い、反物はその家へ預けて帰った
・蛇の骨は薬になり、いい値で売れるので大儲けした
・その家では反物屋は何時まで経っても来ないので、預けた反物を皆使ってしまった
・そこにひょっこり反物屋がやって来た
・反物屋は思いがけない大儲けをしたので礼を言ったり、残りの骨を拾って帰ろうと思った
・これは反物を取りに来たに違いない、大変なことになったと思い、反物屋を池へ突っ込んで殺してしまった
・それから池はいつも血の様に赤く濁って、その家では良くないことが絶えなかった
・蛇が落ちて死んだ谷は蛇落谷と呼ばれている
・野の池は今でも雨の降った後には水がたまって葦が茂っている

 形態素解析すると、
名詞:反物 池 家 蛇 谷 喜左衛門 お婆さん ほとり 骨 こと 中 口 向こう 大儲け 子供 山 後 水 玉 野 須川 二 これ そこ それ とき どこ びっくり もの 七軒 上 下 人里 今 何年 値 化物 匹見 大喜び 大変 宿 川向こう 幾ら 後ろ 普通 村 毎年 池の上 沢山 洗い物 猟 男 皆 石 礼 縁 落谷 葦 薬 血 谷底 鉄 鉄砲 雨
動詞:帰る 来る ある いる なる 思う 拾う 死ぬ 行く いう する 経つ 言う 預ける ずり落ちる たまる のたうちまわる めがける もがく やって来る やる 使う 借りる 切り立つ 取る 呼ぶ 売れる 尋ねる 持つ 撃ち込む 撃つ 残る 殺す 濁る 破る 突っ込む 苦しむ 茂る 落ちる 見る 転がる 込める 遊ぶ 開ける 降る 飲む
形容詞:違いない いい おかしい よい 思いがけない 白い 絶えない 良い 赤い 険しい
形容動詞:一杯
副詞:いつも すぐ ひょっこり 一発 何時まで
連体詞:その 大きな ある この

 喜左衛門/蛇、反物屋/家の構図です。喜左衛門―お婆さん―蛇、反物屋―蛇の骨/反物―その家の図式です。

 喜左衛門は野の池で大蛇を撃ち殺したが[殺害]、自分もすぐ死んでしまった[死亡]。それから何年か経って蛇の骨を見つけた[発見]反物屋が持って帰って大儲けした[儲け話]。ところが礼を言いに家にやってくると、その家で預けた反物を取り返しに来たに違いないと勘違いし[誤解]、反物屋を池に突っ込んで殺してしまった[殺害]。それから池は血のように赤く濁って[由来]、その家では良くないことが絶えなかった[祟り]。

 蛇の骨を拾った反物屋は大儲けしたが、誤解した家の者に野の池で殺されてしまった……という内容です。

 発想の飛躍は蛇の骨は薬になるということでしょうか。反物屋―大儲け―骨という図式です。

 これも喜左衛門の伝説と反物屋の伝説が連続した話となっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.370-371.

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