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2022年10月30日 (日)

女と蛇――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、三渡(みわたり)八幡宮の神主に美しい女房があった。神主は主税(ちから)という人だったとも言うが、確かなことは分からない。ある年のこと、神主の女房は青原祭へ行ったが、その帰りに穴ノ口まで帰ると不浄があった。下は青黒い水をたたえた大きな渕だったから、女房は渕へのぞいてそれを洗った。ところが、その下に一匹の小さな蛇がいて、その水をぺろぺろと舐めた。そうではなく、女房が小便をしたらそこに小さな蛇がいて、それを舐めたのだとも言う。ともかく、その晩から、女房は夜中になるとどこへともいなくなった。神主は不審に思ったが、朝になると女房は何事もなかった様に寝ていた。そして庭先に、びっしょり濡れた紙緒の草履が脱ぎそろえてあった。そういうことが幾夜も続いた。神主が密かに様子を調べてみると、女房は夜中になると一キロもある川下の穴ノ口の渕へ、たった一人で暗い夜道を通うのであった。神主はびっくりした。そして、これはただ事ではない、何か魔性のもののさせることに違いないと思った。そこで神主は八幡宮に一口の刀を供えて、この刀で魔性のものを打ち取らせてくださいと、火のもの断ちの祈願をたてて一心不乱に祈った。いよいよ七日七夜が過ぎて、満願の日の夜明け方、神主が連日連夜の祈願に疲れて燭にもたれたまま、うとうととまどろむと神主の前に八幡さまが現れて、今家へ帰ってみよとお告げがあった。神主ははっと目を覚ますと、刀をとって家へ飛んで帰った。家には烏帽子(えぼし)直垂(ひたたれ)の立派な男が来て女房と寝ていた。男は神主を見ると正体を現し、大きな蛇になって自在鍵に巻きついて破風(はふ)から出ようとした。神主は刀を抜いて一打ちに打ち落とした。蛇は七つに切って前の戸隠谷へ棄てた。頭はほとりの畠へ埋めた。それでその畠を蛇頭畠と呼ばれるようになり、戸隠谷の水は日に七度変わるという。女房はしばらく経って子を産んだ。蛇は女房が子をはらんでから、自分は人間でない。蛇体であるから、お前の腹にいる子はみんな蛇である。産むときにはたらいに水を入れてその中へ産むがよいと言ったので、その通りにして産んだ。子供は七たらい半あったが、遠く離れた川端に埋めた。そこでここをこずと呼ぶ様になった。また、一つの話では子は紙洗い笊(ぞうけ)に三杯あったのを、ほとりの竹藪へ捨てた。それからその竹藪には首に白い環のある蛇がいるようになったと言う。女房は子を産むと間もなく死んだと言うことである。だから女というものは道端へ小便をしたり、蛇をまたいだりしてはいけない。年よりたちはこの話をした後では、必ずこういって若い娘たちをいましめた。

◆モチーフ分析

・三渡八幡宮の神主に美しい女房がいた。神主は主税という人だったとも言う
・ある年、神主の女房は青原祭へ行ったが、その帰り道に道端で小便をした
・そこに蛇がいて、小便を舐めた
・その晩から女房は夜中になると、どこへともいなくなった
・神主は不審に思ったが、朝になると女房は何事もなかった様に寝ていた
・庭先にびっしょり濡れた草履が脱ぎそろえてあった
・そういうことが幾夜も続いた
・神主が密かに調べてみると、女房は夜中になると川下の穴ノ口の淵へ、一人で夜道を通っていた
・神主はこれは魔性のものの仕業に違いないと思い、八幡宮に一口の刀を供えて、この刀で魔性のものを打ち取らせてくださいと祈願して一心不乱に祈った
・七日七夜が過ぎて満願の日の夜明け方、神主が疲れてうとうとしていると八幡さまが現れて、今家へ帰ってみよとお告げがあった
・はっと目を覚ました神主は目を覚ますと、刀をとって家へ飛んで帰った
・家には烏帽子直垂の立派な身なりの男が女房と寝ていた
・男は神主を見ると正体を現し、大蛇となって破風から出ようとした
・男は刀を抜いて一打ちに打ち落とした
・蛇は七つに斬って戸隠谷に捨てた
・頭はほとりの畠に埋めた
・女房はしばらく経って子を産んだ
・蛇は自分は蛇体であるから、お腹にいる子はみんな蛇である。たらいに水を入れてその中へ産むがよいと言ったので、その通りにして産んだ
・子供は七たらい半あったが、遠く離れた川端に埋めた
・女というものは道端へ小便をしたり、蛇をまたいだりしてはいけない
・年よりたちはこの話をした後で必ずこう言って若い娘たちをいましめた

 形態素解析すると、
名詞:神主 女房 蛇 刀 もの 小便 男 七 たらい 八幡宮 夜中 子 家 道端 魔性 お告げ お腹 こと これ そこ どこ はっと ほとり みんな ノ 一人 一口 一心不乱 一打ち 七つ 七夜 三渡 不審 中 主税 人 今家 仕業 何事 八幡 半 夜明け方 夜道 大蛇 女 娘 子供 川下 川端 帰り道 年 年より 幾夜 庭先 後 戸 日 晩 朝 正体 水 淵 満願 烏帽子 畠 目 直垂 破風 祈願 穴 立派 自分 草履 蛇体 話 身なり 通り 隠谷 青原 頭
動詞:する いる なる いう 産む 言う ある 埋める 寝る 帰る 思う 覚ます いける いましめる とる またぐ 供える 入れる 出る 打ち取る 打ち落とす 抜く 捨てる 斬る 濡れる 現す 現れる 疲れる 祈る 経つ 続く 脱ぐ 舐める 行く 見る 調べる 通る 過ぎる 離れる 飛ぶ
形容詞:ない よい 美しい 若い 違いない 遠い
形容動詞:密か
副詞:うとうと こう しばらく そう びっしょり 必ず
連体詞:その この ある

 神主/女房/蛇の図式です。抽象化すると、宗教家/妻/動物です。神主―女房―蛇、蛇―(産む)―女房の図式です。

 道端で小便をした[粗相]神主の女房は蛇に憑かれる[魅了]。女房の様子がおかしいのを不審に思った神主が八幡に祈願して調べると[調査]、女房は蛇の変異した男と交わっていた[性交]。神主は蛇を斬って棄てた[殺害]。女房は蛇の子を産んだ[出産]。神主は蛇の子を埋めた[埋葬]。それから間もなく女房は死んでしまった[死]。

 蛇に魅入られた妻の様子を追った神主は大蛇と遭遇、大蛇を斬った。その後、妻は蛇の子を産んだ……という内容です。

 発想の飛躍は女房が蛇の子を産んだことでしょうか。蛇―(産む)―女房という図式です。

 苧環(おだまき)型の話では蛇の子も人として生まれてきますが、ここでは蛇の姿のまま生まれてきます。故に女房は出産とともに死んでしまうのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.380-381.

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