鬼は外、福は内――モチーフ分析
◆あらすじ
ふくという魚が死んで地獄へ行った。ふくは鬼に頼みがあると言った。自分はいつも水の中にばかりいたので冷たくてならなかった。それでいつか湯の中に入りたいものだと思っていた。幸い地獄に来たので湯の中へ入られるから嬉しくてたまらない。どうか、これからどんな勤めでもするから、一遍極楽を見せてくださいと。鬼はこれは中々面白い奴だ。ふくの言うようにしてやろう。また面白いことも聞かせるだろうと思って極楽を見せに連れていった。鬼よ、まだ見えない、もっと先が見たい。まだ見えないと言うので鬼が少しずつ先へ入れると、ふくはまだ見えないと言って先へ先へと行く。鬼はふくの尾を持っていたが、止めようとすると手がつるつる滑るので、放すまいとするのに顔が真っ赤になった。ふくはまだ見えないと言ってまだ先へ行こうとする。尾がつるつる滑って抜けそうになったので、鬼が慌てて握りかえようとすると、ふくはついと極楽へ滑り込んでしまった。ちょうどその時日が暮れたので、極楽は戸が閉まった。鬼が待って下さいというと、極楽には鬼は用事がないと言って門番は戸を閉めてしまった。そして鬼は外、福は内と言った。それがちょうど大歳の晩であったので、それから節分には鬼は外、福は内と言うようになった。
※石見地方では河豚(ふぐ)をふくと言う。
◆モチーフ分析
・ふくという魚が死んで地獄へ行った
・ふくは鬼に頼みがあると言った
・水の中にいたので冷たくて仕方がなかったが、地獄に来て湯の中へ入られるから嬉しい
・どんな勤めでもするから、一度極楽を見せてください
・鬼は面白い奴だ、ふくの言う通りにしてやろうと極楽を見せにいった
・ふくがまだ見えない、もっと先が見たいと言うので鬼が少しずつ先へ入れると、ふくは先へ先へと行く
・鬼はふくの尾を持っていたが、止めようとするとツルツル滑るので放すまいと顔が真っ赤になった
・ふくはまだ見えないと言ってまだ先へ行こうとする
・鬼は滑って抜けそうになったので、慌てて握りかえようとする
・ふくはついと極楽へ滑り込んでしまった
・日が暮れたので極楽の門の戸が閉まった
・鬼が待って下さいと言うと、極楽には鬼は用事がないと言って門番が戸を閉めてしまった
・そして鬼は外、福は内と言った
・ちょうど大歳の晩だったので、それから節分には鬼は外、福は内と言うようになった
形態素解析すると、
名詞:鬼 ふく 先 極楽 中 内 地獄 外 戸 福 つい 一度 大歳 奴 尾 日 晩 水 湯 用事 真っ赤 節分 通り 門 門番 顔 魚
動詞:言う する 行く ふく 滑る 見える 見せる ある いう いく いる 入る 入れる 勤める 待つ 慌てる 抜ける 持つ 握る 放す 暮れる 来る 止める 死ぬ 滑り込む 見る 閉まる 閉める 頼む
形容詞:ない 仕方がない 冷たい 嬉しい 面白い
形容動詞:どんな
副詞:まだ ちょうど もっと ツルツル 少しずつ
ふく/鬼、鬼/門番の構図です。抽象化すると、動物/異界の人物でしょうか。鬼―尾―ふく―極楽の図式です。
地獄行きになったふくがどんな勤めもするから鬼に極楽を見たいと頼んだ[依頼]。鬼は応じてふくを極楽に向かわせた[承諾]。先へ先へと進むふくを鬼は止めようとしたが尾がツルツルと滑ってしまう[制止]。ふくは極楽へ滑り込んでしまい、極楽の門が閉じられた[脱出]。
極楽を見たいと先へ先へと進むふくだが尾が滑るので止められなかった……という内容です。
節分の「鬼は外、福は内」の由来譚です。発想の飛躍はふくの尾が滑ることでしょうか。ふく―尾(滑る)―鬼の図式です。
ここではふくは知恵者とは描かれていませんが、ちゃっかりと極楽へ滑り込んでしまいます。また、鬼の顔が赤くなった由来譚でもあるようです。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.320-321.
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