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2022年9月12日 (月)

えんこう塚――モチーフ分析

◆あらすじ

 河内町を流れる浜田川のほとりにえんこう塚という石碑がひっそりと立っている。昔、ある日のこと一人の百姓が仕事を済ませて近くの川で馬の体を洗ってやった。そして日はまだ沈まないし、このまま家へ帰るには早いので、馬を川端に繋いで、もう一仕事しようと畑へ引き返していった。ところがこの様子を川の中からえんこう(河童)が見ていた。よし、今日はあの馬を川の中へ引きずり込んで捕ってやろう。えんこうは百姓がいなくなるのを待っていた。えんこうは百姓が畑へ行ったのを見澄ますと、そろりと馬に近づいて綱を杭からほどき、自分の身体に巻き付けて思い切り引っ張った。びっくりした馬は飛び上がると一目散に走り出した。慌てたえんこうは綱をほどこうとしたが、あまり強い力で引っ張られるのでほどくことができない。とうとう馬に引きずられて陸の上に放り出されてしまい、石にぶつかってやっと止まった。その騒ぎに頭の皿の水が飛び出してしまったので、えんこうは力がなくなりどうすることもできない。その時騒ぎを聞きつけた百姓が急いで川端へ引き返してみると、馬はおらずえんこうがぼんやり座っている。様子が分かった百姓は今日こそは承知しないぞと怒鳴りつけた。引っ張っていこうとすると、えんこうは涙を流して何度も何度も謝るので、それならこれからは子供を捕ったり馬にいたずらをしたりしないと約束をするなら許してやろうと言った。えんこうがこれからは絶対にそういうことはしないと言うので許してやった。そして石碑に「南無阿弥陀仏」と彫って、この字が消えない内は絶対にいたずらをしないと約束させ、河岸に立てて、この辺りでえんこうに捕られた子供たちを弔ってやった。その日から、えんこうのいたずらは全く無くなった。しかし、えんこうは早くこの字を消そうと毎日やって来て石碑の字をなでるので、反対に字はだんだん深くなったという。

◆モチーフ分析

・浜田川のほとりにえんこう塚という石碑が立っている
・ある日、一人の百姓が仕事を済ませて近くの川で馬の体を洗った
・馬を川端に繋いで、もう一仕事と畑へ引き返した
・この様子を川の中からえんこうが見ていた
・えんこう、百姓が畑に行ったのを見澄ますと、馬に近づいて綱を杭からほどいて自分の身体に巻き付けて思い切り引っ張った
・びっくりした馬が一目散に走り出し、えんこうは陸の上に放り出されてしまった
・石にぶつかったはずみに頭の皿の水が飛んで力がなくなってしまった
・騒ぎを聞きつけてやってきた百姓が川端へ引き返してみると、馬はおらず、えんこうがぼんやり座っていた
・百姓、今日こそは承知しないぞと怒鳴りつける
・えんこうが何度も謝るので、これからは子供を捕ったり馬にいたずらしたりしないと約束させた
・石碑に南無阿弥陀仏と彫って、この字が消えない内は絶対にいたずらしないと約束させ、えんこうに捕られた子供たちを弔った
・その日からえんこうのいたずらは全く無くなった
・えんこうは早くこの字を消そうと毎日石碑の字をなでるので反対に字はだんだん深くなった

 形態素解析すると、
名詞:えんこう 馬 字 百姓 いたずら 石碑 子供 川 川端 畑 約束 これ はずみ びっくり ほとり 一人 一仕事 上 中 今日 仕事 体 何度 内 力 南無阿弥陀仏 承知 日 杭 様子 毎日 水 浜田 皿 石 綱 自分 身体 近く 陸 頭
動詞:引き返す 捕る いう おる する なくなる なでる ぶつかる ほどく やる 巻き付ける 座る 弔う 引っ張る 彫る 怒鳴りつける 放り出す 洗う 消える 消す 済ませる 無くなる 立つ 繋ぐ 聞きつける 行く 見る 見澄ます 謝る 走り出す 近づく 飛ぶ 騒ぐ
形容詞:早い 深い
形容動詞:反対
副詞:ある日 だんだん ぼんやり もう 一目散に 全く 思い切り 絶対
連体詞:この その

 えんこう/百姓の構図です。えんこう―馬―百姓、えんこう―石碑―百姓の図式でもあります。

 百姓が川で馬を洗って仕事に戻った隙にえんこうが馬にいたずらをしようとした[悪戯]。が、馬に引っ張られて頭の皿の水を失ったえんこうは力がなくなってしまう[無力化]。百姓が戻ってきて、これからは絶対にいたずらしないと約束させる[誓約]。石碑に南無阿弥陀仏と彫ってこの字が消えない間はいたずらをしないと約束させる[誓約]。えんこうは字を消そうとしてなでるが、却って字は深くなった[深化]。

 これからは絶対にいたずらをしないと約束させ、石碑に南無阿弥陀仏と彫る。えんこうはその字を消そうとしてなでるので却って深くなる……という内容です。

 発想の飛躍は石碑に南無阿弥陀仏と彫って、この字が消えない間はいたずらを絶対にしないと約束させることでしょうか。えんこう―石碑―百姓の図式です。

 河内町には行ったことがありますが、石碑には気づきませんでした。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.259-261.

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