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2022年9月 9日 (金)

千年比丘――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、国分の里に裕福な家があった。そこの主人は日頃よい行いをしていた報いか、竜宮城へよばれてしばらく行っていた。そこで月日の経つのも忘れていた。ところがその内に飽きて城内をぶらぶら歩いていると料理場へ来てしまった。ふと見るとそこには大きなまな板の上に人間を裸にして載せて料理人がしきりに料理をしていた。びっくりした男はこれまでの楽しかった夢も一時に醒め、竜宮というところは何と恐ろしいところだ、人間を殺して食べるところなのかと思うと、いても立ってもいられなくなり、城門から一目散に駆けだした。これを見た竜宮の人たちは、さぞびっくりしただろうがあれは人間でない、人魚という魚でこれを食べると千年生きられるという珍しい魚だ。あなたに食べさせようと思って料理しているところだと言って引き留めようとしたが、そんなことは男の耳に入らない。そうして国分の姉が浜まで逃げてきた。必死に追いかけてきた竜宮の人たちも陸へ上がることができないので、せめて土産にと持ってきた人魚の肉を男の方へ投げた。肉は男の袴の腰板の間へ入ったが、そんなことは知らず命からがら逃げて帰った。家の人たちは大喜びで出迎えた。男は久々に家族に会い、竜宮の話をした。幼い女の子はそれを聞くと竜宮の土産をねだった。土産はないのだと言って男が袴を脱ぐと、腰板の間から人魚の肉が落ちた。女の子はそれを拾うとすぐ食べてしまった。そのため女の子は千年の長い寿命をもって生きながらえた。力が強く、大きな盤石をも易々と持ち運んだと言われ、人々はこれを千年比丘(びく)と呼んだ。昔の国府村役場の隣にあった大きな岩は千年比丘が運んだものと言われ、下府(しもこう)片山にある古墳を千年比丘の穴と言って、千年比丘の住居の跡と言っている。

◆モチーフ分析

・国分の里の裕福な男が日頃のよい行いの報いで竜宮城へ呼ばれた
・竜宮城では月日の経つのも忘れていたが、あるとき城内を歩いていると料理場へ来てしまった
・そこでは大きなまな板の上で料理人が人間を料理していた
・驚いた男は夢から醒め、一目散に逃げ出した
・竜宮の人たちがあれは人魚だ。食べると千年生きられると引き留めたが、男は姉が浜まで逃げてきた
・竜宮の人たちは陸に上がれないので人魚の肉を男めがけて投げた
・人魚の肉は男の袴の腰板の間に入った
・帰ってきた男に家の人たちは大喜びで出迎えた
・娘が竜宮の土産を欲しがった
・腰板の間から落ちた肉を娘が食べてしまった
・娘は千年の寿命を持ち、力が強かった
・片山古墳を千年比丘の住居の跡と言っている

 形態素解析すると、
名詞:男 千 人 人魚 娘 竜宮 肉 板の間 竜宮城 腰 あれ そこ とき まな板 上 人間 住居 力 古墳 国分 土産 城内 夢 姉 家 寿命 料理 料理人 料理場 日頃 月日 比丘 浜 片山 袴 裕福 跡 里 陸
動詞:食べる めがける 上がれる 入る 出迎える 呼ぶ 報いる 帰る 引き留める 忘れる 投げる 持つ 来る 歩く 生きる 経つ 落ちる 行う 言う 逃げる 逃げ出す 醒める 驚く
形容詞:よい 強い 欲しい
形容動詞:大喜び
副詞:一目散に
連体詞:ある 大きな

 男/竜宮の人、男/娘の構図です。男―人魚―料理人―竜宮の人、男―肉―娘といった図式でしょうか。

 竜宮によばれた[招待]男だったが、人魚が料理されているところを見て人間と勘違いして[誤解]逃げ出す[逃走]。男の身体についていた人魚の肉を食べた娘は千年比丘となる[変化]。

 竜宮から帰った男の身体についていた人魚の肉を食べて千年比丘となる内容です。

 発想の飛躍は男が人魚が料理されているところを見てしまったことでしょうか。男―人魚―料理人の構図です。

 千年比丘の伝説は全国に伝播しますが、千年比丘の怪力は石見特有でしょうか。

 異郷訪問譚です。主人公は男から娘に入れ替わりますが、非日常→日常→非日常へと移り変わります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.251-252.

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