指合図――モチーフ分析
◆あらすじ
禅寺の小僧は昔からしごにならない(手に負えない)ものであった。小僧が今日はご飯は何升炊くか問うと和尚は黙って指で知らせる。一本は一升、二本は二升。それで小僧が考えた。あるとき便所の踏板を外れるようにしておいた。和尚はいつものように朝便所に行くと踏板が外れて落ちた。びっくりした和尚は小僧を大声で呼ぶ。何事でございますかと言ってみると、和尚は便所へ落ちて両手をあげている。小僧は承知しましたとそのまま逃げてしまった。和尚はようやく上がって庫裡(くり)に行ってみると小僧は大釜に飯を炊いている。なぜそんなに飯を炊くのかと言うと、和尚が両手をあげておられたので一斗しかけましたと言った。和尚は仕方がない、干飯(ほしい)にしておけと言った。それから大分経って和尚が小僧を呼んで一斗の干飯はあるのか問うと、ほしいにせえとおっしゃったので、ほしい時に食べてしまいましたと言った。
◆モチーフ分析
・禅寺の小僧は手に負えない
・小僧が今日は飯を何升炊くか問うと和尚は指で一升、二升と知らせた
・小僧が便所の踏板を外れるようにしておいた
・和尚が朝便所に行くと踏板が外れて落ちた
・びっくりした和尚は大声で小僧を呼ぶ
・小僧が行ってみると、和尚は便所へ落ちて両手をあげている
・小僧、承知しましたと言って、そのまま逃げてしまう
・和尚がようやく上がって庫裡に行ってみると小僧は大釜で飯を炊いている
・なぜそんなに飯を炊くのかと言うと、小僧は和尚が両手をあげておられたので一斗しかけたと言う
・和尚は仕方がないので干飯にしておけと言う
・大分経って和尚が一斗の干飯はあるかと問う
・小僧はほしいにせえとおっしゃったので、ほしい時に食べてしまったと答える
形態素解析すると、
名詞:小僧 和尚 一 便所 飯 両手 干飯 踏板 二 けた びっくり 今日 何升 大分 大声 庫裡 手 承知 指 時 朝 禅寺 釜
動詞:言う 炊く 行く あげる する 問う 外れる 落ちる ある おっしゃる せく 上がる 呼ぶ 知らせる 答える 経つ 逃げる 食べる
形容詞:ほしい 仕方がない 負えない
副詞:そのまま そんなに なぜ ようやく
和尚/小僧の構図です。抽象化すると、宗教家/弟子です。和尚―便所―小僧、和尚―飯―小僧といった図式です。指―何升―両手もありです。
和尚は飯を何升炊くか小僧に指で示していた[指示]。小僧が便所の踏板を外す[仕掛け]。和尚、便所に落ちた[転落]ので両手をあげて小僧を呼ぶ[救助]。小僧、和尚が両手をあげていたので一斗炊いたと言う[回答]。干飯にせよと言うとほしい(欲しいまま)にせよと言ったので全部食べたと答える[回答]。
いつも小僧に指で指示をしているのを逆手に取られた……という内容です。
発想の飛躍は和尚が両手を挙げたことを一斗飯を炊けと勝手に解釈してしまうことでしょうか。和尚―指/飯―小僧の図式です。
便所に落ちたので呼ぶと勝手に解釈して飯を炊く。現在は水洗の洋式トイレが普及しましたので、昔の和式便所は知らない人が増えたでしょう。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.223-224.
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