身がわり地蔵――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、浜田にとてもわがままな殿さまがいた。わがままで贅沢で始末がつかないので家来たちも困っていた。ことに女中はとても勤めができないで、来る女中も来る女中も一週間もすると皆暇をとって帰ってしまった。今度来た女中もまた同じように暇をとったので殿さまは門番を呼びつけて、また城中で女中が一人いるからどこかで探してこいと言った。門番は困ってしまった。何せ殿さまのわがまま贅沢は知らぬものの無いほど城下に知れ渡っていたから、中々女中にあがる者はない。門番は仕方がないので町へ出て、あてもなくぶらぶら歩いていると、橋の上で十六くらいの娘が川を見ていた。どうしたのか訊くと、娘は田舎から出てきてどこでも良いから何か仕事はないかと探しているが、中々雇ってくれる人がいないので思案していると言った。門番はこれはちょうど良い女中が見つかったと思って話してみると、娘は喜んで承知してくれたので早速城へ連れて帰った。殿さまの前へ連れていくと、殿さまは女中になってもらうことにして、城に入ったからには決して勝手に城外へ出てはならないと固く言いつけた。娘はこれまでの女中より人一倍よく働いた。とこるがある晩台所の方で物音がするので家来が行ってみると、娘が外へ出るところだった。家来は早速殿さまに告げた。娘は殿さまの前に呼び出された。勝手に城外へ出てはいけないと言いつけておいた。どうして自分の言うことが聞けないのかと殿さまは叱りつけた。娘は自分は殿さまがもっと良い殿さまになられる様に毎晩地蔵さまにお願いにいったのだと言った。しかし、殿さまは言いつけに背いたからにはこのままでは済まない。手討ちにするといってとうとう娘を手討ちにしてしまった。そして早くこれを埋めてこいと言いつけたので家来たちは山へ持っていって埋めた。ところが翌朝、台所の方で何かことこと音がするので、行ってみると娘が何事もなかったようにそこを片づけていた。家来たちはびっくりして殿さまのところへ飛んでいった。殿さまもびっくりして昨夜娘を埋めたところを掘ってみよと言いつけた。そこで家来たちは掘ってみたがそこには何もなかった。ところが近くの長安寺の地蔵さまが頭から斜めに切られて血がたらたらと流れていた。それを聞いた殿さまは初めて娘が地蔵さまであったことに気づいた。殿さまは地蔵さまの前へ行って心から詫びを言った。そしてそれからはとても良い殿さまになった。
◆モチーフ分析
・浜田にとてもわがままな殿さまがいて家来達が困っていた
・女中も勤めが続かないで、一週間もすると皆暇をとって帰ってしまった
・殿さま、門番を呼びつけ、また城中で女中が一人いるから探してこいと命令した
・門番は仕方なく町に出てぶらぶらしていると、橋の上で娘と出会った
・娘は田舎から出てきたが、雇ってくれる人がなく思案中だった
・門番はちょうど良い女中が見つかったと思って話してみると、娘は承知したので早速城へ連れ帰った
・殿さまは女中になってもらうことにして、城に入ったからには決して勝手に城外へ出てはならないと言いつけた
・娘はこれまでの女中より人一倍よく働いた
・ある晩台所で物音がするので家来が行ってみると娘が外へ出るところだった
・家来は早速殿さまに言いつけた
・娘は殿さまの前に呼び出され、勝手に城外へ出たと叱りつけた
・娘は殿さまが良い殿さまになられる様にお地蔵さまにお願いに行ったと答えた
・殿さま、言いつけに背いたと娘を手討ちにしてしまった
・家来たちに命じて山の中に埋めさせた
・翌朝、台所で音がするので行ってみると娘が何事もなかったように片づけをしていた
・びっくりした殿さまは昨夜娘を埋めたところを掘らせたが何もなかった
・近くの長安寺の地蔵さまが頭から斜めに切られて血がたらたらと流れていた
・それを聞いた殿さまは娘が地蔵さまであったことに気づいた
・殿さまは地蔵さまの所へ行って詫びを言い、それからはとても良い殿さまになった
形態素解析すると、
名詞:殿さま 娘 女中 地蔵 家来 城 門番 こと それ ところ 勝手 台所 城外 一 お願い これまで びっくり わがまま 一人 上 中 人 何事 前 命令 外 山 思案 所 手討ち 承知 斜め 昨夜 晩 暇 橋 浜田 物音 田舎 町 皆 翌朝 血 近く 長安寺 音 頭
動詞:する 出る なる 行く 言いつける いる 埋める とる 働く 入る 出会う 切る 勤める 叱りつける 呼びつける 呼び出す 命じる 困る 帰る 思う 掘る 探す 気づく 流れる 片づける 答える 続く 聞く 背く 見つかる 言う 詫びる 話す 連れ帰る 雇う
形容詞:良い ない よい 仕方ない 何もない
形容動詞:たらたら
副詞:とても 早速 ちょうど ぶらぶら また 人一倍 決して
娘/地蔵/殿さまの構図です。娘―地蔵―手討ち―殿さまの図式です。使用人/主人とも抽象化できます。
なり手のいない女中を引き受けた[引き受け]娘だったが、毎晩禁止された城外に出ていることを知られ[禁止の違反]、殿さまに手討ちにされてしまう[制裁]。ところが斬られたのは娘の身代わり[代理]になった地蔵さまだった[判明]。殿さまは詫びた[改心]。
言いつけに背いた娘を手討ちにしたところ、地蔵さまが身代わりになっていた……という内容です。
発想の飛躍は娘の代わりに地蔵さまが斬られるところでしょうか。娘―地蔵―手討ち―殿さまです。城外に出てはならないという禁止を破ることで制裁が加えられますが、制裁を被るのが地蔵だったという形です。
長安寺は松平周防守家の菩提寺ですので、周防守家の誰かがモデルでしょう。長安寺は浜田市には現存せず、長安院跡に周防守家の墓所があります。長安寺の建物は三隅の龍雲寺に移築されました。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.273-275.
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