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2022年9月30日 (金)

大公――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、大公という若者がいた。近所に金持ちの旦那がいた。旦那は欲張りで評判がよくなかった。大公は時々雇われて旦那のところへ働きに行った。ある日旦那の供をして山奥へ猟に行った。昼になったので昼飯を食べて休んでいる内に大公は木に登って遠方をあっちこっちと見ていたが、旦那様、大変ですと言って慌てて下りてきた。お家の方に当たって火の手が見える。火事かもしれないから自分が帰って様子を見てくると言って走って帰った。そして家へ帰ると、奥様、大変でございます。旦那さまが崖から落ちて頭に大怪我をした。それには女房の髪を黒焼きにしてつけると聞いているので自分が取りに帰った。すぐ髪を切って下さいと言った。奥様はびっくりして大急ぎで髪を根元からぷっつり切って大公に渡した。大公は山へ行くと、旦那様、大火事です。火事で奥様が大怪我をした。火事の怪我には何でも旦那の髪の黒焼きがよいということだ。早くそのまげを切るように言った。旦那は慌てて髪を根元からぷっつり切って大公に渡した。大公はそれを持って一散に駆けだした。旦那も大公について駆けだした。そして家へ帰ってみると家は何の事もなく、入って見ると奥さんが丸坊主になっていた。旦那は大公に騙されて二人とも髪を切られたことを知ると、大いに腹を立て、下男にいいつけて大公を捕らえてこさせた。そして大きな箱を作ってその中に入れ、首ほど出して大川へ流してこいと言いつけた。二人の下男は箱をかついで大川へ来た。土手におろして川へつき落とそうとすると、大公が箱の中から何も思い残すことはないが、これまで溜めた金がどこそこに瓶にいっぱい埋めてある。お前らに形見にやるから人に知られぬように早く掘れと言うと、下男たちは箱をそのままにして自分が掘ろうと思って我先に走って帰った。大公は穴から首を出してみると、目の悪い男が杖にすがって通りかかった。大公は大きな声であなたは目が悪いらしいが、この箱へ入るとじきよくなる。自分も目が悪くてこの箱へ入れてもらったらすっかりよくなった。これから出ようと思っているところだと言った。目の悪い男はそれではというので縄をといて大公を出し、代わって自分が入った。大公はそれに縄をかけて逃げた。下男たちは大公に言われたところへ走っていって掘ってみたが何も出ない。ようやく騙されたことに気がついて帰ってくると、物も言わずに箱を川へ突っ込んでしまった。三日ほど経って大公は旦那のところへ言った。旦那さま、自分はこの間川へ流してもらったが、あれから竜宮へ参った。立派な御殿で、お姫様の美しいこと、旦那様のことを話しましたら是非お連れしてこいとのことで迎えに参ったと言うと、旦那は大喜びで夫婦づれで大川のほとりへ来た。そして、一、二、三で飛び込むのですよと言って二人を川へつき落とした。それから自分が旦那のところへ帰って楽に暮らした。

◆モチーフ分析

・大公という若者がいた
・近所に金持ちの旦那がいたが欲張りで評判がよくなかった
・大公は旦那のところへ時々雇われた
・旦那の供をして山奥へ猟にいった
・旦那の家の方向に火の手が見える。家事かもしれないから帰って様子を見てくるといって走って帰った
・家へ帰ると奥さんに旦那が怪我をしたと言って髪を切らせた
・大公は山へ戻ると、旦那に火事で奥さんが怪我をしたと言ってまげを切らせた
・家へ帰ると、家は何事もなく、奥さんが丸坊主になっていた
・騙されて腹をたてた旦那は下男に大公を捕らえさせ、箱の中に入れ、川に流してこいと言った
・下男が川へ突き落とそうとすると、大公は溜めた金が埋めてあるから形見にやると言う
・下男たち、箱をそのままにして走って帰る
・目の悪い男が通りがかった
・大公はこの箱に入るとじきに良くなるといって入れ替わらせた
・騙されたと知った下男たちが箱を川へ突っ込んでしまった
・大公は三日ほど経って旦那のところへ行き、竜宮へ言ったと語った
・旦那を招いていると騙し、旦那と奥さんを川に突き落とした
・大公、自分は旦那のところへ帰って楽に暮らした

 形態素解析すると、
名詞:旦那 大公 下男 奥さん 家 川 箱 ところ 怪我 三 まげ 中 丸坊主 何事 供 家事 山 山奥 形見 方向 様子 欲張り 火の手 火事 猟 男 目 竜宮 腹 自分 若者 評判 近所 金 金持ち 髪
動詞:帰る する 言う いく 騙す いる 切る 突き落とす 走る いう しれる たてる なる やる 入る 入れる 入れ替わる 埋める 戻る 招く 捕らえる 暮らす 流す 溜める 知る 突っ込む 経つ 行く 見える 見る 語る 通りがかる 雇う
形容詞:ない よい 悪い 良い
形容動詞:じき 楽
副詞:そのまま 時々

 大公/旦那/下男の構図です。大公―火事―旦那、大公―火事―奥さん、大公―箱―下男、大公―箱―目の悪い男という図式です。

 大公が旦那の家が火事だと≪騙し>て旦那と奥さんを丸坊主に<させる>。怒った旦那は大公を箱に<入れて>川に<流そう>とする。が、大公は下男たちを<騙し>、更に目の悪い男を<騙して><入れ替わる>。大公は竜宮に行ってきたと旦那を<騙し>、旦那と奥さんを川へ<突き飛ばす>。

 大公は旦那を騙して丸坊主にさせ、更に竜宮に行ってきたと騙し、旦那夫婦を川へ突き落とす……という内容です。

 発想の飛躍は大公の悪知恵でしょうか。大公―火事―旦那、大公―火事―奥さん、大公―箱―下男、大公―箱―目の悪い男という図式です。

 原話はアンデルセンの「小クラウスと大クラウス」だそうですが、読み比べてみると、かなりローカライズされています。ここでは思い込みによる模倣が見られます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.306-308.
・大庭良美「石見の民話―その特色と面白さ―」『郷土石見』八号(石見郷土研究懇話会、一九七九)五八―七一頁。
・『民間説話―理論と展開―』上巻(S・トンプソン, 荒木博之, 石原綏代/訳, 社会思想社, 1977)pp.248-249.


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