河野十内――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、鍋石に河野十内(こうのじゅうない)という力の強い人がいた。これは天狗に力を授かったものと言うことで、向う倍力と言ってどんな力の強い人が来ても十内はその倍の力がでるのだった。あるとき大阪から三人の力持ちが十内と力比べをしようと言ってやって来た。ちょうど十内は留守で奥さんが一人留守番をしていた。力持ちは十内が留守だということを聞くと、玄関に腰を下ろして休んでいた。すると、そこに曲がった大きな鉄の棒が立てかけてあった。奥さんは旦那さまと言ったら杖を曲げておいてと独り言を言いながら手でつるつるとしごいた。すると曲がっていた棒は何のこともなくまっすぐになった。三人の力持ちはそれを見て、おかみさんさえあの通りなら、主人はとてえも我々の及ぶところではないと言ってこそこそと逃げ帰った。十内は「もとよのみや」という家に住んでいたが、家を普請する時、奥さんは青竹をすこいで縄のようにして、竹の節がめきめきと割れるのを差し出すと、十内はそれで屋中竹を縛りつけたと言うことで、近年まで竹で縛った屋中竹が残っていたという。昔、芸州の八幡(やはた)では毎年広島へ萱(かや)を年貢の代わりに納めていた。十内は、お前たちは萱を丈夫な輪をもって荷造りしておけ、自分が一荷に負うていってやると言った。皆は十内のいう通りにしたが、中に一人、とても手に合うまいと思って、そのおいこ縄(背負う縄)を自分の家の柱に引っかけておいた。十内は道中の村々に何月何日河野十内が萱を負うて出るから用心しておれとふれをしておいた。その日になると、十内は八幡中で納める萱を一まとめにして、ごっそごっそ負うて出たので、道ばたの木や小屋などは皆箒で撫でたように倒れ、おいこ縄を家の柱に結わいつけておいた家は家ごとどんどん引きずって広島の町へ出たので、広島の町も大変痛んだ。それから広島へ萱を出すことは止めになった。漁山(いさりやま)の浅間(せんげん)さんの足ガ鞍(くら)にはうわばみがいた。ある日十内はうわばみ退治に出かけた。すると大きな木が倒れていたので、それに腰をかけて休んでいた。十内は鉄砲を足先にかけていたが、小さな蛇が指先を舐めていると思っていたところ、いつの間にか膝まで呑んでいた。そこで十内はドカンと一発鉄砲を口の中へ撃ち込んだので、うわばみは一発で死んでしまった。うわばみの死骸の下には白銀の花が咲くといって、下の土まで人が金を出して買って帰ったという。あるとき百姓が「とりのす」で堆肥を一荷ずつ負うていくのを見て十内は自分が蹴散らしてやろうといって足で田毎に蹴散らしてやった。ところが十内の力はその時から無くなってしまった。堆肥は不浄の物だから、それを天狗が嫌って力を取り上げてしまったのだった。
◆モチーフ分析
・鍋石に河野十内という力持ちがいた
・天狗に力を授かったもので、どんな力の強い人が来ても十内はその倍の力がでる
・大阪から三人の力持ちが十内と力比べするためにやって来た
・十内は留守で奥さんが一人で留守番していた
・力持ちは十内が留守だというので、玄関で休んだ
・奥さんが曲がった鉄の棒をしごいてまっすぐにさせた
・三人の力持ちが奥さんでこうなら主人はとても力の及ぶところでないと逃げ帰る
・芸州の八幡では毎年広島へ萱を年貢に納めていた
・十内は自分が一荷で負うてやると言った
・一人、おいこ縄を自分の家の柱に引っかけておいた
・十内は何月何日に萱を負うて出るから用心せよとふれを出した
・その日になると十内は八幡中で納める萱を一まとめにして、ごっそり負うて出た
・道ばたの木や小屋は萱で撫でられたように倒れた
・縄を家の柱に結わえていた家は家ごと引きずられた
・広島の町も痛んで、広島へ萱を出すのは止めになった
・漁山の浅間さんにうわばみがいて、十内はそれを退治に出かけた
・小さな蛇が指先を舐めていると思ったら、いつの間にか膝まで呑まれていた
・十内は鉄砲を蛇の口の中に撃ち込んだので、うわばみは一発で死んだ
・百姓が堆肥を一荷ずつ負うていくので、十内が自分がやろうと言って、足で田毎に蹴散らしてやった
・十内の力はその時から無くなってしまった
・堆肥は不浄のものだから、天狗が嫌って力を取り上げてしまったのだった
形態素解析すると、
名詞:十内 力 萱 力持ち 家 一 奥さん 広島 自分 三 うわばみ もの 一人 八幡 堆肥 天狗 柱 留守 縄 蛇 それ ため ところ まっすぐ 一まとめ 不浄 中 主人 人 何日 何月 倍 力比べ 口 大阪 小屋 年貢 指先 日 時 木 棒 毎年 河野 浅間 漁山 玄関 用心 田毎 町 留守番 百姓 膝 芸州 足 退治 道ばた 鉄 鉄砲 鍋石
動詞:負う する いう いる なる 出す 出る 納める 言う 蹴散らす いく しごく でる ふれる やって来る やる 休む 倒れる 出かける 及ぶ 取り上げる 呑む 嫌う 帰る 引きずる 引っかける 思う 授かる 撃ち込む 撫でる 曲がる 来る 止める 死ぬ 無くなる 痛む 結わえる 舐める 逃げる
形容詞:ない 強い
形容動詞:どんな
副詞:いつの間にか こう ごっそり とても
十内/力持ち、十内/うわばみといった構図です。天狗―力―十内、奥さん―鉄の棒―力持ち、十内―力―萱、十内―鉄砲―うわばみ、十内―(蹴散らす)―堆肥といった図式です。
鍋石に河野十内という力持ちがいた[存在]。その奥さんですら曲がった鉄の棒を撫でて真っ直ぐにする程だった[怪力]。また、十内は八幡中の萱を一人で負うて広島まで納めにいった[怪力]。また、十内は漁山のうわばみを撃ち殺した[退治]。十内は堆肥を田毎に蹴散らして撒いた[散布]が、不浄のものに触れた[触穢]ので天狗から力を取り上げられてしまった[喪失]。
十内は天狗から怪力を授かって様々なことで力を発揮したが、不浄のものに触れて力を失ってしまった……という内容です。
発想の飛躍は不浄のものに触れて十内が力を失うことでしょうか。十内―不浄/力―天狗という図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.297-299.
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