蛇聟入り――モチーフ分析
◆あらすじ
昔あるところに大きな百姓がいた。ある年酷い日照りで田が干上がり稲も今にも枯れそうになった。そこで百姓は田の近くにある蛇渕へ行ってこの田へ水を当ててくれれば娘が三人いるから一人をやろうと言った。明くる朝起きてみると広い田に水がなみなみと当たっていた。百姓は喜んだが、昨日約束したことを思い出して心配になって寝込んでしまった。すると姉娘が来て起きて茶を飲みなさいと言ったので、田が干上がってしまったから昨日蛇渕へ行って田に水をためてくれたら娘をやろうと言ったら今朝見るとどの田にも水がいっぱい当たっておる。それで娘をやらねばならないことになって心配していると言うと、姉娘はそんな恐ろしいことはできないと言って逃げてしまった。今度は中の娘が来て茶をおあがりと言ったので訳を話すとこれもやれ恐ろしやと言って逃げた。末の娘が来て茶をおあがりなさいと言ったので訳を話すと、それでは私が行きましょうと言った。その晩蛇が迎えに来たので妹娘は頭のまげに針を三本刺して蛇の頭に飛び乗って行った。蛇の家には広い座敷に青畳が敷いてあって、お婆さんが一人いた。お婆さんはようこそと言って喜んだ。ある日お婆さんが嫁に虱(しらみ)をとってくれと言った。嫁はとってあげようと言ってお婆さんの髪を見ると蛇がいっぱいいた。娘は頭に刺していた針を蛇に投げた。お婆さんはあまり気持ちがいいので、お前、国へ帰りたくはないかいと言った。それは帰りとうございますと言うと、それならば息子は天へ昇って今頃帰るから出逢った時にはこれを被ってニャーゴ、ニャーゴと言って道のほとりへ伏せていろと言って猫化けをくれた。嫁はそれを貰って家へ帰ろうと思って道を急いでいると、天から蛇が下りてきたので猫化けを被って道のほとりに伏してニャーゴ、ニャーゴと言っていた。すると蛇はそのまま通り過ぎてしまったので、家へ帰ってお父さんと仲良く暮らした。
◆モチーフ分析
・昔あるところに大きな百姓がいた
・ある年酷い日照りで田が干上がり、稲も枯れそうになった
・百姓は田の近くにある蛇渕へ行き、田に水を当ててくれれば三人の娘の内一人をやろうと言った
・明くる朝起きてみると田に水がなみなみと当たっていた
・喜んだ百姓だったが、昨日約束したことを思い出して心配になって寝込んだ
・姉娘が来て茶を飲むようにいう
・百姓が訳を話すと姉娘はそんな恐ろしいことはできないと逃げてしまう
・中の娘に訳を話すと、これも逃げた
・末の娘に訳を話すと、それでは自分が行こうと言った
・その晩蛇が迎えに来たので妹娘は頭のまげに針を三本刺して、蛇の頭に飛び乗っていった
・蛇の家には広い座敷があり、そこにお婆さんが一人いた
・お婆さんはようこそと言って喜んだ
・ある日お婆さんが嫁に虱をとってくれと言った
・嫁がとってあげようとしてお婆さんの髪を見ると蛇がいっぱいいた
・娘は頭に刺していた針を蛇に投げつける
・お婆さんは気持ちがいいので、お前、国へ帰りたくはないかと言った
・帰りたいというと、息子は天へ昇って今頃帰るから猫化けをくれて、それを被ってニャーゴと言って道のほとりへ伏せる様に言った
・嫁はそれを貰って家へ帰ろうと道を急いでいると、天から蛇が下りてきたので猫化けを被って道のほとりに伏してニャーゴと言うと、蛇はそのまま通り過ぎた
・嫁は実家へ帰って父親と仲良く暮らした
形態素解析すると、
名詞:娘 蛇 お婆さん 嫁 田 百姓 訳 道 頭 三 こと それ ほとり ニャーゴ 一人 姉 家 水 猫 針 お前 これ そこ ところ なみなみ まげ 中 今頃 内 国 天 妹 実家 年 座敷 息子 日照り 明くる朝 昔 昨日 晩 末 気持ち 父親 稲 約束 自分 茶 虱 蛇渕 近く 髪
動詞:言う 帰る ある いる 話す いう とる 刺す 化ける 喜ぶ 来る 行く 被る 逃げる あげる くれる する できる やる 下りる 伏す 伏せる 寝込む 干上がる 当たる 当てる 思い出す 急ぐ 投げつける 昇る 暮らす 枯れる 見る 貰う 起きる 迎える 通り過ぎる 飛び乗る 飲む
形容詞:いい ない 広い 恐ろしい 酷い
形容動詞:そんな 心配
副詞:ある日 いっぱい そのまま 仲良く 天から
連体詞:大きな 明くる
蛇/百姓/姉娘/中の娘/末の娘の構図です。百姓―田―蛇、蛇―嫁―末の娘、お婆さん―針―嫁、お婆さん―猫化け―嫁、嫁―猫化け―蛇といった図式でもあります。抽象化すると、人間/動物でもあります。
枯れた田に水を当ててくれたら娘をやろう[約束]といった百姓は約束を守らなければならなくなる[遵守]。姉娘、中の娘には断られたが[拒否]、末の娘は嫁に行く[遵守]。蛇のお婆さんの髪の虱をとっていると、実家に帰りたくないかと訊かれた[質問]ので帰りたいと答える[回答]と猫化けをくれた[獲得]。外出していた蛇が戻ってきたが猫化けを被ってやり過ごし[難を免れる]、実家へ帰った[帰還]。
父の約束を守って蛇の家に嫁に行ったが、そこでお婆さんに気に入られて猫化けを貰い、蛇をやり過ごして実家へ帰る……という内容です。
発想の飛躍は猫化けでしょうか。お婆さん―猫化け―嫁の図式です。
針を三本持っていきますので、それで蛇を殺すのかと思いましたが、娘から嫁に呼称が変わったので嫁に行ったものと考えられます。三人の登場人物の内、三人目が活躍する話型でもあります。また、日常から非日常へ、そして日常へ還る話でもあります。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.277-279.
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