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2022年9月15日 (木)

えんこうの石――モチーフ分析

◆あらすじ

 那賀郡今福村宇津井の河上家に仁右衛門という人がいた。中原と宇津井の田を開いた人であった。仁右衛門が中原の田を開拓している頃、川岸に馬を繋いでおいたところ、えんこうが来て川の中へそろりそろりと引いていった。だいぶ深いところへ行ってもう少しというところで馬が気づき、いきなり岸へ駆け上がると一散に家へ帰った。えんこうは不意のことなのでどうすることもできない。綱を身体へ巻きつけていたので、そのまま駄屋まで引きずっていかれた。その際頭の皿の水がこぼれてしまったので、ようやく綱をほどくと馬のたらいの中へ隠れていた。仁右衛門はしばらくして馬を連れて帰ろうと思って川岸へ来てみると馬がいない。不思議に思って家へ帰ってみると、馬は主人より早く駄屋に帰っている。変に思って辺りをよく見ると、餌をやる馬のたらいの中に変なものがしゃがんでいる。仁右衛門はこの野郎と思って引っ張り出すと散々にぶん殴った。それからしばらく経って仁右衛門は病気になった。中々よくならない。ある日病床に臥していると外から仁右衛門、仁右衛門と呼ぶ声がする。仁右衛門は枕元の刀をさげて障子を開け、縁に出てみたが誰もいない。そういうことが何回もあった。それから四五日経って仁右衛門が寝ていると、また仁右衛門、仁右衛門と呼ぶ声がする。何の気もなしに刀を持たずに外へ出てふらふらと夢中で歩いていると、ざあざあと川瀬の音がする。我に返って辺りを見ると、いつの間にか宇津井の橋床まで来ていた。言うまでもなく、えんこうの為に夢中におびき出されたのだった。仁右衛門は気づくと辺りを見回した。するとすぐ傍に、この前酷くこらしめたえんこうが歯をむき出して今にも飛びかかろうとしている。剛胆な仁右衛門はしばらく橋の上で格闘したが、遂に膝の下に組み伏せた。えんこうは、これからは宇津井川では人に害をなすことはしないから命だけは助けてくれと言った。そして、もしこの橋の上に四十雀(しじゅうから)が三羽遊んでいたら、他の川の同族が来て遊んでいるから注意してくれと言った。仁右衛門は十分こらしめた上でえんこうを許してやった。仁右衛門は格闘したとき、えんこうを大きな石に打ちつけたので石の角が壊れた。現在河上家にある靴ぬぎ石は、その石を運んだものと言われている。

◆モチーフ分析

・宇津井の仁右衛門は中原と宇津井の田を開いた人だった
・仁右衛門が中原の田を開拓している頃、川岸の馬を繋いでおいた
・えんこうが来て、馬を川の中に引きずり込もうとした
・驚いた馬が川岸へ駆け上がり、一散に家へ帰った
・えんこうは綱を身体へ巻きつけていたので、そのまま駄屋へ引きずられた
・頭の皿の水がこぼれてしまい、綱をほどいてたらいの中へ隠れていた
・仁右衛門は馬を連れて帰ろうと思って川岸へ来てみると馬がいない
・家へ帰ってみると、馬は主人より先に駄屋へ帰っている
・たらいの中にえんこうがしゃがんでいたので散々にぶん殴った
・しばらくして仁右衛門は病気になった
・病床に臥していると、仁右衛門を呼ぶ声がする
・枕元の刀をさげて障子を開け、縁に出たが誰もいない
・それが何度も続き、四五日経って寝ていると、また仁右衛門を呼ぶ声がする
・刀を持たずに外へ出て夢中で歩いていると宇津井の橋床までやって来ていた
・えんこうの為に夢中におびき出された
・気づくと、えんこうが歯をむき出しにして今にも飛びかかろうとしている
・仁右衛門は橋の上で格闘し、膝の下にえんこうを組み伏せた
・えんこう、これからは宇津井川では人に害をなすことはしないと助命を願う
・橋の上で四十雀が三羽遊んでいたら、別の同族が来ているから注意しろと言う
・仁右衛門、えんこうを許してやった
・仁右衛門が格闘したとき、えんこうを大きな石に打ちつけ、石の角が壊れた
・河上家にある靴ぬぎ石はその石を運んだものと言われている

 形態素解析すると、
名詞:えんこう 仁右衛門 馬 宇津井 石 中 川岸 たらい 上 中原 人 刀 声 夢中 家 屋 格闘 橋 田 綱 三 四五 こと これ それ とき むき出し もの 上家 下 主人 今 何度 別 助命 同族 四十雀 外 害 川 枕元 橋床 歯 水 河 注意 為 病床 病気 皿 縁 膝 角 誰 身体 開拓 障子 靴ぬぎ 頃 頭
動詞:する 帰る 来る いる 出る 呼ぶ 言う ある おびき出す こぼれる さげる しゃがむ なす なる ぶん殴る ほどく やって来る やる 壊れる 寝る 巻きつける 引きずり込む 引きずる 思う 打ちつける 持つ 歩く 気づく 組み伏せる 経つ 続く 繋ぐ 臥す 許す 連れる 遊ぶ 運ぶ 開く 開ける 隠れる 願う 飛びかかる 駆け上がる 驚く
副詞:しばらく そのまま また 一散に 先に 散々
連体詞:大きな

 仁右衛門/えんこうの構図です。仁右衛門―格闘―えんこう、馬―綱―えんこうという図式でもあります。

 馬を川に引きずり込もうとした[悪戯]えんこうは却って引きずられて頭の皿の水を失ってしまった[喪失]ところを仁右衛門に見つかりぶん殴られる[殴打]。えんこうは病気になった仁右衛門を宇津井の橋までおびき寄せ[誘い出し]、格闘するが組み伏せられる[格闘]。えんこう、助命を願い人に害を加えないことを条件に許される[赦免]。

 えんこうは復讐のため仁右衛門を宇津井川までおびき寄せ戦いを挑むが組み伏せられ助命を願う……という内容です。

 発想の飛躍は馬を川に引きずり込もうとして却って引きずられて頭の皿の水を失うことでしょうか。馬―綱―えんこうという図式です。見つかって散々にぶん殴られる訳です。

 別の本ではえんこうは金気を嫌うため、仁右衛門が刀を持っているときは姿を現さなかったとあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.268-270.
・『島根県の民話 県別ふるさとの民話(オンデマンド版)』(日本児童文学者協会/編, 偕成社, 2000)pp.192-196.

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