鼻かけそうめん――モチーフ分析
◆あらすじ
馬鹿聟が姑の家へ初めて呼ばれていった。姑の家ではそうめんをご馳走することにした。聟が見ていると、姑がそうめんが湯だったか箸に一本引っかけて頃合いを見ようとすると、つい鼻の上に落ちた。それを指で落として口に入れたので聟はそうめんはああして食べるものかと思った。そうめんのご馳走が出たので、一本すくい上げては鼻の上にのせ、それを口にかき込んで長い時間をかけて食べた。夕飯も済んだので、明日の朝はテウチ(手打ち:蕎麦)にしようか半殺し(ぼたもち)にしようかと相談されたので、聟はいつも女房を大事にしているのに、初めて来てテウチにされては困ると思って半殺しを望んでおいた。それから疲れたろうと蚊帳(かや)を吊って屏風を立てて床を敷いてお休みと言われた。聟が蚊帳の中に飛び込むと、屏風がくるりと廻った。屏風を右に回すと左があき、左へ廻すと右があいた。今度はまた蚊帳の中へ飛び込んで、また出て屏風を廻している内に夜が明けた。聟は朝は半殺しをするに違いない。昨夜も寝ずに廻り屏風に飛び込み蚊帳に、今朝は半殺しとは情けないと思って二階の庇(ひさし)に小さくなって隠れていた。姑は聟が寝床にいないので、どこへ行ったかと思って戸を開けると聟は庇に小さくなってガタガタ震えていた。そして半殺しはこらえてくださいと細い声で泣きながらいったので、そんなに嫌いなら食べなくてもよいと優しく言われて聟はようやく家へ入った。聟に昨夜はよく寝られたか姑が言うと、眠るどころか鼻かけそうめんに油をとられ、廻り屏風に引きずられ、蚊帳に出たり入ったり、半殺しは気にかかるし、眠れなかったと言ったので姑は何が何やらさっぱり分からない。娘よ、何か聞いてみよ。昔の者とは違うし、田舎にもこんな分からず屋がいるか。子供よりまだ酷いと姑が言ったので、女房が優しく尋ねると、来るまいと思っていたのに無理に行ってくれと連れてきて、鼻かけそうめんに油をとられ、廻り屏風に引きずられ、蚊帳に出たり入ったり、今朝は半殺しと言われたり、自分はこんな難儀とは知らずに寝ておられようか。思えば早く去(い)にたくて庇の上に出て下ばかり見て夜を明かした。お前は親と組んで下の方から笑ったり、自分はおる気がしなかったと言って泣いた。それで女房も全く呆れて、それきり離縁してしまった。
◆モチーフ分析
・馬鹿聟が姑の家へ初めて呼ばれていった
・そうめんをご馳走することになり、姑がそうめんが湯だったが箸に一本引っかけて頃合いを見ようとすると鼻の上に落ちた
・姑はそれを指で落として口に入れたので、聟はそうめんはああして食べるものかと思った
・そうめんのご馳走が出たので、すくい上げては鼻にのせ、それを口にかき込んで長い時間をかけて食べた
・夕飯が済んだので明日の朝は手打ち(蕎麦)にするか半殺し(ぼたもち)にするか相談されたので、聟はいつも女房を大事にしているのに初めて来て手打ちにされては困ると思い半殺しを望んだ
・それから蚊帳を吊って屏風を立てて床を敷いてお休みと言われた
・聟が蚊帳の中に飛び込むと屏風がくるりと廻った
・それを繰り返している内に夜が明けた
・聟は朝は半殺しにするに違いない。昨夜は寝ずに今朝は半殺しとは情けないと思って二階の庇に小さくなって隠れていた
・姑は聟が寝床にいないので、どこに行ったかと思って戸を開けると聟は庇に小さくなってガタガタ震えていた
・そして半殺しはこらえてくださいと細い声で泣きながら言ったので、そんなに嫌いなら食べなくともよいと優しく言われた
・昨夜はよく寝られたか姑が訊くと、眠るどころか鼻かけそうめんに廻り屏風、半殺しは気にかかるしで眠れなかったと答えた
・姑は何が何やらさっぱり分からない。田舎にもこんな分からず屋がいるか、子供より酷いと言った
・女房が優しく尋ねると、来るまいと思っていたのに無理に行ってくれと連れてきて鼻かけそうめん、廻り屏風に半殺し、こんな難儀に寝ておられようか、早く去にたくて庇の上に出て下ばかる見て夜を明かした。お前は親と組んで下の方から笑ったりで自分はおる気がしなかったと言って泣いた
・女房も全く呆れて、それきり離縁してしまった
形態素解析すると、
名詞:半殺し 聟 そうめん 姑 屏風 鼻 それ 女房 庇 かけ ご馳走 上 下 口 夜 手打ち 昨夜 朝 気 蚊帳 一 二 お休み お前 くるり こと どこ ばか ぼたもち もの 中 今朝 何 内 分からず屋 声 夕飯 大事 嫌い 子供 家 寝床 床 戸 指 方 明日 時間 湯 田舎 相談 箸 自分 蕎麦 親 離縁 難儀 頃合い 馬鹿
動詞:する 思う 言う 寝る 廻る 食べる いる 出る 来る 泣く 眠る 行く 見る おる かかる かき込む かける こらえる すくい上げる なる のせる 入れる 分かる 去る 吊る 呆れる 呼ぶ 困る 尋ねる 引っかける 敷く 明かす 明ける 望む 済む 立てる 笑う 答える 組む 繰り返す 落ちる 落とす 訊く 連れる 開ける 隠れる 震える 飛び込む
形容詞:優しい 小さい よい 情けない 早い 細い 違いない 酷い 長い
形容動詞:こんな 無理
副詞:初めて ああ いつも さっぱり それきり そんなに よく ガタガタ 何やら 全く
女房/聟/姑の構図です。聟―そうめん―鼻―姑、半殺し―聟―手打ち、屏風―聟―蚊帳といった図式です。登場人物を抽象化すると主人公(聟)とその家族(女房、姑)です。
馬鹿な聟は姑の家に呼ばれた[訪問]。そうめんをご馳走することになったが[ご馳走]、聟は姑がやった通りに真似て食べる[模倣]。就寝時に蚊帳と屏風を用意されたが、廻り屏風に気を取られて眠れない[不眠]。朝は半殺しだと言われたのを思い出して庇に隠れる[隠匿]。様子を伺った姑と嫁だったが、聟のあまりの馬鹿さに離縁してしまった[離婚]。
馬鹿な聟が姑の家に呼ばれて頓珍漢な行為を繰り返す。大丈夫か訊いた姑と女房だったが、聟の馬鹿さに離縁する……という内容です。
発想の飛躍は聟の馬鹿さ加減でしょうか。聟―そうめん―鼻―姑、半殺し―聟―手打ち、屏風―聟―蚊帳といった図式です。聟は日常から非日常に入り、そこで唐突に打ち切りされてしまいます。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.289-291.
| 固定リンク
「昔話」カテゴリの記事
- 未来社『石見の民話』分析二周目、石西編が終わる。続いて三周目について(2024.11.30)
- 行為項分析――長い話(2024.11.29)
- 行為項分析――果てなしばなし(2024.11.29)
- 行為項分析――なさけない(2024.11.29)
- 行為項分析――八人の座頭(2024.11.28)