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2022年9月29日 (木)

渡廊下の寄附――モチーフ分析

◆あらすじ

 あるところに分限者(ぶげんしゃ)がいた。とてもけちで少しでもお金を出すことが嫌いで出そうとはしない。お寺の寄附なども言い訳をしてなかなか出さなかった。檀那寺の方丈はこんなことでは良くない、何とかして功徳をさせて救ってやらないと死んでから罪におちると思い、いろいろ考えた末に、近頃お寺の渡廊下が痛んで歩くのに危ない様になったが一つ寄附をしてくださらないかと言った。主人はいやな顔をして、一体どれくらい出せばいいだろうと訊いた。一両もあれば充分だろうと方丈が言うと、主人は渡廊下を直すと言えば五両や十両はいると言うに違いないと思ったのが案外少なかったので、それでは出そうと言って喜んで一両出した。方丈もこれで功徳ができたと喜んだ。ところがそれから間もなく主人は急病で亡くなった。葬式の日は分限者の旦那さまが亡くなったというので大勢の人が来て、幸い天気も良かった。坊さんもたくさん呼ばれていて、お経をあげて順々に焼香した。すると、その時今までよく晴れていた空がにわかにかき曇り、真っ黒い雲が棺を狙って舞い降りてきた。檀那寺の方丈は持っていた鉄の如意をふりかぶり、廊下、廊下と叫んで黒雲めがけて投げつけた。すると黒雲は直ちに天上へ舞い上がり、空は元のように晴れた。黒雲は火車で、棺の中の死体をさらうために来たのであった。火車は強欲な人が死ぬと死体をとって食う魔物である。居合わせた他の坊さんたちは、方丈の廊下廊下という一喝の威力に驚いて教えてくれるように頼んだ。方丈はそこで、この主人が強欲で死んだら火車にとられる様なことになってはいけないと思い、渡廊下に寄附をさせて、その功徳で救ったのだと教えたということである。

◆モチーフ分析

・あるところにけちな分限者がいた
・お寺の寄附も言い訳をしてなかなか出さなかった
・檀那寺の方丈は、何とかして功徳をさせないと死んでから罪に落ちると考えた
・方丈は分限者にお寺の渡廊下が痛んでいるので寄附してくれないか言った
・分限者は嫌な顔をして、どれくらい出せばいいか訊いた
・一両もあれば充分だと方丈が言うと、五六両と見積もっていた分限者は喜んで一両だした
・方丈はこれで功徳ができたと喜んだ
・それから間もなく分限者は急病で亡くなった
・葬式の日は大勢の人が来て、天気も良かった
・坊さんもたくさん呼ばれていて、お経をあげ順々に焼香した
・空がにわかにかき曇り、真っ黒い雲が棺を狙って舞い降りてきた
・方丈は黒雲めがけ鉄の如意をふりかぶり、廊下、廊下と叫んで黒雲めがけて投げつけた
・すると黒雲は直ちに天上へ舞い上がり、空は元の様に晴れた
・黒雲は火車で、棺の中の死体をさらうために来た
・火車は強欲な人が死ぬと死体をとって食う魔物である
・居合わせた他の坊さんたちは、方丈の一喝の威力に驚いて教えてくれるよう頼んだ
・方丈は分限者が強欲で死んだら火車にとられる様なことにならない様、渡廊下に寄附をさせて、その功徳で救ったのだと教えた

形態素解析すると、
名詞:方丈 分限者 黒雲 功徳 寄附 火車 一 お寺 人 坊さん 廊下 強欲 棺 死体 渡廊下 空 56 お経 けち こと これ たくさん ため ところ どれくらい 一喝 中 他 元 充分 大勢 天上 天気 如意 威力 寺 急病 日 檀那 焼香 罪 葬式 言い訳 鉄 雲 顔 魔物
動詞:する 死ぬ とる めがける 出す 喜ぶ 教える 来る 言う あげる ある いる かき曇る かぶる さらう だす できる なる ふる 亡くなる 叫ぶ 呼ぶ 居合わせる 投げつける 救う 晴れる 狙う 痛む 考える 舞い上がる 舞い降りる 落ちる 見積もる 訊く 頼む 食う 驚く
形容詞:いい 真っ黒い 良い
形容動詞:にわか 嫌
副詞:なかなか 何とか 直ちに 間もなく 順々
連体詞:他の

 方丈/分限者/火車の構図です。方丈―渡廊下―寄附―分限者、方丈―分限者―火車の図式です。

 けちな分限者に功徳を積ませようと方丈は渡廊下への寄附をさせる[寄附]。分限者が死に、葬式に火車が現れたが[出現]、方丈は渡廊下の寄附を主張して火車を退ける[退散]。

 けちな分限者がいたが生前、少額ながら渡廊下への寄附を行っていたため、その功徳で火車に食われることを免れた……という内容です。

 発想の飛躍は渡廊下の寄附が一両というところでしょうか。方丈―渡廊下―寄附―一両―分限者という図式です。

 火車は妖怪ですが『石見の民話』では他のお話「山椒九右衛門」「化け猫」にも登場します。

 この昔話はアニメ「まんが日本昔ばなし」の出典としてクレジットされています。そうすると、石見の昔話が源流と思われるかもしれませんが、山形県のお寺の伝説ともなっているそうです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.304-305.

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