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2022年9月20日 (火)

山婆――モチーフ分析

◆あらすじ

 三人の子供がいた。お母さんは用事があって町へ行くときに、この辺は山婆の出るところだから気をつけないといけない。山婆はいつもしおから声をして、ざらざらした手をしているから、お母さんだと言っても戸を開けてはいけないと言って聞かせた。三人の子供たちはいくら待ってもお母さんが戻ってこないので、迎えに行こうと出かけた。途中で柿が熟れていたので、それをとって背負って迎えに行った。すると山婆が出てきて、母だよ、今帰ったよ。何を負うてきたかいと言った。よく見るとお母さんとは違うので、お母さんではない。お母さんには顔に七つのあざがあるがお前にはないと言うと、顔に糠(ぬか)がかかって見えないのだと言った。子供たちは本当にしない。本当にしないなら堤へ行って顔を洗ってくると言って、子供たちを堤に連れていき、顔を洗うときに岩の角で顔に傷をつけて、これを見よ。母に違いなかろうと言った。子供たちはなるほどお母さんかも知れないが、あざのつき所が少し違うと言った。わしのお母さんは右の頬に三つ、左の頬に三つ、額に一つあざがある。それなら左の頬の糠がまだ落ちないと言って谷底へ下りて小石を一つつけてきた。その内に日が暮れてしまった。山婆は暗くなったから、ここで一夜寝ようと言って大きな洞穴へ子供たちを連れて入った。どれでも肥えた子供を抱いて寝る。この辺りは山婆が出るから皆わしにすがりついて寝よと言って一番小さい弟を抱いて寝た。夜になって何だかかりかり音がしはじめた。兄は弟を揺り起こして弟の手を引きながら、ちょっと小便に行ってくると言った。山婆がそこにしろと言うと寝小便はできないと言って二人が出ていくと山婆は逃さぬように縄で結わえて、見てやるから待っておれと言った。二人は淋しくないから大丈夫といって出て、縄を松の木に結わえて柄鎌で跡をつけ松の木の上に登った。山婆が早く帰れと言うとはいはいと返事はしても二人は帰らない。出てみると縄は松の木をチクチク引っ張っているのだった。これはしまった。二人を逃したかと言って空を見上げると松の木のてっぺんにいるので、なして下りぬかと言うと、わしはここが好きだと言った。早く降りねば山婆が二人を隠すかもしれない。どうして登ったと訊くと、松の木に油をつけて登ったと一郎が言った。山婆は油を松の木につけて登ろうとしたが、つるつる滑って登られない。そこで若者を沢山呼び出して次から次へ肩へ登らせて子供を捕まえようとしたが、まだ手が届かない。自分はここで見ているから、もっと沢山若者を誘ってこいと言って若者を連れに行かせた。するとそのとき天から綱が下りてきて一郎と二郎がそれに捕まると、綱はするすると上がって二人を谷の向こうへ送りつけた。そこへ若者が沢山来たので次から次へと登らせ、おいそれが一郎だと山婆が怒鳴った。若者が手をかけると、それは一郎の着物ばかりであった。今度は二郎へ手をかけるとそれも着物ばかりであった。若者たちは腹をたて、この大嘘つきめと言って、よってたかって山婆を叩き殺してしまった。

◆モチーフ分析

・三人の子供がいた
・お母さんが用事で町へ行くときに、この辺は山婆が出るから気をつけよ。山婆がお母さんだと言っても戸を開けてはいけないと言って聞かせた
・三人の兄弟たちはいくら待ってもお母さんが戻ってこないので迎えにいこうと出かけた
・山婆が出てきて、母が今帰ったよと言ったが、よく見るとお母さんとは違うので、お母さんには顔に七つのあざがあるがお前にはないと言う
・山婆、顔に糠がかかって見えないのだと言う
・山婆、兄弟たちを堤に連れていき、顔を洗うときに岩の角で傷をつけて、母に違いなかろうと言った
・兄弟たち、あざのつき所が少し違うと答える
・日が暮れてしまい、ここで一夜寝ようと言って洞穴へ兄弟たちを連れていった
・山姥、一番下の弟を抱いて寝る
・夜になってかりかり音がし始めた
・兄は弟を揺り起こして小便に行ってくると言った
・山婆がそこにしろと言うと、寝小便はできないと言って出ていく
・山婆は二人を逃さないように縄で結わえた
・二人は縄を松の木に結わえて松の木の上に登った
・山姥が早く帰れと言うと、はいはいと返事だけして帰らない
・山姥が出ると縄は松の木に結わえられており、空を見上げると二人は松の木のてっぺんにいた
・どうして登ったと山婆が訊くと、松の木に油をつけて登ったと一郎が言った
・山婆は油を松の木につけて登ろうとしたが、つるつる滑って登られない
・山婆、若者を沢山呼び出して、次から次へと肩へ登らせて捕まえようとするが、まだ手が届かない
・山婆、もっと若者を誘ってこいと言って若者を連れに行かせた
・天から綱が下りてきて、一郎と二郎が捕まると、綱はするすると上がって二人を谷の向こうへ送りつけた
・若者が沢山来たので次から次へと登らせ、それが一郎だと山婆が怒鳴った
・若者が手をつけるとそれは一郎の着物だった
・次に二郎へ手をかけると、それも着物ばかりであった
・若者たち、腹をたて、山婆を叩き殺した

 形態素解析すると、
名詞:婆 山 松の木 若者 お母さん 一郎 二人 兄弟 次 それ 山姥 手 縄 顔 三 あざ とき 二郎 弟 母 沢山 油 着物 綱 一 お前 ここ そこ てっぺん はいはい 一夜 七つ 上 今 傷 兄 向こう 堤 夜 子供 寝小便 小便 少し 岩 戸 日 気をつけ 洞穴 用事 町 空 糠 肩 腹 角 谷 辺 返事 音
動詞:言う する 登る つける 出る 帰る 結わえる 行く 連れる いる 寝る 違う ある いく いける かかる かける し始める たてる つく できる なる 上がる 下りる 出かける 叩き殺す 呼び出す 届く 待つ 怒鳴る 戻る 抱く 捕まえる 捕まる 揺り起こす 暮れる 来る 洗う 滑る 答える 聞く 見える 見る 見上げる 訊く 誘う 迎える 送りつける 逃す 開ける
形容詞:ない 早い 違いない
副詞:いくら かりかり つるつる どう まだ もっと よく 天から 次に

 山婆/兄弟の構図です。若者―山婆―下の弟/二郎/一郎―母という図式です。日常→非日常→日常へと還る形態でもあります。

 母の留守中に山婆が出て[遭遇]捕まった[捕獲]三人の兄弟の内、一郎と二郎は松の木のてっぺんに逃れる[逃避]。山婆は若者たちに肩車をさせて捕らえようとするが上手くいかない[不首尾]。若者たちの怒りを買った山婆は叩き殺されてしまう[殺害]。

 山婆に捕まった三人の兄弟の内一郎と二郎は松の木に登って難を避ける。跡を追った山婆は若者たちに叩き殺される……という内容です。

 発想の飛躍は山婆が母のふりをすることでしょうか。山婆≒母の外見で兄弟たちを騙そうとするのです。

 三人の兄弟の内、長男が活躍します。一郎と二郎は無事ですが、末の弟、三郎の安否が確認できません。かりかりと音がしたとありますので、山婆に喰われてしまったのかもしれません。

 若者たちが肩車をする場面は千匹狼を連想させます。

 三人兄弟と呼ばれる話型でヨーロッパに広く分布する様です。すると、日本へは書承で入って来たお話かもしれません。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.280-283.
・『民間説話―理論と展開―』上巻(S・トンプソン, 荒木博之, 石原綏代/訳, 社会思想社, 1977)

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