馬のおとしもの――モチーフ分析
◆あらすじ
山寺の小僧はしごにならない(手に負えない)ものであった。坊さんは魚を食うことは禁じてあった。ところが和尚がいつも戸棚へ頭を突っ込んで何やらむしゃむしゃ食べている。小僧にはないしょで見せない。ある日和尚が門徒の家に仏事を務めにいった。その留守に小僧が戸棚を開けてみると鯛の煮付けがある。和尚めがこんな物を隠して食べやがる。よしいつか仏罰を与えてやるから見ておれと思った。和尚が帰ってきたので小僧は戸棚の中にあるものは何かと問うた。和尚は小僧に見られたと思ったので、そしらぬ顔であれは「にかんのてて」というものだと答えた。ある日和尚が馬に乗って門徒の家に行くので小僧が後からついて行った。川を渡るときに魚がたくさん泳いでいた。小僧が和尚さん、あそこに「にかんのてて」が沢山ありますと言った。和尚は見たことは見捨て、聞いたことは聞き捨てにするものだと言った。それからどんどんついて行ったら風が吹いて和尚の頭巾が脱げて飛んだ。小僧は見たことは見捨ててどんどん行くと、和尚が頭に頭巾のないことに気がついて、小僧、俺の頭巾が落ちはしなかったかと訊いた。小僧は頭巾はあんなあとに落ちていたと答えた。なぜ拾わなかったかと訊くと、和尚が見たことは見捨てにせよと言ったから見捨てにしたと答えた。和尚が早く拾ってこい。馬から落ちたものは何もかも拾ってこいと答えたので、小僧は後に戻って頭巾を拾い、頭巾の中に馬の糞をいっぱい拾って差しだした。和尚が、これは馬の糞ではないかと叱ると、小僧はそれでも和尚は馬から落ちたものは何でも拾ってこいと言ったではないかとやり返した。
◆モチーフ分析
・山寺の小僧は手に負えない
・坊さんは魚を食べることは禁止されていた
・和尚はいつも戸棚へ頭を突っ込んで何か食べている
・和尚の留守に小僧が戸棚を開けてみると鯛の煮付けがあった
・和尚に仏罰を与えてやると小僧思う
・帰ってきた和尚に戸棚の中にあるものは何か問う
・和尚は「にかんのてて」だと答える
・ある日和尚が馬に乗って門徒の家に行くので小僧がついて行く
・川を渡ると魚がたくさん泳いでいたので「にかんのてて」が沢山あると小僧言う
・和尚、見たものは見捨て、聞いたことは聞き捨てにするものだと言う
・風が吹いて和尚の頭巾が脱げて飛んだが小僧は見捨てた
・頭巾が無いことに気づき、小僧に訊く
・小僧、見たことは見捨てよと言ったので見捨てたと答える
・和尚が馬から落ちたものは何もかも拾ってこいと命じる
・小僧は後戻りして頭巾を拾い、中に馬の糞を拾って差しだした
・和尚が怒ると、小僧は馬から落ちたものは何でも拾ってこいと言ったではないかとやり返す
形態素解析すると、
名詞:和尚 小僧 もの こと 馬 戸棚 頭巾 てて にかん 中 魚 たくさん 仏罰 坊さん 家 山寺 川 手 沢山 煮付け 留守 禁止 糞 聞き捨て 門徒 頭 風 鯛
動詞:拾う 見捨てる 言う ある する 答える 落ちる 見る 食べる ついて行く やり返す やる 与える 乗る 吹く 命じる 問う 差しだす 帰る 後戻る 怒る 思う 気づく 泳ぐ 渡る 突っ込む 聞く 脱げる 行く 訊く 開ける 飛ぶ
形容詞:ない 無い 負えない
副詞:何か ある日 いつも 何でも 何もかも
和尚/小僧の構図です。和尚―鯛―小僧、和尚―糞―頭巾―小僧でしょうか。
和尚が鯛の煮付けを食べていることに気づいた小僧[発覚]、仏罰を与えてやろうと考える[企み]。和尚が馬で外出するのについて行った小僧、見たことは見捨てよと言われる[指令]。和尚の頭巾が風で飛んだが小僧は見捨てる[指令の実行]。馬から落ちたものは何でも拾ってこいと言われた小僧、馬の糞を頭巾に詰めて差し出す[指令の実行]。
小僧に見たことは見捨てよというと、他のことまで見捨てられる……という内容です。
発想の飛躍は「にかんのてて」でしょうか。和尚―鯛―小僧の図式です。煙に巻いたところ、言葉通りに小僧に行動されるという結果を招きます。
見たことは見捨てよと言われたら、その通りにする。馬から落ちたものは何でも拾えと言われると糞まで拾うと言葉通りに行動しています。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.225-226.
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