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2022年9月16日 (金)

牛鬼――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、那賀郡の浅利村に神主がいた。ある晩一人で海へ夜釣りに行ったが、とてもよく釣れるので一生懸命に釣っていた。すると髪も着物もびしょ濡れになった女が赤児を抱いて出てきた。神主がびっくりしていると、この子に食べさせるから魚を一尾くれと言った。神主が一尾やると赤児はむしゃむしゃと頭から尻尾まで骨ごとみんな食べてしまった。そうしてもう一尾、もう一尾というのでやる内に籠の中の魚は一尾もなくなった。すると女は今度は、お腰のものをと言った。この女に言われるとどうしても嫌ということが出来ない。神主は仕方がないので腰の脇差しを抜いてやると赤児はそれもパリパリと食べてしまった。びっくりしていると、女はちょっとこの児を抱いてとってくれといって赤児を神主に渡すと海に入っていった。神主はその間に釣り道具を投げ捨てて駆けだしたが、抱かされた赤児は石になってどうしても離れない。その内に女が後ろから追いかけてきた。神主は一生懸命走ったが女はだんだん間を縮めてくる。そして既に手が届きそうになったとき、前の方から何か光るものが矢の様に飛んできて女の頭へグサリと突き刺さった。女はそれで足を止めたので、神主はようやくのことで自分の家の前まで逃げてくると、そこには心配そうに妻が待っていた。神主の妻は夫が釣りに出た後で縫い物をしていた。すると神主の居間にある二本の刀の中で、どれか一本シャンシャンと音を立ててしきりに鳴るものがある。不思議なことなので、もしか夫の身の上に何か変わったことがあるのではないかと心配して外へ出てみた。その時表の戸を開けると一本の脇差しがひとりでに鞘を抜け出して戸の間を飛鳥のように通り抜け、海の上の方へ飛んでいった。不思議なこともあるものだと妻はますます心配になって、そのまま戸の外へ立っていたところだった。明くる朝神主は村の人たちと昨夜女の出てきたところへ行ってみた。すると磯のほとりに血の流れた跡があったが、女も脇差しも見えなかった。多分女は頭に刀を突き刺したまま海の中へ入っていったものだろうと皆は話した。

◆モチーフ分析

・浅利村に神主がいた
・一人で夜釣りに出かけたが、よく釣れるので一生懸命に釣っていた
・すると髪も着物もびしょ濡れの女が赤児を抱いて出てきた
・濡れ女、神主に赤児に食べさせるから魚を一尾くれと言う
・神主がやると赤児は魚を頭から尻尾までむしゃむしゃと食べてしまった
・もう一尾とやる内に籠の中の魚が無くなった
・濡れ女、今度は腰の脇差しを要求した
・この女に言われると拒むことができず、脇差しを渡してしまう
・赤児、脇差しをパリパリと食べてしまう
・びっくりしていると、濡れ女はこの赤児を抱いてくれと言って赤児を神主に渡すと海に入っていった
・神主は釣り道具を投げ捨てて駆けだしたが、抱かされた赤児が石になって離れない
・女がだんだん間を縮めてくる
・手が届きそうになったところ、何か光るものが矢の様に飛んできて濡れ女の頭へグサリと突き刺さった
・女が足を止めたので神主はようやく自分の家の前まで逃げた
・すると妻が心配そうに待っていた
・神主の妻は夫が釣りに出た後で縫い物をしていた
・すると神主の居間にある刀がシャンシャンと音を立ててしきりに鳴った
・不思議なことなので、もしや夫の身の上に何か変わったことがあるのではないかと心配して外へ出た
・その時表の戸を開けると一本の脇差しがひとりでに鞘を抜け出して戸の間を通り抜けそのまま戸の外へ飛んでいった
・妻、不思議なこともあるものだと心配になって、そのまま戸の外へ立っていた
・あくる朝、神主は村人たちと昨夜濡れ女の出てきたところへ行ってみた
・磯のほとりに血の流れた跡があったが、女も脇差しも見えなかった
・女は頭に刀を差したまま海の中へ入っていったものだろうと皆が話した

 形態素解析すると、
名詞:女 神主 赤児 脇差し こと 戸 もの 外 妻 頭 魚 一 ところ 不思議 中 刀 夫 海 あくる朝 だんだん びしょ濡れ びっくり ほとり まま パリパリ 一人 一尾 一生懸命 今度 内 前 夜釣り 家 尻尾 居間 後 心配 手 昨夜 時 村人 浅利 皆 着物 矢 石 磯 籠 縫い物 腰 自分 血 要求 足 跡 身の上 釣り道具 間 鞘 音 髪
動詞:濡れる ある 出る 抱く 言う 食べる やる 入る 渡す 釣る 飛ぶ いる する できる なる 光る 出かける 変わる 届く 差す 待つ 投げ捨てる 抜け出す 拒む 止める 流れる 無くなる 突き刺さる 立つ 立てる 縮める 行く 見える 話す 逃げる 通り抜ける 釣れる 開ける 離れる 駆けだす 鳴る
形容詞:ない
形容動詞:心配
副詞:そのまま 何か しきりに ひとりでに むしゃむしゃ もう もしや ようやく よく グサリ シャンシャン
連体詞:あくる

 男/濡れ女の構図です。抽象化すると、人間/妖怪、主人公/敵対者です。神主―魚―赤児/女、神主―脇差し―(突き刺さる)―女の図式でもあります。

 濡れ女に遭った[遭遇]神主は釣った魚を赤児に全部食べられてしまい[喪失]、腰の脇差しまで食べられてしまう[喪失]。逃げ出した神主だったが赤児が石となって離れず[吸着]女が近づいてくる[接近]。そのとき神主の家から飛んできた[飛来]脇差しが濡れ女の頭に刺さり[刺突]、神主は無事逃げることができた[脱出]。

 濡れ女と赤児に遭遇して窮地に陥った神主だったが、家から飛んできた脇差しが女の頭に刺さり、助かる……という内容です。

 発想の飛躍は飛んできた脇差しが濡れ女の頭に刺さることでしょうか。神主―脇差し―(突き刺さる)―女という図式です。

 タイトルには「牛鬼」とありますが、牛鬼自体は登場しません。濡れ女と赤児の登場で暗示しています。このお話はアニメ「まんが日本昔ばなし」でアニメ化されています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.271-272.

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