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2022年9月13日 (火)

蛇渕――モチーフ分析

◆あらすじ

 浜田ダムへ流れ込む長見川の上流約一キロのところに深さ三メートルの渕がある。昔、ある年の夏、子供たちは親たちが止めるのも聞かずいつものように渕へ泳ぎに出かけた。渕の水は青く澄んで青葉に涼しい風が渡っている。子供たちは大騒ぎをしながら時の経つのも忘れて泳ぎまわった。その内に夕暮れになった。その時子供たちは悲鳴を上げながら我先にと岸へ駆け上がった。いつの間にか渕の底から大きな蛇が頭をもたげて子供たちの方をじっと見ていた。子供たちはわめきながら村へ通じる山道をいっさんに駆けだした。「渕、大きな蛇」と子供たちのきれぎれな言葉を聞いた村人たちはびっくりした。話は伝わって下の村は大騒ぎになった。早速村人たちは鍬(くわ)や鎌や竹槍などを手にもって長い列となって渕へ向かった。生暖かな夜風の吹く中を身じろぎもせず薄暗い水の面を見ている村人たちの頭の上ににわかに黒雲が湧き起こったと思うと、稲妻が光った。この鋭い光に照らし出された水面に大蛇の姿が見えた。男の一人が用意していた石を投げ込むと、てんでに鍬や鎌や竹槍を投げ込んだ。しかしそれは渕の面に空しく落ちるばかりであった。やがて一人の男が村に引き返すと、大きな弓と矢を持ってきた。男は弓を引き絞ると次から次に渕に向かって矢を射こんだ。村人たちがふと我に返った時には、辺りはすっかり暗くなって、渕の上がわずかに夕明かりに白く見えるばかりであった。それから何日か過ぎ、夏も終わりに近づいた。ある日真夜中から大雨が降り出し、雨は明くる日もその明くる日も夜も昼も降り続いた。長見川は濁流となって川下へ押し寄せた。その様子を見に出た一人の男はびっくりした。そこには川向こうの家の柱に巨大な尾を巻きつけて濁流から身を逃れようと必死にもがいている大蛇の姿があった。それを見ると恐ろしさを越えて、この巨大な蛇が激しい濁流と戦う痛ましい姿に心の痛みを感ぜずにはいられなかった。男は村へ駆け戻った。深い森を越えてどうどうと響く濁流の音とともに大蛇の最後のうめきがいつまでも耳について離れなかった。大蛇がそれからどうしたかは誰も知る者がない。大蛇が柱に巻き付いたという家には近頃まで大蛇の鱗を求めにくる人があったということだが、鱗は無いと言う。

◆モチーフ分析

・ある年の夏、子供たちが長見川の渕に泳ぎにでかけた
・夕暮れ、子供たちは悲鳴を上げて岸へ我先に駆け上がった
・渕の底から大蛇が頭をもたげて子供たちをじっと見ていた
・子供たちはわめきながら山道を一目散に駆け出した
・子供の言葉を聞いた村人たちはびっくり、村中大騒ぎとなった
・村人たちは鍬や鎌、竹槍をなどを持って渕へ向かった
・稲妻が光り、水面に大蛇の姿が見えた
・村人たちはてんでに鍬や鎌や竹槍を投げ込んだが、空しく落ちるばかりであった
・一人の男が村へ引き返して弓矢を持ってきた
・男は渕に向かって次から次に矢を射込んだ
・村人たちが我に返ったときには辺りはすっかり暗くなっていた
・夏も終わりに近づいたある日大雨が降り出した
・雨は何日も降り続いて長見川は濁流となった
・様子を見に出た男が川向こうの家の柱に尾を巻きつけて濁流から逃れようとしている大蛇の姿を見た
・大蛇がそれからどうしたか誰も知らない
・大蛇が柱に巻き付いたという家には近頃まで大蛇の鱗を求めに来たという

 形態素解析すると、
名詞:大蛇 子供 村人 渕 男 夏 姿 家 柱 濁流 竹槍 鍬 鎌 長見 それ とき びっくり 一人 何日 夕暮れ 大雨 大騒ぎ 尾 山道 岸 川 川向こう 年 底 弓矢 悲鳴 我 村 村中 様子 次 水面 矢 稲妻 言葉 誰 辺り 近頃 雨 頭 鱗
動詞:見る いう する なる 向かう 持つ でかける もたげる わめく 上げる 光る 出る 射込む 巻きつける 巻き付く 引き返す 投げ込む 来る 求める 泳ぐ 知る 終わる 続く 聞く 落ちる 見える 近づく 返る 逃れる 降り出す 降る 駆け上がる 駆け出す
形容詞:暗い 空しい
副詞:ある日 じっと すっかり てんで どう 一目散に 我先に 次に

 子供/蛇/村人という構図です。蛇―(巻き付く)―柱―濁流、子供―渕―大蛇という図式でもあります。

 子供たちが渕で泳いでいると大蛇が出た[出現]。逃げ帰った子供たちの話を聞いて村人たちが渕へ向かった[急行]。竹槍を投げたり弓矢で射たりしたが効果は無かった[無効]。大雨が続いて長見川が濁流となった[洪水]。大蛇が尾を川向こうの家の柱に巻きつけて濁流から逃れようとしているところを村人が見た[目撃]。大蛇の行方は知れない[行方不明]。

 長見川の渕に棲む大蛇が大雨が続いて濁流となった川から逃れようとしたが、大蛇の行方は知れない……という内容です。

 発想の飛躍は濁流から逃れるため大蛇が尾を家の柱に巻きつけることでしょうか。蛇―(巻き付く)―柱―濁流の図式です。浜田ダムまでは行ったことがありますが、その上流の渕は知りません。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.262-264.

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