「空」の塔婆――モチーフ分析
◆あらすじ
昔あるところに大変貧乏な親子がいた。父親が死んだが、貧乏なので法事をすることができなかった。ある夕方、坊さんが一夜泊めてくれと言ってきた。息子は自分は親父が死んでも法事もよくできない程で、あなたを泊めても食べさせるご飯もないと言った。坊さんはそれなら今晩泊めてくれ、そうしたら親父さんの法事をしてやろうと言った。息子はたいそう喜んで坊さんを泊め、食べさせるものがないので、自分の粗末な食べ物を食べさせた。坊さんはそれで結構と言って夕飯を済ますと、何でもよいから木を一本削ってこいと言った。息子は一本の木を鉋(かんな)できれいに削ってくると、坊さんは筆を出して塔婆にして字を書いて、お経を読んでくれた。坊さんは朝出るときこれを墓へ持っていって立てなさいと言ってどこへともなく行ってしまった。するとそこへ友達がやって来た。息子が昨夜坊さんが来て法事をしてもらったと言って塔婆を出して見せた。友達は手にとって見ていたが、お前、坊さんにお布施をあげなかっただろうと言った。金がないからあげなかったと言うと、そうだろう、塔婆には悪口が書いてあると言って塔婆の字を読んで聞かせた。それには「斎(とき)ばかり布施はなにわの白塔婆 手向けに書くぞ 空の一字を」として「空」という字が一字書いてあった。息子はそれを聞くと腹を立てて、塔婆は裏の小川に投げた。その晩息子が寝ていると、父親が夢枕に立って、あの塔婆のおかげで自分は成仏した。塔婆は井手にかかっているから拾ってきて立ててくれと言った。息子があくる朝小川を探していくと、塔婆は少し川下の井手にかかっていたので大事に拾って帰って、父親の墓に立てた。
◆モチーフ分析
・貧乏な親子がいた
・父親が死んだが貧乏なので法事をすることができなかった
・ある夕方、坊さんが一夜泊めてくれと言ってきた
・息子は法事もできない程貧しく、食べさせるご飯もないと断った
・坊さんはそれなら親父さんの法事をしてやろうと言った
・息子は喜んで坊さんを泊め、自分の粗末な食べ物を与えた
・坊さんはそれで結構と夕飯を済ませると、木を一本削ってこいと言った
・息子が鉋で木を削ってくると、坊さんはそれを塔婆にしてお経を読んだ
・坊さんは塔婆を墓へ持っていって立てなさいと言って、どこへともなく行ってしまった
・友達がやって来て、息子は塔婆を見せた
・友達は塔婆に悪口が書いてあるといって読んできかせた
・歌が一首と「空」の一字が書いてあった
・腹をたてた息子は塔婆を裏の小川に投げた
・その晩息子が寝ていると父親が夢枕に立った
・父親は塔婆のおかげで自分は成仏できた。塔婆を拾ってきて立ててくれと言った
・明くる朝、息子は小川を探すと塔婆は川下の井手にかかっていた
・息子は塔婆を大事に拾って帰って父親の墓に立てた
形態素解析すると、
名詞:塔婆 息子 坊さん 父親 それ 法事 一 友達 墓 小川 木 自分 おかげ お経 こと ご飯 どこ 一夜 一字 井手 夕方 夕飯 夢枕 大事 川下 悪口 成仏 明くる朝 晩 歌 程 空 粗末 腹 裏 親子 親父 鉋 食べ物
動詞:言う する 立てる できる 削る 拾う 書く 泊める 読む いく いる かかる きく たてる やって来る 与える 寝る 帰る 投げる 持っていく 探す 断る 死ぬ 済ませる 立つ 行く 見せる 食べる
形容詞:ない 貧しい
形容動詞:貧乏
副詞:喜んで 結構
連体詞:明くる
息子/坊さん、息子/友達の構図です。坊さん―父親/塔婆―息子、息子―塔婆―友達の図式です。
貧しいため父親の法事もあげられなかった息子だったが[不能]、一夜の宿を求めた坊さんに法事をあげてもらう[交換]。塔婆を受け取った息子だが、友達が悪口が書いてあると教える[教示]。塔婆を捨てた息子だったが、父親が枕元に現れた[夢]。息子は塔婆を探し墓に立てた[直す]。
坊さんから貰った塔婆を怒りで捨てた息子だったが、塔婆のおかげで父が成仏できたと知り、塔婆を探して墓に立てた……という内容です。「空」の一字で父親は成仏できたということでしょうか。
発想の飛躍は塔婆に悪口が書いてあるとしたところでしょうか。友達―悪口/塔婆―息子の図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.300-301.
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