山小屋の不思議――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、門田の明比谷(あけひだに)という大きな山で木挽(こび)きが三人で小屋を作って泊まり込んで毎日木を伐ったり板にしたりしていた。ところがある晩、一人が死んだので、近くの集落へ知らせに出ることになった。死んだものを一人おいて二人で出かける訳にはいかないので、一人が死んだ人の番をして、もう一人が出かけることにした。何しろ人里離れた山の中であり、夜のことだから、残って死人の番をしている方も、夜道を一人で出かける方も気持ちの悪いことで、どちらも山には慣れていて度胸がよいので、一人が死人の番をし、一人が出かけた。残った方は囲炉裏(いろり)の火を消えないように焚きながら仲間が帰ってくるのを待っていた。すると、死人がむくむくと起き上がった。番をしていた木挽きはびっくりした。こんなことは生まれて初めてだ。しばらくすると死人はばったり倒れた。番をしていた男は思わずほっとして胸をなで下ろした。ところがしばらくすると、死人がまた起き上がった。おや、と思って見ているとしばらくするとまた倒れた。いくら度胸のすわった男でも気持ちのいいことではない。それでもどうしようもないので火を焚きながら仲間の帰るのを今か今かと待っていた。知らせにいった方は小屋ではさぞ待っているだろうと思って、一生懸命急いで村へ下りて手前の家に知らせて頼んでおくとすぐ引き返した。そうして小屋の前まで帰ってくると、戸口のところに何か変なものがいて、のびあがったりしゃがんだりしている。男はこっそり裏へ回って、ソマを持ってくるといきなり戸口にいるものに切りつけた。するとギャッという叫び声がして動かなくなった。留守番をしていた木挽きが火をもって出てみると、大きな狸が肩口を切られて死んでいた。それで死人が起きたり倒れたりしたのは狸のしわざだと分かった。
◆モチーフ分析
・門田の明比谷という山で三人の木挽きが小屋を作って泊まり込んで毎日木を伐ったり板にしたりしていた
・ある晩、一人が死んだので、近くの集落へ知らせに出ることになった
・一人が死んだ者の番をして、もう一人が出かけることにした
・二人とも度胸があって、残った方が囲炉裏の火を消えないように焚きながら仲間が帰ってくるのを待っていた
・すると、死人がむくむくと起き上がった
・番をしていた木挽きはびっくりした
・死体はしばらくすると、ばったり倒れた
・番をしていた男はほっと胸をなで下ろした
・すると、死人がまた起き上がって、また倒れた
・気持ち悪いが、どうしようもないので火を焚きながら仲間の帰ってくるのを今か今かと待っていた
・知らせに行った男は一生懸命に急いで村へ下りて知らせると、すぐに引き返した
・小屋の前まで帰ってくると、何か変なものがいて伸び上がったりしゃがんだりしている
・男はこっそり裏へ回ってソマで戸口にいるものに切りつけた
・ギャッという叫び声がして動かなくなった
・留守番をしていた木挽きが火をもって出てみると、大きな狸が肩口を切られて死んでいた
・それで狸のしわざだと分かった
形態素解析すると、
名詞:一人 木挽き 火 男 番 こと もの 仲間 小屋 死人 狸 三 しわざ びっくり ほっと ソマ 一生懸命 二人 前 叫び声 囲炉裏 変 山 度胸 戸口 方 明 晩 木 村 板 死体 毎日 比谷 留守番 者 肩口 胸 裏 近く 門田 集落
動詞:する 帰る 死ぬ 知らせる いう いる 倒れる 出る 待つ 焚く 起き上がる ある しゃがむ なで下ろす なる もつ 下りる 伐る 伸び上がる 作る 出かける 分かつ 切りつける 切る 動く 回る 引き返す 急ぐ 残る 泊まり込む 消える 行く
形容詞:しようもない 気持ち悪い
副詞:また こっそり しばらく すぐ どう ばったり むくむく もう ギャッと 今か今かと 何か
連体詞:大きな
木挽き/死人/狸の構図です。抽象化すると、人間/死人/動物です。木挽き―死人―狸の図式です。
三人の木挽きの内、一人が死んだ[死亡]。一人が留守番をして、もう一人が村へ知らせに行くことになった[伝達]。番をしていると、死体が起き上がってやがて倒れた[蘇生]。驚いた木挽きだったが、もう一人の帰還を待った[待機]。知らせにいった木挽きが帰ってくると戸口に何かいた[察知]。ソマで切りつけると狸だった[露見]。それで狸のしわざと分かった[判明]。
死体がひとりでに動くので不気味に思ったところ、狸の仕業であった……という内容です。
発想の飛躍は狸が死体を操ることでしょうか。木挽き―死人―狸という図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.302-303.
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