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2022年9月

2022年9月30日 (金)

創造性の神話――読書猿「『独学大全』公式副読本――『鈍器本』の使い方がこの1冊で全部わかる」

読書猿「『独学大全』公式副読本――『鈍器本』の使い方がこの1冊で全部わかる」を読む。



「何も知らないことが自由な発想を生み出す」という創造性の神話は、とうの昔に様々な観察や実験手続きを経て否定されている。



とある。もしかして、ゆとり教育はこの様な認識で実施されたのだろうか。空恐ろしくなる話である。

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大公――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、大公という若者がいた。近所に金持ちの旦那がいた。旦那は欲張りで評判がよくなかった。大公は時々雇われて旦那のところへ働きに行った。ある日旦那の供をして山奥へ猟に行った。昼になったので昼飯を食べて休んでいる内に大公は木に登って遠方をあっちこっちと見ていたが、旦那様、大変ですと言って慌てて下りてきた。お家の方に当たって火の手が見える。火事かもしれないから自分が帰って様子を見てくると言って走って帰った。そして家へ帰ると、奥様、大変でございます。旦那さまが崖から落ちて頭に大怪我をした。それには女房の髪を黒焼きにしてつけると聞いているので自分が取りに帰った。すぐ髪を切って下さいと言った。奥様はびっくりして大急ぎで髪を根元からぷっつり切って大公に渡した。大公は山へ行くと、旦那様、大火事です。火事で奥様が大怪我をした。火事の怪我には何でも旦那の髪の黒焼きがよいということだ。早くそのまげを切るように言った。旦那は慌てて髪を根元からぷっつり切って大公に渡した。大公はそれを持って一散に駆けだした。旦那も大公について駆けだした。そして家へ帰ってみると家は何の事もなく、入って見ると奥さんが丸坊主になっていた。旦那は大公に騙されて二人とも髪を切られたことを知ると、大いに腹を立て、下男にいいつけて大公を捕らえてこさせた。そして大きな箱を作ってその中に入れ、首ほど出して大川へ流してこいと言いつけた。二人の下男は箱をかついで大川へ来た。土手におろして川へつき落とそうとすると、大公が箱の中から何も思い残すことはないが、これまで溜めた金がどこそこに瓶にいっぱい埋めてある。お前らに形見にやるから人に知られぬように早く掘れと言うと、下男たちは箱をそのままにして自分が掘ろうと思って我先に走って帰った。大公は穴から首を出してみると、目の悪い男が杖にすがって通りかかった。大公は大きな声であなたは目が悪いらしいが、この箱へ入るとじきよくなる。自分も目が悪くてこの箱へ入れてもらったらすっかりよくなった。これから出ようと思っているところだと言った。目の悪い男はそれではというので縄をといて大公を出し、代わって自分が入った。大公はそれに縄をかけて逃げた。下男たちは大公に言われたところへ走っていって掘ってみたが何も出ない。ようやく騙されたことに気がついて帰ってくると、物も言わずに箱を川へ突っ込んでしまった。三日ほど経って大公は旦那のところへ言った。旦那さま、自分はこの間川へ流してもらったが、あれから竜宮へ参った。立派な御殿で、お姫様の美しいこと、旦那様のことを話しましたら是非お連れしてこいとのことで迎えに参ったと言うと、旦那は大喜びで夫婦づれで大川のほとりへ来た。そして、一、二、三で飛び込むのですよと言って二人を川へつき落とした。それから自分が旦那のところへ帰って楽に暮らした。

◆モチーフ分析

・大公という若者がいた
・近所に金持ちの旦那がいたが欲張りで評判がよくなかった
・大公は旦那のところへ時々雇われた
・旦那の供をして山奥へ猟にいった
・旦那の家の方向に火の手が見える。家事かもしれないから帰って様子を見てくるといって走って帰った
・家へ帰ると奥さんに旦那が怪我をしたと言って髪を切らせた
・大公は山へ戻ると、旦那に火事で奥さんが怪我をしたと言ってまげを切らせた
・家へ帰ると、家は何事もなく、奥さんが丸坊主になっていた
・騙されて腹をたてた旦那は下男に大公を捕らえさせ、箱の中に入れ、川に流してこいと言った
・下男が川へ突き落とそうとすると、大公は溜めた金が埋めてあるから形見にやると言う
・下男たち、箱をそのままにして走って帰る
・目の悪い男が通りがかった
・大公はこの箱に入るとじきに良くなるといって入れ替わらせた
・騙されたと知った下男たちが箱を川へ突っ込んでしまった
・大公は三日ほど経って旦那のところへ行き、竜宮へ言ったと語った
・旦那を招いていると騙し、旦那と奥さんを川に突き落とした
・大公、自分は旦那のところへ帰って楽に暮らした

 形態素解析すると、
名詞:旦那 大公 下男 奥さん 家 川 箱 ところ 怪我 三 まげ 中 丸坊主 何事 供 家事 山 山奥 形見 方向 様子 欲張り 火の手 火事 猟 男 目 竜宮 腹 自分 若者 評判 近所 金 金持ち 髪
動詞:帰る する 言う いく 騙す いる 切る 突き落とす 走る いう しれる たてる なる やる 入る 入れる 入れ替わる 埋める 戻る 招く 捕らえる 暮らす 流す 溜める 知る 突っ込む 経つ 行く 見える 見る 語る 通りがかる 雇う
形容詞:ない よい 悪い 良い
形容動詞:じき 楽
副詞:そのまま 時々

 大公/旦那/下男の構図です。大公―火事―旦那、大公―火事―奥さん、大公―箱―下男、大公―箱―目の悪い男という図式です。

 大公が旦那の家が火事だと≪騙し>て旦那と奥さんを丸坊主に<させる>。怒った旦那は大公を箱に<入れて>川に<流そう>とする。が、大公は下男たちを<騙し>、更に目の悪い男を<騙して><入れ替わる>。大公は竜宮に行ってきたと旦那を<騙し>、旦那と奥さんを川へ<突き飛ばす>。

 大公は旦那を騙して丸坊主にさせ、更に竜宮に行ってきたと騙し、旦那夫婦を川へ突き落とす……という内容です。

 発想の飛躍は大公の悪知恵でしょうか。大公―火事―旦那、大公―火事―奥さん、大公―箱―下男、大公―箱―目の悪い男という図式です。

 原話はアンデルセンの「小クラウスと大クラウス」だそうですが、読み比べてみると、かなりローカライズされています。ここでは思い込みによる模倣が見られます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.306-308.
・大庭良美「石見の民話―その特色と面白さ―」『郷土石見』八号(石見郷土研究懇話会、一九七九)五八―七一頁。
・『民間説話―理論と展開―』上巻(S・トンプソン, 荒木博之, 石原綏代/訳, 社会思想社, 1977)pp.248-249.


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2022年9月29日 (木)

渡廊下の寄附――モチーフ分析

◆あらすじ

 あるところに分限者(ぶげんしゃ)がいた。とてもけちで少しでもお金を出すことが嫌いで出そうとはしない。お寺の寄附なども言い訳をしてなかなか出さなかった。檀那寺の方丈はこんなことでは良くない、何とかして功徳をさせて救ってやらないと死んでから罪におちると思い、いろいろ考えた末に、近頃お寺の渡廊下が痛んで歩くのに危ない様になったが一つ寄附をしてくださらないかと言った。主人はいやな顔をして、一体どれくらい出せばいいだろうと訊いた。一両もあれば充分だろうと方丈が言うと、主人は渡廊下を直すと言えば五両や十両はいると言うに違いないと思ったのが案外少なかったので、それでは出そうと言って喜んで一両出した。方丈もこれで功徳ができたと喜んだ。ところがそれから間もなく主人は急病で亡くなった。葬式の日は分限者の旦那さまが亡くなったというので大勢の人が来て、幸い天気も良かった。坊さんもたくさん呼ばれていて、お経をあげて順々に焼香した。すると、その時今までよく晴れていた空がにわかにかき曇り、真っ黒い雲が棺を狙って舞い降りてきた。檀那寺の方丈は持っていた鉄の如意をふりかぶり、廊下、廊下と叫んで黒雲めがけて投げつけた。すると黒雲は直ちに天上へ舞い上がり、空は元のように晴れた。黒雲は火車で、棺の中の死体をさらうために来たのであった。火車は強欲な人が死ぬと死体をとって食う魔物である。居合わせた他の坊さんたちは、方丈の廊下廊下という一喝の威力に驚いて教えてくれるように頼んだ。方丈はそこで、この主人が強欲で死んだら火車にとられる様なことになってはいけないと思い、渡廊下に寄附をさせて、その功徳で救ったのだと教えたということである。

◆モチーフ分析

・あるところにけちな分限者がいた
・お寺の寄附も言い訳をしてなかなか出さなかった
・檀那寺の方丈は、何とかして功徳をさせないと死んでから罪に落ちると考えた
・方丈は分限者にお寺の渡廊下が痛んでいるので寄附してくれないか言った
・分限者は嫌な顔をして、どれくらい出せばいいか訊いた
・一両もあれば充分だと方丈が言うと、五六両と見積もっていた分限者は喜んで一両だした
・方丈はこれで功徳ができたと喜んだ
・それから間もなく分限者は急病で亡くなった
・葬式の日は大勢の人が来て、天気も良かった
・坊さんもたくさん呼ばれていて、お経をあげ順々に焼香した
・空がにわかみかき曇り、真っ黒い雲が棺を狙って舞い降りてきた
・方丈は黒雲めがけ鉄の如意をふりかぶり、廊下、廊下と叫んで黒雲めがけて投げつけた
・すると黒雲は直ちに天上へ舞い上がり、空は元の様に晴れた
・黒雲は火車で、棺の中の死体をさらうために来た
・火車は強欲な人が死ぬと死体をとって食う魔物である
・居合わせた他の坊さんたちは、方丈の一喝の威力に驚いて教えてくれるよう頼んだ
・方丈は分限者が強欲で死んだら火車にとられる様なことにならない様、渡廊下に寄附をさせて、その功徳で救ったのだと教えた

形態素解析すると、
名詞:方丈 分限者 黒雲 功徳 寄附 火車 一 お寺 人 坊さん 廊下 強欲 棺 死体 渡廊下 空 56 お経 けち こと これ たくさん ため ところ どれくらい 一喝 中 他 元 充分 大勢 天上 天気 如意 威力 寺 急病 日 檀那 焼香 罪 葬式 言い訳 鉄 雲 顔 魔物
動詞:する 死ぬ とる めがける 出す 喜ぶ 教える 来る 言う あげる ある いる かき曇る かぶる さらう だす できる なる ふる 亡くなる 叫ぶ 呼ぶ 居合わせる 投げつける 救う 晴れる 狙う 痛む 考える 舞い上がる 舞い降りる 落ちる 見積もる 訊く 頼む 食う 驚く
形容詞:いい 真っ黒い 良い
形容動詞:にわか 嫌
副詞:なかなか 何とか 直ちに 間もなく 順々

 方丈/分限者/火車の構図です。方丈―渡廊下―寄附―分限者、方丈―分限者―火車の図式です。

 けちな分限者に功徳を<積ませ>ようと方丈は渡廊下への<寄附>をさせる。分限者が<死に>、葬式に火車が<現れた>が、方丈は渡廊下の寄附を<主張>して火車を<退ける>。

 けちな分限者がいたが生前、少額ながら渡廊下への寄附を行っていたため、その功徳で火車に食われることを免れた……という内容です。

 発想の飛躍は渡廊下の寄附が一両というところでしょうか。方丈―渡廊下―寄附―一両―分限者という図式です。火車は妖怪ですが『石見の民話』では他のお話にも登場します。

 この昔話はアニメ「まんが日本昔ばなし」の出典としてクレジットされています。そうすると、石見の昔話が源流と思われるかもしれませんが、山形県のお寺の伝説ともなっているそうです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.304-305.

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真似は難しい――クロード・レヴィ=ストロース『神話論理Ⅰ 生のものと火を通したもの』

クロード・レヴィ=ストロース『神話論理Ⅰ 生のものと火を通したもの』を読む。500ページもある大著。記述自体は平易なので読めたが、神話の分析についてはよく分からなかった。橋爪大三郎氏が書いていて、正確な文言は忘れたが、この神話分析はレヴィ=ストロースの名人芸であって他人が真似するのは難しいというのに賛成である。

現在、昔話のモチーフ分析を行っており、その観点で何か参考になるのではないかと思って読んだもの。親族構造などが絡んでくるので、直接参考になる内容ではなかった。

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2022年9月28日 (水)

山小屋の不思議――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、門田の明比谷(あけひだに)という大きな山で木挽(こび)きが三人で小屋を作って泊まり込んで毎日木を伐ったり板にしたりしていた。ところがある晩、一人が死んだので、近くの集落へ知らせに出ることになった。死んだものを一人おいて二人で出かける訳にはいかないので、一人が死んだ人の番をして、もう一人が出かけることにした。何しろ人里離れた山の中であり、夜のことだから、残って死人の番をしている方も、夜道を一人で出かける方も気持ちの悪いことで、どちらも山には慣れていて度胸がよいので、一人が死人の番をし、一人が出かけた。残った方は囲炉裏(いろり)の火を消えないように焚きながら仲間が帰ってくるのを待ってした。すると、死人がむくむくと起き上がった。番をしていた木挽きはびっくりした。こんなことは生まれて初めてだ。しばらくすると死人はばったり倒れた。番をしていた男は思わずほっとして胸をなで下ろした。ところがしばらくすると、死人がまた起き上がった。おや、と思って見ているとしばらくするとまた倒れた。いくら度胸のすわった男でも気持ちのいいことではない。それでもどうしようもないので火を焚きながら仲間の帰るのを今か今かと待っていた。知らせにいった方は小屋ではさぞ待っているだろうと思って、一生懸命急いで村へ下りて手前の家に知らせて頼んでおくとすぐ引き返した。そうして小屋の前まで帰ってくると、戸口のところに何か変なものがいて、のびあがったりしゃがんだりしている。男はこっそり裏へ回って、ソマを持ってくるといきなり戸口にいるものに切りつけた。するとギャッという叫び声がして動かなくなった。留守番をしていた木挽きが火をもって出てみると、大きな狸が肩口を切られて死んでいた。それで死人が起きたり倒れたりしたのは狸のしわざだと分かった。

◆モチーフ分析

・門田の明比谷という山で三人の木挽きが小屋を作って泊まり込んで毎日木を伐ったり板にしたりしていた
・ある晩、一人が死んだので、近くの集落へ知らせに出ることになった
・一人が死んだ者の番をして、もう一人が出かけることにした
・二人とも度胸があって、残った方が囲炉裏の火を消えないように焚きながら仲間が帰ってくるのを待っていた
・すると、死人がむくむくと起き上がった
・番をしていた木挽きはびっくりした
・死体はしばらくすると、ばったり倒れた
・番をしていた男はほっと胸をなで下ろした
・すると、死人がまた起き上がって、また倒れた
・気持ち悪いが、どうしようもないので火を焚きながら仲間の帰ってくるのを今か今かと待っていた
・知らせに行った男は一生懸命に急いで村へ下りて知らせると、すぐに引き返した
・小屋の前まで帰ってくると、何か変なものがいて伸び上がったりしゃがんだりしている
・男はこっそり裏へ回ってソマで戸口にいるものに切りつけた
・ギャッという叫び声がして動かなくなった
・留守番をしていた木挽きが火をもって出てみると、大きな狸が肩口を切られて死んでいた
・それで狸のしわざだと分かった

 形態素解析すると、
名詞:一人 木挽き 火 男 番 こと もの 仲間 小屋 死人 狸 三 しわざ びっくり ほっと ソマ 一生懸命 二人 前 叫び声 囲炉裏 変 山 度胸 戸口 方 明 晩 木 村 板 死体 毎日 比谷 留守番 者 肩口 胸 裏 近く 門田 集落
動詞:する 帰る 死ぬ 知らせる いう いる 倒れる 出る 待つ 焚く 起き上がる ある しゃがむ なで下ろす なる もつ 下りる 伐る 伸び上がる 作る 出かける 分かつ 切りつける 切る 動く 回る 引き返す 急ぐ 残る 泊まり込む 消える 行く
形容詞:しようもない 気持ち悪い
副詞:また こっそり しばらく すぐ どう ばったり むくむく もう ギャッと 今か今かと 何か

 木挽き/死人/狸の構図です。抽象化すると、人間/死人/動物です。木挽き―死人―狸の図式です。

 三人の木挽きの内、一人が<死んだ>。一人が留守番を<して>、もう一人が村へ知らせに<いく>ことになった。番を<して>いると、死体が<起き上がって>やがて<倒れた>。<驚いた>木挽きだったが、もう一人の帰還を<待った>。知らせに<いった>木挽きが<帰って>くると戸口に何か<いた>。ソマで<切り>つけると狸だった。それで狸のしわざと<分かった>。

 死体がひとりでに動くので不気味に思ったところ、狸の仕業であった……という内容です。

 発想の飛躍は狸が死体を操ることでしょうか。木挽き―死人―狸という図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.302-303.

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2022年9月27日 (火)

「空」の塔婆――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔あるところに大変貧乏な親子がいた。父親が死んだが、貧乏なので法事をすることができなかった。ある夕方、坊さんが一夜泊めてくれと言ってきた。息子は自分は親父が死んでも法事もよくできない程で、あなたを泊めても食べさせるご飯もないと言った。坊さんはそれなら今晩泊めてくれ、そうしたら親父さんの法事をしてやろうと言った。息子はたいそう喜んで坊さんを泊め、食べさせるものがないので、自分の粗末な食べ物を食べさせた。坊さんはそれで結構と言って夕飯を済ますと、何でもよいから木を一本削ってこいと言った。息子は一本の木を鉋(かんな)できれいに削ってくると、坊さんは筆を出して塔婆にして字を書いて、お経を読んでくれた。坊さんは朝出るときこれを墓へ持っていって立てなさいと言ってどこへともなく行ってしまった。するとそこへ友達がやって来た。息子が昨夜坊さんが来て法事をしてもらったと言って塔婆を出して見せた。友達は手にとって見ていたが、お前、坊さんにお布施をあげなかっただろうと言った。金がないからあげなかったと言うと、そうだろう、塔婆には悪口が書いてあると言って塔婆の字を読んで聞かせた。それには「斎(とき)ばかり布施はなにわの白塔婆 手向けに書くぞ 空の一字を」として「空」という字が一字書いてあった。息子はそれを聞くと腹を立てて、塔婆は裏の小川に投げた。その晩息子が寝ていると、父親が夢枕に立って、あの塔婆のおかげで自分は成仏した。塔婆は井手にかかっているから拾ってきて立ててくれと言った。息子があくる朝小川を探していくと、塔婆は少し川下の井手にかかっていたので大事に拾って帰って、父親の墓に立てた。

◆モチーフ分析

・貧乏な親子がいた
・父親が死んだが貧乏なので法事をすることができなかった
・ある夕方、坊さんが一夜泊めてくれと言ってきた
・息子は法事もできない程貧しく、食べさせるご飯もないと断った
・坊さんはそれなら親父さんの法事をしてやろうと言った
・息子は喜んで坊さんを泊め、自分の粗末な食べ物を与えた
・坊さんはそれで結構と夕飯を済ませると、木を一本削ってこいと言った
・息子が鉋で木を削ってくると、坊さんはそれを塔婆にしてお経を読んだ
・坊さんは塔婆を墓へ持っていって立てなさいと言って、どこへともなく行ってしまった
・友達がやって来て、息子は塔婆を見せた
・友達は塔婆に悪口が書いてあるといって読んできかせた
・歌が一首と「空」の一字が書いてあった
・腹をたてた息子は塔婆を裏の小川に投げた
・その晩息子が寝ていると父親が夢枕に立った
・父親は塔婆のおかげで自分は成仏できた。塔婆を拾ってきて立ててくれと言った
・明くる朝、息子は小川を探すと塔婆は川下の井手にかかっていた
・息子は塔婆を大事に拾って帰って父親の墓に立てた

 形態素解析すると、
名詞:塔婆 息子 坊さん 父親 それ 法事 1 友達 墓 小川 木 自分 おかげ お経 こと ご飯 どこ 一夜 一字 井手 夕方 夕飯 夢枕 大事 川下 悪口 成仏 明くる朝 晩 歌 程 空 粗末 腹 裏 親子 親父 鉋 食べ物
動詞:言う する 立てる できる 削る 拾う 書く 泊める 読む いく いる かかる きく たてる やって来る 与える 寝る 帰る 投げる 持っていく 探す 断る 死ぬ 済ませる 立つ 行く 見せる 食べる
形容詞:ない 貧しい
形容動詞:貧乏
副詞:喜んで 結構

息子/坊さん、息子/友達の構図です。坊さん―父親/塔婆―息子、息子―塔婆―友達の図式です。

 貧しいため父親の法事も<あげ>られなかった息子だったが、一夜の宿を<求めた>坊さんに法事を<あげて>もらう。塔婆を<受け取った>息子だが、友達が悪口が<書いて>あると<教える>。塔婆を<捨てた>息子だったが、父親が枕元に<現れた>。息子は塔婆を<探し>墓に<立てた>。

 坊さんから貰った塔婆を怒りで捨てた息子だったが、塔婆のおかげで父が成仏できたと知り、塔婆を探して墓に立てた……というお話。「空」の一字で父親は成仏できたということでしょうか。

 発想の飛躍は塔婆に悪口が書いてあるとしたところでしょうか。友達―悪口/塔婆―息子の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.300-301.

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2022年9月26日 (月)

河野十内――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、鍋石に河野十内(こうのじゅうない)という力の強い人がいた。これは天狗に力を授かったものと言うことで、向う倍力と言ってどんな力の強い人が来ても十内はその倍の力がでるのだった。あるとき大阪から三人の力持ちが十内と力比べをしようと言ってやって来た。ちょうど十内は留守で奥さんが一人留守番をしていた。力持ちは十内が留守だということを聞くと、玄関に腰を下ろして休んでいた。すると、そこに曲がった大きな鉄の棒が立てかけてあった。奥さんは旦那さまと言ったら杖を曲げておいてと独り言を言いながら手でつるつるとしごいた。すると曲がっていた棒は何のこともなくまっすぐになった。三人の力持ちはそれを見て、おかみさんさえあの通りなら、主人はとてえも我々の及ぶところではないと言ってこそこそと逃げ帰った。十内はもとよのみやという家に住んでいたが、家を普請する時、奥さんは青竹をすこいで縄のようにして、竹の節がめきめきと割れるのを差し出すと、十内はそれで屋中竹を縛りつけたと言うことで、近年まで竹で縛った屋中竹が残っていたという。昔、芸州の八幡(やはた)では毎年広島へ萱(かや)を年貢の代わりに納めていた。十内は、お前たちは萱を丈夫な輪をもって荷造りしておけ、自分が一荷に負うていってやると言った。皆は十内のいう通りにしたが、中に一人、とても手に合うまいと思って、そのおいこ縄(背負う縄)を自分の家の柱に引っかけておいた。十内は道中の村々に何月何日河野十内が萱を負うて出るから用心しておれとふれをしておいた。その日になると、十内は八幡中で納める萱を一まとめにして、ごっそごっそ負うて出たので、道ばたの木や小屋などは皆箒で撫でたように倒れ、おいこ縄を家の柱に結わいつけておいた家は家ごとどんどん引きずって広島の町へ出たので、広島の町も大変痛んだ。それから広島へ萱を出すことは止めになった。漁山(いさりやま)の浅間(せんげん)さんの足ガ鞍(くら)にはうわばみがいた。ある日十内はうわばみ退治に出かけた。すると大きな木が倒れていたので、それに腰をかけて休んでいた。十内は鉄砲を足先にかけていたが、小さな蛇が指先を舐めていると思っていたところ、いつの間にか膝まで呑んでいた。そこで十内はドカンと一発鉄砲を口の中へ撃ち込んだので、うわばみは一発で死んでしまった。うわばみの死骸の下には白銀の花が咲くといって、下の土まで人が金を出して買って帰ったという。あるとき百姓がとりのすで堆肥を一荷ずつ負うていくのを見て十内は自分が蹴散らしてやろうといって足で田毎に蹴散らしてやった。ところが十内の力はその時から無くなってしまった。堆肥は不浄の物だから、それを天狗が嫌って力を取り上げてしまったのだった。

◆モチーフ分析

・鍋石に河野十内という力持ちがいた
・天狗に力を授かったもので、どんな力の強い人が来ても十内はその倍の力がでる
・大阪から三人の力持ちが十内と力比べするためにやって来た
・十内は留守で奥さんが一人で留守番していた
・力持ちは十内が留守だというので、玄関で休んだ
・奥さんが曲がった鉄の棒をしごいてまっすぐにさせた
・三人の力持ちが奥さんでこうなら主人はとても力の及ぶところでないと逃げ帰る
・芸州の八幡では毎年広島へ萱を年貢に納めていた
・十内は自分が一荷で負うてやると言った
・一人、おいこ縄を自分の家の柱に引っかけておいた
・十内は何月何日に萱を負うて出るから用心せよとふれを出した
・その日になると十内は八幡中で納める萱を一まとめにして、ごっそり負うて出た
・道ばたの木や小屋は萱で撫でられたように倒れた
・縄を家の柱に結わえていた家は家ごと引きずられた
・広島の町も痛んで、広島へ萱を出すのは止めになった
・漁山の浅間さんにうわばみがいて、十内はそれを退治に出かけた
・小さな蛇が指先を舐めていると思ったら、いつの間にか膝まで呑まれていた
・十内は鉄砲を蛇の口の中に撃ち込んだので、うわばみは一発で死んだ
・百姓が堆肥を一荷ずつ負うていくので、十内が自分がやろうと言って、足で田毎に蹴散らしてやった
・十内の力はその時から無くなってしまった
・堆肥は不浄のものだから、天狗が嫌って力を取り上げてしまったのだった

 形態素解析すると、
名詞:十内 力 萱 力持ち 家 一 奥さん 広島 自分 三 うわばみ もの 一人 八幡 堆肥 天狗 柱 留守 縄 蛇 それ ため ところ まっすぐ 一まとめ 不浄 中 主人 人 何日 何月 倍 力比べ 口 大阪 小屋 年貢 指先 日 時 木 棒 毎年 河野 浅間 漁山 玄関 用心 田毎 町 留守番 百姓 膝 芸州 足 退治 道ばた 鉄 鉄砲 鍋石
動詞:負う する いう いる なる 出す 出る 納める 言う 蹴散らす いく しごく でる ふれる やって来る やる 休む 倒れる 出かける 及ぶ 取り上げる 呑む 嫌う 帰る 引きずる 引っかける 思う 授かる 撃ち込む 撫でる 曲がる 来る 止める 死ぬ 無くなる 痛む 結わえる 舐める 逃げる
形容詞:ない 強い
形容動詞:どんな
副詞:いつの間にか こう ごっそり とても

 十内/力持ち、十内/うわばみといった構図です。天狗―力―十内、奥さん―鉄の棒―力持ち、十内―力―萱、十内―鉄砲―うわばみ、十内―(蹴散らす)―堆肥といった図式です。

 鍋石に河野十内という力持ちが<いた>。その奥さんですら曲がった鉄の棒を<撫でて>真っ直ぐに<する>程だった。また、十内は八幡中の萱を一人で<負うて>広島まで<納め>に<いった>。また、十内は漁山のうわばみを<退治>した。十内は堆肥を田毎に<蹴散らし>て<撒いた>が、不浄のものに<触れた>ので天狗から力を<取り上げられて>しまった。

 十内は天狗から怪力を授かって様々なことで力を発揮したが不浄のものに触れて力を失ってしまった……という内容です。

 発想の飛躍は不浄のものに触れて十内が力を失うことでしょうか。十内―不浄/力―天狗という図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.297-299.

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2022年9月25日 (日)

猫やだけし――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、たいへん身上のよい家があった。その家は旦那さんと奥さんが痩せ猫を一匹飼っていた。旦那さんはその猫をとても可愛がっていたが、奥さんは猫が嫌いで何かといえばいじめていた。ある日、奥さんが魚を買っておいたところ、猫がそれを見つけて取って食べた。それを見た奥さんは傍にあった庖丁(ほうちょう)を投げつけた。庖丁は猫の目に当たったので猫は鳴きながら逃げた。旦那さんは魚は昔から猫の好くものだから、しまっておかないと猫が喰うと言った。猫はそのままどこへ行ったものか、とうとう帰ってこなかった。それから何日か経って、旦那さんは旅に出かけた。途中道に迷って山の中へ入ったが、その内とうとう日が暮れてしまった。家がないので困ってとぼとぼ行く内に向こうに火が見えてきたので喜んで行ってみると一軒の家があった。そこで道に迷った旨伝えて泊めてくれるよう頼むと、中から白髪のお爺さんとお婆さんが出てきて快く泊めてくれた。奥の一間で寝ていると、夜中頃になって人がぞろぞろ集まってきた。そして口々に今晩はお客さんがあるそうで結構でございますと挨拶するので旦那さんは気味が悪くなってきた。すると障子が開いて、一番しまいにやってきた手拭いを被った女の人が入ってきて旦那さんの顔をじっと見ていた。その内にだんだん夜が更けて皆寝てしまった。すると手拭いを被っていた女が旦那さんと言って小さな声で旦那さんを揺り起こした。目を覚ますと、私は旦那さんに小さい時から可愛がって頂いた猫です。ここは猫やだけしと言って猫の家です。今皆があなたを食べる相談をしているところですから一時も早く逃げて下さい。ここから家まで八里ほどありますが、私が連れて出てあげます。私の背中に負われてくださいと言った。旦那さんは驚いて猫の背中に負われた。猫は一生懸命に走って、ようやく家の近くまで来た。そして、ここからはすぐ家ですからお帰り下さい。私は帰ると他の猫から殺されますからこの松の木へ登って死にますと言った。旦那さんはどうもありがとうと言って別れて家へ帰った。そして明くる朝早く松の木の下へ行ってみると猫が木から落ちて死んでいた。よく見ると片目が潰れていたので旦那さんのところにいた猫だと分かった。

◆モチーフ分析

・身上のよい家があった
・その家では旦那さんと奥さんが痩せ猫を一匹飼っていた
・旦那さんは猫を可愛がっていたが、奥さんは猫が嫌いでいじめていた
・奥さんが魚を買っておいたところ、猫が取って食べてしまった
・奥さんは庖丁を投げつけ、猫の目に当たった
・旦那さんは魚は昔から猫の好くものだから、しまっておかなければ猫が食うと言った。
・猫はどこへ行ったものか、帰ってこなかった
・何日か経って旦那さんが旅に出かけた
・途中、道に迷って山の中へ入った
・日が暮れてしまった
・灯りが見えたので行ってみると一軒の家があった
・旦那さんが泊めてくれるよう頼むと、白髪の爺さんと婆さんが出てきて快く泊めてくれた
・奥の一間で寝ていると、夜中頃になって人がぞろぞろ集まってきた
・口々に今晩はお客さんがあることで結構でございますと挨拶した
・気味が悪くなった旦那さんだったが、最後にやってきた手拭いを被った女が入ってきて旦那さんの顔をじっと見ていた
・夜が更けてきて皆寝てしまった
・手拭いを被った女が旦那さんを揺り起こした
・自分は小さい時から可愛がってもらった猫であると言った
・ここは「猫やだけし」と言って猫の家であると言った
・今皆があなたを食べる相談をしているから一時も早く逃げなさいと言う
・ここから家まで八里ほどあるが、自分が連れて出てあると言う
・驚いた旦那さんは猫の背中に負われた
・猫は一生懸命に走って、ようやく家の近くまで来た
・猫は自分は帰ると他の猫から殺されるから、松の木に登って死ぬと言った
・旦那さんは感謝して猫と別れて家へ帰った
・明くる朝、松の木の下へ行ってみると、猫が木から落ちて死んでいた
・片目が潰れていたので、旦那さんのところにいた猫だと分かった

 形態素解析すると、
名詞:猫 旦那 家 奥さん 自分 一 ここ ところ もの 女 手拭い 松の木 皆 魚 あなた お客さん こと どこ 一生懸命 一軒 一間 下 中 人 今 今晩 他 何日 八里 口々 夜 夜中 奥 婆さん 嫌い 山 庖丁 感謝 挨拶 旅 日 明くる朝 昔 時 最後 木 気味 爺さん 片目 猫の目 白髪 相談 結構 背中 身上 近く 途中 道 顔
動詞:言う ある 帰る 行く する 入る 出る 寝る 死ぬ 泊める 被る 食べる いじめる いる ござる しまう なる やる 出かける 分かつ 別れる 取る 好く 当たる 投げつける 揺り起こす 暮れる 更ける 来る 殺す 潰れる 灯る 痩せる 登る 経つ 落ちる 見える 見る 負う 買う 走る 迷う 逃げる 連れる 集まる 頼む 食う 飼う 驚く
形容詞:可愛い よい 小さい 快い 悪い 早い
副詞:じっと ぞろぞろ ようやく

 猫/旦那の構図です。奥さん―庖丁/魚―猫―旦那の図式でお話は始まります。女=猫―旦那―爺さん/婆さん=猫という図式でもあります。抽象化すると、人間/動物の構図です。

 猫が魚を<とって>しまったので奥さんが庖丁を<投げ>つけ猫の片目が<潰れる>。旅に<出た>旦那だったが道に<迷い>一夜の宿を<とる>。そこは猫の屋敷で<喰われ>そうになった旦那は猫の化身の女に<連れ>られて<脱出>する。

 猫の屋敷に宿をとって喰われそうになった旦那だが可愛がっていた猫が手引きしてくれ無事脱出した……という内容です。

 発想の飛躍は「猫やだけし」でしょうか。女=猫―旦那―爺さん婆さん=猫という図式になります。猫もヒトをとって食う話があるという事例です。主人公である旦那は日常→非日常→日常へと還るのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.294-296.

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観光学必読の書――ジョン・アーリ/ヨーナス・ラースン「観光のまなざし」

ジョン・アーリ/ヨーナス・ラースン「観光のまなざし (増補改訂版)」を読む。初版は1990年に出されたそうで、増補改訂版が出版されたのは2011年とある。なので、Web2.0といった情報通信面での革命的進化についても触れられている。

本書の「まなざし」はフーコーの議論を援用したものとのこと。観光においては見る/見られる関係にある。観る価値があるものなのかの価値判断も伴う。

当ブログ的には第七章の写真論と第八章のパフォーマンス論が参考になるか。例えば島根県浜田市の三宮神社では神社の拝殿を舞台にして観光神楽を上演している。日常と観光との間の分化が溶融しているとも言える。

パッケージ・ツアーの発明とカメラの発明が共に1840年代だったというのも興味深い。

最終章の予測は化石燃料が枯渇して旅行が近代以前に戻ってしまうという最悪のシナリオを想定している。自分が生きている内にはそこまで行かないだろうけど、それ以降の世代だとそうなるかもしれない。

本書は観光学の理論書として必読の本と言えるだろう。

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2022年9月24日 (土)

予見性――オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」を読む。翻訳ものにしては訳がこなれていて読みやすかった。とはいえ簡単な内容ではなかった。実際に読んでみて感じるのは第一次大戦と第二次大戦との狭間にあって、ヨーロッパの将来をよく予見していることである。透徹した思考の持ち主だったのだろう。

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茗荷――モチーフ分析

◆あらすじ

 ある夕方に金持ちのお客が宿屋へ着いた。お客は沢山の金を持っていたので、これを亭主に預けた。亭主は茗荷をたくさん食べると物を忘れるということを聞いていたので、あちらこちらで茗荷を買い集めて、そのお客にご馳走した。お客はまた大の茗荷好きであったので、出した茗荷をみんな食べた。あくる朝、亭主はお客が預けた金を忘れてたつと良いがとそればかり祈っていた。ところが、お客は旅支度を済ますと、たいへんお世話になりました。では預けておいたお金を頂きましょうと言ったので、仕方なく出して渡した。亭主はあんなに沢山茗荷を食べさせたのだから何か忘れるはずだがと思って気をつけていたが、お客は何一つ忘れるものもなく、皆持って出ていった。亭主はすっかり当てが外れたので嫌な顔をして帳場の机にもたれている内についうとうとと眠ってしまった。昼前になって目を覚まし、皆の者、さっきのお客は大きな忘れ物をしたでと言った。皆はびっくりして預けた金を忘れていったのかと訊くと、宿賃を払うのを忘れていってしまったと言ったが、もう後の祭りだった。

◆モチーフ分析

・ある夕方、金持ちの客が宿屋へ着いた
・客は沢山の金を亭主に預けた
・亭主は茗荷をたくさん食べると物を忘れるというので、あちこちで茗荷を買い集めて客にご馳走した
・客は茗荷好きだったので、出した茗荷をみんな食べた
・あくる朝、亭主は客が預けた金を忘れてたつと良いがと祈っていた
・ところが客は旅支度を済ませると、では預けておいたお金を頂きましょうと言ったので、仕方なく出して渡した
・亭主はあんなに沢山茗荷を食べさせたのだから何か忘れるはずだと思って気をつけていたが、客は何一つ忘れるものなく、皆持って出ていった
・当てが外れた亭主は嫌な顔をして帳場の机にもたれえうとうと眠ってしまった
・昼前になって目を覚まし、皆の者、さっきのお客は大きな忘れ物をしたと言った
・皆びっくりして預けた金を忘れていったのかと訊くと、宿賃を払うのを忘れていってしまったと言った
・後の祭りだった

 形態素解析すると、
名詞:客 亭主 茗荷 皆 金 沢山 あくる朝 あちこち お客 お金 ご馳走 さっき たくさん たつ はず びっくり みんな もの 夕方 宿屋 宿賃 帳場 後の祭り 忘れ物 旅支度 昼前 机 気 物 目 者 金持ち 顔
動詞:忘れる 預ける 言う 食べる する 出す いう いく つける なる もたれる 出る 外れる 当てる 思う 払う 持つ 済ませる 渡す 眠る 着く 祈る 覚ます 訊く 買い集める 頂く
形容詞:ない 仕方ない 良い
形容動詞:あんな 嫌
副詞:うとうと 何か 何一つ

 客/亭主の構図です。客―茗荷(忘れる)―亭主、客―金―亭主という図式です。

 宿に<泊まった>お客が沢山の金を亭主に<預けた>。亭主は茗荷を沢山<食べる>とと<物忘れする>というので茗荷を沢山お客に<食べさせ>る。明くる朝、客は<旅支度>をすると預けていた金を<返して>もらい<出て>いった。当てが<外れた>亭主は帳場で<うとうと>してしまうが、お客が宿賃を<払う>のを<忘れて>いたことに<気づいた>。

 大金を預けた客に預けたことを忘れさせようと亭主は茗荷を食べさせるが、客は宿賃を払うのを忘れてしまった……という内容です。

 発想の飛躍は茗荷を食べると物忘れするということでしょうか。客―茗荷(忘れる)―亭主という図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.292-293.

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2022年9月23日 (金)

鼻かけそうめん――モチーフ分析

◆あらすじ

 馬鹿聟が姑の家へ初めて呼ばれていった。姑の家ではそうめんをご馳走することにした。聟が見ていると、姑がそうめんが湯だったか箸に一本引っかけて頃合いを見ようとすると、つい鼻の上に落ちた。それを指で落として口に入れたので聟はそうめんはああして食べるものかと思った。そうめんのご馳走が出たので、一本すくい上げては鼻の上にのせ、それを口にかき込んで長い時間をかけて食べました。夕飯も済んだので、明日の朝はテウチ(手打ち:蕎麦)にしようか半殺し(ぼたもち)にしようかと相談されたので、聟はいつも女房を大事にしているのに、初めて来てテウチにされては困ると思って半殺しを望んでおいた。それから疲れたろうと蚊帳(かや)を吊って屏風を立てて床を敷いてお休みと言われた。聟が蚊帳の中に飛び込むと、屏風がくるりと廻った。屏風を右に回すと左があき、左へ廻すと右があいた。今度はまた蚊帳の中へ飛び込んで、また出て屏風を廻している内に夜が明けた。聟は朝は半殺しをするに違いない。昨夜も寝ずに廻り屏風に飛び込み蚊帳に、今朝は半殺しとは情けないと思って二階の庇(ひさし)に小さくなって隠れていた。姑は聟が寝床にいないので、どこへ行ったかと思って戸を開けると聟は庇に小さくなってガタガタ震えていた。そして半殺しはこらえてくださいと細い声で泣きながらいったので、そんなに嫌いなら食べなくてもよいと優しく言われて聟はようやく家へ入った。聟に昨夜はよく寝られたか姑が言うと、眠るどころか鼻かけそうめんに油をとられ、廻り屏風に引きずられ、蚊帳に出たり入ったり、半殺しは気にかかるし、眠れなかったと言ったので姑は何が何やらさっぱり分からない。娘よ、何か聞いてみよ。昔の者とは違うし、田舎にもこんな分からず屋がいるか。子供よりまだ酷いと姑が言ったので、女房が優しく尋ねると、来るまいと思っていたのに無理に行ってくれと連れてきて、鼻かけそうめんに油をとられ、廻り屏風に引きずられ、蚊帳に出たり入ったり、今朝は半殺しと言われたり、自分はこんな難儀とは知らずに寝ておられようか。思えば早く去(い)にたくて庇の上に出て下ばかり見て夜を明かした。お前は親と組んで下の方から笑ったり、自分はおる気がしなかったと言って泣いた。それで女房も全く呆れて、それきり離縁してしまった。

◆モチーフ分析

・馬鹿聟が姑の家へ初めて呼ばれていった
・そうめんをご馳走することになり、姑がそうめんが湯だったが箸に一本引っかけて頃合いを見ようとすると鼻の上に落ちた
・姑はそれを指で落として口に入れたので、聟はそうめんはああして食べるものかと思った
・そうめんのご馳走が出たので、すくい上げては鼻にのせ、それを口にかき込んで長い時間をかけて食べた
・夕飯が済んだので明日の朝は手打ち(蕎麦)にするか半殺し(ぼたもち)にするか相談されたので、聟はいつも女房を大事にしているのに初めて来て手打ちにされては困ると思い半殺しを望んだ
・それから蚊帳を吊って屏風を立てて床を敷いてお休みと言われた
・聟が蚊帳の中に飛び込むと屏風がくるりと廻った
・それを繰り返している内に夜が明けた
・聟は朝は半殺しにするに違いない。昨夜は寝ずに今朝は半殺しとは情けないと思って二階の庇に小さくなって隠れていた
・姑は聟が寝床にいないので、どこに行ったかと思って戸を開けると聟は庇に小さくなってガタガタ震えていた
・そして半殺しはこらえてくださいと細い声で泣きながら言ったので、そんなに嫌いなら食べなくともよいと優しく言われた
・昨夜はよく寝られたか姑が訊くと、眠るどころか鼻かけそうめんに廻り屏風、半殺しは気にかかるしで眠れなかったと答えた
・姑は何が何やらさっぱり分からない。田舎にもこんな分からず屋がいるか、子供より酷いと言った
・女房が優しく尋ねると、来るまいと思っていたのに無理に行ってくれと連れてきて鼻かけそうめん、廻り屏風に半殺し、こんな難儀に寝ておられようか、早く去にたくて庇の上に出て下ばかる見て夜を明かした。お前は親と組んで下の方から笑ったりで自分はおる気がしなかったと言って泣いた
・女房も全く呆れて、それきり離縁してしまった

 形態素解析すると、
名詞:半殺し 聟 そうめん 姑 屏風 鼻 それ 女房 庇 かけ ご馳走 上 下 口 夜 手打ち 昨夜 朝 気 蚊帳 一 二 お休み お前 くるり こと どこ ばか ぼたもち もの 中 今朝 何 内 分からず屋 声 夕飯 大事 嫌い 子供 家 寝床 床 戸 指 方 明日 時間 湯 田舎 相談 箸 自分 蕎麦 親 離縁 難儀 頃合い 馬鹿
動詞:する 思う 言う 寝る 廻る 食べる いる 出る 来る 泣く 眠る 行く 見る おる かかる かき込む かける こらえる すくい上げる なる のせる 入れる 分かる 去る 吊る 呆れる 呼ぶ 困る 尋ねる 引っかける 敷く 明かす 明ける 望む 済む 立てる 笑う 答える 組む 繰り返す 落ちる 落とす 訊く 連れる 開ける 隠れる 震える 飛び込む
形容詞:優しい 小さい よい 情けない 早い 細い 違いない 酷い 長い
形容動詞:こんな 無理
副詞:初めて ああ いつも さっぱり それきり そんなに よく ガタガタ 何やら 全く

 女房/聟/姑の構図です。聟―そうめん―鼻―姑、半殺し―聟―手打ち、屏風―聟―蚊帳といった図式です。登場人物を抽象化すると主人公(聟)とその家族(女房、姑)です。

 馬鹿な聟は姑の家に<呼ばれ>た。そうめんを<ご馳走>することになったが、聟は姑がやった通りに<真似て><食べる>。就寝時に蚊帳と屏風を<用意され>たが、廻り屏風に気を<取られて><眠れない>。朝は半殺しだと<言われ>たのを<思い出し>て庇に<隠れる>。様子を<伺った>姑と嫁だったが、聟のあまりの馬鹿さに<離縁>してしまった。

 馬鹿な聟が姑の家に呼ばれて頓珍漢な行為を繰り返す。大丈夫か訊いた姑と女房だったが、聟の馬鹿さに離縁する……という内容です。

 発想の飛躍は聟の馬鹿さ加減でしょうか。聟―そうめん―鼻―姑、半殺し―聟―手打ち、屏風―聟―蚊帳といった図式です。聟は日常から非日常に入り、そこで唐突に打ち切りされてしまいます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.289-291.

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2022年9月22日 (木)

舌切雀――モチーフ分析

◆あらすじ

 正直な爺さんと欲の深い婆さんがいた。爺さんは一羽の雀(すずめ)を可愛がって買っていた。いつも山に行くときには、雀や雀、行ってくると我が子に言うように別れをして行った。ある日婆さんは糊(のり)を煮ておいて川へ洗濯に行った。その留守に雀は糊をみんな食べてしまった。婆さんは帰ってみると糊がないので腹をたてて雀の舌を切って追い出した。爺さんは山から帰って今帰ったと何遍も呼んだが、雀の姿が見えないので婆さんに訊くと、婆さんは糊を全部食べてしまったので腹がたったから舌を切り取って追い出したと言った。爺さんは可哀想なことをした言って泣きながら舌切雀、舌切雀と言って山へ雀を訪ねに出かけた。すると馬を洗っている男がいたので、ここを舌切雀が通らなかったか尋ねると、馬を洗った汁を馬桶にいっぱい飲んだら舌切雀の行った方角を教えてあげると言った。爺さんは馬を洗った汁など何でもないと言って、その汁をガブガブ飲んだ。馬洗いは向こうの藪へ行ったと教えた。爺さんは藪へ行って探したがいないので、また山を越えて先へ進んでいった。すると谷川の傍で牛を洗かっている男がいたので、ここを舌切雀が通らなかったか尋ねると、牛洗いは牛を洗った汁を牛桶にいっぱい飲んだら教えてあげると言った。爺さんは牛を洗った汁くらい何でもないと言ってその汁を飲んだので、牛洗いはこの曽根を下りて向こうの竹藪でタラタラ血を流した雀がいると教えてくれた。爺さんは喜んで、雀、お宿はどこだと訪ねていった。すると雀は口から血をたらしながら、お爺さんおいで、こちらでござると言って雀の宿へ案内した。そしてお茶やお菓子、色々とご馳走を出して、しまいに土産につづらをあげると言って重いつづらと軽いつづらを出した。爺さんは年をとったから軽い方がよいと言って小さいつづらを貰って帰った。婆さんはそれを見ると、長らく置いた雀だから、自分も行ったらつづらをくれるだろうと訪ねていった。途中婆さんはつづらが欲しいばかりに馬の洗い汁を馬桶にいっぱい、牛の洗い汁を牛桶にいっぱい飲んで雀の所へ行った。雀は婆さんを見ると、婆さん舌を切られて苦しい。今度あなたの傍へ寄ったら、羽でも切られてしまうかもしれないと言ってとりあわない。わざわざ訪ねてきた婆さんは雀のご馳走も食べられず、馬の洗い汁と牛の洗い汁で腹をだぶだぶさせながら、ようやく重いつづらを見つけ出し、これこれと言って取り上げて背負って帰った。早速開けてみると、中には汚いスズや茶碗のかけらに蛙や蛇の骨ばかり。宝どころか命が助かったのが何よりであった。しかし、悪いことをした婆さんはそれから病気になって死んでしまった。

◆モチーフ分析

・正直な爺さんと欲の深い婆さんがいた
・爺さんは一羽の雀を可愛がって飼っていた
・ある日婆さんが糊を煮ておいて川に洗濯に行くと、雀が糊を全部食べてしまった
・腹をたてた婆さんは雀の舌を切って追い出した
・爺さんが山から帰って何度呼んでも姿が見えないので、婆さんに訊くと舌を切って追い出したと言う
・爺さんは可哀想なことをしたと言って山へ雀を訪ねに出かけた
・馬を洗っている男に訊くと、馬を洗った汁を桶にいっぱい飲めば教えてやると言われる
・爺さんそんなことは何でもないと言って、汁をガブガブ飲んだ
・教えられた通り向こうの藪へ行ったがいないので、また山を越えて先へと進んだ
・牛を洗っている男に訊くと、牛を洗った汁を桶いっぱいに飲んだら教えてやろうと言われる
・爺さんはそれくらい何でもないと牛を洗った汁を飲んだ
・牛洗いに教えてもらった通りに向こうの竹藪に行くと、タラタラ血を流した雀がいて雀の宿へ案内した
・色々とご馳走をふるまわれ、土産につづらをあげると言われた
・雀は重いつづらと軽いつづらを出した
・爺さんは年をとったから軽い方がよいと小さいつづらを貰って帰った
・それを見た婆さんは長らく置いた雀だから自分も行ったらつづらをくれるとだろうと訪ねていった
・婆さんは馬の洗い汁と牛の洗い汁を飲んで雀の所へ行った
・雀は今度あなたの傍へ寄ったら羽を切られてしまうかもしれないと取り合わない
・婆さんは腹をだぶだぶさせながら重いつづらを見つけ出して背負って帰った
・つづらを開けてみるとスズや茶碗のかけらに蛙や蛇の骨ばかりであった
・宝どころか命が助かったのが何よりだった
・悪いことをした婆さんはそれから病気になって死んでしまった

 形態素解析すると、
名詞:雀 婆さん つづら 爺さん 牛 汁 こと 山 馬 それ 向こう 桶 男 糊 腹 舌 通り あなた いっぱい かけら ご馳走 それくらい スズ 一羽 今度 何より 何度 傍 先 可哀想 命 土産 姿 宝 宿 川 年 所 方 案内 欲 正直 洗濯 病気 竹藪 羽 自分 色々 茶碗 藪 蛇 蛙 血 骨
動詞:洗う 言う 行く 飲む 教える いる する 切る 帰る 訊く 訪ねる 追い出す あげる くれる しれる たてる とる なる ふるまう 出かける 出す 助かる 取り合う 呼ぶ 寄る 死ぬ 流す 煮る 置く 背負ってる 見える 見つけ出す 見る 貰う 越える 進む 開ける 食べる 飼う
形容詞:何でもない 軽い 重い よい 可愛い 小さい 悪い 深い
形容動詞:そんな
副詞:ある日 いっぱい だぶだぶ また ガブガブ タラタラ 全部 長らく

 お爺さん/雀/お婆さんという構図です。お婆さん―舌(切る)―雀、お爺さん―つづら―雀という図式です。人間/動物の構図でもあります。

 糊を<食べて>しまったことに腹を<たてた>お婆さんは雀の舌を<切って><追放>してしまう。雀の宿を<訪ねた>爺さんは<もてなされ>、土産に軽いつづらを<貰う>。重いつづらを<得よう>とした婆さんだったが、中身はきたないものだった。

 軽いつづらを持って帰ってきた爺さんの真似をして重いつづらを持って帰った婆さんだったが中身はきたないものだった……という内容です。

 発想の飛躍は雀の舌を切ってしまうことでしょうか。お婆さん―舌(切る)―雀の図式です。お爺さんを主人公とすると、欲の深い婆さんは模倣者というところでしょうか。雀は贈与者となります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.285-288.

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2022年9月21日 (水)

桃太郎――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔々、お爺さんとお婆さんがいた。二人の間には子供がなかったので、毎朝神さまに子供を授けてくださいと祈っていた。そうする内に一年過ぎ、二年過ぎた。ある日、お爺さんとお婆さんがいつものように神さまに祈っていると、どこからともなく、ここより北へ北へと進む内に大きな川の渕に出る。そこに大きな桃の木があって桃がなっているが、その中に一つ大きな桃がある。それを川へ落とさないように取って割ると子供が出るという声が聞こえてきた。お爺さんとお婆さんは喜んで、早速北へ北へと歩いて行った。しばらくすると大きな川があって、ほとりに大きな桃の木があった。桃が沢山なっていて、中に一つ大きな桃があった。お爺さんが木へ登って、桃を取ろうとすると枝が折れて、桃は川の中へ落ちて流れていったので、お爺さんとお婆さんはがっかりして家へ帰った。それからしばらく経って、ある日お爺さんは山へ木こりに、お婆さんは川へ洗濯に行った。お婆さんが洗濯をしていると、そこへ桃が流れてきた。

◆モチーフ分析

・お爺さんとお婆さんがいた
・二人の間には子供がなかったので、毎朝子供を授けてくださいと神さまに祈っていた
・一年過ぎ、二年が過ぎた
・いつもの様に神さまに祈っていると声がした
・ここから北へ進むと大きな川の渕に出る。そこに大きな桃の木があって桃がなっているという
・その中に一つ大きな桃がある。それを川へ落とさないように取って割ると子供が出るという
・喜んだお爺さんとお婆さんは早速北へ歩いていった
・しばらくすると大きな川があってほとりに大きな桃の木があった
・桃が沢山なっていて、中に一つ大きな桃があった
・お爺さんが木へ登って桃を取ろうとすると枝が折れて、桃は川へ落ちて流れていった
・がっかりしたお爺さんとお婆さんは家へ帰った
・しばらくしてお爺さんは山へ木こりに、お婆さんが川へ洗濯しに行くと、そこへ桃が流れてきた

 形態素解析すると、
名詞:桃 お爺さん 川 お婆さん 子供 木 そこ 一つ 中 北 神 一 二 いつも ここ それ ほとり 二人 声 家 山 木こり 枝 毎朝 洗濯 渕 間
動詞:ある する いう 出る 取る 流れる 祈る いる なる 割る 喜ぶ 帰る 折れる 授ける 歩く 登る 落ちる 落とす 行く 進む 過ぎる
形容詞:ない
形容動詞:沢山
副詞:しばらく がっかり 早速
連体詞:大きな その

 お爺さん/桃/お婆さんの構図です。お爺さん―桃―お婆さんの図式です。抽象化すると、人間/植物です。

 子供がいないお爺さんとお婆さんが神さまに<祈る>と、北の川のほとりに桃の木があって、その中で一番大きな桃を<取れ>とお告げが<あった>。さっそく<取り>に出かけたお爺さんとお婆さんだったが、桃を川に<落として>しまう。がっかりしたお爺さんとお婆さんだったが、後日お婆さんが川で<洗濯して>いると大きな桃が<流れて>きた。

 神さま(贈与者)のお告げで桃の実を取りに出かけたお爺さんとお婆さん(主人公)だったが、川に落としてしまう……という内容です。

 桃太郎の前日譚的お話です。発想の飛躍は大きな桃の木でしょうかお爺さん―桃―お婆さんの図式です。また、お爺さんとお婆さんは子供が欠落していることになります。桃の実で充足されることになります。日常→非日常→日常と還った末に桃が流れてきます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.284.

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2022年9月20日 (火)

山婆――モチーフ分析

◆あらすじ

 三人の子供がいた。お母さんは用事があって町へ行くときに、この辺は山婆の出るところだから気をつけないといけない。山婆はいつもしおから声をして、ざらざらした手をしているから、お母さんだと言っても戸を開けてはいけないと言って聞かせた。三人の子供たちはいくら待ってもお母さんが戻ってこないので、迎えに行こうと出かけた。途中で柿が熟れていたので、それをとって背負って迎えに行った。すると山婆が出てきて、母だよ、今帰ったよ。何を負うてきたかいと言った。よく見るとお母さんとは違うので、お母さんではない。お母さんには顔に七つのあざがあるがお前にはないと言うと、顔に糠(ぬか)がかかって見えないのだと言った。子供たちは本当にしない。本当にしないなら堤へ行って顔を洗ってくると言って、子供たちを堤に連れていき、顔を洗うときに岩の角で顔に傷をつけて、これを見よ。母に違いなかろうと言った。子供たちはなるほどお母さんかも知れないが、あざのつき所が少し違うと言った。わしのお母さんは右の頬に三つ、左の頬に三つ、額に一つあざがある。それなら左の頬の糠がまだ落ちないと言って谷底へ下りて小石を一つつけてきた。その内に日が暮れてしまった。山婆は暗くなったから、ここで一夜寝ようと言って大きな洞穴へ子供たちを連れて入った。どれでも肥えた子供を抱いて寝る。この辺りは山婆が出るから皆わしにすがりついて寝よと言って一番小さい弟を抱いて寝た。夜になって何だかかりかり音がしはじめた。兄は弟を揺り起こして弟の手を引きながら、ちょっと小便に行ってくると言った。山婆がそこにしろと言うと寝小便はできないと言って二人が出ていくと山婆は逃さぬように縄で結わえて、見てやるから待っておれと言った。二人は淋しくないから大丈夫といって出て、縄を松の木に結わえて柄鎌で跡をつけ松の木の上に登った。山婆が早く帰れと言うとはいはいと返事はしても二人は帰らない。出てみると縄は松の木をチクチク引っ張っているのだった。これはしまった。二人を逃したかと言って空を見上げると松の木のてっぺんにいるので、なして下りぬかと言うと、わしはここが好きだと言った。早く降りねば山婆が二人を隠すかもしれない。どうして登ったと訊くと、松の木に油をつけて登ったと一郎が言った。山婆は油を松の木につけて登ろうとしたが、つるつる滑って登られない。そこで若者を沢山呼び出して次から次へ肩へ登らせて子供を捕まえようとしたが、まだ手が届かない。自分はここで見ているから、もっと沢山若者を誘ってこいと言って若者を連れに行かせた。するとそのとき天から綱が下りてきて一郎と二郎がそれに捕まると、綱はするすると上がって二人を谷の向こうへ送りつけた。そこへ若者が沢山来たので次から次へと登らせ、おいそれが一郎だと山婆が怒鳴った。若者が手をかけると、それは一郎の着物ばかりであった。今度は二郎へ手をかけるとそれも着物ばかりであった。若者たちは腹をたて、この大嘘つきめと言って、よってたかって山婆を叩き殺してしまった。

◆モチーフ分析

・三人の子供がいた
・お母さんが用事で町へ行くときに、この辺は山婆が出るから気をつけよ。山婆がお母さんだと言っても戸を開けてはいけないと言って聞かせた
・三人の兄弟たちはいくら待ってもお母さんが戻ってこないので迎えにいこうと出かけた
・山婆が出てきて、母が今帰ったよと言ったが、よく見るとお母さんとは違うので、お母さんには顔に七つのあざがあるがお前にはないと言う
・山婆、顔に糠がかかって見えないのだと言う
・山婆、兄弟たちを堤に連れていき、顔を洗うときに岩の角で傷をつけて、母に違いなかろうと言った
・兄弟たち、あざのつき所が少し違うと答える
・日が暮れてしまい、ここで一夜寝ようと言って洞穴へ兄弟たちを連れていった
・山姥、一番下の弟を抱いて寝る
・夜になってかりかり音がし始めた
・兄は弟を揺り起こして小便に行ってくると言った
・山婆がそこにしろと言うと、寝小便はできないと言って出ていく
・山婆は二人を逃さないように縄で結わえた
・二人は縄を松の木に結わえて松の木の上に登った
・山姥が早く帰れと言うと、はいはいと返事だけして帰らない
・山姥が出ると縄は松の木に結わえられており、空を見上げると二人は松の木のてっぺんにいた
・どうして登ったと山婆が訊くと、松の木に油をつけて登ったと一郎が言った
・山婆は油を松の木につけて登ろうとしたが、つるつる滑って登られない
・山婆、若者を沢山呼び出して、次から次へと肩へ登らせて捕まえようとするが、まだ手が届かない
・山婆、もっと若者を誘ってこいと言って若者を連れに行かせた
・天から綱が下りてきて、一郎と二郎が捕まると、綱はするすると上がって二人を谷の向こうへ送りつけた
・若者が沢山来たので次から次へと登らせ、それが一郎だと山婆が怒鳴った
・若者が手をつけるとそれは一郎の着物だった
・次に二郎へ手をかけると、それも着物ばかりであった
・若者たち、腹をたて、山婆を叩き殺した

 形態素解析すると、
名詞:婆 山 松の木 若者 お母さん 一郎 二人 兄弟 次 それ 山姥 手 縄 顔 三 あざ とき 二郎 弟 母 沢山 油 着物 綱 一 お前 ここ そこ てっぺん はいはい 一夜 七つ 上 今 傷 兄 向こう 堤 夜 子供 寝小便 小便 少し 岩 戸 日 気をつけ 洞穴 用事 町 空 糠 肩 腹 角 谷 辺 返事 音
動詞:言う する 登る つける 出る 帰る 結わえる 行く 連れる いる 寝る 違う ある いく いける かかる かける し始める たてる つく できる なる 上がる 下りる 出かける 叩き殺す 呼び出す 届く 待つ 怒鳴る 戻る 抱く 捕まえる 捕まる 揺り起こす 暮れる 来る 洗う 滑る 答える 聞く 見える 見る 見上げる 訊く 誘う 迎える 送りつける 逃す 開ける
形容詞:ない 早い 違いない
副詞:いくら かりかり つるつる どう まだ もっと よく 天から 次に

 山婆/兄弟の構図です。若者―山婆―下の弟=二郎=一郎―母という図式です。日常→非日常→日常へと還る形態でもあります。

 母の留守中に山婆に<遭遇>して<捕まった>三人の兄弟の内、一郎と二郎は松の木のてっぺんに<逃れる>。山婆は若者たちに肩車を<させて><捕らえよう>とするが上手く<いかない>。若者たちの怒りを<買った>山婆は<叩き殺されて>しまう。

 山婆に捕まった三人の兄弟の内一郎と二郎は松の木に登って難を避ける。跡を追った山婆は若者たちに叩き殺される……という内容です。
 発想の飛躍は山婆が母のふりをすることでしょうか。山婆≒母の外見で兄弟たちを騙そうとするのです。

 三人の兄弟の内、長男が活躍します。一郎と二郎は無事ですが、末の弟、三郎の安否が確認できません。かりかりと音がしたとあるので、山婆に喰われてしまったのかもしれません。

 若者たちが肩車をする場面は千匹狼を連想させます。

 三人兄弟と呼ばれる話型でヨーロッパに広く分布する様です。すると、日本へは書承で入って来たお話かもしれません。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.280-283.
・『民間説話―理論と展開―』上巻(S・トンプソン, 荒木博之, 石原綏代/訳, 社会思想社, 1977)

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2022年9月19日 (月)

蛇聟入り――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔あるところに大きな百姓がいた。ある年酷い日照りで田が干上がり稲も今にも枯れそうになった。そこで百姓は田の近くにある蛇渕へ行ってこの田へ水を当ててくれれば娘が三人いるから一人をやろうと言った。明くる朝起きてみると広い田に水がなみなみと当たっていた。百姓は喜んだが、昨日約束したことを思い出して心配になって寝込んでしまった。すると姉娘が来て起きて茶を飲みなさいと言ったので、田が干上がってしまったから昨日蛇渕へ行って田に水をためてくれたら娘をやろうと言ったら今朝見るとどの田にも水がいっぱい当たっておる。それで娘をやらねばならないことになって心配していると言うと、姉娘はそんな恐ろしいことはできないと言って逃げてしまった。今度は中の娘が来て茶をおあがりと言ったので訳を話すとこれもやれ恐ろしやと言って逃げた。末の娘が来て茶をおあがりなさいと言ったので訳を話すと、それでは私が行きましょうと言った。その晩蛇が迎えに来たので妹娘は頭のまげに針を三本刺して蛇の頭に飛び乗って行った。蛇の家には広い座敷に青畳が敷いてあって、お婆さんが一人いた。お婆さんはようこそと言って喜んだ。ある日お婆さんが嫁に虱(しらみ)をとってくれと言った。嫁はとってあげようと言ってお婆さんの髪を見ると蛇がいっぱいいた。娘は頭に刺していた針を蛇に投げた。お婆さんはあまり気持ちがいいので、お前、国へ帰りたくはないかいと言った。それは帰りとうございますと言うと、それならば息子は天へ昇って今頃帰るから出逢った時にはこれを被ってニャーゴ、ニャーゴと言って道のほとりへ伏せていろと言って猫化けをくれた。嫁はそれを貰って家へ帰ろうと思って道を急いでいると、天から蛇が下りてきたので猫化けを被って道のほとりに伏してニャーゴ、ニャーゴと言っていた。すると蛇はそのまま通り過ぎてしまったので、家へ帰ってお父さんと仲良く暮らした。

◆モチーフ分析

・昔あるところに大きな百姓がいた
・ある年酷い日照りで田が干上がり、稲も枯れそうになった
・百姓は田の近くにある蛇渕へ行き、田に水を当ててくれれば三人の娘の内一人をやろうと言った
・明くる朝起きてみると田に水がなみなみと当たっていた
・喜んだ百姓だったが、昨日約束したことを思い出して心配になって寝込んだ
・姉娘が来て茶を飲むようにいう
・百姓が訳を話すと姉娘はそんな恐ろしいことはできないと逃げてしまう
・中の娘に訳を話すと、これも逃げた
・末の娘に訳を話すと、それでは自分が行こうと言った
・その晩蛇が迎えに来たので妹娘は頭のまげに針を三本刺して、蛇の頭に飛び乗っていった
・蛇の家には広い座敷があり、そこにお婆さんが一人いた
・お婆さんはようこそと言って喜んだ
・ある日お婆さんが嫁に虱をとってくれと言った
・嫁がとってあげようとしてお婆さんの髪を見ると蛇がいっぱいいた
・娘は頭に刺していた針を蛇に投げつける
・お婆さんは気持ちがいいので、お前、国へ帰りたくはないかと言った
・帰りたいというと、息子は天へ昇って今頃帰るから猫化けをくれて、それを被ってニャーゴと言って道のほとりへ伏せる様に言った
・嫁はそれを貰って家へ帰ろうと道を急いでいると、天から蛇が下りてきたので猫化けを被って道のほとりに伏してニャーゴと言うと、蛇はそのまま通り過ぎた
・嫁は実家へ帰って父親と仲良く暮らした

 形態素解析すると、
名詞:娘 蛇 お婆さん 嫁 田 百姓 訳 道 頭 三 こと それ ほとり ニャーゴ 一人 姉 家 水 猫 針 お前 これ そこ ところ なみなみ まげ 中 今頃 内 国 天 妹 実家 年 座敷 息子 日照り 明くる朝 昔 昨日 晩 末 気持ち 父親 稲 約束 自分 茶 虱 蛇渕 近く 髪
動詞:言う 帰る ある いる 話す いう とる 刺す 化ける 喜ぶ 来る 行く 被る 逃げる あげる くれる する できる やる 下りる 伏す 伏せる 寝込む 干上がる 当たる 当てる 思い出す 急ぐ 投げつける 昇る 暮らす 枯れる 見る 貰う 起きる 迎える 通り過ぎる 飛び乗る 飲む
形容詞:いい ない 広い 恐ろしい 酷い
形容動詞:そんな 心配
副詞:ある日 いっぱい そのまま 仲良く 天から

 蛇/百姓/姉娘/中の娘/末の娘の構図です。百姓―田―蛇、蛇―嫁―末の娘、お婆さん―針―嫁、お婆さん―猫化け―嫁といった図式でもあります。人間/動物でもあります。

 枯れた田に水を<当てて>くれたら娘を<やろう>といった百姓は約束を<守ら>なければならなくなる。姉娘、中の娘には<拒否>されたが、末の娘は嫁に<行く>。蛇のお婆さんの髪の虱を<とって>いると、実家に<帰り>たくないかと<訊かれた>ので<帰りたい>と<答える>と猫化けを<くれた>。外出していた蛇が<戻って>きたが猫化けを<被って><やり過ごし>、実家へ<帰った>。

 父の約束を守って蛇の家に嫁に行ったが、そこでお婆さんに気に入られて猫化けを貰い、蛇をやり過ごして実家へ帰る……という内容です。

 発想の飛躍は猫化けでしょうか。お婆さん―猫化け―嫁の図式です。針を三本持っていくので、それで蛇を殺すのかと思いましたが、娘から嫁に呼称が変わったので嫁に行ったものと考えられます。三人の登場人物の内、三人目が活躍する話型でもあります。また、日常から非日常へ、そして日常へ還る話でもあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.277-279.

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2022年9月18日 (日)

三匹の猿――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔ある所に猿の村があった。ある日向こうの猿が三匹連れ立って通った。その中で、一番前の猿はもの言わず、また後の猿ももの言わず、中の猿が一番ものをよく言うので上人さまに褒められた。褒美にいわしを三尾もらった。それを煮て食べても塩辛い、焼いて食べても塩辛い。あんまり塩辛いから水が欲しくなって、前の渕に飛び込んで水をぐうぐう飲んだ。その音があまりに大きくて町へ聞こえた。小笠原の松が三本倒れた。豆腐屋の豆腐が三丁めげた(壊れた)。

◆モチーフ分析

・昔ある所に猿の村があった
・ある日向こうの猿が三匹連れ立って通った
・一番前の猿はもの言わず、後の猿ももの言わず、中の猿が一番よくものを言うので上人さまに褒められた
・褒美にいわしを三尾もらった
・煮て食べても塩辛い、焼いて食べても塩辛い
・あまりに塩辛いので水が欲しくなって前の渕に飛び込んで水をぐうぐう飲んだ
・その音があまりに大きくて町へ聞こえた
・小笠原の松が三本倒れた
・豆腐屋の豆腐が三丁めげた(壊れた)

 形態素解析すると、
名詞:猿 三 前 水 豆腐 いわし もの 三尾 上人 中 向こう 小笠原 後 所 昔 村 松 渕 町 褒美 音
動詞:ある もの言う 食べる めげる もらう 倒れる 壊れる 焼く 煮る 聞こえる 褒める 言う 通る 連れ立つ 飛び込む 飲む
形容詞:塩辛い よい 大きい 欲しい
副詞:あまり 一番 ある日 ぐうぐう

 前の猿/中の猿/後の猿の構図です。猿―いわし―上人の図式でもあります。
 三匹の猿が<連れ立って><通った>。前と後の猿は<もの言わず>、中の猿が一番よく<ものを言った>ので上人さまに<褒められた>。褒美にいわしを<貰った>が塩辛いので水をぐうぐう<飲んだ>。松が三本<倒れて>豆腐が三丁<壊れた>。

 中の猿がよくものを言ったので褒められ、褒美にいわしをもらったが塩辛いので水を飲んだ……という内容です。

 発想の飛躍は中の猿が褒められることでしょうか。中の猿―(褒める)―上人の図式です。

 例えば神話で天照大神、月読命、スサノオ命の三貴神が語られる場合、月読命についての記述が少ない様に、主要な登場人物が三名いる場合、真ん中の登場人物は省略されがちです。ですが、この昔話では真ん中の猿が褒められるといった具合になっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.276.

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2022年9月17日 (土)

身がわり地蔵――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、浜田にとてもわがままな殿さまがいた。わがままで贅沢で始末がつかないので家来たちも困っていた。ことに女中はとても勤めができないで、来る女中も来る女中も一週間もすると皆暇をとって帰ってしまった。今度来た女中もまた同じように暇をとったので殿さまは門番を呼びつけて、また城中で女中が一人いるからどこか探してこいと言った。門番は困ってしまった。何せ殿さまのわがまま贅沢は知らぬものの無いほど城下に知れ渡っていたから、中々女中にあがる者はない。門番は仕方がないので町へ出て、あてもなくぶらぶら歩いていると、橋の上で十六くらいの娘が川を見ていた。どうしたのか訊くと、娘は田舎から出てきてどこでも良いから何か仕事はないかと探しているが、中々雇ってくれる人がいないので思案していると言った。門番はこれはちょうど良い女中が見つかったと思って話してみると、娘は喜んで承知してくれたので早速城へ連れて帰った。殿さまの前へ連れていくと、殿さまは女中になってもらうことにして、城に入ったからには決して勝手に城外へ出てはならないと固く言いつけた。娘はこれまでの女中より人一倍よく働いた。とこるがある晩台所の方で物音がするので家来が行ってみると、娘が外へ出るところだった。家来は早速殿さまに告げた。娘は殿さまの前に呼び出された。勝手に城外へ出てはいけないと言いつけておいた。どうして自分の言うことが聞けないのかと殿さまは叱りつけた。娘は自分は殿さまがもっと良い殿さまになられる様に毎晩地蔵さまにお願いにいったのだと言った。しかし、殿さまは言いつけに背いたからにはこのままでは済まない。手討ちにするといってとうとう娘を手討ちにしてしまった。そして早くこれを埋めてこいと言いつけたので家来たちは山へ持っていって埋めた。ところが翌朝、台所の方で何かことこと音がするので、行ってみると娘が何事もなかったようにそこを片づけていた。家来たちはびっくりして殿さまのところへ飛んでいった。殿さまもびっくりして昨夜娘を埋めたところを掘ってみよと言いつけた。そこで家来たちは掘ってみたがそこには何もなかった。ところが近くの長安寺の地蔵さまが頭から斜めに切られて血がたらたらと流れていた。それを聞いた殿さまは初めて娘が地蔵さまであったことに気づいた。殿さまは地蔵さまの前へ行って心から詫びを言った。そしてそれからはとても良い殿さまになった。

◆モチーフ分析

・浜田にとてもわがままな殿さまがいて家来達が困っていた
・女中も勤めが続かないで、一週間もすると皆暇をとって帰ってしまった
・殿さま、門番を呼びつけ、また城中で女中が一人いるから探してこいと命令した
・門番は仕方なく町に出てぶらぶらしていると、橋の上で娘と出会った
・娘は田舎から出てきたが、雇ってくれる人がなく思案中だった
・門番はちょうど良い女中が見つかったと思って話してみると、娘は承知したので早速城へ連れ帰った
・殿さまは女中になってもらうことにして、城に入ったからには決して勝手に城外へ出てはならないと言いつけた
・娘はこれまでの女中より人一倍よく働いた
・ある晩台所で物音がするので家来が行ってみると娘が外へ出るところだった
・家来は早速殿さまに言いつけた
・娘は殿さまの前に呼び出され、勝手に城外へ出たと叱りつけた
・娘は殿さまが良い殿さまになられる様にお地蔵さまにお願いに行ったと答えた
・殿さま、言いつけに背いたと娘を手討ちにしてしまった
・家来たちに命じて山の中に埋めさせた
・翌朝、台所で音がするので行ってみると娘が何事もなかったように片づけをしていた
・びっくりした殿さまは昨夜娘を埋めたところを掘らせたが何もなかった
・近くの長安寺の地蔵さまが頭から斜めに切られて血がたらたらと流れていた
・それを聞いた殿さまは娘が地蔵さまであったことに気づいた
・殿さまは地蔵さまの所へ行って詫びを言い、それからはとても良い殿さまになった

 形態素解析すると、
名詞:殿さま 娘 女中 地蔵 家来 城 門番 こと それ ところ 勝手 台所 城外 1 お願い これまで びっくり わがまま 一人 上 中 人 何事 前 命令 外 山 思案 所 手討ち 承知 斜め 昨夜 晩 暇 橋 浜田 物音 田舎 町 皆 翌朝 血 近く 長安寺 音 頭
動詞:する 出る なる 行く 言いつける いる 埋める とる 働く 入る 出会う 切る 勤める 叱りつける 呼びつける 呼び出す 命じる 困る 帰る 思う 掘る 探す 気づく 流れる 片づける 答える 続く 聞く 背く 見つかる 言う 詫びる 話す 連れ帰る 雇う
形容詞:良い ない よい 仕方ない 何もない
形容動詞:たらたら
副詞:とても 早速 ちょうど ぶらぶら また 人一倍 決して

 娘/地蔵/殿さまの構図です。娘―地蔵―手討ち―殿さまの図式です。使用人/主人とも抽象化できます。

 なり手のいない女中を<引き受け>た娘だったが、毎晩<禁止>された城外に<出て>いることを<知られ>、殿さまに<手討ち>にされてしまう。ところが<斬られた>のは娘の<身代わり>になった地蔵さまだった。殿さまは<改心>した。

 言いつけに背いた娘を手討ちにしたところ、地蔵さまが身代わりになっていた……という内容です。

 発想の飛躍は娘の代わりに地蔵さまが斬られるところでしょうか。娘―地蔵―手討ち―殿さまです。城外に出てはならないという禁止を破ることで制裁が加えられますが、制裁を被るのが地蔵だったという形です。

 長安寺は松平周防守家の菩提寺なので、周防守家の誰かがモデルでしょう。長安寺は浜田市には現存せず、長安院跡に周防守家の墓所があります。長安寺の建物は三隅の龍雲寺に移築されました。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.273-275.

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基本、フェミニズムの本――フェラン「アンマークド」

ペギー・フェラン「アンマークド」を読む。マウスオーバー辞書を引きながら字面を追っただけなので理解はしていない。ラカンの精神分析もしばしば引用されるので難解な本かもしれない。基本的にはフェミニズムの本である。第7章がパフォーマンスの存在論となっている。

Kindle for PCの表示だと208ページほどだったが実際には600ページ近くあったのではないか。

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2022年9月16日 (金)

牛鬼――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、那賀郡の浅利村に神主がいた。ある晩一人で海へ夜釣りに行ったが、とてもよく釣れるので一生懸命に釣っていた。すると髪も着物もびしょ濡れになった女が赤児を抱いて出てきた。神主がびっくりしていると、この子に食べさせるから魚を一尾くれと言った。神主が一尾やると赤児はむしゃむしゃと頭から尻尾まで骨ごとみんな食べてしまった。そうしてもう一尾、もう一尾というのでやる内に籠の中の魚は一尾もなくなった。すると女は今度は、お腰のものを言った。この女に言われるとどうしても嫌ということが出来ない。神主は仕方がないので腰の脇差しを抜いてやると赤児はそれもパリパリと食べてしまった。びっくりしていると、女はちょっとこの児を抱いてとってくれといって赤児を神主に渡すと海に入っていった。神主はその間に釣り道具を投げ捨てて駆けだしたが、抱かされた赤児は石になってどうしても離れない。その内に女が後ろから追いかけてきた。神主は一生懸命走ったが女はだんだん間を縮めてくる。そして既に手が届きそうになったとき、前の方から何か光るものが矢の様に飛んできて女の頭へグサリと突き刺さった。女はそれで足を止めたので、神主はようやくのことで自分の家の前まで逃げてくると、そこには心配そうに妻が待っていた。神主の妻は夫が釣りに出た後で縫い物をしていた。すると神主の居間にある二本の刀の中で、どれか一本シャンシャンと音を立ててしきりに鳴るものがある。不思議なことなので、もしか夫の身の上に何か変わったことがあるのではないかと心配して外へ出てみた。その時表の戸を開けると一本の脇差しがひとりでに鞘を抜け出して戸の間を飛鳥のように通り抜け、海の上の方へ飛んでいった。不思議なこともあるものだと妻はますます心配になって、そのまま戸の外へ立っていたところだった。明くる朝神主は村の人たちと昨夜女の出てきたところへ行ってみた。すると磯のほとりに血の流れた跡があったが、女も脇差しも見えなかった。多分女は頭に刀を突き刺したまま海の中へ入っていったものだろうと皆は話した。

◆モチーフ分析

・浅利村に神主がいた
・一人で夜釣りに出かけたが、よく釣れるので一生懸命に釣っていた
・すると髪も着物もびしょ濡れの女が赤児を抱いて出てきた
・濡れ女、神主に赤児に食べさせるから魚を一尾くれと言う
・神主がやると赤児は魚を頭から尻尾までむしゃむしゃと食べてしまった
・もう一尾とやる内に籠の中の魚が無くなった
・濡れ女、今度は腰の脇差しを要求した
・この女に言われると拒むことができず、脇差しを渡してしまう
・赤児、脇差しをパリパリと食べてしまう
・びっくりしていると、濡れ女はこの赤児を抱いてくれと言って赤児を神主に渡すと海に入っていった
・神主は釣り道具を投げ捨てて駆けだしたが、抱かされた赤児が石になって離れない
・女がだんだん間を縮めてくる
・手が届きそうになったところ、何か光るものが矢の様に飛んできて濡れ女の頭へグサリと突き刺さった
・女が足を止めたので神主はようやく自分の家の前まで逃げた
・すると妻が心配そうに待っていた
・神主の妻は夫が釣りに出た後で縫い物をしていた
・すると神主の居間にある刀がシャンシャンと音を立ててしきりに鳴った
・不思議なことなので、もしや夫の身の上に何か変わったことがあるのではないかと心配して外へ出た
・その時表の戸を開けると一本の脇差しがひとりでに鞘を抜け出して戸の間を通り抜けそのまま戸の外へ飛んでいった
・妻、不思議なこともあるものだと心配になって、そのまま戸の外へ立っていた
・あくる朝、神主は村人たちと昨夜濡れ女の出てきたところへ行ってみた
・磯のほとりに血の流れた跡があったが、女も脇差しも見えなかった
・女は頭に刀を差したまま海の中へ入っていったものだろうと皆が話した

 形態素解析すると、
名詞:女 神主 赤児 脇差し こと 戸 もの 外 妻 頭 魚 一 ところ 不思議 中 刀 夫 海 あくる朝 だんだん びしょ濡れ びっくり ほとり まま パリパリ 一人 一尾 一生懸命 今度 内 前 夜釣り 家 尻尾 居間 後 心配 手 昨夜 時 村人 浅利 皆 着物 矢 石 磯 籠 縫い物 腰 自分 血 要求 足 跡 身の上 釣り道具 間 鞘 音 髪
動詞:濡れる ある 出る 抱く 言う 食べる やる 入る 渡す 釣る 飛ぶ いる する できる なる 光る 出かける 変わる 届く 差す 待つ 投げ捨てる 抜け出す 拒む 止める 流れる 無くなる 突き刺さる 立つ 立てる 縮める 行く 見える 話す 逃げる 通り抜ける 釣れる 開ける 離れる 駆けだす 鳴る
形容詞:ない
形容動詞:心配
副詞:そのまま 何か しきりに ひとりでに むしゃむしゃ もう もしや ようやく よく グサリ シャンシャン

 男/濡れ女の構図です。神主―魚―赤児=女、神主―脇差し―(突き刺さる)―女の図式でもあります。人間/妖怪、主人公/敵対者とも抽象化できます。

 濡れ女に<遭遇>した神主は<釣った>魚を赤児に全部<食べられて>しまい、腰の脇差しまで<食べられて>しまう。<逃げ出し>た神主だったが赤児が石と<なって><離れず>女が<接近>してくる。そのとき神主の家から<飛んで>きた脇差しが濡れ女の頭に<刺さり>、神主は無事<逃げる>ことができた。

 濡れ女と赤児に遭遇して窮地に陥った神主だったが、家から飛んできた脇差しが女の頭に刺さり、助かる……という内容です。

 発想の飛躍は飛んできた脇差しが濡れ女の頭に刺さることでしょうか。神主―脇差し―(突き刺さる)―女という図式です。

 タイトルには「牛鬼」とありますが、牛鬼自体は登場しません。濡れ女と赤児の登場で暗示しています。このお話はアニメ「まんが日本昔ばなし」でアニメ化されています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.271-272.

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2022年9月15日 (木)

えんこうの石――モチーフ分析

◆あらすじ

 那賀郡今福村宇津井の河上家に仁右衛門という人がいた。中原と宇津井の田を開いた人であった。仁右衛門が中原の田を開拓している頃、川岸に馬を繋いでおいたところ、えんこうが来て川の中へそろりそろりと引いていった。だいぶ深いところへ行ってもう少しというところで馬が気づき、いきなり岸へ駆け上がると一散に家へ帰った。えんこうは不意のことなのでどうすることもできない。綱を身体へ巻きつけていたので、そのまま駄屋まで引きずっていかれた。その際頭の皿の水がこぼれてしまったので、ようやく綱をほどくと馬のたらいの中へ隠れていた。仁右衛門はしばらくして馬を連れて帰ろうと思って川岸へ来てみると馬がいない。不思議に思って家へ帰ってみると、馬は主人より早く駄屋に帰っている。変に思って辺りをよく見ると、餌をやる馬のたらいの中に変なものがしゃがんでいる。仁右衛門はこの野郎と思って引っ張り出すと散々にぶん殴った。それからしばらく経って仁右衛門は病気になった。中々よくならない。ある日病床に臥していると外から仁右衛門、仁右衛門と呼ぶ声がする。仁右衛門は枕元の刀をさげて障子を開け、縁に出てみたが誰もいない。そういうことが何回もあった。それから四五日経って仁右衛門が寝ていると、また仁右衛門、仁右衛門と呼ぶ声がする。何の気もなしに刀を持たずに外へ出てふらふらと夢中で歩いていると、ざあざあと川瀬の音がする。我に返って辺りを見ると、いつの間にか宇津井の橋床まで来ていた。言うまでもなく、えんこうの為に夢中におびき出されたのだった。仁右衛門は気づくと辺りを見回した。するとすぐ傍に、この前酷くこらしめたえんこうが歯をむき出して今にも飛びかかろうとしている。剛胆な仁右衛門はしばらく橋の上で格闘したが、遂に膝の下に組み伏せた。えんこうは、これからは宇津井川では人に害をなすことはしないから命だけは助けてくれと言った。そして、もしこの橋の上に四十雀(しじゅうから)が三羽遊んでいたら、他の川の同族が来て遊んでいるから注意してくれと言った。仁右衛門は十分こらしめた上でえんこうを許してやった。仁右衛門は格闘したとき、えんこうを大きな石に打ちつけたので石の角が壊れた。現在河上家にある靴ぬぎ石は、その石を運んだものと言われている。

◆モチーフ分析

・宇津井の仁右衛門は中原と宇津井の田を開いた人だった
・仁右衛門が中原の田を開拓している頃、川岸の馬を繋いでおいた
・えんこうが来て、馬を川の中に引きずり込もうとした
・驚いた馬が川岸へ駆け上がり、一散に家へ帰った
・えんこうは綱を身体へ巻きつけていたので、そのまま駄屋へ引きずられた
・頭の皿の水がこぼれてしまい、綱をほどいてたらいの中へ隠れていた
・仁右衛門は馬を連れて帰ろうと思って川岸へ来てみると馬がいない
・家へ帰ってみると、馬は主人より先に駄屋へ帰っている
・たらいの中にえんこうがしゃがんでいたので散々にぶん殴った
・しばらくして仁右衛門は病気になった
・病床に臥していると、仁右衛門を呼ぶ声がする
・枕元の刀をさげて障子を開け、縁に出たが誰もいない
・それが何度も続き、四五日経って寝ていると、また仁右衛門を呼ぶ声がする
・刀を持たずに外へ出て夢中で歩いていると宇津井の橋床までやって来ていた
・えんこうの為に夢中におびき出された
・気づくと、えんこうが歯をむき出しにして今にも飛びかかろうとしている
・仁右衛門は橋の上で格闘し、膝の下にえんこうを組み伏せた
・えんこう、これからは宇津井川では人に害をなすことはしないと助命を願う
・橋の上で四十雀が三羽遊んでいたら、別の同族が来ているから注意しろと言う
・仁右衛門、えんこうを許してやった
・仁右衛門が格闘したとき、えんこうを大きな石に打ちつけ、石の角が壊れた
・河上家にある靴ぬぎ石はその石を運んだものと言われている

 形態素解析すると、
名詞:えんこう 仁右衛門 馬 宇津井 石 中 川岸 たらい 上 中原 人 刀 声 夢中 家 屋 格闘 橋 田 綱 三 四五 こと これ それ とき むき出し もの 上家 下 主人 今 何度 別 助命 同族 四十雀 外 害 川 枕元 橋床 歯 水 河 注意 為 病床 病気 皿 縁 膝 角 誰 身体 開拓 障子 靴ぬぎ 頃 頭
動詞:する 帰る 来る いる 出る 呼ぶ 言う ある おびき出す こぼれる さげる しゃがむ なす なる ぶん殴る ほどく やって来る やる 壊れる 寝る 巻きつける 引きずり込む 引きずる 思う 打ちつける 持つ 歩く 気づく 組み伏せる 経つ 続く 繋ぐ 臥す 許す 連れる 遊ぶ 運ぶ 開く 開ける 隠れる 願う 飛びかかる 駆け上がる 驚く
副詞:しばらく そのまま また 一散に 先に 散々

 仁右衛門/えんこうの構図です。仁右衛門―格闘―えんこう、馬―綱―えんこうという図式でもあります。

 馬を川に<引きずり込もう>としたえんこうは却って<引きずられて>頭の皿の水を<失って>しまったところを仁右衛門に<見つかり><ぶん殴られる>。えんこうは病気になった仁右衛門を宇津井の橋まで<おびき寄せ>、<格闘>するが<組み伏せられる>。えんこう、助命を<願い>人に害を加えないことを条件に<許される>。

 えんこうは復讐のため仁右衛門を宇津井川までおびき寄せ戦いを挑むが組み伏せられ助命を願う……という内容です。

 発想の飛躍は馬を川に引きずり込もうとして却って引きずられて頭の皿の水を失うことでしょうか。馬―綱―えんこうという図式です。見つかって散々にぶん殴られる訳です。

 別の本ではえんこうは金気を嫌うため、仁右衛門が刀を持っているときは姿を現さなかったとあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.268-270.
・『島根県の民話 県別ふるさとの民話(オンデマンド版)』(日本児童文学者協会/編, 偕成社, 2000)pp.192-196.

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既得権益は手放さない――マーコスキー『本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」』

ジェイソン・マーコスキー『本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」』を読む。著者はハード/ソフト双方に通じた人物で第一世代キンドルの開発に携わった人物。電子書籍と紙の本の将来について語られている。

例えば米国では本の編集段階で読者を介在させその意見を取り入れるといったことも行われているそうだ。日本だと小説投稿サイトで作者が読者のコメントを読みながら方向性を修正するといった形でみられる。で、いずれ原作者という考え方も消失していくのではないかと考察している。だが、原作者が著作権という既得権益を手放すとは思えない。

Amazonはレビュー欄をSNS化するつもりは無いようだ。確か発信者情報開示請求訴訟で多いのはAmazonレビューと聞いたことがある。

この本、金曜に発送されて水曜に届いた。長野―横浜間なのだが、どうして時間がかかったのか不可解。

キンドルに関する本なのに電子書籍版が出ていないのは不可解だ。

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2022年9月14日 (水)

魚切り渕の大蛇――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、村里を遠く離れた山の中にぽつんと一軒の家があった。寂しいところではあったが、山越えをする人は必ずこの家へ立ち寄って、お茶を飲ませてもらったり休ませてもらったりしていた。その家にはこうした人たちの世話をする親切な女中がいた。ある夕方、他の人と同じ様に茶を所望して一人の男が立ち寄った。女性がお茶を持っていくと、ゆっくりと飲み干し、しばらく休んでから立ち上がった。そして日もすっかり落ちて暗くなりかけた山道を灯りももたずに帰っていった。後には草履の音だけがかすかに聞こえた。次の日、昨日と同じ様な時間に男はまたやってきた。そしてお茶を所望してゆっくり飲むと、何を話すでもなくしばらく休んで夕闇の中へ消えていった。それから男は毎日の様に夕方になるとやって来てお茶を飲んでは帰っていった。何日か経って女中はあの男はいったいどこに住んでいるのだろうと思った。毎日来るところを見るとそんなに遠くでもないようだし、毎日お茶を飲みに来るというのもおかしい。そういえば暗い山道を灯りも持たずに帰ってゆくのも変だ。そこである日、いつもの様にやって来た男に思い切って毎日来るが、一体どこに住んでいるのか尋ねた。男はにやにや笑いながら、この道をずっといった所だと言って家の後ろにある小さな道の方へ目をやりながら答えた。女中はここの道をずっとと言えば、魚切りという渕の辺りという事になるが、そこには昔から大蛇が棲んでいると言われているから近づく人もない。まして家などあるはずはないのだがと不審に思った。気にかかるので何とかしてこれを知りたいと思った。色々考えた末に男が帰るときにそっと着物の裾に糸のついた針をつけておき、後から糸を頼りに辿っていこうと思いついた。何も知らない男はその日もやってくると、お茶を飲んで夕闇の中を帰っていった。女中はそっと着物の裾に針を刺した。あくる朝、女中は糸を頼りにどんどん山道を登っていった。しばらく歩いたところ遙かにどうどうという水音が聞こえてきた。あれは魚切りの渕だと思いながら糸を辿っていくと糸は渕の中へ入っていった。男はこの渕に棲む大蛇であったという。

◆モチーフ分析

・村里を遠く離れた山の中に一軒家があり、山越えする人は必ずこの家へ立ち寄ってお茶を飲ませてもらったり休ませてもらったりしていた
・この家にはそうした来客の世話をする親切な女中がいた
・ある夕方、他の人と同じ様に一人の男が立ち寄って茶を所望した
・男はしばらく休んでから暗くなりかけた山道を灯りも持たずに帰っていった
・それから男は毎日の様に夕方になるとやって来て、お茶を飲んでは帰っていった
・毎日来るところを見るとそんなに遠くでもないようだし。毎日お茶を飲みに来るというのもおかしいと女中は考えた
・ある日、女中は男に思い切ってどこに住んでいるのか尋ねた
・男はにやにやしながら、この道をずっといったところだと答えた
・女中はこの道をずっといくと魚切りという渕があるが、そこには昔から大蛇が棲んでいると言われ、家などあるはずがないと不審に思った
・女中、色々考えた末に男が帰るときに着物の裾に糸のついた針をそっと刺そうと考えた
・男がやって来て、帰るときに裾に針を刺した
・翌朝、女中は糸を頼りに山道を登っていき、魚切りの渕に辿り着いた
・糸は渕の中へ入っていった
・男はこの渕に棲む大蛇であった

 形態素解析すると、
名詞:男 女中 渕 お茶 家 毎日 糸 とき ところ 中 人 夕方 大蛇 山道 裾 道 針 魚 そこ どこ はず 一人 一軒家 不審 世話 他 山 山越え 所望 昔 末 村里 来客 着物 翌朝 茶 親切
動詞:する 帰る 考える 飲む ある いう いく やって来る 休む 刺す 来る 棲む 立ち寄る いる つく なる はる 住む 入る 尋ねる 思う 持つ 灯る 登る 答える 見る 言う 辿り着く 離れる 頼る
形容詞:ない 遠い おかしい 暗い
形容動詞:同じ
副詞:ずっと ある日 しばらく そう そっと そんなに にやにや 必ず 思い切って 色々

 女中―糸/針―男=大蛇という構図です。女中―お茶―男、女中―渕―男という図式でもあります。

 毎日の様に<休憩>しに来る男がどこから<来る>のか不審に<思った>女中が男の裾の糸を<つけた>針を<刺して>跡を<追う>。糸は渕の中に<続いて>いた。

 男の住処を知ろうとした女中が針と糸で跡を追う。男は渕に棲む大蛇であった……という内容です。

 いわゆる三輪山伝説のパターンです。発想の飛躍は着物の裾に針を刺して跡を追うことでしょうか。女中―糸/針―男=大蛇という図式です。これ自体は既存のお話の流用に過ぎませんから、別のものを考える必要があるかもしれません。そうすると山の中にある一軒家が発想の飛躍となるかもしれません。女中―家―来客といった図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.265-267.

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2022年9月13日 (火)

蛇渕――モチーフ分析

◆あらすじ

 浜田ダムへ流れ込む長見川の上流約一キロのところに深さ三メートルの渕がある。昔、ある年の夏、子供たちは親たちが止めるのも聞かずいつものように渕へ泳ぎに出かけた。渕の水は青く澄んで青葉に涼しい風が渡っている。子供たちは大騒ぎをしながら時の経つのも忘れて泳ぎまわった。その内に夕暮れになった。その時子供たちは悲鳴を上げながら我先にと岸へ駆け上がった。いつの間にか渕の底から大きな蛇が頭をもたげて子供たちの方をじっと見ていた。子供たちはわめきながら村へ通じる山道をいっさんに駆けだした。「渕、大きな蛇」と子供たちのきれぎれな言葉を聞いた村人たちはびっくりした。話は伝わって下の村は大騒ぎになった。早速村人たちは鍬(くわ)や鎌や竹槍などを手にもって長い列となって渕へ向かった。生暖かな夜風の吹く中を身じろぎもせず薄暗い水の面を見ている村人たちの頭の上ににわかに黒雲が湧き起こったと思うと、稲妻が光った。この鋭い光に照らし出された水面に大蛇の姿が見えた。男の一人が用意していた石を投げ込むと、てんでに鍬や鎌や竹槍を投げ込んだ。しかしそれは渕の面に空しく落ちるばかりであった。やがて一人の男が村に引き返すと、大きな弓と矢を持ってきた。男は弓を引き絞ると次から次に渕に向かって矢を射こんだ。村人たちがふと我に返った時には、辺りはすっかり暗くなって、渕の上がわずかに夕明かりに白く見えるばかりであった。それから何日か過ぎ、夏も終わりに近づいた。ある日真夜中から大雨が降り出し、雨は明くる日もその明くる日も夜も昼も降り続いた。長見川は濁流となって川下へ押し寄せた。その様子を見に出た一人の男はびっくりした。そこには川向こうの家の柱に巨大な尾を巻きつけて濁流から身を逃れようと必死にもがいている大蛇の姿があった。それを見ると恐ろしさを越えて、この巨大な蛇が激しい濁流と戦う痛ましい姿に心の痛みを感ぜずにはいられなかった。男は村へ駆け戻った。深い森を越えてどうどうと響く濁流の音とともに大蛇の最後のうめきがいつまでも耳について離れなかった。大蛇がそれからどうしたかは誰も知る者がない。大蛇が柱に巻き付いたという家には近頃まで大蛇の鱗を求めにくる人があったということだが、鱗は無いと言う。

◆モチーフ分析

・ある年の夏、子供たちが長見川の渕に泳ぎにでかけた
・夕暮れ、子供たちは悲鳴を上げて岸へ我先に駆け上がった
・渕の底から大蛇が頭をもたげて子供たちをじっと見ていた
・子供たちはわめきながら山道を一目散に駆け出した
・子供の言葉を聞いた村人たちはびっくり、村中大騒ぎとなった
・村人たちは鍬や鎌、竹槍をなどを持って渕へ向かった
・稲妻が光り、水面に大蛇の姿が見えた
・村人たちはてんでに鍬や鎌や竹槍を投げ込んだが、空しく落ちるばかりであった
・一人の男が村へ引き返して弓矢を持ってきた
・男は渕に向かって次から次に矢を射込んだ
・村人たちが我に返ったときには辺りはすっかり暗くなっていた
・夏も終わりに近づいたある日大雨が降り出した
・雨は何日も降り続いて長見川は濁流となった
・様子を見に出た男が川向こうの家の柱に尾を巻きつけて濁流から逃れようとしている大蛇の姿を見た
・大蛇がそれからどうしたか誰も知らない
・大蛇が柱に巻き付いたという家には近頃まで大蛇の鱗を求めに来たという

 形態素解析すると、
名詞:大蛇 子供 村人 渕 男 夏 姿 家 柱 濁流 竹槍 鍬 鎌 長見 それ とき びっくり 一人 何日 夕暮れ 大雨 大騒ぎ 尾 山道 岸 川 川向こう 年 底 弓矢 悲鳴 我 村 村中 様子 次 水面 矢 稲妻 言葉 誰 辺り 近頃 雨 頭 鱗
動詞:見る いう する なる 向かう 持つ でかける もたげる わめく 上げる 光る 出る 射込む 巻きつける 巻き付く 引き返す 投げ込む 来る 求める 泳ぐ 知る 終わる 続く 聞く 落ちる 見える 近づく 返る 逃れる 降り出す 降る 駆け上がる 駆け出す
形容詞:暗い 空しい
副詞:ある日 じっと すっかり てんで どう 一目散に 我先に 次に

 子供/蛇/村人という構図です。蛇―まきつく―柱―濁流、子供―渕―大蛇という図式でもあります。

 子供たちが渕で<泳いで>いると大蛇を<目撃>した。<逃げ帰った>子供たちの話を聞いて村人たちが渕へ<急行>した。竹槍を<投げたり>弓矢で<射たり>したが効果は<無かった>。大雨が<続いて>長見川が濁流と<なった>。大蛇が尾を川向こうの家の柱に<巻きつけて>濁流から<逃れ>ようとしているところを村人が<目撃>した。大蛇の行方は<知れない>。

 長見川の渕に棲む大蛇が大雨が続いて濁流となった川から逃れようとしたが、大蛇の行方は知れない……という内容です。

 発想の飛躍は濁流から逃れるため大蛇が尾を家の柱に巻きつけることでしょうか。蛇―巻き付く―柱―濁流の図式です。浜田ダムまでは行ったことがありますが、その上流の渕は知りません。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.262-264.

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2022年9月12日 (月)

えんこう塚――モチーフ分析

◆あらすじ

 河内町を流れる浜田川のほとりにえんこう塚という石碑がひっそりと立っている。昔、ある日のこと一人の百姓が仕事を済ませて近くの川で馬の体を洗ってやった。そして日はまだ沈まないし、このまま家へ帰るには早いので、馬を川端に繋いで、もう一仕事しようと畑へ引き返していった。ところがこの様子を川の中からえんこう(河童)が見ていた。よし、今日はあの馬を川の中へ引きずり込んで捕ってやろう。えんこうは百姓がいなくなるのを待っていた。えんこうは百姓が畑へ行ったのを見澄ますと、そろりと馬に近づいて綱を杭からほどき、自分の身体に巻き付けて思い切り引っ張った。びっくりした馬は飛び上がると一目散に走り出した。慌てたえんこうは綱をほどこうとしたが、あまり強い力で引っ張られるのでほどくことができない。とうとう馬に引きずられて陸の上に放り出されてしまい、石にぶつかってやっと止まった。その騒ぎに頭の皿の水が飛び出してしまったので、えんこうは力がなくなりどうすることもできない。その時騒ぎを聞きつけた百姓が急いで川端へ引き返してみると、馬はおらずえんこうがぼんやり座っている。様子が分かった百姓は今日こそは承知しないぞと怒鳴りつけた。引っ張っていこうとすると、えんこうは涙を流して何度も何度も謝るので、それならこれからは子供を捕ったり馬にいたずらをしたりしないと約束をするなら許してやろうと言った。えんこうがこれからは絶対にそういうことはしないと言うので許してやった。そして石碑に「南無阿弥陀仏」と彫って、この字が消えない内は絶対にいたずらをしないと約束させ、河岸に立てて、この辺りでえんこうに捕られた子供たちを弔ってやった。その日から、えんこうのいたずらは全く無くなった。しかし、えんこうは早くこの字を消そうと毎日やって来て石碑の字をなでるので、反対に字はだんだん深くなったという。

◆モチーフ分析

・浜田川のほとりにえんこう塚という石碑が立っている
・ある日、一人の百姓が仕事を済ませて近くの川で馬の体を洗った
・馬を川端に繋いで、もう一仕事と畑へ引き返した
・この様子を川の中からえんこうが見ていた
・えんこう、百姓が畑に行ったのを見澄ますと、馬に近づいて綱を杭からほどいて自分の身体に巻き付けて思い切り引っ張った
・びっくりした馬が一目散に走り出し、えんこうは陸の上に放り出されてしまった
・石にぶつかったはずみに頭の皿の水が飛んで力がなくなってしまった
・騒ぎを聞きつけてやってきた百姓が川端へ引き返してみると、馬はおらず、えんこうがぼんやり座っていた
・百姓、今日こそは承知しないぞと怒鳴りつける
・えんこうが何度も謝るので、これからは子供を捕ったり馬にいたずらしたりしないと約束させた
・石碑に南無阿弥陀仏と彫って、この字が消えない内は絶対にいたずらしないと約束させ、えんこうに捕られた子供たちを弔った
・その日からえんこうのいたずらは全く無くなった
・えんこうは早くこの字を消そうと毎日石碑の字をなでるので反対に字はだんだん深くなった

 形態素解析すると、
名詞:えんこう 馬 字 百姓 いたずら 石碑 子供 川 川端 畑 約束 これ はずみ びっくり ほとり 一人 一仕事 上 中 今日 仕事 体 何度 内 力 南無阿弥陀仏 承知 日 杭 様子 毎日 水 浜田 皿 石 綱 自分 身体 近く 陸 頭
動詞:引き返す 捕る いう おる する なくなる なでる ぶつかる ほどく やる 巻き付ける 座る 弔う 引っ張る 彫る 怒鳴りつける 放り出す 洗う 消える 消す 済ませる 無くなる 立つ 繋ぐ 聞きつける 行く 見る 見澄ます 謝る 走り出す 近づく 飛ぶ 騒ぐ
形容詞:早い 深い
形容動詞:反対
副詞:ある日 だんだん ぼんやり もう 一目散に 全く 思い切り 絶対

 えんこう/百姓の構図です。えんこう―馬―百姓、えんこう―石碑―百姓の図式でもあります。

 百姓が川で馬を<洗って>仕事に<戻った>隙にえんこうが馬に<いたずら>をしようとした。が、馬に<引っ張られ>て頭の皿の水を<失った>えんこうは力が<なくなって>しまう。百姓が<戻って>きて、これからは絶対に<いたずら>しないと<約束>させる。石碑に南無阿弥陀仏と彫ってこの字が消えない間は<いたずら>をしないと<約束>させる。えんこうは字を消そうとして<なでる>が、却って字は深く<なった>。

 これからは絶対にいたずらをしないと約束させ、石碑に南無阿弥陀仏と彫る。えんこうはその字を消そうとしてなでるので却って深くなる……という内容です。

 発想の飛躍は石碑に南無阿弥陀仏と彫って、この字が消えない間はいたずらを絶対にしないと約束させることでしょうか。えんこう―石碑―百姓の図式です。河内町には行ったことがありますが、石碑には気づきませんでした。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.259-261.

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2022年9月11日 (日)

何かを捨てる覚悟――佐々木敦『「批評」とは何か? 批評家養成ギブス』

佐々木敦『「批評」とは何か? 批評家養成ギブス』を読む。著者による批評家養成講座の模様を収録したもの。「ギブス」とあるのは「巨人の星」の大リーグボール養成ギブスからだろう。今の若い人には既に理解不能であろう。

批評家を志すためには膨大なインプットが必要であることが語られる。例えば著者は若い頃一年に六百本の映画を見ていたという。一日ニ作品くらいのペースで消化しないと達成できない数字であり、一日の内四時間ほどを割かなければならない。著者はこの他に音楽や文芸も鑑賞していたのであり、普通の勤め人には到底無理となる。何かを犠牲にしてでもという覚悟がなければ批評家にはなれないということだろう。

僕自身、批評家になりたいのではない。ああいった文体の文章は書けない。読書の対象として批評が視界に入ってきたというところである。

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弥九郎霧――モチーフ分析

◆あらすじ

今から二百年あまり前、那賀郡井野村小原の柚ノ木郷に弥九郎という百姓がいた。生まれつき賢く、人のたねに骨身を惜しまず世話をする人だった。その頃井野村には庄屋が一軒と蔵元庄屋が三軒あった。蔵元庄屋は郷々にあってその郷の世話をし、年貢米や上納紙をまとめていた。これらの庄屋たちの中には、いろいろ横着する者があるので百姓たちは難儀をしていた。その頃弥九郎は十九の若者だったが、これを見かねて百姓の難儀を救おうと思い、殿さまに訴えた。ところが取調べの日になって、役人から色々取調べがあったが、お上のご威光に打たれたものか、弥九郎の言うことがはっきりしない。そこでこれはお上を欺き世を乱すものだということになり、火あぶりの刑にされることになった。弥九郎の母が大層悲しんで、殿さまに訴えたことが本当であったのなら、なぜ取調べの時その事を詳しく申し上げなかったのかと言うと、弥九郎は言おうと思ったが庄屋が狐をつけて舌を動かせなかったからどうしても言えなかったと言った。お仕置きの日になった。悪事をした見せしめというので弥九郎を馬に乗せて村中を引き回した末、家々から一把ずつ薪を出させて小山の辻で焼き殺した。弥九郎は燃えさかる火の中で落ち着き払って、自分は今こうして焼き殺されるが、身体は死んでも魂は死なない。自分の魂の残る印に、ここへ白藤を咲かすから見ておれと言った。それから間もなく焼け跡に藤の芽が出て白い花が咲いた。その後庄屋たちは二度三度火事になったり、いろいろ良くないことが続いて家が絶えた。またそれ以来、百姓たちが薪を出した報いとしてであろうか、作物の上を濃い霧が覆う様になった。特に夏から秋にかけては朝日が出てから二時間くらいは全く濃い霧が谷を埋めて実に物寂しい有様になる。ただ室谷郷の中間だけは弥九郎は罪のないのに気の毒なことだ。いかに庄屋の言い付けでも人を焼く木は出せないと言って薪を出さなかった。それでこの近辺へは霧を降らせないと言う。

◆モチーフ分析

・那賀郡井野村小原に弥九郎という百姓がいた
・弥九郎は賢く人のために骨身を惜します世話をする人だった
・井野村には庄屋が一軒と蔵元庄屋が三軒あって横着するので百姓たちは難儀をしていた
・弥九郎は百姓の難儀をを救おうと思い、殿さまに訴えた
・取調の日、弥九郎の言うことがはっきりしない
・お上を欺き世を乱すとして火あぶりの刑にされることになった
・母がなぜと問うと弥九郎は庄屋が狐をつけて舌を動かせなかったから言えなかったと答えた。
・お仕置きの日、弥九郎を馬に乗せて村中を引き回した
・家々から薪を出させて弥九郎を焼き殺した
・弥九郎は身体は死んでも魂は死なない、見ておれと言った
・焼け跡に藤の花が咲いた
・庄屋たちは火事になったり、良くないことが続いて家が絶えた
・それ以来、作物の上を濃い霧が覆う様になった
・室谷の中間は薪を出さなかったので霧が降らない

 形態素解析すると、
名詞:弥九郎 庄屋 こと 百姓 人 日 薪 難儀 霧 お上 お仕置き それ ため 一軒 三軒 上 世 世話 中間 井野 井野村 作物 刑 取調 室谷 家 家々 小原 村中 横着 殿さま 母 火あぶり 火事 焼け跡 狐 舌 蔵元 藤の花 身体 那賀郡 馬 骨身 魂
動詞:する 言う なる 出す 死ぬ ある いう いる つける 乗せる 乱す 動かす 咲く 問う 引き回す 思う 救う 欺く 焼き殺す 答える 絶える 続く 覆う 見る 訴える 降る
形容詞:濃い 良い 賢い
副詞:なぜ はっきり 惜

 庄屋/弥九郎/お上という構図です。庄屋―狐―弥九郎―お上、弥九郎―霧―庄屋―井野という図式でもあります。

 正義感の強い弥九郎は庄屋たちの不正をお上に<訴えた>が、取調の日に狐をつけられて<しゃべられ>なくなってしまう。火あぶりの刑に<処された>弥九郎だったが、その恨みは霧となって井野を<覆った>。

 庄屋たちの不正をお上に訴えた弥九郎だったが、狐をつけられてしゃべることができず、却って火あぶりの刑に処せられた……という内容です。

 発想の飛躍は狐をつけて弥九郎の口を封じることでしょうか。庄屋―狐―弥九郎―お上の構図です。身体は死んでも魂は死なないという言葉には鬼気迫るものを感じます。日本標準『島根の伝説』では大麻山の坊さんが弥九郎の口を封じたとなっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.256-258.

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2022年9月10日 (土)

谷田池の蛇姫――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、出雲国意宇(いう)郡矢田村の豪族の娘に美しい姫がいた。姫は物心つくにつれて石見国の国分村にある谷田の池を恋い慕うようになった。谷田の池は広さ十町三反(一〇・三ヘクタール)ばかり、深さは数十尋(ひろ)もある青い水をたたえた大きな池だった。姫がどうしてこの池を恋い慕うのか姫自身にも分からなかった。しかし不思議な因縁でその思いはつのるばかり、独り部屋に立て籠もって物思いに沈んでいる日が多くなった。姫が十六歳になった卯月(四月)、思い詰めた姫は、自分はどうしても心が塞いでならない。石見の谷田池のほとりにある祠は霊験あらたかであると聞いているので、ぜひ一度お参りして念願をかけたいと思うので行かせてほしいと父に願った。父や母や侍女たちも遠い石見路への長旅は大変なので口をそろえて思いとどまる様に勧めたが、姫は目に涙をためてどうしても行かせて下さいと言う。それで父や母もとうとう姫の願いを叶えてやることにした。姫の乗物と行列は日数を重ねて国分村へ着いた。ちょうど日が落ちようとして、広い池の面は音もなく静まりかえっていた。姫はほとりの祠に詣でると心も晴れ晴れとした様に、池のみぎわへ降りて水を手にすくった。と、その時、姫は吸われるように池の中へ沈んでいった。姫はもともとこの池の蛇の化身であったと言い、またこの池にすむ年ふる雄蛇に魅入られたのだとも言う。

 その後、谷田池の先祖の尾崎藤兵衛は谷田の池を埋め立てて田を開いた。この工事は中々難しく、水害のためせっかく作った新田が流れて元の池になったり土砂に埋まったりした。これは大蛇が住むところが狭くなったため田を荒らすからだというので、承応二年、谷田家の主人は池のほとりの鐘堂におこもりして工事が無事に出来上がるよう祈願をした。すると満願の夜池の大蛇が池を譲り渡す証として鱗を一枚残して立ち去った。これによって工事は無事に出来上がった。それ以来この蛇を竜神として祀ることにしたが、元禄八年には下府(しもこう)村光明寺の亮音法印や上府(かみこう)村の神職千代延直真らによって盛大な法要祭典が営まれた。すると池の上空から美しい音楽が聞こえて「石見潟千代ふる里の梢まで よくぞ守らん三つのともしび」という歌声が聞こえた。また、大蛇が水害を起こしたりして工事を妨げるのをなだめるため、一人の百姓が自分の頬の肉を切り取って池に投げ込んで大蛇に祈ると大蛇は天へ昇っていったとも言う。また、谷田の池が狭くなったので、大蛇は底の続いている上府の安国寺の門前の池に現れ、説教を聴いて涙を流し、成仏して鱗を一枚残して天へ昇った。それで門前の池を涙が池という様になったとも言われている。

◆モチーフ分析

・出雲国意宇郡矢田村の豪族に美しい姫がいた
・姫は物心のついた頃から石見国国分村の谷田の池を恋い慕うようになった
・どうして慕うのかは姫自身も分からなかったが、不思議な因縁で思いはつのり、独り部屋に立て籠もって物思いに沈むことが多くなった
・十六歳になった姫はぜひ一度谷田の池のほとりにある祠に参詣したいと父に願った
・父母や侍女たちは長旅で大変なので思いとどまる様に勧めた
・姫はどうしても行かせて欲しいと言う
・父母も止むなく姫の願いを叶えるようにした
・姫の乗物と行列は日数を重ねて国分村へ着いた
・姫はほとりの祠に詣でると心も晴れ晴れと、池のみぎわへ降りて水を手にすくった
・そのとき姫は吸われるように池の中へ沈んでいった
・姫はもともと谷田の池の蛇の化身だったとも言い、またこの池に棲む雄蛇に魅入られたのだとも言う

 形態素解析すると、
名詞:姫 池 谷田 ほとり 分村 父母 祠 蛇 16 こと とき みぎわ 不思議 中 乗物 侍女 出雲国 化身 参詣 因縁 国 国国 大変 心 意宇 手 日数 水 父 物心 独り 矢田 石見 自身 行列 豪族 長旅 雄 頃
動詞:する 言う 沈む 願う ある いる すくう つく つのる なる 分かる 勧める 叶える 吸う 思いとどまる 思う 恋い慕う 慕う 棲む 物思う 着く 立て籠もる 行く 詣でる 重ねる 降りる 魅入る
形容詞:多い 欲しい 止むない 美しい
副詞:どう ぜひ また もともと 一度 晴れ晴れ

 姫/蛇の構図です。姫―池―蛇、姫―(魅入る)―蛇というところでしょうか。
 石見国の谷田の池を<慕う>ようになった姫は池のほとりにある祠に<参詣>したいと<願う>ようになる。念願かなって祠に<詣でた>姫だったが、池の水際で水を<すくった>ところ池に<沈んで>しまった。

 出雲の姫が石見国の谷田池までやって来たところ、池に入水してしまった……という内容です。

・谷田池の先祖の尾崎藤兵衛は谷田の池を埋め立てて田を開いた
・難工事で水害のために新田が流れたり土砂に埋まったりした
・谷田家の主人は池のほとりの鐘堂に籠もって工事が無事完了するよう祈願した
・満願の夜、大蛇が池を譲り渡す証として鱗を一枚残して立ち去った
・これで工事は無事に完了した
・下府村の法印や上府村の神職らによって盛大な法要祭典が営まれた
・すると池の上空から美しい音楽が聞こえ、歌声が聞こえた
・大蛇が水害を起こして工事を妨げるのをなだめるために一人の百姓が頬の肉を切り取って池に投げ込んで大蛇に祈ると大蛇は昇天した
・谷田の池が狭くなったので、大蛇は底の繋がっている上府の安国寺の門前の池に現れ、説教を聴いて成仏して鱗を一枚残して昇天した

 形態素解析すると、
名詞:池 大蛇 谷田 工事 ため 一枚 上府 完了 昇天 村 水害 無事 鱗 これ ほとり 一人 上空 下府 主人 先祖 土砂 夜 安国寺 尾崎 底 成仏 新田 歌声 法印 法要 満願 田 百姓 祈願 神職 祭典 肉 藤兵衛 証 説教 鐘堂 門前 難工事 音楽 頬
動詞:する 残す 聞こえる なだめる よる 切り取る 営む 埋まる 埋め立てる 妨げる 投げ込む 流れる 現れる 祈る 立ち去る 籠もる 繋がる 聴く 譲り渡す 起こす 開く
形容詞:狭い 美しい
形容動詞:盛大

 池―工事―田という構図でしょうか。蛇―鱗―証文でもあります。

 谷田の池を<埋めて>田んぼにするのは<難工事>で、新田が<流され>たり土砂で<埋まったり>した。<祈願>したところ池の大蛇は証拠に鱗一枚<残して><昇天した>。

 谷田の池を干拓して田んぼにするのは難工事だった。祈願したところ池の主の大蛇が鱗を一枚証拠に残して去った……という内容です。

 発想の飛躍は池に魅入られた姫が入水するところでしょうか。姫―池―蛇の図式です。安国寺の蓮池は現在では埋め立てられて駐車場になっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.253-255.

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2022年9月 9日 (金)

千年比丘――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、国分の里に裕福な家があった。そこの主人は日頃よい行いをしていた報いか、竜宮城へよばれてしばらく行っていた。そこで月日の経つのも忘れていた。ところがその内に飽きて城内をぶらぶら歩いていると料理場へ来てしまった。ふと見るとそこには大きなまな板の上に人間を裸にして載せて料理人がしきりに料理をしていた。びっくりした男はこれまでの楽しかった夢も一時に醒め、竜宮というところは何と恐ろしいところだ、人間を殺して食べるところなのかと思うと、いても立ってもいられなくなり、城門から一目散に駆けだした。これを見た竜宮の人たちは、さぞびっくりしただろうがあれは人間でない、人魚という魚でこれを食べると千年生きられるという珍しい魚だ。あなたに食べさせようと思って料理しているところだと言って引き留めようとしたが、そんなことは男の耳に入らない。そうして国分の姉が浜まで逃げてきた。必死に追いかけてきた竜宮の人たちも陸へ上がることができないので、せめて土産にと持ってきた人魚の肉を男の方へ投げた。肉は男の袴の腰板の間へ入ったが、そんなことは知らず命からがら逃げて帰った。家の人たちは大喜びで出迎えた。男は久々に家族に会い、竜宮の話をした。幼い女の子はそれを聞くと竜宮の土産をねだった。土産はないのだと言って男が袴を脱ぐと、腰板の間から人魚の肉が落ちた。女の子はそれを拾うとすぐ食べてしまった。そのため女の子は千年の長い寿命をもって生きながらえた。力が強く、大きな盤石をも易々と持ち運んだと言われ、人々はこれを千年比丘(びく)と呼んだ。昔の国府村役場の隣にあった大きな岩は千年比丘が運んだものと言われ、下府(しもこう)片山にある古墳を千年比丘の穴と言って、千年比丘の住居の跡と言っている。

◆モチーフ分析

・国分の里の裕福な男が日頃のよい行いの報いで竜宮城へ呼ばれた
・竜宮城では月日の経つのも忘れていたが、あるとき城内を歩いていると料理場へ来てしまった
・そこでは大きなまな板の上で料理人が人間を料理していた
・驚いた男は夢から醒め、一目散に逃げ出した
・竜宮の人たちがあれは人魚だ。食べると千年生きられると引き留めたが、男は姉が浜まで逃げてきた
・竜宮の人たちは陸に上がれないので人魚の肉を男めがけて投げた
・人魚の肉は男の袴の腰板の間に入った
・帰ってきた男に家の人たちは大喜びで出迎えた
・娘が竜宮の土産を欲しがった
・腰板の間から落ちた肉を娘が食べてしまった
・娘は千年の寿命を持ち、力が強かった
・片山古墳を千年比丘の住居の跡と言っている

 形態素解析すると、
名詞:男 千 人 人魚 娘 竜宮 肉 板の間 竜宮城 腰 あれ そこ とき まな板 上 人間 住居 力 古墳 国分 土産 城内 夢 姉 家 寿命 料理 料理人 料理場 日頃 月日 比丘 浜 片山 袴 裕福 跡 里 陸
動詞:食べる めがける 上がれる 入る 出迎える 呼ぶ 報いる 帰る 引き留める 忘れる 投げる 持つ 来る 歩く 生きる 経つ 落ちる 行う 言う 逃げる 逃げ出す 醒める 驚く
形容詞:よい 強い 欲しい
形容動詞:大喜び
副詞:一目散に

 男―人魚―料理人―竜宮の人、男―肉―娘といった構図でしょうか。

 竜宮に<よばれた>男だったが、人魚が<料理>されているところを<見て>人間と<誤解>し<逃げ出す>。男の身体についていた人魚の肉を<食べた>娘は千年比丘と<なる>

 竜宮から帰った男の身体についていた人魚の肉を食べて千年比丘となる内容です。

 発想の飛躍は男が人魚が料理されているところを見てしまったことでしょうか。男―人魚―料理人の構図です。千年比丘の伝説は全国に伝播しますが、千年比丘の怪力の話は石見特有でしょうか。

 異郷訪問譚です。主人公は男から娘に入れ替わりますが、非日常→日常→非日常へと移り変わります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.251-252.

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2022年9月 8日 (木)

猫島犬島――モチーフ分析

◆あらすじ

昔、聖武天皇の勅願によって日本全国に国分寺が建てられた。石見の国でも国分の丘に建てられたが、たいそう立派なもので、その甍(いらか)の陰が遠く唐の国まで届いて田畑の陰となって作物を作る邪魔となった。そこで唐の国から一匹の赤い猫が日本へ渡って来て、国分寺を焼き払って陰を取り除こうと思って様子を窺っていた。ところが日本の犬がこれを嗅ぎだし、猫を見つけると一気にかみ殺そうと思って飛びかかった。びっくりした猫は逃げ出したが、追い詰められて畳ヶ浦の上の古登多加山(ことたかやま)から海へ飛び込んだ。犬も続いて飛び込んだが、寒中のことで、二匹とも凍え死んでそのまま二つの岩になった。これが猫島と犬島である。猫島、犬島は浜田市国府の畳ヶ浦にあって周囲四、五〇メートル、高さ三〇メートル、同じ様な大きさで海岸に近い方が犬島、遠い方が猫島である。

◆モチーフ分析

・全国に国分寺が建てられ、石見の国でも国分寺が建てられた
・石見の国分寺はたいそう立派で甍の陰が唐の国まで届いて作物を作る邪魔となった
・唐の国から一匹の赤い猫が日本へ渡って来て、国分寺を焼き払おうと様子を窺っていた
・日本の犬がこれを嗅ぎだし、猫をかみ殺そうと思って飛びかかった
・びっくりした猫は逃げたが、追い詰められて畳ヶ浦の海へ飛び込んだ
・犬も飛び込んだ
・寒中で、二匹とも凍え死んでそのまま二つの島となった
・これが猫島と犬島である

 形態素解析すると、
名詞:国分寺 国 猫 これ 唐 日本 犬 石見 一 二 びっくり 二つ 作物 全国 寒中 島 様子 海 犬島 猫島 甍 畳ヶ浦 立派 陰
動詞:建てる 飛び込む かみ殺す なる 作る 凍え死ぬ 嗅ぎだす 届く 思う 来る 渡る 焼き払う 窺う 追い詰める 逃げる 飛びかかる
形容詞:赤い
形容動詞:邪魔
副詞:そのまま たいそう

 犬/猫の構図です。猫―国分寺―犬です。猫―海―猫島、犬―海―犬島、国分寺―陰―唐でもあります。

 石見国分寺を<焼き払おう>と唐の国から<渡って>きた猫だったが、日本の犬に<追い立て>られ、寒中の海に<飛び込み><凍死>して岩と<化した>。

 国分寺を焼き払おうとした唐の猫が日本の犬と争って寒中の海に落ちて凍死して岩になった……という内容です。

 発想の飛躍は石見国分寺の陰が唐の国まで届いたというところでしょうか。実際の国分寺では火事があったと発掘物から知れる様です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.250.

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2022年9月 7日 (水)

和泉式部の腰かけ岩――モチーフ分析

◆あらすじ

 都を出て九州路へと旅だった和泉式部はなれない旅路で道もはかどらず、ようやく石見の国の国府へ辿り着いた。道の険しい山陰の旅、男の足でさえ楽ではないのに、都住まいのか弱い女の足、しかも身重の身であった。竹の杖を頼りにようやくここまで来た時には、足は痛み息がきれて、もう一歩も進めない程だった。式部は道のほとりの清水で喉を潤し、ほど近い伊甘(いかん)で旅路の平安を祈り、下府(しもこう)橋のたもとまで出た。その時激しい腹痛がおそって来た。式部は出産が間近になったことを知った。心許ない旅の空、頼むのは暖かい人の情けである。こうしてはいられぬと足を早めて橋詰にある大きな家の前まで来た。庭の隅には大きな平らな岩が据わっていた。歌と学問にかけては都でその名を謳われた和泉式部も長い旅と臨月という身重な身体でやつれ果てて、まるでみすぼらしい乞食女の様になっていた。しばらく休んで情にすがろうと、その岩に腰を下ろしてほっと一息ついた。そして何か気が遠くなるような気がしているところへ、気づいてみるとそこにその家の使用人が立っていた。式部は訳を話してこの上歩いて行くことができないので泊めてくれるように頼んだ。しかし見る影もなくやつれて、その上いつ子供が産まれるか分からない旅の女を泊めてくれようとはしなかった。早く出て行ってくれと使用人は厳しく言う。どうか哀れと思ってお泊め下さいと頼んだが、酷い剣幕でせき立てられ、式部は仕方なく重い腰を上げ、痛む腹を押さえてとぼとぼと歩いて行った。五月雨がまたひとしきり降ってきた。「鳴けや鳴け 高田の山のほととぎす この五月雨に 声なおしみそ」「憂きときは 重いぞいずる石見潟 袂の里の 人のつれなさ」これは和泉式部がこの時のことを思い出して詠んだ歌である。今も式部が腰をかけて休んだ岩はこの家の庭に残っていて「式部腰かけ岩」と呼ばれており、青柳大明神の祠もある。式部はここから多陀寺(ただじ)山を越えて袂の里で出産し、子供に産湯をつかわせたので、それから生湯(うぶゆ)と言うようになった。

◆モチーフ分析

・九州へ向けて旅立った和泉式部はようやく石見の国の国府へ辿り着いた
・女の足でしかも身重だった
・疲れ果てた式部は伊甘で喉を潤し、下府の橋のたもとまで来た
・そのとき陣痛が起きて式部は出産が間近なことを悟った
・大きな家を訪ねた式部は庭の大きな岩に腰掛けて休んだ
・その家の使用人がやって来て式部は事情を話したが、みすぼらしい姿に受け入れてくれようとしなかった
・使用人にせき立てられ、式部は止むなく歩き出す
・式部、歌を二首詠む
・式部は多陀寺の袂の里で出産し産湯をつかった
・それでそこを生湯と呼ぶようになった
・式部が腰掛けた岩は現在でも残っている

 形態素解析すると、
名詞:式部 使用人 出産 家 岩 二 こと そこ たもと とき 下府 九州 事情 伊甘 和泉式部 喉 国 国府 多陀 女 姿 寺 庭 橋 歌 現在 生湯 産湯 石見 袂 足 身重 里 間近 陣痛
動詞:腰掛ける する せき立てる つかう やって来る 休む 受け入れる 向ける 呼ぶ 悟る 旅立つ 来る 歩き出す 残る 潤す 疲れ果てる 訪ねる 詠む 話す 起きる 辿り着く
形容詞:みすぼらしい
副詞:ようやく 止むなく

 和泉式部―岩―使用人、和泉式部―出産―生湯といった構図でしょうか。

 身重の和泉式部は出産が近づき、泊めてくれる家を<探した>が、そのみすぼらしい姿に<断られて>しまう。やむなく式部は多陀寺の袂の里に<行き>、そこで<出産>し、産湯を<使う>

 出産が近づいた和泉式部だったがみすぼらしい姿のため泊めてくれる家がなく、仕方なしに多陀寺の袂の里で出産したという内容です。

 発想の飛躍は屋敷の使用人が式部の出産を断ったことでしょうか。出産の穢れを嫌ったという見方もできます。伊甘は伊甘神社、多陀寺は初午祭で知られる古刹です。浜田市生湯町の地名説話でもあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.247-249.

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2022年9月 6日 (火)

邑智まで終わる

「石見の民話」のモチーフ分析、邑智地方まで終わる。これで大体半分くらい。順調にいっても11月まではかかるだろう。それからロールバックする予定なので、電子書籍を出せるのは早くて年末といったところだろうか。

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涙がこぼれる――モチーフ分析

◆あらすじ

 彦八はいつもお金を出さずに仲間の中へ入って飲んだり騒いだりしていた。そこで皆が相談して、今度は彦八が来ても家の中へ入れないことにして戸を閉めて飲んでいた。そこへ彦八がやって来て戸を叩いて開けてくれと言った。皆はまた来たなと思って知らぬ顔をしていた。すると彦八は大声で開けてくれ、早く開けないとこぼれるよとしきりに頼むので、今度は何か持ってきたのだろうから開けてやれと戸を開けた。すると彦八は何も持ってない。そこで一体何がこぼれるのかと大声で叱りつけると、彦八は平気な顔で、早く開けてくれなければ涙がこぼれると言ったので、皆は仕方なしにまた中に入れて飲ませた。

◆モチーフ分析

・彦八はいつも金を出さずに仲間内で飲んだり騒いだりしていた
・今度は彦八が来ても家の中へ入れないことにすると皆が相談する
・皆、戸を閉めて飲んでいる
・彦八がやって来て開けてくれと言ったが、皆知らぬ顔をしている
・彦八、開けてくれ、早く開けないとこぼれるとしきりに頼む
・今度は何か持ってきたのだろうと戸を開ける
・彦八は何も持っていない
・何がこぼれるのかと叱りつける
・彦八、早く開けてくれないと涙がこぼれると言う
・皆は仕方なしに彦八を中に入れて飲ませる

 形態素解析すると、
名詞:彦八 皆 中 今度 何 戸 こと 仲間 家 涙 相談 金 顔
動詞:開ける こぼれる する 飲む 入れる 持つ 言う やって来る 出す 叱りつける 来る 知る 閉める 頼む 騒ぐ
形容詞:早い
副詞:いつも しきりに 仕方なしに 何か

 彦八/仲間の構図です。彦八―(こぼれる)―仲間でしょうか。

 いつも金を出さずに<飲んで>いた彦八に仲間たちが家の中に入れないことに<相談>する。彦八が来ても中に入れないので、早く入れてくれないと<こぼれる>と<言う>。何か持ってきたのかと中に<入れる>と、涙が<こぼれる>と言った。仕方なしに中へ<入れた>

 早く中に入れてくれないとこぼれると言うが、それは涙がこぼれるだった。
 発想の飛躍は涙がこぼれるでしょうか。読んでいたときは小便がこぼれるかと予想しましたが外れました。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.231.

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2022年9月 5日 (月)

理論的支柱はフランクフルト学派――福田ますみ「ポリコレの正体」

福田ますみ『ポリコレの正体 「多様性尊重」「言葉狩り」の先にあるものは』を読む。LBGTやBLMの理論的支柱はフランクフルト学派の文化マルクス主義だとのこと。冷戦が終わってもまだ終わってないのだ。敵に不寛容であれというテーゼに反論する術を見つけることだろうかか。

……ところで世界日報って某カルト系団体の関連企業では……

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嘘ではない――モチーフ分析

◆あらすじ

 彦八が旦那のところへ呼ばれていくと、旦那は彦八に話せと言った。話すことは話すが、せっかく話すと、こんな彦八、そりゃ嘘ではないかと言う。嘘ではないかと言うともう話さない。よし、もう嘘ではないかとは言わないから話せと旦那が言うと、彦八はでは話そう、自分が雪の降っている中を通っていると、蛇が出てきて何か獲物がないかと探すが何もない。そこで蛇は自分の尻尾から食いはじめて、とうとう頭だけ残った。それでもう食べるものがないので、その頭も食べてしまったと話した。これを聞いた旦那は何気なしに彦八、それは嘘ではないか。頭が何を食ったかと言った。すると彦八は、旦那の様に分からぬことを言うから話はできない。たった今嘘ではないかと言ったではないかと帰ってしまった。

◆モチーフ分析

・彦八が旦那のところに呼ばれると、旦那は彦八に話せという
・彦八、話すことは話すが、せっかく話すと、それは嘘ではないかと言うからもう話さないと言う
・旦那はもう嘘ではないかと言わないから話せと言う
・彦八、食べるもののない蛇が自分の尻尾から食い始めて頭まで食べてしまったと話す
・旦那はそれは嘘ではないか。頭が何を食ったかと言う
・彦八、旦那の様に分からぬことを言うから話はできない。たった今嘘ではないかと言ったではないかと帰る

 形態素解析すると、
名詞:彦八 旦那 嘘 こと それ 頭 ところ もの 今 何 尻尾 自分 蛇 話
動詞:言う 話す 話せる 食べる いう できる 分かる 呼ぶ 帰る 食い始める 食う
形容詞:ない
副詞:もう せっかく たった

 彦八/旦那の構図です。彦八―話/嘘―旦那、蛇―(食べる)―尻尾―頭というところでしょうか。

 彦八、旦那に<呼ばれる>。旦那、彦八に<話せ>と<言う>。彦八、旦那は嘘ではないかと言うから<話さない>と<断る>。旦那、嘘ではないかとは<言わない>から<話せ>と<言う>。彦八、蛇が自分を<食って>しまった話を<する>。旦那、それは嘘ではないかと<言う>。彦八、たった今嘘ではないかと言ったから話はできないと<帰る>。

 旦那に呼ばれた彦八だが、嘘ではないかと言われるから話さないと断る。それでもと言われると話すが、やはり嘘ではないかと言われて帰る。

 発想の飛躍は蛇が自身を食ってしまう話でしょうか。尻尾を呑み込んだ蛇の絵はしばしば描かれますが、頭まで食ってしまうのは少ないでしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.230.

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2022年9月 4日 (日)

世界の一割を産出――「ブラタモリ」石見銀山編

NHKプラス「ブラタモリ」石見銀山編を見る。銀山のある仙ノ山は凝灰岩でできており、火山灰などが積もった山だそうだ。柔らかい凝灰岩の山に銀を含んだ熱水が浸透した。その柔らかさ故に鉱脈自体は細かったものの掘り進めやすかったとのこと。

僕は石見銀山には三回ほど行ったが、温泉津にはまだ行ったことが無い。

<追記>
大森の町並みは窓枠をサッシから木製のものへと変えたとのこと。利便性よりも観光地としての見た目を優先させた訳だ。

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博労と狐――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、博労(ばくろう)がいた。牛や馬を売ったり買ったりするのが商売で、なかなか悪賢い男であった。近くによく化ける狐がいた。ある日博労が狐にお前は何変化知っているか尋ねた。狐は七変化していると答えた。すると博労は自分は八変化知っていると答えた。狐がひとつ押してくれんかと言うと、博労は自分は博労だからお前が良い牛に化ければ教えてやる、お前より一変化多いから狐がなんぼ変化しても見れば分かると答えた。

 狐は良い牛に化けるからひとつ教えて欲しいと頼んだ。それではずっと良い牛に化けよと博労が言い、狐は一変化多く教えて貰おうと思って良い牛に化けた。博労はそれをあれこれ言って猶させて良い牛にこしらえてお金持ちの百姓のところへ連れていった。百姓の旦那はとても良い牛なので沢山の金を払った。博労は金を沢山貰って帰った。

 狐は駄屋へ入れられた。藁を与えられたが少しも食べられない。仕方ないので二三日いて抜けて帰った。

 狐は博労のところに来て、やれ苦しかった、二三日ほど何も食わないで戻ったから早く変化を教えてくれと頼んだ。博労はそういう約束だったから教えてやるから大きな袋をひとつ持ってこいと言った。

 狐が袋を持ってくると、お前に親類や子供や兄弟がいれば皆呼んでこい。そうれば皆習われる。お前一人習ってもつまらん、皆連れて知らねばいかんと答えた。狐は親兄弟、一家親類みな連れてきた。お前の兄弟親類は他にはおらんかと博労が尋ねると、狐はこれほどだと答えた。それじゃあ、この袋に入れと博労が言った。

 狐が皆袋に入ると、博労は口をしっかり縛って、教えるからよく習えよと言って大きな棒を持ってきて、袋に入っているのを「一変化」といってぶん殴った。狐は痛いので、こんなことをしてはいけない、変化を教えよと言った。博労はこれが変化だ、二変化といって叩いた。コンコン狐が言うのを三変化、四変化と言って、とうとう七変化と言って七つ叩いたときには狐はもう皆死んでしまった。

◆モチーフ分析

・悪賢い博労がいた
・よく化ける狐がいた
・博労、狐に何変化知っているか尋ねる
・狐が七変化知っていると答えると、博労は八変化知っていると答える。嘘
・狐、一変化教えて欲しいと頼む
・博労、狐に牛に化けさせる
・博労、牛に化けた狐を百姓に売って大金を得る
・狐は牛小屋に入れられるが、食べるものもないので二三日で抜けてくる
・狐、博労に一変化教えて欲しいと頼む
・博労、狐に大きな袋を持ってこさせる
・博労、狐に親兄弟、親類を呼んでこさせる。嘘
・博労、狐たちに袋に入らせる
・博労、袋の口を縛って逃げられないようにする
・博労、変化と言って袋を棒で叩く
・狐、痛い、早く変化を教えよと言う
・博労、これが変化だと言って袋を叩く
・七回叩いたところで狐は皆死ぬ

 形態素解析すると、
名詞:狐 博労 変化 袋 一変 嘘 牛 二三 七 八 これ ところ もの 七変化 何 口 大金 棒 牛小屋 百姓 皆 親兄弟 親類
動詞:化ける 叩く 教える 知る 言う いる 答える 頼む する 入る 入れる 呼ぶ 売る 尋ねる 得る 抜ける 持つ 死ぬ 縛る 逃げる 食べる
形容詞:欲しい ない 悪賢い 早い 痛い
副詞:よく

 狐/博労の構図です。狐―変化―博労でしょうか。百姓―牛=狐―博労、狐―袋―博労も見られます。

 博労、狐に何変化知っているか<尋ねる>。博労、狐より一変化多いと<言う>。一変化を知りたい狐、牛に<化ける>が百姓に高値で<売られる>。<抜け出して>きた狐、博労に一変化教えるように<頼む>。博労、狐に一族を<連れて><こさせる>。狐たちを袋に入れた博労、棒で<叩く>。狐、文句を<言う>が、博労、構わずに<叩く>。狐たち、皆<死ぬ>。

 博労が嘘で狐を騙し売り飛ばすが、一変化を知りたい狐は更に博労に騙されて袋詰めにされて叩き殺されてしまう……という内容です。

 発想の飛躍は博労が狐に一変化多く知っていると騙すところでしょうか。どうしてもその一変化を知りたい狐はまんまと騙されてしまうのです。博労の悪知恵が狐を上回る話であります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.227-229.

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2022年9月 3日 (土)

馬のおとしもの――モチーフ分析

◆あらすじ

 山寺の小僧はしごにならない(手に負えない)ものであった。坊さんは魚を食うことは禁じてあった。ところが和尚がいつも戸棚へ頭を突っ込んで何やらむしゃむしゃ食べている。小僧にはないしょで見せない。ある日和尚が門徒の家に仏事を務めにいった。その留守に小僧が戸棚を開けてみると鯛の煮付けがある。和尚めがこんな物を隠して食べやがる。よしいつか仏罰を与えてやるから見ておれと思った。和尚が帰ってきたので小僧は戸棚の中にあるものは何かと問うた。和尚は小僧に見られたと思ったので、そしらぬ顔であれは「にかんのてて」というものだと答えた。ある日和尚が馬に乗って門徒の家に行くので小僧が後からついて行った。川を渡るときに魚がたくさん泳いでいた。小僧が和尚さん、あそこに「にかんのてて」が沢山ありますと言った。和尚は見たことは見捨て、聞いたことは聞き捨てにするものだと言った。それからどんどんついて行ったら風が吹いて和尚の頭巾が脱げて飛んだ。小僧は見たことは見捨ててどんどん行くと、和尚が頭に頭巾のないことに気がついて、小僧、俺の頭巾が落ちはしなかったかと訊いた。小僧は頭巾はあんなあとに落ちていましたと答えた。なぜ拾わなかったかと訊くと、和尚が見たことは見捨てにせよと言ったから見捨てにしたと答えた。和尚が早く拾ってこい。馬から落ちたものは何もかも拾ってこいと答えたので、小僧は後に戻って頭巾を拾い、頭巾の中に馬の糞をいっぱい拾って差しだした。和尚が、これは馬の糞ではないかと叱ると、小僧はそれでも和尚は馬から落ちたものは何でも拾ってこいと言ったではないかとやり返した。

◆モチーフ分析

・山寺の小僧は手に負えない
・坊さんは魚を食べることは禁止されていた
・和尚はいつも戸棚へ頭を突っ込んで何か食べている
・和尚の留守に小僧が戸棚を開けてみると鯛の煮付けがあった
・和尚に仏罰を与えてやると小僧思う
・帰ってきた和尚に戸棚の中にあるものは何か問う
・和尚は「にかんのてて」だと答える
・ある日和尚が馬に乗って門徒の家に行くので小僧がついて行く
・川を渡ると魚がたくさん泳いでいたので「にかんのてて」が沢山あると小僧言う
・和尚、見たものは見捨て、聞いたことは聞き捨てにするものだと言う
・風が吹いて和尚の頭巾が脱げて飛んだが小僧は見捨てた
・頭巾が無いことに気づき、小僧に訊く
・小僧、見たことは見捨てよと言ったので見捨てたと答える
・和尚が馬から落ちたものは何もかも拾ってこいと命じる
・小僧は後戻りして頭巾を拾い、中に馬の糞を拾って差しだした
・和尚が怒ると、小僧は馬から落ちたものは何でも拾ってこいと言ったではないかとやり返す

 形態素解析すると、
名詞:和尚 小僧 もの こと 馬 戸棚 頭巾 てて にかん 中 魚 たくさん 仏罰 坊さん 家 山寺 川 手 沢山 煮付け 留守 禁止 糞 聞き捨て 門徒 頭 風 鯛
動詞:拾う 見捨てる 言う ある する 答える 落ちる 見る 食べる ついて行く やり返す やる 与える 乗る 吹く 命じる 問う 差しだす 帰る 後戻る 怒る 思う 気づく 泳ぐ 渡る 突っ込む 聞く 脱げる 行く 訊く 開ける 飛ぶ
形容詞:ない 無い 負えない
副詞:何か ある日 いつも 何でも 何もかも

 和尚/小僧の構図です。和尚―鯛―小僧、和尚―糞―頭巾―小僧でしょうか。
 和尚が鯛の煮付けを<食べて>いることに気づいた小僧、仏罰を与えてやろうと<考える>。和尚が馬で外出するのについて行った小僧、見たことは<見捨てよ>と言われる。和尚の頭巾が風で<飛んだ>が小僧、<見捨てる>。馬から落ちたものは何でも<拾って>こいと言われた小僧、馬の糞を頭巾に<詰めて><差し出す>。

 見たことは見捨てよと言われたら、その通りにする。馬から落ちたものは何でも拾えと言われると糞まで拾うと言葉通りに行動しています。

 発想の飛躍は「にかんのてて」でしょうか。煙に巻いたところ、言葉通りに小僧に行動されるという結果を招きます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.225-226.

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2022年9月 2日 (金)

指合図――モチーフ分析

◆あらすじ

 禅寺の小僧は昔からしごにならない(手に負えない)ものであった。小僧が今日はご飯は何升炊くか問うと和尚は黙って指で知らせる。一本は一升、二本は二升。それで小僧が考えた。あるとき便所の踏板を外れるようにしておいた。和尚はいつものように朝便所に行くと踏板が外れて落ちた。びっくりした和尚は小僧を大声で呼ぶ。何事でございますがと言ってみると、和尚は便所へ落ちて両手をあげている。小僧は承知しましたとそのまま逃げてしまった。和尚はようやく上がって庫裡(くり)に行ってみると小僧は大釜に飯を炊いている。なぜそんなに飯を炊くのかと言うと、和尚が両手をあげておられたので一斗しかけましたと言った。和尚は仕方がない、干飯(ほしい)にしておけと言った。それから大分経って和尚が小僧を呼んで一斗の干飯はあるのか問うと、ほしいにせえとおっしゃったので、ほしい時に食べてしまいましたと言った。

◆モチーフ分析

・禅寺の小僧は手に負えない
・小僧が今日は飯を何升炊くか問うと和尚は指で一升、二升と知らせた
・小僧が便所の踏板を外れるようにしておいた
・和尚が朝便所に行くと踏板が外れて落ちた
・びっくりした和尚は大声で小僧を呼ぶ
・小僧が行ってみると、和尚は便所へ落ちて両手をあげている
・小僧、承知しましたと言って、そのまま逃げてしまう
・和尚がようやく上がって庫裡に行ってみると小僧は大釜で飯を炊いている
・なぜそんなに飯を炊くのかと言うと、小僧は和尚が両手をあげておられたので一斗しかけたと言う
・和尚は仕方がないので干飯にしておけと言う
・大分経って和尚が一斗の干飯はあるかと問う
・小僧はほしいにせえとおっしゃったので、ほしい時に食べてしまったと答える

 形態素解析すると、
名詞:小僧 和尚 一 便所 飯 両手 干飯 踏板 二 けた びっくり 今日 何升 大分 大声 庫裡 手 承知 指 時 朝 禅寺 釜
動詞:言う 炊く 行く あげる する 問う 外れる 落ちる ある おっしゃる せく 上がる 呼ぶ 知らせる 答える 経つ 逃げる 食べる
形容詞:ほしい 仕方がない 負えない
副詞:そのまま そんなに なぜ ようやく

 和尚/小僧の図式です。和尚―便所―小僧、和尚―飯―小僧といった図式です。指―何升―両手もあり。

 和尚は飯を何升<炊く>か小僧に指で<指示>していた。小僧が便所の踏板を<外す>。和尚、便所に<落ちた>ので両手を<あげて>小僧を<呼ぶ>。小僧、和尚が両手を<あげて>いたので一斗<炊いた>と言う。干飯にせよと<言うと>ほしいにせよと言ったので全部<食べた>と<答える>。

 便所に落ちたので呼ぶと勝手に解釈して飯を炊く。現在は水洗の洋式トイレが普及したので、昔の和式便所は知らない人が増えたでしょう。

 発想の飛躍は和尚が両手を挙げたことを一斗飯を炊けと勝手に解釈してしまうことでしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.223-224.

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自分で絵を売り歩いている――林武「美に生きる」

林武「美に生きる」(講談社現代新書)を読む。前半、子供時代に家が貧しくて苦労したことが綴られている。父は国学者で出自自体は悪くない。現代だと一度コースを外れると復帰できないみたいな風潮だが、戦前は著者の様な経歴でも独り立ちしている。それは才能があったからではあるが。審美眼についてはわずかしか触れられていなかった。

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2022年9月 1日 (木)

和尚と小僧――モチーフ分析

◆あらすじ

 和尚と小僧がいた。和尚は餅が好きでよく焼いて食べたが小僧にはやらなかった。ある日、和尚は小僧がいない時にまた餅を焼いていた。そこへ小僧がひょっこり入って来たので慌てて餅を灰の中へ埋めた。小僧は何かいい匂いがすると言った。和尚は小僧に知れては大変だと思って、何でもない。枯葉がいぶっているのだと答えた。小僧は和尚がまた餅を焼いているなと思って、時に裏の屋根が壊れたから直そうと思うがと話しかけた。和尚がお前直せるかと訊くと、小僧は何でもない。こうやって太い柱を立てるのだと火箸を灰に突き立てた。すると餅が刺さった。和尚は苦い顔をして妙なところに餅がある。お前にやろうと言った。小僧はありがとうございますと言ってむしゃむしゃ食べた。それから和尚、柱をもう一本こういう風に立てると言って別のところへ火箸を突き刺した。また餅が出た。和尚はおかしい。お前が食べよと答えた。小僧はむしゃむしゃ食べた。ところで和尚、その横にもう一本こういう風に立てると火箸に餅を突き刺した。更にもう一本とやった。和尚はたまらなくなって、小僧、柱を立てるのはそれくらいでよかろうと言った。こうして小僧は和尚がせっかく食べようと思って焼いた餅をみんな食べてしまった。

◆モチーフ分析

・和尚と小僧がいた
・和尚は餅が好きでよく食べていたが小僧にはやらなかった
・ある日、和尚は小僧がいないときに餅を焼く
・そこへ小僧がひょっこり入ってくる
・和尚、慌てて餅を灰の中に埋める
・小僧、いい匂いがすると言う
・和尚、枯葉がいぶっているのだと答える
・和尚がまた餅を焼いていると察した小僧、裏の屋根が壊れていると話す
・和尚、小僧に直せるかと訊く
・小僧はこうやって柱を立てるといって火箸で灰の中の餅を突き刺す
・和尚、妙なところに餅がある。お前が食べよと小僧に言う
・小僧、餅をむしゃむしゃ食べる
・小僧、柱をもう一本立てると言って別のところに火箸を突き立てる
・餅が刺さったので小僧が食べることになる
・小僧、その横にもう一本柱を立てると言って火箸を突き立てる
・更にもう一本火箸に餅を突き立てる
・たまりかねた和尚、柱を立てるのはそれくらいでよかろうと言う
・小僧は和尚が食べようとした餅をみんな食べてしまった

 形態素解析すると、
名詞:小僧 和尚 餅 柱 火箸 ところ 一本 中 灰 お前 こと そこ それくらい とき みんな 一本立 別 匂い 屋根 枯葉 横 裏
動詞:食べる 言う 突き立てる 立てる いる する やる 焼く ある いく いぶる たまりかねる なる 入る 刺さる 埋める 壊れる 察 慌てる 直す 突き刺す 答える 訊く 話す

形容詞:よい いい
形容動詞:よい いい
副詞:もう ある日 こう ひょっこり また むしゃむしゃ 更に

 和尚/小僧の対立図式です。師匠/弟子と抽象化できます。和尚―餅―小僧という図式となっています。火箸―灰―餅でもあるでしょうか。

 和尚が小僧に餅をやらないで一人で<食べて>いた。和尚が餅を<焼いて>いると小僧が<入ってくる>。小僧、裏の屋根の修理に<かこつけて>餅を火箸で<突いて><食べる>。それを繰り返してとうとう餅を全部<食べて>しまう。

 餅を火箸で突いて食べることを四回繰り返します。昔話での繰り返しは三回が多いのですが、ここでは四回繰り返しています。最後の一回はダメ押しというところでしょう。

 発想の飛躍は屋根の修理にかこつけた小僧の知恵でしょうか。食べ物の恨みは深いのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.221-222.

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