山椒九右衛門――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、この辺り(石見町)に山椒(さんしょう)九右衛門という者がいた。非常に強欲な男だった。たたらの親方になって沢山の人を使っていたが、一日に一升の飯を三回に分けるところを一回二合七勺ずつに減らして、三勺ずつ三回、一日九合の米を浮かせていた。そういうことで極めて評判が悪く本当の名を呼ぶ者はなく山椒というあだ名をつけていた。ある年の大晦日の夕方にある貧しい家へ借金の催促に立ち寄った。いつもの調子で厳しく返済するように言ったが、もちろん返す金は無いので、明年は必ず辛抱してお返しするから今宵一夜をあかさせてくださいと家内一同頭を地にすりつけて頼んだが、九右衛門は承知しない。ちょうどそのとき竈(かまど)の上に年越しのご飯が煮えていたが、九右衛門はいきなりその鍋を取り上げると庭先の藁を叩く石の上にぶちまけ、鍋だけを片手にこれを貰って行くと言って得意げに帰っていった。夫婦子供は年越しの夜にようやく手に入れた年に一度か二度しか食べることにできない米のご飯の煮えかけを土の上にぶちまけられては食べることができない。泣きながら天を仰いで、もしこの山に主があるなら何とかしてこの仇をとってください。このご飯は山の主に差し上げると祈った。ところが不思議なことに山椒は昨日までの繁盛は夢のように消えて、その夜からひどい熱病にかかって苦しんだ。医者を呼んだり祈祷してもらったりしたが一向によくならない。とうとう骨と皮ばかりになって息を引き取った。葬式の日に市木の浄泉寺の院家(いんげ)が坂の峠の上まで来た時、怪しい風が吹いて胴は猫に似て頭は鷲のような怪物が空を舞っているのが見えた。院家は供の者に光西寺にある火車品(かしゃぼん)(傘にお経を書いたもの)を借りてくるよう言い付けた。院家は供の者が帰ってくるのを待っていたが、山椒の家ではもう皆が待っているのでお経をはじめた。お経が済んで焼香になると坂の上でみた怪物が羽音凄まじく舞い降りてきて棺の蓋をとると屍体を抱えて空へ上がった。後から見ると、屍体は喰い裂かれて足だけは丸原の三本松の枝に掛かっていた。昔から棺の蓋は外に出す前に釘づけにしなければいけないと言われるのは、こうしたことがあるからだということである。また光西寺の火車品は火事で焼けて今は無いということである。
◆モチーフ分析
・山椒九右衛門という強欲な男がいた
・使用人の食べ物の米を減らして金を浮かせていた
・評判が悪く山椒というあだ名をつけられていた
・大晦日に借金の取り立てに赴く
・借り手はすぐには返せないので来年まで待ってもらうよう懇願する
・山椒、煮え掛けの米を土にぶちまける
・山椒、鍋だけを持って帰る
・借り手、山の主に天罰を祈念する
・山椒、激しい病に冒され死亡する
・葬式に火車が現れる
・院家、火車品を借りに供の者を走らせる
・葬式は始まってしまった
・火車が現れて棺の中の山椒の屍体を取ってしまう
・山椒の屍体は食い荒らされていた
・こういうことがあるので、棺の蓋は釘で打つのである
・火車品は火事で焼けてしまった
形態素解析すると、
名詞:山椒 火車 借り手 屍体 棺 米 葬式 あだ名 こと 中 九右衛門 使用人 供 借金 土 大晦日 天罰 山 強欲 懇願 来年 死亡 火事 男 病 祈念 者 蓋 評判 金 釘 鍋 院家 食べ物
動詞:いう 現れる ある いる つける ぶちまける 借りる 冒す 取り立てる 取る 始まる 帰る 待つ 打つ 持つ 浮く 減らす 焼ける 煮える 走る 赴く 返す 食い荒らす
形容詞:悪い 激しい
副詞:こう すぐ 主に
山椒/借り手の構図です。抽象化すると、金貸し/借入人です。山椒―(ぶちまける)―米―借り手、山椒―(食い荒らす)―火車の図式です。
強欲な山椒、使用人の米を減らして金を浮かせていた[吝嗇]。大晦日に借金の催促に来訪する[督促]。払えない借り手に対し、米を炊いている鍋をひっくり返す[廃棄]。借り手、天罰を祈る[祈念]。病気となった山椒、死ぬ[死去]。葬式に火車が現れて[出現]山椒の屍体を奪い取る[奪取]。山椒の屍体は食い荒らされていた[応報]。
発想の飛躍は米の煮えた鍋をひっくり返し天罰を喰らうところでしょうか。山椒―(ぶちまける)―米―借り手の図式です。
年に一度か二度しか食べられない白米を台無しにされた恨みは深いでしょう。また妖怪である火車の登場も特筆されます。山椒―(食い荒らす)―火車の図式です。火車は『石見の民話』の他の話「化け猫」「渡廊下の寄付」でも登場します。
昔話の機能として、子供に因果を含めて聞かせるということも挙げられると考えます。食べ物を粗末にすると罰(ばち)が当たるということを教えているのです。
山椒はなぜ山椒と呼ばれるのでしょうか。『山椒大夫』を連想します。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.189-190.
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