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2022年8月25日 (木)

狼と牛鬼――モチーフ分析

◆あらすじ

 狼は人間が牛鬼や狐に危害を加えられようとするときは、その人間の眉毛を一本抜いて目に当ててその人が良い人が悪い人かをみる。その人が悪い人であったら体は人間であっても頭は畜生の類いになって見えるが、良い人であったら頭も人間に見えるということである。狼は悪い人だったら決して助けないが、良い人は助けてくれて、その人の家まで送り届けてくれる。これを送り狼といって、送り狼に送ってもらったときは足を洗ったたらいの水を捨ててたらいを逆さにして伏せ「ご苦労だったのう」と礼をいうと狼は安心して帰る。もしそうしないと狼は立ち去らないでいつまでもそこにいるそうだ。

 昔、川戸の小田の桜屋の爺さんが田野へズク(銑鉄)を負って行っての帰りに日が暮れて七日渕の向こうまで行ったとき、狼が袖をくわえて竹藪の中へ連れ込んだ。狼に喰われるのかとビクビクしていると、狼は爺さんをそこへ座らせて腰を下ろした。すると人臭いと言って牛鬼が出てきた。川向こうの住郷の平からも牛鬼が「よい肴(さかな)があるではないか」と言った。こっちの牛鬼は「肴はあっても守りがついていてつまらんから、これから波子(はし)の浜へ出よう」と言った。両方の牛鬼は江川を挟んで話し合っていたが、そのまま行ってしまった。しばらくして狼は爺さんの袖をくわえて道へ連れ出した。「ようこそ助けてくれたのう」と礼を言うと、狼はなおも袖をくわえて小田の家まで送ってきた。爺さんは足を洗ってその水を移して「ご苦労だったのう」と言ってたらいを伏せると、狼は安心したように山へ帰っていった。

◆モチーフ分析

・狼は人間が牛鬼や狐に襲われたときには、その人間の眉毛を一本抜いて良い人か悪い人かみる
・悪い人だったら頭が畜生の類いに見える
・良い人だったら頭も人間に見える
・狼は悪い人だったら決して助けない
・狼は良い人だったら助けてその人の家まで送り届けてくれる
・送り狼に送ってもらったときは、足を洗ったたらいの水を捨てて、たらいを逆さにして伏せて、ご苦労だったと礼を言うと狼は安心して帰る
・そうしないと狼は立ち去らないで、いつまでもそこにいる
・川戸の爺さんが銑鉄を背負って行っての帰り道で狼に遭遇した
・狼は爺さんの袖をくわえて竹藪の中へ入った
・中に入ると狼は腰をおろした
・すると牛鬼の声が聞こえてきた
・人がいるが狼がいるから獲られないと牛鬼たち会話する
・牛鬼たち去って行く
・狼、爺さんの袖をくわえて道に出る
・爺さんの家まで送り狼する
・爺さん、狼に礼を言ってたらいを伏せる
・安心した狼、去っていく

 形態素解析すると、
名詞:狼 人 爺さん 牛鬼 たらい 人間 とき 中 安心 家 礼 袖 送り狼 頭 一 いつ ご苦労 そこ 会話 声 川戸 帰り道 水 狐 畜生 眉毛 竹藪 腰 足 逆さ 道 遭遇 銑鉄
動詞:いる する くわえる 伏せる 入る 助ける 行く 見える 言う おろす たち去る みる 出る 去る 帰る 抜く 捨てる 洗う 獲る 立ち去る 聞こえる 背負ってる 襲う 送り届ける 送る 類う
形容詞:悪い 良い
副詞:そう 決して
連体詞:その

 狼/爺さん/牛鬼の構図です。抽象化すると、動物/人/妖怪です。狼―爺さん―牛鬼の図式です。

 銑鉄売りの爺さんが帰り道で狼に遭った[遭遇]。狼、爺さんの袖をくわえて竹藪の中に隠れる[隠蔽]。牛鬼の会話が聞こえる[聴聞]。狼がいるので牛鬼は爺さんを捕獲できない[不可能]。牛鬼、去る[退去]。送り狼で爺さん、自宅に戻る[帰宅]。合図をして狼、去る[退去]。

 牛鬼に襲われそうになったが、送り狼で無事だった……という内容です。

 発想の飛躍は爺さんを襲うかに見えた狼が実は牛鬼から爺さんを守っていたというところでしょうか。狼―爺さん―牛鬼の図式です。

 送り狼は現代では逆の意味で使用されているようです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.208-209.

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