西行法師――モチーフ分析
◆あらすじ
西行法師が鼓が原へ行った。タンポポの花がきれいに咲いているので「人に聞く鼓が原に来て見れば 磯辺に咲けるタンポポの花」と詠んだ。我ながら良く詠めたと感心する。広い原で家が無い。どこか泊まるところはないかと探していると小さな家が見つかった。入って見ると髪の白い老人夫婦がいたので一夜の宿を求めた。許されたので上がると何しに来たのか問われた。花を見に来たと答える。西行と名乗ると歌詠みの先生だなと言われる。ひとつ歌を詠んで欲しいと言われたので、我ながらよく詠めたと思う歌だといって詠んだ。それを聞いた老人はどうにもいけないところがある、自分がこの歌を直そうとと答える。鼓というものは音のするものである。それでは音に聞くと言わなければ鼓が原に来た甲斐がない。磯辺に咲ける、鼓は皮を張ったものである。だから川辺に咲けるとやってみよ。「音に聞く鼓が原に来て見れば 川辺に咲けるタンポポの花」と直すように言った。西行は感心して、そのうちうとうとと寝てしまった。目が覚めてみるともう夜明けで、そこには家もなくただの野原であった。そしてほとりに短冊が落ちていた。そこには「柿本人麿」と書いてあった。
◆モチーフ分析
・西行法師、鼓が原へ行く
・西行法師、歌を詠んで自賛する
・西行法師、宿を借りる
・西行法師、老人に歌を詠んで聴かせる
・老人、歌に手入れを施す
・納得した西行法師、そのまま寝てしまう
・目が覚めるとそこは野原で「柿本人麿」と書かれた短冊が落ちていた。
形態素解析すると、
名詞:西行法師 歌 老人 そこ 原 宿 手入れ 柿本人麿 目 短冊 納得 自賛 野原 鼓
動詞:詠む 借りる 寝る 施す 書く 聴く 落ちる 行く 覚める
副詞:そのまま
西行法師/柿本人麿の構図です。抽象化すると、法師/歌聖です。西行法師―歌―老人/柿本人麿の図式です。
鼓が原へやって来た西行法師、歌を詠んで[吟詠]自賛する[自画自賛]。宿を借りた西行法師、宿の主に歌を詠んで聞かせる[詠唱]。すると老人は歌に手入れを施す[修正]。納得した西行法師、寝てしまう[寝落ち]。目が覚めると家は消え[消失]「柿本人麿」と書かれた短冊が残っていた[残存]。
歌を詠んだところ、柿本人麿に手入れされた……という内容です。
発想の飛躍は、西行法師に歌の指導を行うのが柿本人麻呂だったというところでしょうか。西行法師―歌―老人/柿本人麿の図式です。
西行法師が石見国を訪れたのかは分かりませんが、柿本人麿は石見で生涯を終えた歌聖であり、石見にふさわしい昔話と言えるでしょう。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.149-151.
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