皿皿山――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、姉妹がいた。姉は継子(ままこ)で妹は自分の子だった。ある日姉が磯端で青菜を洗っていた。そこへ伯耆(ほうき)の殿さまがお国巡りをして「磯端で青菜を洗う小女子(こうなご)や 打ちくる波の数を知りたまえ」と歌を詠んだ。娘は黙っていた。どこの国の殿さまかは知らないが、きっと帰りがけにここをお通りになるに違いない。その時に仇を打ってあげようと思って待っていた。しばらくして殿さまがお帰りになったので「いかなる国の大名かは知らねども 歩く駒の足の数を知りたまえ」と詠んだ。殿さまは次の宿でお休みになって磯端で青菜を洗っていた娘を呼んでこいと言った。家来が呼びに行くと継母は自分の子がやりたくなって、妹に立派な着物を着せて出した。妹は姉には差し支えがあるので自分が代わって参ったと述べた。殿さまは皿の中に塩を盛って塩の中に松を植えて出した。これを歌に詠めと言った。妹は「皿の中に塩を盛り 塩の中に松を植え」と詠んだ。殿さまは妹ではつまらない。姉と代われと言って追い返した。継母は悔しがったが仕方ない、姉はぼろ着を着せられて殿さまのところに言った。姉は妹を使わしたことを詫びた。殿さまは同じ題を出した。姉は「ぼん盆や、さらさらという山に雪降りて 雪を根にして育つ松かな」と詠んだ。殿さまは感心して、偉い娘だ。連れて帰って部屋住まいをさせると言って風呂をたてて入らせ、立派な衣装を着せた。継母は悔しくてそこにあった鍬(くわ)や箒(ほうき)を投げた。姉はそこで「親とても 重ね重ねのはなむけに 箒の殿の知行取り」と詠んだ。
◆モチーフ分析
・継子の姉と実子の妹がいた
・姉が磯端で青菜を洗っていると殿さまが通りかかって歌を詠む
・姉、殿さまの帰りがけに返歌する
・殿さま、姉を呼び出した
・母親、姉の代わりに妹を送り出した
・殿さま、歌のお題を出す
・妹、歌を詠むがつまらないと返されてしまう
・姉、ぼろ着を着せられ送り出される
・姉、お題に沿った歌を詠む
・気に入った殿さま、姉を部屋住まいの扱いとする
・母親、悔しがる
・姉、それに返歌する
形態素解析すると、
名詞:姉 殿さま 歌 妹 母親 返歌 題 それ ぼろ 実子 帰りがけ 磯 端 継子 部屋 青菜
動詞:する 詠む 送り出す いる 代わる 出す 呼び出す 扱う 気に入る 沿う 洗う 着せる 返す 通りかかる
形容詞:つまらない 悔しい
姉/殿さまの図式です。抽象化すると、娘/領主です。姉―(詠む)―歌―殿さま、妹―(詠む)―歌―殿さまの図式です。
継子の姉が青菜を洗っていたところに殿さまが通りかかる[遭遇]。殿さま、歌を詠む[詠歌]。姉、返歌する[返歌]。姉、返歌がきっかけで呼び出されるが妹が出される[代理]。妹、上手く返歌できず返されてしまう[不採用]。姉が出て見事に返歌する[返歌]。姉、部屋住まいの身分になる[昇殿]。母親が悔しがる[後悔]。姉、それに返歌する[返歌]。
歌の才能で継子の立場から殿さまの部屋住みに昇格する……という内容です。
発想の飛躍は継子の姉の返歌でしょうか。姉―(詠む)―歌―殿さまの図式です。
歌詠みの才覚によって人生を切り開くのです。部屋住まいとありますので、殿さまの妻妾となるのでしょう。
継子は家族の周縁的存在であると言えます。それ故に昔話では中心的人物になりうるのです。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.180-182.
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