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2022年8月14日 (日)

オミユキの竹――モチーフ分析

◆あらすじ

 あるところに夫婦がいた。女房は夫の留守に旨いものをこしらえて一人で食べていた。夫はそれを聞いていたので、ある日のこと山へ行くふりをして別の道を通って戻ってきて天井裏へ上がって女房のすることを見ていた。すると女房は寿司屋から刺身を取り寄せて酒を飲み始めた。夫は今自分が帰ると夫婦げんかになるが、何かよい工夫はないものかと天井裏を歩いていると煤(すす)で真っ黒になった竹の筒が見つかった。それを磨きながらいろいろ考えた。この竹を帝釈(たいしゃく)さんがら貰ったといって嬶(かか)の顔を赤らめてやろうと思い、そっと天井裏から降りて、今戻ったふりをした。神さまから天のオミユキの竹を貰った。この竹で見るとどんなに隠していることでも分かると言うと、女房は震えだして謝った。このことが隣近所の評判になった。近所の意地の悪い夫婦はあの親父が嬶を騙したのよ。オミユキの竹なんて、そんなものがあるかと思って自分の家で鉈(なた)が無くなったといってオミユキの竹で見て貰うことにした。親爺は今日は都合でいけないので明日の朝行くと答えた。親爺は二人が帰るとそろっと隣の家の周りに行ってしゃがんで内輪話を聞いた。すると土の中の芋釜の底がよかろうと聞こえた。翌朝。親爺はオミユキの竹を風呂敷に包んで持っていった。そしてしばらく竹の筒で見ていたが、これは土の中に入っていると答えた。土の中というと芋の穴しかないとなって近所の夫婦も感心して、いよいよ不思議な竹だと大評判になった。それがお殿さまの耳に入った。その頃城内で千鳥の香炉が失せて探しているところだったのでオミユキの竹で見て貰おうということになった。親爺は困ったが仕方ない。心配しながら出かけた。途中で暑くて仕方ないので稲荷堂へ入って昼寝をした。みるとお稲荷さまに小豆飯が供えてあるので頂戴した。そこへ人が来て、小豆飯を食ったのは太郎狐だ。あれが殿さまの香炉も前の池へ投げ込んだという夢を見た。よい夢を見たと喜んで殿さまの所へ出かけた。そしてオミユキの竹を出して方々を見て歩いたが、蓮の池の所へ来て、どうもこの底が怪しい。この池を干してみて下さいと答えた。仰せによって池の水を干してみると、池の底から香炉が出てきた。これはでかしたと親爺は褒美を貰って帰った。それから十日も経たない内にまた殿さまから使いが来た。また千鳥の香炉が無くなったから見てくれとのことだった。親爺は困ったが断る訳にもいかない。駕籠(かご)で迎えが来たので仕方なく駕籠に乗ったが、半里ばかり行った時、山奥へ入って果てる覚悟で大事な品物を忘れたと駕籠を止めさせた。親爺は家に帰るふりをして山の奥へ入った。すると炭がまがあって人の話声がする。耳をそばだてて聞いていると、殿さまの香炉を二千両で買えという声が聞こえた。この炭焼きたちが盗んでいると思いながらまた元のところへ帰ってきた。そして待っていた駕籠に乗ってお殿さまのところへ行った。親爺は二丈八尺もある高い櫓(やぐら)を作らせて、櫓に登って見ていたが、これより八九里先の山奥の炭焼きが盗んでいる。日が経つといけない急ぐのがよいと答えた。殿さまは捕手の役人を二三十人仕立てて、親爺の案内でその山に入った。炭焼きは捕らえられて白状したので香炉は無事戻ってきた。殿さまは喜んで追って沙汰があるので待つように言った。それからしばらくしてまた駕籠で迎えに来た。今度は若殿が九つになるが、未だにものを言わない。易者に見てもらっても分からない。どうした訳か聞きたい。殿中評議の上で迎えに来たとなった。親爺は覚悟を決めて駕籠に乗った。殿さまに頼まれた親爺は気晴らしに散歩に出ることにした。城山へ登りかけると途中で爺婆の狐が二匹いた。親爺は気味悪がったが恐る恐る近づくと、狐の方から話しかけてきた。今日あなたのオミユキの竹で見ると若殿の唖の原因がよく分かる。それは自分たちの父親の皮が殿さまの刻(とき)の太鼓に張ってある。太鼓を打たれると自分たちは五臓六腑が張り裂けるばかりに苦しい。それでそれを恨んで若殿を唖にしているのだ。オミユキの竹で見破られると狐狩りとなり、長い間住んだこの山を去らねばならない。どうか自分たちの仕業ということを明かさないで欲しいと狐は頼んだ。親爺は狐に困った節には助力してくれるように約束させ、山から下りてくると、オミユキの竹を見てから刻の太鼓の皮を張り替えたらよいと答えた。早速太鼓が張り替えられた。太鼓を叩くと若殿は太鼓の音というものは何と面白いものかと初めてものを言った。殿さまは大変喜んで、親爺夫婦に八万石の知行を与えて、二人は一生安楽に暮らした。

◆モチーフ分析

・女房が夫の留守に旨いものを一人で食べている
・夫、山へ行くふりをして天井裏に登る
・夫、煤けた竹筒を見つけ、オミユキの竹と名づける
・夫、女房にどんな隠し事でも分かるのだと騙す
・女房、謝る
・近所の意地の悪い夫婦が親爺に探し物の依頼をする
・親爺、こっそり夫婦の会話の盗み聞きをする
・隠していた場所を言い当てる
・評判が広まる
・殿さまから香炉の探し物の依頼が来る
・親爺、城へ向かう途中、稲荷堂で昼寝する
・夢で香炉の行方が語られる
・親爺、香炉の場所を言い当てて褒美を貰う
・また香炉が無くなった
・駕籠で迎えが来て止むなく乗る
・途中で山奥に入ったところ炭焼きの会話を聞く
・それを殿さまに報告、香炉が取り戻される
・若殿が声を出さないことについて尋ねられる
・時間を貰って城山を歩いていると狐夫婦に逢う
・狐夫婦、若殿の唖の原因を語る
・親爺、その事は口外しない代わりに困ったときの助力を約束させる
・親爺、太鼓の皮を張り替えるよう進言する
・若殿の唖が治る
・親爺夫婦、八万石の知行を授かる

 形態素解析すると、
名詞:親爺 夫婦 香炉 夫 女房 若殿 会話 依頼 唖 場所 探し物 殿さま 狐 途中 八万 こと それ とき ところ ふり もの オミユキ 一人 事 助力 原因 口外 城 城山 堂 報告 声 夢 天井裏 太鼓 山 山奥 意地 昼寝 時間 炭焼き 留守 皮 知行 稲荷 竹 竹筒 約束 行方 褒美 評判 近所 進言 隠し事 駕籠
動詞:する 来る 言い当てる 語る 貰う つく 乗る 代わる 入る 出す 分かる 取り戻す 名づける 向かう 困る 尋ねる 広まる 張り替える 授かる 歩く 治る 無くなる 煤ける 登る 盗み聞く 聞く 行く 見つける 謝る 迎える 逢う 隠す 食べる 騙す
形容詞:悪い 旨い 止むない
形容動詞:どんな
副詞:こっそり また
連体詞:その

 親爺/女房、親爺/近所の夫婦、親爺/殿さまの構図です。抽象化すると、家族同士、主人公/隣人、主人公/領主です。親爺―オミユキの竹―(盗み聞く)―女房、親爺―オミユキの竹―(盗み聞く)―近所の夫婦、親爺―オミユキの竹―(盗み聞く)―炭焼き、親爺―オミユキの竹―狐―殿さまの図式です。

 女房が夫の留守に一人で旨いものを食べているのを天井裏から見た[隠れ見]親爺はただの竹筒をオミユキの竹と偽る[騙す]。評判が広がり、近所の意地悪な夫婦に失せ物の探し物を依頼されるが[探索]、夫婦の会話を盗み聞き[盗聴]して言い当てる[解決]。評判が更に広がり、殿さまから香炉の捜索を頼まれる[依頼]。稲荷堂で見た夢によって香炉のありかを言い当てる[解決]。再び香炉が無くなった[失せる]。炭焼きの会話を盗み聞き[盗聴]して殿さまに言いつける[報告]。若殿の唖の原因を尋ねられる[質問]が、城山に住む狐夫婦に訳を聞き[解説]、殿さまに解決策を勧める[進言]。親爺は八万石の知行を賜った[下賜]。

 偽りのオミユキの竹で最後は狐の助力を得る……という内容です。

 発想の飛躍はオミユキの竹でしょうか。親爺―オミユキの竹―狐―殿さまの図式です。

 偽の魔法のアイテムですが、幸運が重なり事件を解決します。更に狐夫婦に助力を約束させ、後々の心配事も対策します。「猟師徳蔵」では最後は何も起きずに終わるのですが、「オミユキの竹」では最後まで事件が解決します。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.171-179.

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