« 思想は堂々巡り――佐々木敦「ニッポンの思想」 | トップページ | いい線いってる――掟想視「思考と発想 ノート術」 »

2022年8月26日 (金)

化け猫――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔ある所で若者たちが大勢集まって踊っていると、そこへ見たこともない姉さんが来て皆と一緒に踊った。踊りが済んでそれぞれ家へ帰るとき、姉さんに興味を抱いた一人の若者があとから姉さんの跡をついていった。すると、姉さんは近所のお寺へ入り、ニャンと啼いた。若者はそれを聞くと真っ青になって帰った。明くる日若者はお寺へ行って和尚さんにそのことを話した。お寺には和尚さんが可愛がっている古い猫がいた。和尚さんは若者が帰ると猫を呼んで出ていってくれと言った。猫は出ていけというなら出ていく。自分がいると参詣人も少ないだろうから、これまで長いこと可愛がっていただいた恩返しに参詣人が沢山来るようにしてあげると言った。そして何時何日(いついつか)にどこどこの婆さんが死ぬから葬式の時に自分が火車になって死人を棺から出して空へ吊り上げる。よその坊さんが来てお経をあげると死人は上へあがるが、和尚さんが経をあげると死人は下がって棺へ収まるようにすると言った。猫が言ったその日になるとその婆さんは死んだ。そして葬式をしていると結縁の時に空が曇って火車が来て死人を掴んで空に吊り上げた。葬式に来ていた坊さんは一生懸命お経を読んだが、死人は空に吊されたままだんだん上へ上がっていく。それで近所の寺の和尚さんを呼んでお経をあげてもらうと死人はだんだん下りて来て棺へ収まり、無事に葬式が済んだ。それから和尚さんの評判が高くなって参詣人がどんどん来るようになった。そして猫はいつの間にかいなくなった。

◆モチーフ分析

・若者たちが踊っているところに姉さんがやって来る
・踊りが済み、帰る際に若者の一人が姉さんの跡をつける
・姉さん、ニャアと啼いて寺へ入る
・翌日、若者はお寺の和尚さんに訳を話す
・和尚さん、飼い猫に出ていってくれと言う
・猫、出ていく代わりに恩返しすると言う
・ある婆さんの葬式に火車が現れる
・火車、和尚さんの読経で死体を取り損ねる
・和尚さんの評判が高くなる
・猫はいつの間にか消える

 モチーフを形態素解析すると、

名詞:和尚 姉さん 若者 火車 猫 お寺 ところ 一人 婆さん 寺 恩返し 死体 翌日 葬式 訳 評判 読経 跡 踊り 際 飼い猫
動詞:出る 言う いく つける やって来る 代わる 入る 取り損ねる 啼く 帰る 消える 済む 現れる 話す 踊る
形容詞:高い
副詞:いつの間にか
連体詞:ある
感動詞:ニャア

 和尚/猫の構図です。若者―(つける)―姉さん/猫、和尚―恩返し―猫/火車の図式です。

 若者たちが踊っているところに姉さんがやって来る[来訪]。姉さんの跡をつける[追跡]とニャアと啼いてお寺へ入っていった[目撃]。若者、和尚さんに事情を話す[説明]。和尚さん、猫に出ていくように言う[追放]。猫、恩返しをすると語る[計画]。婆さんの葬式で火車が出る[登場]。火車、和尚さんの読経で逃げる[退散]。和尚さんの評判が上がる[高評価]。猫、いつの間にか消える[退却]。

 猫に出ていくように言うと猫は恩返しをすると語る。火車が登場するも退散する……という内容です。

 発想の飛躍は猫が火車となることでしょうか。和尚―恩返し―猫/火車の図式です。

 火車は「山椒九右衛門」「渡廊下の寄付」といった『石見の民話』の幾つかの話に登場します。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.210-211.

|

« 思想は堂々巡り――佐々木敦「ニッポンの思想」 | トップページ | いい線いってる――掟想視「思考と発想 ノート術」 »

昔話」カテゴリの記事