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2022年8月 6日 (土)

天の釣舟――モチーフ分析

◆あらすじ

 馬鹿な息子がいた。兄だったが跡取りにできそうもないので百両渡されてお前はこれで利口を買ってこいと追い出された。息子は大金を貰ったのでうれしくてたまらない。毎日利口を買わせてくださいといって歩いた。ある日ばくち打ちのいるところに通りかかった。ひとつ騙して取ってやろうとなって、ばくち打ちは短冊に「天の釣舟」と書いて渡し、息子から百両貰った。息子はこれが利口だと喜んであっちこっち歩いていると日が暮れてしまった。見るとそこに大きな家があった。宿を貸してもらうと思って縁側に寝ることになった。息子は縁側に寝てみたが、どうも眠れないので障子の穴から覗いてみると、きれいなお姫様が机に向かって一生懸命何か書いていた。夜遅くまで何をしているのかと思ったのでなおも覗いていたが、その内に眠ってしまって、障子に頭をぶつけてしまった。お姫様は「とんとん鳴る沖のとなかの音は」と歌を詠んだ。息子は今日買った短冊のことを思い出して「天の釣舟」と答えた。お姫様は感心して、誰だろうとなった。両親が起こされてそのうち家に使われている人も皆起きた。探してみると、宿を借りている小丁稚であることが分かった。お姫様はこれはただのお方ではない。この家の若旦那として差し支えない。早く祝言をしてくださいと言った。お姫様は歌の師匠でたくさんの弟子がいたが、呆れたのは一の弟子、二の弟子で、何だ夕べの夜這いがと忌々しがったが仕方がない。すぐに祝言があげられた。

 ある日一の弟子が若旦那の前に進み出て一つ歌の題を出してくださいと言った。若旦那は小便に行くと待たせて思案した。考えていると便所の前に白い藁(わら)もく(藁くず)がふわりふわりとしていた、早速帰って「白いもくあり黒いもくあり」と題を出した。さすがの一の弟子もさっぱり分からない。お姫様はお前は一の弟子でありながら分からぬか「雀が門に巣をかけて 白いもくあり黒いもくあり」と答えた。今度は二の弟子が自分にも題を出してくれと言った。若旦那は今度も題が分からないのでしばらく考えていたが、さっき便所に行ったとき、上履きが上の段に片つら下の段に片つらあったことを思い出して、「上の片かた下に片かた」と出した。二の弟子もさっぱろ分からないので困っていると、お姫様は「月も日も水鏡でみるならば 上の片かた下に片かた」と答えた。今度は三番目の弟子が申し出た。若旦那はいよいよ題がないので小便に行った。すると小便がぼたりぽたりと落ちたので「頭ぶるぶる雫(しずく)ぽたぽた」と題を出した。三番目の弟子もさっぱり分からない。お姫様は「鷺(さぎ)が水田にこりをして 頭ぶるぶる雫ぽたぽた」と詠んだ。一の弟子も二の弟子も三の弟子もみな失敗したので、それからは若旦那とあがめるようになった。

◆モチーフ分析。

・馬鹿な息子がいた
・跡取りにできないので百両渡されて追い出された
・息子、百両で利口を買おうと歩き回る
・ばくち打ちと遭遇、短冊を百両で買う
・息子、大きな家で宿を借りる
・縁側から障子の穴を覗くとお姫様が歌を詠んでいた
・末の句に「天の釣舟」と答える
・お姫様、驚き、下の句を詠んだのは誰かと探す
・息子のことだと分かり、祝言をあげる
・面白くない一番弟子、二番弟子が歌の題を要求する
・便所で思案中に題を思いつく
・一番弟子、答えられない
・二番弟子、答えられない
・三番目の弟子が申し出る
・再び便所に行き、題を着想する
・三番弟子、答えられない
・お姫様それぞれに回答する
・それで若旦那と認められる

 形態素解析すると、
名詞:弟子 息子 百 お姫様 題 二 三 便所 歌 こと それぞれ ばくち打ち 下の句 利口 句 回答 天 家 宿 思案 末 着想 短冊 祝言 穴 縁側 若旦那 要求 誰 跡取り 遭遇 釣舟 障子 馬鹿
動詞:答える 詠む 買う あげる いる できる 借りる 分かる 思いつく 探す 歩き回る 渡す 申し出る 行く 覗く 認める 追い出す 驚く
形容詞:面白い
副詞:一番 再び
連体詞:大きな

 息子/姫/弟子の構図です。息子―下の句―姫、息子―お題―弟子の図式です。

 馬鹿な息子、百両を渡されて追い出される[追放]。息子、騙されて短冊を百両で買う[入手]。息子、大きな屋敷で宿を借りる[宿借り]。息子、姫の歌の下の句を詠む[吟詠]。それがきっかけで姫と結婚する[婚姻]。面白くない弟子たちが息子に歌の題を要求する[出題の要求]。息子、便所で思いつき[着想]、答える[回答]。弟子たち、解答できない[不能]。姫が解答する[回答]。息子、若旦那と認められる[認知]。

 よい案を思いつかないので便所に行くと、難しい題を思いつく……という内容です。

 発想の飛躍は馬鹿な若旦那と頭のよい姫のカップルでしょうか。息子―下の句―姫の図式です。

 若旦那が危機に直面したら、姫の知恵で切り抜けるのかもしれません。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.144-148.

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